第9話 凹凸の無い平原
「それじゃぁ次の話ね、まずはダンジョンの件、二人は入って見た感想はどうだった?」
「どうって言われても…」
崩れ去った住居に腐り果てた死体がゾンビとなり探索者を襲う、常識では考えられない非日常な異常事態、まだ入り口周辺にしか行けてないが奥に進んでもそれは恐らく変わる事はないだろう。
「荒廃都市エプルーヴ、内部で貴方達が見た場所はそう呼ばれているの、あの場所は残っている建物すべてが黄金比で出来ている、解りやすい例を出すと私達の世界にあるパルテノン神殿、あれもそうね。
崩れる前であれば見るものを魅了するだけの美しさがあったでしょうけど、今は見る影もないわね…朽ちた事で崩れた物がある意味では道を導き出して基本は一本道で、途中には広場があったりするんだけど迷う事は無いわ」
「えっと、なんでそんなに知ってるんですか?」
「それだけ探索が進んでいるって事よ!」
聞かされた詳しい内容から疑問を口にした琴音だがその答えは実に簡単な者だった。
ダンジョンが出現してからの歳月は5年であり、本格的にペアが探索を開始してからすでに3年だ、その間に先人達が持ち帰った情報や物資により中の事が解っていてもおかしくない。
「ペアによってはネタバレだぁ! って言う人もいるんだけど、あの場所には漫画やアニメ、小説にも登場する人外が居る、代表的なのはゴブリンかな、緑色の体をした臭い生き物、あれが出てくるのは全体の中盤ぐらいからで、終盤になると当然だけど向こうも強くなる、勝てば生き残れるけど負ければ死ぬ、そんな場所に行くのに情報を聞かずに進んで行くのは馬鹿のやる事よ」
貴方達はそんな事しないでね! と軽く言われるが勿論そんな気は毛頭ない、情報は力だとアニメやゲームの受け売りでは在るが大切さは良く知っている。
「当面の目標は最奥にある国が大神殿と呼ぶ場所の攻略、それが貴方達二人の目標かしらね、そこを超える事が出来ればその先に続く螺旋階段を上がって次のフロアーに行く事が出来るわ」
エプルーヴと呼ばれたあの場所の探索は既に大方終わっているのが話の節々から解るが更にその先がある事にも驚いてしまう、いっその事ダンジョンがどこまで続いていて探索が終わっているのか教えて欲しくもなる。
「そこから先の事はたどり着いてから考えましょ」
それを見透かしたのだろう咲田さんは俺の疑問の先手を打ってきた。
「次は魔石の話ね! 今日回収できた数はいくつかな?」
「3つです、どうぞ」
今日の成果である小粒な魔石を取り出した俺達はそれぞれテーブルの上に出し彼女に見せて渡そうとするが手の平で取れを止められた。
「その魔石は琴音さんに吸ってもらいましょ」
「吸う、ですか?」
「吸収とも言うわね、それを持って胸に押し付けてみて」
何が何だかと戸惑う琴音は言われるがまま魔石を自身の胸へと押し付けると魔石は吸い込まれる様に琴音の胸の中へと入りこみ俺の視線が釘付けにされる。
(うわぁ~本当に吸収されたみたいに消えたな)
「あ、あの司さん、そんなに見つめられると…」
「ん? あぁごめん!」
顔を赤くした琴音が両手で自身の胸を隠し恥ずかしがっている、それを見て謝罪をしてすぐに視線を外すが、彼女とは反対側から今度は俺に対して視線を感じ取た。
「ロリコン?」
「違いますから!!!」
自分自身疑惑を抱いている案件に突っ込みを入れられた事で即否定をするが、今回の事で彼女にももしかしたらと疑惑を抱かれた可能性がある、今後は気を付けないとならないだろう。
「いや、駄目だって言ってるんじゃないよ? 今は手を出せば犯罪だけど将来年を取れば5歳差なんて誤差みたいな物だし、連携を強める為にもお互いを思いやる気持ちは大切よ?」
「もういいですから話の続きをお願いします!」
これ以上この話題は居心地が悪くなる、琴音にも何かの際に手が触れるだけでひぃぃぃ!ロリコン!と言われると立ち上がれなくなる気がするし、そもそも俺の好みは巨乳とまでは行かないまでも、ある程度ある方がいいのだ、10歳である琴音にはそこが欠けている、将来どうなるかは解らないが現状何の凹凸もない平原に目を奪われるなんて事はなく、そう言った目で見ることも無い。
「そう? それじゃぁ続きね! 魔石は敵の強さによって倒した後で出る大きさが変わる、ゲームとか漫画でよくある設定よね~これ、っとそれは置いといて、解っているとは思うけどSチルである琴音さんはある程度の期間で魔石を体に吸収させる必要がある、だからストックとして幾つかは手元に置いておいてね」
「あの、どの程度あればいいのでしょうか?」
そうそこが重要なのだ、万が一足りなかったとなった場合琴音の体に支障がでる前であれば取に行けばいいが、噂に聞く体調の変化が出てからでは戦闘にも影響が出るのは予想が出来る、そんな状態で更に敵に囲まれてしまえば最悪命を落とす事にも繋がるだろう。
「そうだね~序盤で回収出来る大きさだと10個はあった方が安心かな? 個人差はあるけど大体1週間に2個は使うと思っておいた方がいいし、用事や休みとかで行けない日を考えると余裕を持たしておいた方がいいわ」
「わかりました、司さん残り8つ取に行く事になりますがよろしくお願いします」
「うん、了解! こっちこそよろしくね」
必要最低限の数はこれで把握出来たから今後の方針としてはまずは回収を優先させて探索は二の次でいいだろう。
「それと余った魔石の取り扱いについてだけど、よく聞いてね。現状二人、いや私も入れた3人の生活費なんかは国が出してくれるけど、それは普通に生活できるであろうって金額で、勿論その中には食費なんかも含まれてて遊べるなんて事はありません!」
(なんか言葉に力があるし急に貧乏くさい話になったな)
「しかし! そんな二人に朗報です。回収した魔石で必要が無い分は私に渡してくれればそれを国に届けるから、その魔石分は報酬として二人のお金になって色んな事に使えるの、例えば刀の手入れ、武器は使えば使う程切れ味も悪くなるし欠けても来る。
なら自分達で研いで使えばいいと刀を使っている人は考える事もあるんだけど、刀を研ぐって凄い難しいの、下手をすれば余計に斬れなくなるし研ぎ方によっては形が歪にもなる、というか自分の命に係わる事で適当に処理をするってこと自体アウトなんだけどね。
武器であるその刀の管理は流石に国で手入れをするって訳にはいかないから、個人でお金を出してやってもらう必要があるの、あとは~欲しい服を買うのにお金が~って時も魔石を渡して稼いでくれれば大丈夫よ」
つまりは国としては住居と生活費や戦うための武器の支給はするが、それ以外は魔石を回収して稼いで何とかしてくれって事だ、何もしなくてもお金を貰えて苦労することなく生きていけるなら誰だって喜ぶが世の中そんなに優しくはない。
「ダンジョンの事はこれぐらいでいいかな、後は琴音さんの学校の件だけど」
お嬢様学校から転校する事になる琴音は10歳で確か学年にして小学5年であったはず、この話題を出されると他に受かる高校が無かった俺の形見は狭くなる。
「夕霧さん、あ~もう司君でいい? いいよね? はい司君! 今私達の居るここの住所はざっとでいいからどこでしょう~?」
有無を言わさない呼び方の変更に圧倒されつつも聞かれた内容である今現在の場所を思い浮かべる。
野崎から車で少し移動した程度の距離であったのはここまで来る車内で確認はできていて、進行方向からして導き出されたここの住所は――。
「四条畷っすか?」
「はい半分正解! 正確には大東市ではあるんだけど限りなく四条畷に近い住所だね、そして琴音ちゃんの通う学校はそんな場所の近くにある大阪府立S小学校になりま~す」
当初の堅苦しさなんて見間違いだったのか緩くなりまくった咲田さんにより琴音の通う学校が発表されて、それは転校する為の手続きが無事終了した事を告げていた。
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