第3話セレクションチルドレン3
対処に困る様な対面を果たした俺はこの場を仕切る咲田さんに座る事を進められてその通りに彼女の対面に腰を下ろそうとした所で待ったが掛かった。
その理由としては初対面であることからある程度の距離を置いて座る所を二人並んで座って欲しいらしい…しかしやらかした事で俯きながら両手で顔を隠し、赤面し耳まで真っ赤になっている彼女の隣にそのまま座るのは気が引けるのですが?
「その方がこれからの事を話やすいのでどうぞ」
しかし先ほどのやり取りを全く気にもしていない咲田さんの容赦のないそんな一言で俺のその後の選択肢は掻き消えた。
「わかりました、隣ごめんね。」
座りながら声を掛けて改めて彼女を自身の視界に入れた事でその容姿が見えてくる。
第一印象は今どきの子には珍しく袴を着こなしている所だろう、袴と言えばいいとこのお嬢様が着ている雰囲気や卒業式に来ているなどというイメージがあったが、実際の所はどうなのだろう…? そしてそんな袴に似合う様に室内の光に照らされたきめ細かく艶のある黒髪が後ろで纏められている。
「ではまずは確認を…琴音さん、彼が貴方のペアに選んだ人で間違いないですか?」
「…はぃ」
問われた少女は軽い沈黙の後、消え入りそうな声で僅かに呟く。
「わかりました、ではお二人とも今後の話をしますのでよく聞いててくださいね、何か質問などがあればその時にどうぞ、自己紹介などの時間はこの後で取れますのでその時にお願いします、ではまず―」
そうやって始まった俺達二人への説明だが要点は当然だがいくつかあった。
まず第1にSチルやそのペアに関しての情報は基本漏らすのは禁止で、家族などの最低限の相手にのみ近況報告などは認められる。
これは今の世界に情報が出回っていない所から予想が出来たものであったが問題はその後。
「え!? これから二人で一緒に暮らしていくんですか!?」
告げられた二つ目の案件に関して早くもちょっと待ってくれと言いたくなる物が出てきたのだ。
隣で同じ話を聞いていた彼女も羞恥心より今は驚きの方が勝ったようで顔を上げて口を半開きにしている。
「そうです、住む場所なども此方で手配されていますのでご了承ください。」
「いやちょっと待ってくださいよ、彼女もそうでしょうけど俺も高校に通ってるんですよ、学校はどうなるんですか…」
いきなり二人で住む、つまり同棲をしろと言われるのも大変困るが、今現在俺達は自己紹介も後回しにしている状態で、大阪にいる俺はともかく彼女の住んでいる場所も解らない為それ次第では大変な事になるだろう。
「その件に関してですが、まずはダンジョンに関する事に触れなければなりません。お二人は今の日本にどの程度のダンジョンがあるかご存じですか?」
「確か100ぐらいだと聞いています」
今日学校でゴリさんと話したダンジョンの数に関する事ではあるが、大まかに発表されているのは彼女、琴音ちゃんの言う通り。
「正確には118カ所です、数の把握は基本民間人からの通報ですが、政府としてももちろん調査をして漏れがないようにすべてを把握しようとしています。
そしてSチルが探索する事になる場所ですが、県により人の多さが変わる為偏りが出てくるのでそれを均等に配置し、人手が足りなくなる事態を未然に防いでいるのです。
お二人の住まいをこちらで用意させて頂いたのは以上の理由からになります。
そしてお二人が暮らす場所ですが、担当して頂く場所に近くてペアが安心して生活できるように政府の方で用意したマンションの一室になります。」
Sチルのペアに選ばれた時点でその人にはダンジョンに入る義務が発生する、その事は理解しているがそれと一つ屋根の下で暮らす事には関係がない気がする。
そんな俺の考えが読まれたのか軽く咳ばらいをした咲田さんが更に続けて話す。
「あまり実感がわいていないと思いますが、貴方達はもう一心同体となっています。どちらかが死ねば相方も死ぬ、そんな状態にもうすでになっているのです、故に貴方達にはダンジョンの中での戦いに備えてお互いの事を理解し、生き残る為にも息を合わせて頂く必要がある。それには同じ空間、同じ時間を共にする事が一番いいからです。」
実際に命の危機に瀕した経験なんて5年前の時にもなかったからか、そんな大事な事を頭から抜け落ちていた事を気づかせられて再認識させられた。
「そう言えばそんな縛りがあったんでしたね、でも家はいいですけど彼女の親御さんは納得できているんですか?」
「その点は大丈夫、Sチルとなった琴音さんは生きていく為にはどうあれダンジョンに入らなければなりません、ご了承済みよ」
そういう事なら気恥ずかしい気持ちと戸惑いがあるが受け入れるしか選択肢はない、隣の琴音ちゃんも同じ考えであるのか抗議の声を上げる事はない。
「それで? その場所はどこなんですか? 俺も転校するんだし、荷造りとかする必要があるでしょ?」
「貴方に関しては転校の必要はありませんよ、引っ越しはしてもらいますが貴方達二人に任せられるダンジョンの場所は野崎神社の奥にある所ですから」
パッとしない大東市の中でも夏が近くなると駅前から神社のある山の麓まで出店が並び、年越しや元旦に参拝する人達がいるってのが野崎神社で野崎祭り。
噂程度にはその神社から奥に進んだ場所にダンジョンがあると聞いた事はあったのだが本当だったのか、でもそうなると―。
「琴音ちゃんが転校するのは決まりみたいだけどなんか申し訳なくなるんですけど…」
「実は当初お二人とも転校になりますが北海道か沖縄あたりに住んでもらう予定でした、ですが少し事情がありまして。」
「何かあったんですか?」
どうせなら片方だけ転校より二人とも揃って転校と引っ越しであってくれた方が気持ち的には楽だ。
「琴音さんは学力面でも問題がなく、転校の手続きも速やかに進んだのですが……」
琴音ちゃんはと言うのと、そこで発した言葉を止められる事の意味は必然的に問題は俺の方になるわけで、その結果。
「高校の方は…受かりそうな所がありませんでした……」
自分の学力の無さが問題で彼女だけ引っ越した挙句転校になると事態になる聞いた俺は――。
「バカで本当にすいませんでした!」
とその場で頭を下げるしかなく、そんな俺にこの場にいる二人はフォローが出来ずに視線だけをこっちに向けていた。
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