第160話 ウリエルVSカイツ

「奴の邪魔が入らないこの世界なら、何も気にせず戦える。六聖炎・第3解放」


 背中から3枚の炎の翼が生え、圧倒的な魔力が場を支配する。ただその場にいるだけで喉が焼けそうになるほどの高温。ここまでの熱は浴びたことがない。だが。


「第3開放。やはり力を抑えてるな」

『ロキの読みは当たったようじゃの』


 ミカエルのおかげで、少しはこっちに有利に働く。後は作戦がどれほど機能するか。

 俺も六聖天を発動しようとした瞬間、異質な何かが場を包む。その直後、奴の炎の翼が消えてしまった。


「? なんだ」

「これは……面倒な奴が来たな」


 奴が何かをしたわけではないようだが、だとしたらこれは一体。それにこの感覚、あの時ネメシスが力を使ったときと少し似ている気がする。それに、待機しているはずのアリアたちの気配が消えた。何がどうなっているか気になるが、俺は自分に出来ることをやるしかない。アリアたちを探すにしても、妙な力を使う敵を探すにしても、まずはこいつを倒さないと。


「六聖天・第3開放!」


 天使のような羽が3枚生え、俺の両腕が真っ白に染まる。目元にヒビのような模様が入り、両の瞳が赤く染まった。それだけでなく、首元に白いマフラーのようなものが巻かれた。

 第3解放も少し変わってるな。それにこのマフラーのようなもの。これもミカエルの力を取り戻した影響なのだろうか。


「貴様。なぜこのフィールドで魔術を使えるんだ」


 奴は俺が六聖天を使えることにかなり驚いていた。奴の発言と今の状態から推測するなら、この異質な力は魔術や魔力の使用を制限する効果があるのだろう。なんで俺が制限を受けてないか知らないが、これは最高のチャンスだ。今なら圧倒的に有利な状態で戦うことが出来る。俺は剣を引き抜いて構える。


「それはデュランダル! まさかそんなものまで盗んでいたとはな。貴様は、ミカエルからどれだけのものを奪えば気が済むんだ。このど腐れ外道が!」


 奪ったのではなく貰ったのだが、そう言ったところで信じてもらえないだろう。


『カイツ。奴の弱点は水じゃ。水攻撃を当てまくれ』

「水。だったら」


 俺は魔力を練り、青い球体をいくつも生み出す。水の力を練り込んだ俺の新しい技。


「剣舞・五月雨龍水弾!」


 放たれた青い球体は一直線に奴へと向かって進んでいく。


「いくら弱点が水といえど!」


 奴が腕を振ると、その風圧で龍水弾が全て破壊されてしまった。風圧はそれだけで収まらず、こっちにも襲い掛かってきた。


「ぐう。魔力を込めてない風圧だけでこれだけの威力か。四大天使ってのは恐ろしいな。六聖天 脚部集中!」


 俺は六聖天の力を足に集中させ、超スピードで一気に駈け寄る。そのスピードは蹴った地面がへこむほどだった。


「剣舞・紅龍一閃!」


 素早い居合切りを放つが、奴はそのスピードに対処し、俺の攻撃を腕で受け止めた。しかし、完全には受けれなかったようで、刀が少し食い込んで血を流す。


「ほお。魔力が使えないとはいえ、俺に傷をつけるとはな。3枚の羽根を生やすだけはあるようだな」

「この攻撃をその程度で受け止めるとはな。今までの奴等とは耐久力も段違いだ!」


 そのまま連続で斬りかかるも、奴は全て避けて行き、最後には掴んで止められてしまった。


「舐めるなよ。多少は女神の力を引き出せるようだが、塵ごときが俺に叶うわけないだろう!」


 奴はそのまま俺を地面に叩きつけた。


「があ!?」

「塵ごときが俺を煩わせるな!」


 奴はそのまま顔を踏み潰そうとし、俺はそれを避けて距離を取る。流石に一筋縄ではいかないか。ならば。

 俺は地面を強く蹴り、再び奴に接近して斬りかかろうとする。


「無駄だ」


 奴が剣を掴もうとした瞬間、俺は距離を取って奴の後ろに回り、攻撃しようとする。


「遅いな」


 その攻撃も掴まれて止められるが、それは想定内だった。俺は奴が剣を掴んだ瞬間に剣を手放し、自身の手に魔力を集める。紅い光の剣を出現させて奴を突き刺そうとする。


「ちっ」


 奴は俺の剣を捨て、上空に回避してその攻撃を避ける。


「逃がすか。剣舞・五月雨龍水弾!」


 いくつもの青い球体を生み出し、奴に向けて一斉に放つ。


「くそ!」


 奴は腕を振ってその風圧で破壊しようとするも、至近距離だった故に全て破壊できず、何発か当たって爆発を起こす。俺は素早く下がり、爆風が来ない距離まで退避した。


「さて。これでどれだけ削れたんだ?」


 爆風が消え、奴の姿が見えた。それなりにダメージを負ってはいるようだが、致命傷には程遠い。


「やってくれるな。くだらん小細工をしやがって!」


 奴が蹴りを繰り出すと、風圧が斬撃のように襲い掛かってくる。それを剣で受け止めるも、衝撃で後ろに下がってしまった。


「くっ。風圧でここまでの威力かよ」

「このまま削り殺してやるよ!」


 奴はヤクザキックのような蹴りを何十発も繰り出す。それは槍のように鋭い砲弾となって襲いかかってきた。


「剣舞・龍封陣!」


 俺は刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。それは盾となって攻撃を防ぐが、あまりの数と威力に、盾が悲鳴をあげていた。


「そんな盾など無意味だああ!」


 奴の攻撃は更に速度を増していき、盾にヒビが入った。壊れる前に俺は横に逃げて攻撃を避ける。


「逃がすか!」


 奴は俺を追って蹴りを続け、風圧の砲弾を放ってくる。だが狙いは荒く、俺の方まで届いていないし、届いていても避けるのは簡単だ。


「ちっ。ちょこまかと鬱陶しいな!」


 奴はしびれを切らしたのか、一気にこっちまで接近してきた。そのスピードは驚異的だが、予測は出来ていたので見切ることは出来た。


「剣舞・龍刃百華!」


 横に剣を振るう。その際、俺はあえて剣を振るう速度を遅くした。奴はその攻撃を掴んで受けとめる。


「どうした。ずいぶんと遅かったが、疲れたのか?」

「元気いっぱいさ。そっちこそ疲れてるんじゃないか? これを見逃すなんて」


 俺がそう言った瞬間、無数の斬撃が奴の体を切り裂いた。剣を遅く振れば、奴が油断するのは分かり切っていた。油断した相手は動きを読みやすい。


「ぐああ!? この攻撃は」


 奴は斬られた痛みで掴んでた剣を手放した。俺は剣を2本に増やした。


「油断したな、ウリエル。剣舞・四龍戦禍!」


 2本の刀で4つの斬撃を十字型に放ち、奴の体を深く切り裂いた。


「追加のプレゼントだ! 剣舞・絶龍炎嗟」


 指を鳴らすと、奴の体から血が噴き出した。奴の体内で傷口から流し込んだ俺の魔力を爆発させた。流石の内部からの攻撃はひとたまりもないらしい。


「がはっ……この、塵ごときがあ!」


 奴は手を手刀の形に変え、それを振るってきた。それは斬撃のように俺の体を切り裂く。


「死ね!」


 奴は横向きに足を振り、斬撃の風圧が襲い掛かる。何とか剣で防御するも、その強さに大きくふっ飛ばされてしまった。


「くそ。あんだけのダメージだってのに、なんてパワーだ」


 奴は口から血を吐いており、少しばかりふらついていた。


「気に入らない。気に入らないなあ。我が女神を洗脳し、下劣な技ばかり使う塵は本当に気に入らん!」

「だから、そんなことしてないっての。どんだけ信用ないんだか」

「塵の言葉など信用できるか。貴様をここで殺し、ミカエルの洗脳をといてみせる!」


 と言ってますが、ミカエルはそれに対してどんな反応をするんだろうな。


『気持ち悪いことこのうえない。さっさとあやつを殺してくれ』

『わっちも同意見じゃ。あやつの奇行は目に余る』


 ミカエルもアナザー・ミカエルも辛辣な評価だ。


「覚悟しろ。貴様は完膚なきまでに叩き潰してやる」


 さっきのような攻撃はもう通用しないだろう。アリアたちの気配もまだ感じられないし、助けは期待できない。どうやって奴を倒すべきかな。

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