第159話 VS四大天使ウリエル
翌日。俺はウリエルがいると思われる塔に1人で向かっていた。超巨大なミカエルの形。完成度が高すぎて少し引く。どういう気持ちで作ったのかは知らないが、まずまともな神経では作れないだろう。
扉の前に立つと、自動的に扉が開いた。その先には1人の男が立っていた。逆立つ炎のような髪、赤い羽衣、ボディービルダーのような筋肉と見た目だけで強そうだ。
「こいつは驚いた。まさかお前1人で来るとはな」
「お前が狙ってるのは俺なんだろ? なら俺が1人で行った方が犠牲が少なくて済む。仲間が傷つくのは嫌だからな」
「ふん。自己犠牲というやつか? 俺のような崇高な天使には、塵の考えることは理解出来ないよ」
奴は何かを見回すかのように周りを見る。
「1人……まあ良いだろう。せっかくだし、最後の晩餐としてお茶しようじゃないか」
俺は奴についていき、食卓へと入った。そこには縦に長いテーブルがあり、奴はそこの一番奥に座った。俺は一番手前に座る。少し待っているとお盆を持った人型の炎が入り、お盆の上にあった紅茶をテーブルに置いた。
「便利だろ。天使の力を使えばこんなこともできるんだよ。ま、塵ごときには100年経っても出来ないものだろうが」
確かにこいつの力は凄いが、見下すような視線と物言いが腹立つな。
「ちなみに、その紅茶はストリゴイが用意してくれた高級茶葉から作った茶だ。塵に飲ませるには勿体なさすぎる代物だ。感謝して味わいたまえ」
そう言われても手をつける気にはならない。毒を入れられている可能性があるし、取っ手の部分に小さな赤い魔法陣が見える。下手に触れば何かが起こるのは確実だ。
「なぜ俺を茶会に誘った」
「興味が湧いたからさ。俺が狙ってることを知りながらたった1人でここにやってきた。そんな大馬鹿な塵がなぜミカエルの器になれるのかを知りたくなったんだ。正直ムカついてるよ。なんでお前みたいなのが器になり、ミカエルの傍にいるんだとね」
奴はそう言って机を強く叩いた。
「100年も生きられず、ちょっとした損傷で死ぬ、脆く愚かな存在。なぜそんなものがミカエルの器足りえるんだよ。お前、どんな手を使ってミカエルを脅したんだ。もしくは洗脳か?」
「なんでそんな酷いことした前提なんだよ」
「それ以外ありえないからだ! あの方が脅しや洗脳に屈する姿も想像つかないが、お前を認めて器に選んだというくだらない理由よりは何百倍も説得力がある。気高く美しいあの方が、人間などという塵を愛するはずがないんだよ!」
奴は持っていたカップを叩き割り、俺を強く睨み付ける。
「あの方が愛するのは同じ四大天使である我らだけだ! そうでなくてはいけないのだ! 塵を愛するミカエルなどあってはならないんだよ!」
「お前の勝手な理想をミカエルに押し付けるなよ。あいつは自分の意志で俺に力を貸してくれたんだ。俺は何もしていない」
「ふざけるな。ミカエルが自分の意志で力を貸しただと? お前のような塵にあの方が力を貸すわけがない。無理やり従わせて力を奪い取ってるだけだろ! それなのに、その力を我が物顔で振り回すとは。なんと醜い塵だ。外道という言葉がここまで相応しい塵もあるまい」
「別に我が物顔で振り回してるつもりは」
「振り回してるだろ! その歪な体を見れば即座に分かる。ミカエルの崇高なる力を無理矢理使いまくってることが丸わかりだ。それにその汚い瞳。ミカエルを孕ませ性玩具としか認識してないんだろう」
「いや。別にそんな目で見てはないんだが」
「嘘を吐くな! 大天使たる俺の目はごまかせんぞ。貴様のことだ。夜な夜なミカエルに対し非道な行いをし、彼女を泣かせているのは知っているんだからな! 許せない。貴様のような外道は絶対に許さんぞ。万死に値する!」
駄目だ。まるで話を聞いてない。どうしたものか。
『全く。相変わらずの暴走っぷりじゃのお。ウリエル』
そう言って小さいほうのミカエルが実体化して現れた。
「ミカエル! 出て来てくれて嬉しいよ。さあ、俺と共にここで暮らそう。その器を捨てるんだ!」
「悪いが、妾はこやつと複雑に絡み合っておる。簡単に捨てることは出来ぬし、下手なことをすれば大変なことになる」
「問題ないだろ。確かに絡み合ってるようだが、お前の力があれば問題なく抜け出せるはずだ。器は死ぬだろうが、その程度のことは問題ないだろ? 脅されてるなら心配いらない。俺がお前を守ってやる。もうそんな塵の言うことを聞く必要はないんだ! お前を苦しめるものは何もないんだ!」
「勝手に脅されてると決めつけるな。妾はこの男を愛している。殺してまでお前の元に行きたいとは思わん。お主のことはこの世で一番嫌いじゃし、他の四大天使も嫌いじゃからな」
流石のあいつもその言葉にはショックを隠し切れなかったようで、絶望した面持ちになっている。
「本気で言ってるのか?」
「当たり前じゃろ。この目が嘘をついてるとでも?」
奴もミカエルが本気でそう言ってることを理解したのか、フラフラとよろめくが、突然俺のことを強く睨みつけた。
「そうか。脅されてるのではなく洗脳したのだな。どうやって……どうやってミカエルを洗脳しやがった! この塵野郎が!」
「洗脳もされておらんわ。お主の妄想を押し付けるな。カイツも言ったが、妾は自分の意志で力を貸しておるんじゃよ」
「なぜだ! なぜそんな塵に力を貸しているんだよ」
「こやつを愛しておるからな。それ以上の理由など必要あるまい」
「ふざけるな! ミカエルが塵に力を貸すわけがない。塵を愛する訳がない。洗脳とかそんなんじゃないと説明がつかないんだよ! ミカエルが愛するのは同じ四大天使である我らだけなんだよ! そうでなくてはいけないんだ!」
奴の周りから炎が噴き出し、辺り一面を焼いていく。
「あつっ!? なんつう熱量だよ」
ミカエルのおかげで熱耐性はそれなりにあるというのに、それでも熱いと感じる。これがウリエルの力だというのか。
「相変わらず醜い妄想ばかりしとるのお。自分の認められないことがあれば、癇癪起こして大暴れ。昔からなんにも変わっておらん。もう分かったじゃろう、カイツ。あやつと話し合いするなど不可能なんじゃよ」
「けど」
「今のあいつはお主を殺す事しか頭にない。話し合いをするなど最初から不可能だったんじゃよ。覚悟を決めろ」
「……分かった。覚悟決めるよ」
正直な話、俺はこいつと戦うことは気が乗らなかった。人間を催眠するのは論外に等しいが、弱者を食い物にする様子はそこまで感じられなかったし。恐らく、こいつにとって人間はどうでも良い存在なのだろう。だから戦いなどに巻き込むことに躊躇はしないが、意図的に殺そうとしたり、痛めつけることはない。
こいつが騎士団を攻撃した理由はあくまで俺がミカエルの力を借りてるのが原因だ。つまりこの件で悪いのは俺だけだ。だからこそ戦いではなく、話し合いで穏便に済ませたかったのだが、この状態だとそれは不可能だろう。
「覚悟しろ。お前を焼き尽くしてミカエルを救う」
「悪いが、まだ死ぬわけには行かないんだ。殺す気で来るなら、そっちも殺される覚悟はあるってことで良いんだよな?」
「ふん。貴様らのような塵とは違う。その程度の覚悟は当たり前に持ってるんだよ。最も、ミカエルの力を使いこなせない塵が勝てるとは思えないがな」
完全に舐め腐ってるな。四大天使故の余裕といったところか。だが。
「その余裕が命取りなんだよ」
俺が指を鳴らした瞬間、奴の足下から巨大な蛇が現れて丸呑みにする。だがその程度の攻撃が通用するはずもなく、すぐに中から破壊された。
「ま、この程度の攻撃が効くわけないよな」
「やはり伏兵を用意していたか。塵ごときが生意気なことをしてくれる。全員まとめて灰にしてやるよ! その後でミカエルの洗脳を解いて結婚する!」
ここからは賭けだ。立てた作戦はいくつかあるが、そのどれもが通用しなかったら敗北は確実。一か八かの大勝負だな。
「さて。どうなることやら」
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