第161話 ジキル&ハイドとの闘い

 カイツとウリエルの戦いが始まった直後、ケルーナ、ラルカ、アリアはカイツのいる場所の下で待機していた。そこはかなりの広さがあり、一軒家が余裕で入りそうなほどの大きさがある。各々が準備を終えて作戦開始を待つ中、全員が異質な何かを感じ取った。


「この感じ。寄生体と少し似てる?」

「なんだ。この妙な気配は」

「!? ちょっと危ないな」


 ケルーナは卵を生み出そうとしたが、それが全くできなくなったことに驚きを隠せなかった。


「わっちの魔術がつかえなくなっとる」

「我も魔術が使えなくなってるな。おまけに魔力も全く感じられない。一体何が」

「魔力と魔術が使えない?」

「それはもしかしたら私たちの仕業かも!」


 その声と共に2人の人間が舞い降りて来た。1人は金髪の髪にネックレスやイヤリングなど色々な飾りを着け、白いシャツに黒のダメージジーンズを履いた男。軽そうな雰囲気を醸し出してるが、その目には強い意思がこもっている。もう1人は青髪の少女で黒の袖なしワンピースを着ている。子供っぽくて可愛らしい顔で、優しそうな雰囲気を出していた。


「俺はジキル」

「私はハイド」

「「2人合わせてジキル&ハイド! 我らは2人で1人。六神王の1人にして、人類の幸せを願う者たち!」」


 2人は決めポーズをしてそう言ったが、ラルカたちはそれを冷めた目で見ていた。


「で? 貴様らは一体何の用だ?」

「俺たちの目的は人類の幸せ。そのためにウリエルとお前たちを殺しに来たんだ。お前たちは人類の不幸を願う悪魔だからな」

「悪魔か。ま、確かにそこにいる白髪は悪魔のようなものだな」


 彼らはラルカの言葉を言葉を疑問に感じたが、それはすぐに解消される。いつの間にかアリアが彼らの元を通り過ぎ、ハイドの首を刈り取っていたのだ。


「まず1人。あとはそこの金髪だけだね」

「驚いた。想像以上のスピードだよ。流石はフェンリル族。神獣と謳われるだけのことはある。だが」

「私の攻撃は避けられるかな?」


 刈り取ったはずのハイドの首がしゃべりだし、大爆発を起こした。その煙の中からアリアが飛び出す。その体には傷1つついていなかった。


「驚いた。ハイドの零距離爆破を無傷で済ませたのはお前が初めてだよ」

「爆発のスピードが遅すぎるよ。その程度は簡単に躱せる」

「酷いこと言うねえ。今の攻撃は自信があったのに」


 首が再生しながら、ハイドがそう言った。


「なるほど。熾天使を超えた不死。それがあんたの魔術というわけか」

「そう。私は本物の不死。どこを攻撃されても死ぬことは無い。私を殺しきることは誰にも出来ないんだよ」

「そしてその不死を一番活かせるのが俺なのさ!」


 ハイドは背中から紅い翼を2枚生やし、一気にアリアの背後に迫るが、彼女はその攻撃を簡単に躱す。


「寄生体と同じ紅い翼。でもこれなら問題ない」


 彼女にとっては欠伸が出るほどに遅かった。


「獣王剣・華!」


 腕を振ると、ジキルはその攻撃を翼を覆って防御した。


「残念。届かなかったな」

「それはどうかな?」


 彼女がそう言った直後、無数の斬撃が翼を破壊し、ジキルの体をズタズタに切り裂いた。しかし、彼の体と翼は即座に再生し、紅い翼を剣の形に変えて攻撃してきた。彼女は即座に回避して距離を取る。


「お前も不死身なのか?」

「いや。俺は不死身ではないが、女神の加護がついてるのさ!」


 彼は再び攻撃しようとするも、アリアにバラバラに切り裂かれた。しかし、そのダメージも即座に回復し、アリアの攻撃を気にせずに翼で攻撃していく。


「意外とすばしっこいな。攻撃を当てるのに苦労するよ」

「悪いけど、この程度の攻撃が当たるほど私はのろまじゃないんだよ」

「言ってくれるな。ならばこれはどうだ!」


ジキルの攻撃速度が増すが、それでもアリアは掠ることすらなく、彼の首を刈り取り、体をバラバラに切り裂いた。しかし、それだけの攻撃をしてもすぐさまに再生し、彼は攻撃を仕掛ける。2人の攻防は凄まじく、ラルカとケルーナは目で追うことさえ難しかった。


「おっそろしいものやのお。これが六神王の実力ってわけかいな」

「ああ。どいつもこいつも化け物ばかりだ。しかもどういうわけか、我らは魔術も魔力も使えなくなっている」

「それやのに、あの2人組はなぜか魔術を使用可能。アリアはんはともかく、わっちらでは対処不可能やな。魔術を使える者と使えない者の力の差は大きすぎる。わっちらではその差を埋めれるだけの力はない」

「今の我らは完全に足手まといだな。おまけに」


 ラルカが通路に行こうとすると、紅い壁が彼女たちの道を塞ぐ。


「このフィールドからは脱出不可能ときたものだ。しっかりと通路を塞ぎよって」

「この感じやと、カイツはんやクロノスはんのいる場所も、こんな感じで通路が塞がれてると見た方が良さそうやな」

「完全に分断され、逃げることも合流することも不可能になったというわけだ。今我らが出来るのは、あいつが六神王に勝てるよう祈ることだけ」

「悔しいのお。ここまで無力さを感じたのは初めてやわ」

「頼むぞアリア。間違っても負けてくれるなよ」


 ラルカたちは少しでもアリアの邪魔にならないよう、限界まで遠くに離れていた。




 アリアがジキルの攻撃を躱すのは容易いことだった。しかし、何度攻撃しても彼の体は即座に回復し、まるで手応えを感じられなかった。


「ははははは! そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ!」

「うるさい奴だなあ」


 彼女はジキルに攻撃しながらの方をちらりと見る。すると、彼女が攻撃した直後にハイドの体がダメージを負って回復していたのだ。


「なるほどね。あいつがダメージを肩代わりしてるのか」

「おっと。そこまで読まれてるのか。恐ろしい女だな」

「それならこうするだけだ!」


 彼女はジキルから離れ、上空へと飛ぶ。


「獣王剣・鴉!」


 彼女が腕を振ると、鳥の形をした斬撃がジキルとハイドの両方に襲い掛かり、バラバラに切り裂いた。しかし、それでもジキルの体は即座に再生し、紅い翼を剣の形にかえて攻撃してくる。彼女は空中で姿勢を変えて攻撃を回避し、剣を足場のようにして跳んで距離を取った。


「同時に攻撃しても無駄か。魔術が使えれば一発なんだけど、本当にめんどくさい」

「ふふふ。恐ろしいものだな。ここまで俺たちを攻撃できたのはお前が初めてだよ。だが」

「それがあなたの敗因になる」


 ハイドが両手を尋常ではないほどの魔力が両手に集まり、地面が揺れ始める。アリアはそれに嫌な予感を感じた。


「させない。獣王剣・楓!」


 アリアが両腕を横に振ると、暴風のような風がハイドを包み込み、体をズタズタに切り裂いていくが、傷ついた傍から体は再生し、両手の魔力も減ることがなかった。


「無駄だよ。この攻撃は絶対に防げない。拡散型カウンターバーストおおおおお!」


 ハイドの両手から真っ赤な巨大ビームが放たれ、それが無数に分裂し、四方八方からアリアのもとに襲いかかった。そして、その流れ弾はラルカたちにも牙を向いた。

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