第157話 ラルカの戦い
ラルカが宿でぐっすり寝ている最中、突然大爆発が起きた。建物が崩壊して瓦礫の塊となり、その轟音で民衆が目を覚ましてどよめく。
「なんだなんだ!? 一体何が起きたんだ」
「おい。なんで宿が爆発を起こしてるんだよ!」
「いやあああ! 私のお気に入りの宿が消し飛んだああ!」
民衆がざわつく中、爆発が起きた場所には1人の男が降り立った。そばかすやにきびが目立つ顔であり、髪の毛は禄に手入れされてなくてめちゃくちゃになっている。穴の開いたノースリーブのシャツ、穴の開いた黒いズボンという奇抜な格好をしていた。
「ラーテル様!? なんでこんな所に」
「というかなぜ宿を爆発したのですか! 周りの建物もかなり壊されてますよ。死傷者も出てます!」
民衆の誰かがそう質問すると、彼はそれに答える。
「なに。ここの宿に住んでる女がミカエル様とウリエル様のカップリングを認められない愚か者だと聞いてね。この俺自ら粛清にやってきたのさ。まあ多少の被害は出てしまったが、その程度のことは問題ではないだろう。ウリエル様から建物が壊れたり人が死んでも受け入れろと仰っている。貴様らはその程度の命令も聞けないボンクラなのか?」
彼がそう言うと、民衆は一瞬で態度を変える。
「なるほど。ミカエルとウリエル様のカップリングを認められない馬鹿は殺さないといけないな!」
「民衆や建物の被害も仕方ない。ウリエル様の命令は絶対だからな」
男の起こした爆発によって周りの建物は少なくない損害を受けた。ラルカ以外に宿で寝泊まりしている人、宿の従業員なども崩落に巻き込まれている。それなのに、彼らは悲しむことも怒ることもしなかった。ウリエル様の命令ならば仕方ないと割り切ったのだ。それはあまりにも異常な光景だったが、そのことに疑問を持つ者は誰もいなかった。
男は瓦礫に埋もれたであろうラルカを見て悲しそうな顔をする。
「ふむ。いつの日も思うことだが、美少女を殺すというのは心が痛むなあ。悲しき悲しき。もしお前がミカエル様とウリエル様のカップリングを認めていれば、仲良くやれていただろうに」
「おい。誰が殺されたって」
瓦礫の下から鎖が飛び出し、男の首を締め付ける。そして、ラルカが瓦礫を押しのけて現れた。土埃が酷いが、体には傷ひとつ付いてない。
「拘束術・縛り首」
「おやおや、今の一撃で死んだと思ってたが。驚き驚き。しかし気になるな。なぜトドメを刺さない?」
「聞きたいことがあるからだ。お前は何者だ変態ファッション。この気配からして幽鬼族のようだが、なぜヘルヘイム以外で活動できる? 幽鬼族はヘルヘイム以外で生きられないと聞いていたが」
「俺の名はラーテル。ウリエル様の部下だ。ヘルヘイム以外で活動出来るのは、ウリエル様の加護のおかげさ。あの方の力は素晴らしいよ。我ら幽鬼族に、ヘルヘイム以外の新しい世界を見せてくれたのだから」
「ふん。貴様の主自慢などどうでも良い。次の質問だ。なぜ我を襲った。そしてクロノスとアリアはどこに行った」
「襲った理由は、ウリエル様に命じられたからだ。ミカウリを認めない貴様らのような馬鹿を殺せと言ってたからな。お前以外の奴がどうなったかは知らない。少なくとも、俺がここを爆撃したときはいなかったぞ。いなーいいない」
「そうか」
ラルカはその答えを聞いてこう考えた。
(恐らく、あの矮小な者どもはカイツを追いかけていったのだろう。まあ良い。あいつらがいなくてもどうとでもなる)
「聞きたいことはもうないのか? 質問なし? 質問なし?」
「ああ。聞きたいことは全て聞いた。死ね」
彼女が鎖を引っ張って男を絞め殺そうとする。しかし、男は特に慌てた様子もなく、冷静だった。
「馬鹿だな。俺がこの程度で死ぬわけないだろ」
そのまま絞め殺されるかと思いきや、炎の弾丸が鎖を破壊し、拘束から逃れた。
「なに!?」
「残念だが、俺にはこんな拘束は効かない。無駄です無駄です」
「なら、もっと強く締め付けるだけだ!」
彼女は袖口から何本もの鎖を出して縛り上げようとするが。
「無駄だ」
男は炎の弾丸を複数生み出し、それが鎖を狙い撃ちして破壊した。
「炎。ウリエルの力か」
「その通り。俺はウリエル様の加護を受けた特別な幽鬼族。そんじょそこらの雑魚とは次元が違うんだよ!」
男は何発も炎の弾丸を放ち、ラルカはその攻撃を鎖を竜巻のように展開して防御する。
「ほお。防御力はそこそこあるようだな。だが!」
男の攻撃は更に苛烈さを増し、鎖の防御を破壊した。
「ちっ。こいつ」
彼女は鎖の中から脱出し、瓦礫から離れて一旦距離を取った。
「逃げ足は一貯前だな。ヴァルハラ騎士団」
「ラーテル様ーー! そんなカスやっちまってくだせええ!」
「ウリエル様とミカエル様のカップリングを認められないカスなんざ生きてる価値ないんだよ!」
「やったれやったれー! そんなクソちびは殺しちまえー!」
民衆の応援。男にとっては心地良いものだったが、ラルカにとっては不愉快極まるものであり、眉間に皺を寄せる。
「ふふふ。民衆の応援というのは心地いいな。良きかな良きかな」
「我には矮小なる者がわめいてるだけにしか見えんがな」
彼女は更に鎖を出して攻撃するも、それらは全て炎の弾丸で撃ち落とされた。
「効かないんだよ。この程度の攻撃なんざ」
「ならばこれはどうだ!」
彼女は封魔の鎖を何本も出して攻撃する。それは炎の弾丸を弾き、彼の体を雁字搦めに縛り上げた。
「おっと。力が抜けていくようだな。これは封魔の首輪と似たような性能を持ってるのか」
「これで終わりだ。絞め殺してやる!」
「悪くない攻撃だが、それでも俺には届かない!」
ラーテルは炎の翼を生やし、鎖を焼き千切った。
「なに!?」
「封魔の首輪は魔術を封じる強力な拘束具だ。しかし、この天使の翼は封魔の鎖に縛られても使える便利なものなのだよ」
「ヴァルキュリア家の
「
「我からすれば、どっちもどんぐりの背比べの矮小な者たちだよ!」
彼女は男の死角となる部分から封魔の鎖を生やして攻撃するも、翼がそれを焼き千切った。
「ちっ。厄介な翼だな」
「そろそろ終わらせてやろう」
男は一気に接近して槍のような形にした翼で攻撃する。彼女は封魔の鎖を2重の竜巻のようにして展開して防御しようとする。
「無駄無駄無駄あ!」
翼はその防御を簡単に壊し、彼女の体を貫いた。
「があ!?」
「燃えろ。焼け死ね焼け死ね!」
翼から放たれた炎が彼女の体を焼き尽くしていく。その炎は300℃を軽く超えており、常人ならばまず助からない温度だ。
「はあ。美少女が燃えるというのは辛いなあ。悲しき悲しき。だが許せ。これもウリエル様のためなんだよ。恨むなら、ミカウリを認められなかった愚かな自分を恨むんだな」
炎が彼女の全身を焼いていき、ラーテルは確かな手ごたえを感じていた。
「終わりだな」
殺せたと感じた彼は翼を引き抜こうとしたが、なぜかピクリとも動かすことが出来なかった。
「なんだ? なぜ動かない」
彼が力を込めて抜こうとすると、翼から飛びだした赤い鎖が彼の体を貫いた。貫かれた痛みも当然あるが、それ以上に体の中が熱くなっていくのを感じた。
「ぐえ!? なんで……俺の翼から」
「全く。偉大なる我の魔術は……本当に扱いづらいものだな」
地面を突き破って何本もの鎖が男に襲い掛かり、彼はその攻撃を跳んで躱して距離を取る。鎖はラルカの周囲を纏い、竜巻のように展開する。そして、その中から彼女は現れた。全身が焼け焦げていたが、彼女を焼いていた炎はなぜか消えていたのだ。
「貴様、一体何をした」
「ふん。偉大なる我は、いちいち矮小なる貴様に説明することなどしないのだよ!」
彼女の後ろにある鎖から炎の弾丸が放たれ、彼に襲い掛かる。しかし、その攻撃は翼で防御された。
「貴様も炎を操れるとはな。それも中々の威力だ。だが、それでも俺には届かない!」
男が何十発もの炎の弾丸を放つが、ラルカはその攻撃を赤い鎖を展開して防御する。
「ふん。その程度の防御など無意味。無駄です無駄です!」
男の攻撃が苛烈さを増す。その攻撃で確実に破壊できると思ったが、鎖は傷つくことすらなかった。
「なるほど。多少は硬くなってるわけか。だがこれなら!」
男は接近し、炎の翼を槍のようにして攻撃するが、鎖はその攻撃でもびくともしなかった。
「馬鹿な! この攻撃すらも防ぐだと!? 一体どんな手品を使いやがった!」
「言っただろう。矮小なる貴様に教えることなどないと!」
彼女が赤い鎖で男の体を再び雁字搦めに縛り上げた。
「ぐっ。この程度の鎖など……俺の翼で」
「無駄だ。我の鎖は進化したのだ。矮小なる貴様の攻撃など簡単に防げる」
「ふざけるな。ミカウリを理解できない人間風情に、この俺が負けるなどありえん! うおおおお!」
男は翼で縛っている鎖を破壊しようとするも、傷付けることすら出来なかった。
「今度は我の番だ。同じ痛みを味わえ」
縛り上げた鎖が炎を放ち、男の体を焼き尽くしていく。
「ぐうう……馬鹿が。ウリエル様の加護を得た俺に……貴様の炎など、効かぬ」
「その炎は貴様の炎を元にして改良し、生み出したものだ。貴様でも耐えることは不可能。燃え死ね」
彼女がそう言うと、炎の勢いが更に強くなっていく。
「ぎえああああ!? 熱い熱い熱い熱い!?」
ラルカの魔術、
「ぐがあああああ!? 馬鹿な……ウリエルの加護を得たこの俺がああ! 理解不能理解不能!」
「うるさい奴だな。静かに燃えてることも出来ないのか」
彼女が指を鳴らすと、地面から飛び出した何本もの赤い鎖が飛び出す。鎖の先端には炎の槍のようなものがあり、それが男の全身を刺し貫いた。
「殺人術・
炎は更に大きくなり、男の肉体を灰と化すまで焼き尽くしていく。
「感謝する。貴様との戦いのおかげで、我の魔術は進化した。我に感謝されたことを誇りに思いながら死ぬと良い」
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