第156話 ケルーナとの再会 次々と襲い来る敵
ここのヘルヘイムはとにかく自然豊かな場所だった。あるのは木造建築の建物ばかりであり、なぜか屋上に果実が実った木が生えてたり作物があったりとわけわからないことになっていた。さっきまで夜だったはずなのに、今は青空が広がっている。それなのに住人がほとんど外に出ていないから妙な感じだ。
「ここがヘルヘイム」
「そやでえ。うちらの住む都。うん、やっぱりここの空気はええなあ。このふんわりした感じが心地ええわ」
「ふんわりというのはよく分からないが……というかここがヘルヘイムということは、住んでる住人は幽鬼族だよな。お前も幽鬼族なんだろ? やけに綺麗な顔してるな」
「綺麗? ああ、あんたやウリエルからすると綺麗な顔になるんか。わっちはこの顔嫌いやけどなあ。この顔はメイクしてるねん。ウリエル曰く、わっちらの顔が醜いから化粧して骨を隠せいうねん」
「その顔は化粧で出来てる物なのか?」
「そやでえ。本当の顔はもっと骨まみれやねん。もし見せる機会があったら見せたるわ」
「……そうなのか。それは楽しみだな」
どうやら幽鬼族というのは俺たちとは美的感覚が違うらしい。まあ種族が違うんだしそれも当たり前か。
「それにしても、お前は外の世界に出ても平気なんだな。幽鬼族って、ここ以外で暮らすことが出来ないって聞いてたんだが」
「ま、普通はそやな。ただわっちは特別やねん。旦那様から血をいただいてるおかげでな」
「旦那様。そいつは普通の幽鬼族と違うのか?」
「うん。旦那様は幽鬼族の突然変異種。それ故に外の世界でも普通に生活できるし、旦那様の血を飲むことで他の幽鬼族も外で活動できるようになるねん」
「凄いな。そんな奴がいるなんて」
「凄いやろ。ま、その凄さのせいでウリエルに目を付けられたりと大変なことがあったけどな」
彼女の話し方。どうもウリエルを快く思ってはいないみたいだな。
「この世界にいる住人はどうしてるんだ?」
「寝てはるよ。だってもう夜遅いんやもん。みんなおやすみや」
「こんな青空の中よく眠れるな」
「いやいや。わっちらからすれば、こんなの真夜中と変わらんよ。朝の空はもっと眩しいんやから」
これだけの青空が真夜中と同じ。朝の空はどれだけ光り輝いているのやら。それにしても。
「なんだあれは」
町の中にはミカエルの巨大木像がいくつも建てられている。水着、和服、巫女服と無駄にバリエーション豊富だし、無駄にクオリティが高い。おまけにどれも露出が多い。
「ああ。あれはウリエルがここを統治してから住民たちに造らせてるやつや。ここの住人たちの技術力は凄いやろ。あの木像を造らせるウリエルはすっごい気持ち悪いけどなあ」
確かにあれは気持ち悪い。中にいるミカエルたちもあれに対して嫌悪感を持っているのが伝わって来る。その後はケルーナに連れられ、彼女の住処へと入った。そこは巨大な木の上に建てられた木造の家であり、家の中で木の実が生えた木があったり作物が生えてたりと中々に面白い形の家だった。
「凄い家だな。ここまで自然に囲まれた家ってのも珍しい」
「5年くらい前はここまで自然が多くなかったんやけどなあ。ウリエルが前の支配者を殺して新たな支配者となった後、こんなにも自然豊かな世界になってもうたんや」
「ウリエルが? なんでそんなことを」
「さあな。わっちにもその理由は分からん。本人はミカエルとの愛の巣を作るためにやったらしいけど、そこまで詳しくは分からんわ」
「そうなのか」
どうやらウリエルというのはかなりイカれた奴のようだ。ミカエルのためとはいえ、前の支配者を殺して自分の好きなように作り変えるなんて。それだけミカエルのことを愛しているともとれるが
『気持ち悪いことするのお。吐き気がするわい』
『わっちもサブいぼが止まらん。あやつ絶縁したころから何も変わっとらんなあ。醜くてしかたないわ』
そのミカエルからはとんでもなく嫌われていて少し可哀想になってくる。それにしても。
「なんだ。あの不気味な絵は」
あちらこちらの壁に貼られているミカエルとウリエルと思われる赤い髪の男がキスしたり抱き着いたりしている絵。その他にも俺の死体らしきものが描かれたり俺が赤い髪の男に殺されてミカエルを奪われる絵。絵画ならぬ怪画とでもいうべきか。まともな神経してる奴では絶対に描けないものだろう。
「ああ。あれはウリエルが支配者になってから増えた絵やなあ。なんか知らんけど、やたらとあんたのことを目の敵にしとるみたいやねん。そのせいでここにいる住人たちはあんたに並々ならぬ敵意を抱いとるわ」
「それなのに、お前は俺に敵意を持ってないんだな」
「わっちは自分の好き嫌いは直接会ったり見たりするまで決めへんようにしてるねん。あんたは優しくてかっこいいし良い人や。嫌う理由があらへん」
「珍しいな。幽鬼族というのは強い奴の言うことは絶対って感じの奴らだと思ってたが」
「ま、普通はそうやな。強い奴にはとにかく媚を売る。強い奴のやることは全て正しいと考える。そういう価値観で動くのが幽鬼族の生き方やからな。ただ、わっちはそうではないというだけや」
そういえば、別のヘルヘイムにいた橋姫も支配者だった餓鬼に逆らってたし、全員が手のひらくるくる変える奴らでもないのかもしれないな。
「そうか。まあ嫌われなくて助かったよ。こうしてちゃんとした家で休息を取れるからな」
「本当に良かったですよ。カイツ様がちゃんとしたお家で休むことが出来て」
「だねえ。一時はどうなるかと思ったよ」
「……なんでお前らがここにいるんだ」
どういうわけか、アリアとクロノスの2人が家に入ってきていた。ケルーナもこれは予想外だったのか、かなり驚いた表情をしている。
「あんたら。いつのまにここに来たんや」
「懐かしい魂の反応を感知したのでこっそりついてきました」
「懐かしい匂いを嗅いだからこっそりついてきたんだよ」
「あんたらの尾行力とステルス力は恐ろしいのお。全く気付かんかったわ」
「というか、ラルカはどうしたんだ」
「置いてきました」
「放置した。あいつ寝てたし」
「……なにやってんだお前らは」
せめてラルカを連れて来いよ。あいつ起きた時に困惑するぞ。そう思ってると、ケルーナの元に1羽の黒い鳥がやってきた。
「この鳥は」
黒い鳥は彼女のほっぺをつんつんと突いており、何かを伝えているようだ。
「ふむ。これはまずいかもしれんなあ」
「ケルーナ。どうかしたのか」
「あっちの方にある村。そこにウリエルの部下が向かってるみたいやわ」
「なんだと!?」
「しかも割と実力者を出したみたいやのお。このままやとやばいかもしれん」
「なら、今すぐ助けに行かないと!」
「そうやな。わっちが案内するわ。行くで」
ケルーナ、クロノス、アリアと共にヘルヘイムを出た後、ケルーナの作った巨大な蛇の上に乗って村へと向かった。蛇の速度が思ったよりも速く、村に到着したのは良かったが、どういうわけか門が閉じており、門番も消えていた。どういうわけか分からないが、無駄な諍いが起きなくて結構だ。
「行くぞ」
俺が入ろうとすると、赤い膜から炎が噴き出し、俺の行く手を阻む。
「これは」
「なるほど。非常事態用結界が出てるな」
「非常事態用結界?」
「魔物が大量に襲撃してくる際に自動的に展開される強固な結界や。ただ、今はほとんど魔物も来てないから、こんなもの展開する必要がないはずやが」
使う必要のない強固な結界。まさか。俺が予感したことを裏付けるように建物で爆発が起こる。
「あそこは私たちが泊まってた宿じゃん」
「それにこの魂の気配。恐らくウリエルの部下とやらが来襲してきましたね」
「てことは、この結界は俺たちを足止めするためのものか。六聖天・第2解放!」
六聖天の力を解放し、俺の体が変化する。本当なら村を守る結界は壊したくないが、そんなこと言ってられる余裕は無い。
「おお。カイツかっこよくなってるね」
「本当ですね。羽根が更に煌びやかになって美しいです」
「へえ。ずいぶんパワーアップしてるみたいやのお。驚きやわ」
「剣舞・龍刃百華 凪!」
刃が当たった瞬間、無数の斬撃が結界の一箇所を襲うも、傷1つ付かなかった。
「くそ。強固というだけあって頑丈だな」
「なら私が。獣王剣・天!」
彼女が腕を振り抜くと、巨大な斬撃が襲い掛かるが、壁には傷をつけることが出来なかった。
「やっぱりだめか。しかもこの結界の特性なのか、魔術が効きにくい。これじゃ結界の過去を破壊するのも難しいね」
「まずいな。このままじゃラルカが危ない。急いでこの結界をぶっ壊さないと」
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