第151話 対策会議

 side カイツ


 俺はニーアが話してくれた現状をただ聞いていた。


「その後は救助活動や瓦礫の撤去、応急処置などイロイロやった。クロノスはウリエルや六神王を追ってどこかに行ってしまったが」

「見つかりませんでしたけどね。うまいこと逃げられちゃいましたよ」

「とまあ、色々してる内に兄様が帰ってきて、わたしたちもここに呼び出されたというわけだ」

「……そうか」


 色々と気になることが多すぎる。


「なんでウリエルは俺を恨んでるんだ」

「カイツは心当たりはないのかしら?」


 ウルが質問してくるが、何の心当たりもない。


「無い。そもそもウリエルとは会ったこともないはずだ。それなのになんで」

「嫉妬じゃろうな」


 そう言いながら小さいほうのミカエルが実体化して現れた。


「嫉妬ってどういうことだよ」

「あやつは妾に対してやたらと結婚してくれだの子を孕んでくれだの気持ち悪いことばかり言っとったからの。大方、妾と一体化しておるお主が鬱陶しくて仕方ないのじゃろう」

「なんだその理由。ていうかミカエルになにしてんだか」


 俺が呆れていると、ダレスが思い出したかのように言う。


「あ、カイツ。そういえば恨みで思い出したんだけど」

「なんだ?」

「私やバルテリアと戦った高貴な服の人、理由は知らないけど、カイツのことを恨んでいたみたいだよ」

「……嬉しくない情報をどうも」


 どんだけ俺は色んな人に恨まれてるんだ。なんだかしんどくなってきた。


「右腕はずいぶんとモテモテだな」

「こんなモテ期はごめんだ。ダレス、なんで俺はその高貴な服の奴に恨まれてるんだ?」

「さあ。理由は知らない」

「そうか。まあ気になることは多いが、それよりも支部長」

「なんだい?」

「あなたとガブリエルはどういう関係なんですか?」

「契約を交わした仲さ。少しやりたいことがあって、そのためにガブリエルの力が必要でね」

「なら、なんで支部が襲われたときにガブリエルを呼ばなかったんですか?」

「呼ばなかったんじゃなくて呼べなかったんだよ。あいつはずいぶんと気まぐれだからね。私の言う通りに動いてくれないんだ」

「それを信じられるほど、私たちも馬鹿ではないのだけど」


 ウルがロキ支部長を睨み付けるが、ミカエルが話す。


「いや。信じて良いと思うぞ。妾も同じ四大天使じゃからよく知ってる。あいつは何を考えてるか分からんところがあるし、素直に契約者の言うことを聞く女ではない。昔はあやつの気まぐれにずいぶん苦労したものじゃしな」

「そうなの?」

「ああ。昔、あやつと契約した人間を何度も見て来たが、どいつもこいつも碌な死に方をせんかったし、ガブリエルが助けることは無かった。あやつがこの女の言うことを聞かなかったとしても何も不思議ではない」

「そう。貴方が言うなら、信じても良いかもしれないわね」

「信じてくれて嬉しいよ。さて、色々整理も出来たし、ヴァルキュリア家に関する話し合いをしよう。私たちの敵は大きく分けて2つ。1つはヴァルキュリア家や六神王、もう1つは四大天使が1人、ウリエル。どちらも一筋縄ではいかない強敵だ。おまけに、敵がいつ次の襲撃を始めるか分からない。今度後手に回れば、私たちは確実に終わる。だからこそ、今度はこちらから攻めようと思う」


 なるほど。確かに先手に回るのは良い方法かもしれない。だが


「攻めるのは良いけど、敵の居場所は分かってるの?」


 ダレスが質問すると、ロキ支部長が答える。


「もちろん掴んでいるとも。ミルナ!」

「はいにゃーん」


 支部長がそう言うと、天井の一部が開き、そこからミルナが現れた。どこから現れてんだと思ったのは俺だけではないはず。


「これを見るにゃー」


 彼女がポケットから石を取り出すと、その石が光を放ち、立体映像となって空中に映し出される。あれも魔道具か。ずいぶんと便利なものがあるんだな。


「これはスクリーンストーン。騎士団本部で開発中の立体映像投射する石にゃん。まだ試作品だけど、かなり便利なものにゃーん」


 また本部の試作品か。本部の技術力は凄いな。こんなものも作れるとは。立体映像となっているのはとある地図であり、赤い点が記されてる地点があった。


「支部長。これは何かしら?」


 ウルが質問し、支部長がそれに答える。


「ここはルテイス地方。ここから数十キロ行った先にあるとある地方だ。そこにある暗闇神社。ここからこんなものが見えたんだ。ミルナ」

「はいにゃーん」


 ミルナが石をコンコンと叩くと、ボロボロになった神社のような場所が映し出され、そこに炎の翼をはためかせる男が映っていた。


「! 妹、あの男は!」

「ああ。ウリエルだな」

「おお。ウリエルではないか。あやつの顔久しぶりに見たのお。相変わらず気持ち悪い顔じゃ」


 ラルカとニーアがハッとしたようにそう言い、ミカエルが毒を吐く。てことは、あれはウリエルって奴で間違いないようだ。それにしても、ミカエルはずいぶんとウリエルって奴に当たりがきついな。まあストーカーみたいなことしてたらしいから無理もないが。


「これは良い情報だな。しかし、なぜこんなピンポイントな情報が今出て来たのだ。ずいぶんと怪しい匂いがするが」


 ラルカが疑いの目を向けてそう言う。確かにこんなピンポイントで約に立つ情報を出してきたのは少し気になる所がある。


「いや、この情報は前から持ってたんだよ。ミルナには危険分子となりうる存在や怪しい存在を常日頃から調査させてるからね。これもその過程で出て来たものだ。初めは捨てようかと思ったけど、ガブリエルがそいつがウリエルだと教えてくれてね。いつか役に立つかもと思って取っておいたんだ」

「そうなのにゃ! 全てはにゃーの優秀な調査で判明した事実なのにゃ!」


 ミルナが逆さまの状態でどや顔しながらそう言う。気になることが無くなったわけではないが、今は追及しても躱されるだけだろうし、聞かないでおくか。ラルカも俺と同じ判断をしたようで、特に追及することは無く画面の方を振り返る。


「ウリエルはこの暗闇神社にいる可能性が高い。だからこちらから攻め込み、奴を倒す」

「簡単に言うが、奴はかなりの実力者だぞ。フルパワーのあいつは六神王や私など軽く凌駕している。そんな奴をどうやって倒すんだ?」

「そうですね。屈辱ですが、私も為すすべなくボコボコにされましたし、下手に突っ込んでも返り討ちに合うのが良い所でしょう」


 ニーアとクロノスにここまで言わせるとは。クロノスなんて他者を高く評価することなど滅多に無いどころか見たことがないのに。分かっていたことだが、四大天使というのは化け物ばかりだな。相手にすると考えると気が滅入る。


「そこは君たちの作戦と奴の縛りプレイに賭けるしかない。奴はガブリエルに見つかるのを嫌がるらしいし、カイツ君相手なら本気は出さないはずだ」

「いや。むしろ本気を出してきそうなんですけど」

「カイツ君1人ならそうだろうね。だが君の中にはミカエルがいる。ウリエルの執着の強さからして、彼女を傷つけるのは嫌がるだろうし、本気は出さないはずだ」


 なるほど。縛りプレイというのはそういうことか。だが本気でなくても相手は四大天使。かなりの強敵のはずだ。こっちも綿密に作戦を練って行かないと。


「とりあえず、ウリエル討伐には少数精鋭で行きたい。数を増やしても無駄なだけだろうし、今ノース支部から人を多く出すわけにはいかないからね」

「ロキ支部長、ガブリエルって奴に協力を仰ぐのはどうですか? 同じ四大天使ですし」

「いや。あいつの手は借りないほうが良い。変に混乱するような状況になっても困るし、素直に手を貸してくれるか分からないし」

「妾も同意見じゃ。あやつは四大天使の中で最も不気味で何を考えとるかわからん。協力なんて不可能じゃよ」

「そうか」


 ミカエルがそう言うのならそうなのだろう。


「さて。出撃するメンバーだが、カイツ、アリア、クロノス、ラルカ。お前たち4人で行ってくれ」

「そのメンバーにした理由は何なのですか?」

「アリアとクロノスは協調性皆無だからな。ここにいてもらっても邪魔になる可能性が高いし、2人はウリエルとそれなりに戦える実力があると思っている。そして、カイツは2人の手綱を管理する係だ」


 ずいぶんと変な役を任されたな。あの2人の手綱を取るのは苦労しそうだ。


「なら、我が呼ばれた理由は何だ? 特攻兵になれとでも?」

「そんなわけないじゃないか。ラルカの作る魔封じの鎖は、四大天使にもそれなりに効果があるはずだ」

「なるほど。それで我も呼ばれたというわけか。よかろう。この我の力を存分に振るってやる!」


 ずいぶんと強気だな。その強気が戦う時まで続くと良いんだが。


「では準備してくれ。遅くても1時間後には出発してくれると助かるよ。あまり悠長にしてるわけにはいかないからね」


 まさか帰って早々に新たな四大天使の相手をすることになるとはな。しかも暗闇神社ってケルーナが来てくれって言ってた場所じゃねえか。色々と憂鬱だな。ケルーナが敵にならないと良いんだが。あいつと戦うのは気が進まないし。


「さて。どうなることやら」

「大丈夫だよ。私とカイツがいれば百人力! あとは適当に壁でも用意してればなんとかなるなる」

「獣女が壁になってくださいよ。正直邪魔ですし」

「あんたが邪魔なんだよ。サイコパス女」


 目の前でバチバチと火花を鳴らしながらにらみ合うクロノスとニーア。


「右腕。これ大丈夫なのか?」

「……なんとかなるだろ。ていうかしないとまずい」


 仲間割れで負けるとか笑い話にもならないからな。

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