第150話 ウリエル襲来!

「ミカエルの器はどこにいる。あの腐れ外道の場所を教えるならば、慈悲として命だけは見逃してやろう。教えないならば、灰も残らず焼き尽くす」


 その言葉を聞いた瞬間、私の怒りが頂点を超えた。ミカエルの器が兄様のことだというのはすぐに理解出来た。兄様のような素晴らしい聖人君子を腐れ外道と言った眼の前のカスが許せなかった。


「おい半裸男。今なんと言った? ミカエルの器が腐れ外道だと? ずいぶんなこと言ってくれるじゃないか」

「その通りではないか。あいつはミカエルに寄生する害虫だし、立場を利用していかがわしいことをしているとも聞く。腐れ外道以外の何だというのだ」

「どこからそんな情報を聞いたか知らないが、ずいぶんとふざけた情報のようだな」


 私は奴の周囲にいくつもの緑色の魔法陣を展開して閉じ込めた。


「崩衝連弾!」


 いくつもの魔法陣から緑色のレーザーが放たれ、奴に襲い掛かってく。だが、奴は3対6枚の炎の翼を背中から出し、包み込むようにして私の攻撃を防いだ。翼は少しばかり小さくなったものの、奴に攻撃が届かなかった。


「ふん。人間にしてはそれなりの攻撃力だが、この程度では私は倒せない」

「ちっ。ならばこれはどうだ。崩衝時雨!」


 空に緑色の魔法陣が現れ、そこら雨のように緑色のレーザーが降り注いだ。奴は翼で空を飛び、あちこちを飛び回りながらそれを躱していく。


「どうやらよほど殺されたいらしいな。楽に死ねると思うなよ!」


 奴は炎の大剣を出し、私に斬りかかってくる。その攻撃を魔術で作った剣で受け止め、何十、何百と斬り合う。奴の身体能力には目を見張るものがあったが、剣は素人と同じレベル。そのおかげでぎりぎり渡り合えた。剣をぶつけると同時に肌を焼き尽くしそうな熱が私に襲いかかり、体の中を焼いていく。


「ぐううう!?」

「ほお。この熱にも耐えられるか。つくづく面白い奴だ。お前も」


 足元の地面にヒビが入り、私は次に起こることを予測してその場から離れる。奴も察したのか、同じように場を離れた。その直後、巨大な蔓が地面を突き破って現れた。


「そこの眼鏡もな」

「やはりこの程度の攻撃は躱されますか。ヘラクレス!」

「分かっているさ!」


 奴が着地した瞬間にヘラクレスは背後を取って殴りかかるが、奴はそれを振り返ることもせずに受け止めた。


「おっと! 中々やるじゃないか。流石は四大天使だな」

「俺の背後を取るとは驚いたが、素手で殴りかかったのは失敗だな」


 奴がそう言うと、ヘラクレスが炎に包まれた。


「忠告しといてやる。俺の体は灼熱の炎そのもの。触れれば奴のように丸焦げになるぞ」

「ヒャハハハハ! 誰が丸焦げになってるって?」


 炎が消え去り、笑み浮かべたヘラクレスが立っていた。体中酷い火傷だらけになってるというのに、よく生きていられるものだ。もはや生物の枠に収まるものではない。ウリエルもこれは予想外だったようで、少しばかり驚いている。


「ほお。俺の炎に包まれて生きていられるとはな。とんでもない奴だ」

「あれだけの炎を喰らったら、満足しすぎて死ねなくなったんだよ! さあ、もっと俺を攻撃しろ! 俺を満足させてくれ!」


 奴はまだ戦う気満々、プロメテウスはその戦いを静観するようだった。


「ゆくぞおおおお!」


 奴が黒い翼を生やし、身体能力を上げて殴りかかる。ウリエルはその攻撃をいなしながら炎の剣で切り裂こうとするも、腕で防御される。


「魔力で強化してるとはいえ、腕で防御するとは。とことん面白いやつだ」

「お前も面白いやつだ! この攻撃、最高の快感だああ!」


 2人の戦いは激しさを増し、黒い翼が叩きつけるように振り下ろされ、それを躱したウリエルが炎の弾を放つ。


「おい、右腕の妹」

「ああ。かなり面倒なことになってきたな」


 ただでさえ六神王が面倒なのに、ウリエルの襲来。遠くから悲鳴のような声が聞こえて来てたし、状況が酷いことになってるのは容易に想像できた。もう何が何やらだ。


「あのヘラクレスという男は凄いな。かなりのダメージを受けてるはずなのに、倒れる気配がない」

「タフさや体力だけで比べるなら、奴はカーリーをも上回るからな。正攻法で倒すのは骨が折れる」


 戦いの方はヘラクレスが少しばかり劣勢で徐々に傷をつけられてるが、プロメテウスが介入する様子はない。


「さてどうするべきか」


 私が打つべき手を考えてると、クロノスが私の肩を借りながら立ち上がった。


「クロノス。お前何を」

「少し補助してください。あいつらを消します」


 彼女は自身の右手に魔力を集中させ、タルタロスで見せた巨大な大砲のような武器を作り出した。


「無理をするな。そんな体では」

「黙ってください。カイツ様に危害を加える者は……消す。穿て!」


 大砲のような武器から巨大な青いレーザーが放たれて奴らに襲いかかるも、その攻撃は炎の盾によって弾かれてしまった。


「な!?」

「大したものだ。あれだけ痛めつけてまだこれだけの力を残してたとは。お前が万全の状態で放った一撃ならまずかったかもしれないが、そんな状態で撃たれた攻撃など何の恐怖もない」


 奴が巨大な炎を放ち、私が黒い翼を最大限まで大きくして全体を包み込み、その攻撃を防いだ。


「ぐううう!? なんて熱さだ」


 翼で受けているはずなのに、体が火傷を負っていく。


「ふむ。存外できる人間が多いようだ。さてどうしたものか」

「全員倒せば問題ないさ! まずは俺を倒したまえ!」


 ヘラクレスが後ろから襲いかかるも、炎の翼に貫かれてしまった。


「おおお! こいつも良い攻撃だな。最高だ!」

「そうだな。まずはお前を殺すとしよう。死ね」


 その言葉と共に奴は上に投げ飛ばされる。ウリエルが巨大な炎をぶつけようとすると、植物の蔓が襲いかかり、それを躱して地面を飛ぶ。


「ちっ。ほんとに邪魔な蔓だな」

「おいプロメテウス! 攻撃の邪魔をするなよ! せっかく満足出来そうな攻撃を貰えそうだったのに!」

「それで死んでたら元も子もないでしょう。今あなたを失うわけにはいかないんですよ」


 プロメテウスは翼から黒いナイフのような物を大量に飛ばして攻撃し、その攻撃は炎の盾によって防がれる。


「ふむ。あまりやりたくないが仕方ない。六聖炎ろくせいえん・最大解放」


 奴がそう言った瞬間、背中から3対6枚の炎の翼が生え、息をすることも出来ない圧倒的な熱量が私たちに襲い掛かる。


「!? この炎は」

「驚きましたね。まだ力を隠していたのですか」

「はは、はははは! こいつはパねえ! この威圧感だけでとてつもない満足だ。もし炎を喰らったら、絶頂しちまいそうだよ!」


 ウリエルの炎は収まる勢いがなく、支部の床を溶かし始めている。


「あいつに感知されたくないから力を抑えてたが、このままダラダラと戦っても面倒なだけだ。器の居場所も聞けなさそうだし、全部焼き尽くしてやる」


 奴は手のひらに超巨大な炎を生み出した。その熱も大きさも先ほどとは比べ物にならない。


「くっ。なんて熱量だ」

「あの技は……まずいですね」

「クロノス。あれが何か分かるのか?」

「プロミネンスブラスト……空をも焼き尽くす太陽のような炎の一撃」


 太陽か。確かにこの熱量は太陽を思い起こさせる。こんな攻撃を喰らったら私やラルカたちが死ぬ程度では済まない。この支部どころか町が消滅する。


「おおお、プロメテウス! これは最高の一撃になりそうだぞ。喰らった瞬間を想像するだけで絶頂しちまいそうだ!」

「呑気なこと言ってられるあなたが羨ましくなりますね。さて。これはどうしましょうか」


 プロメテウスが翼から大きな黒い槍を作り出す。


「貫きなさい!」


 その言葉と共に槍が放たれる。その速度は目で追うのが苦労するほどであり、かなりの威力を持っていることわかった。しかし、その攻撃は奴に届く前に焼き消えてしまった。


「この攻撃が届きすらしないとは」

「無駄だ。今の俺にその程度の攻撃は通用しない」


 奴の攻撃を止めるには一撃で殺すしかない。だが奴を一撃で殺せるだけの火力を出せるかどうか。そもそも攻撃が届くかすら分からないが。


「おいおい。そんなえぐい攻撃を私の支部でしてくれるなよ」


 声のした方を見ると、ロキ支部長が向こうの方から現れ、ウリエルも彼女を見る。


「誰だお前は。邪魔をするならまとめて焼き尽くすぞ」

「やめておいた方が良いよ。私を殺すと激怒する奴がいるからね」


 彼女の右手に青い紋様が出現し、魔力の波動が奴に襲い掛かる。


「!? この魔力は」

「お前なら分かるだろ。この魔力が誰のものか」

「なるほどな。あいつが、ガブリエルが言ってた胡散臭い契約者とはお前のことか!」

「察しが良いねえ。さあどうする。私と戦うかい?」


 ウリエルは少し逡巡した後、力を抑えて攻撃を止めた。


「予定変更だ。今はあいつを怒らせたくない。ここは退くとしよう」


 奴は炎に包まれ、その姿を消した。


「消えちまった。まあいい。ならばイシスと戦って満足を」

「ヘラクレス、私たちも撤退しますよ」


 プロメテウスがそう言って植物の蔓でアレスを捕まえる。


「なぜだ! 俺たちの任務は騎士団の殲滅だろう。こんな中途半端な形で撤退するなど」

「アレクトが任務を無視して離脱してますし、天使も既に全滅しました。審判者ジャッジメントももうじき来ますし、これ以上の戦闘は無意味です。幸いにもそれなりのメンバーを殺せたようですし、戦果は問題ないでしょう」

「任務を無視!? なんでそんなことを」

「大方、狙っている敵が見つからなくてやる気が出なかったんでしょう。ほんと、これだから六神王というのは嫌なんですよ。どいつもこいつも自分勝手で。偽熾天使フラウド・セラフィムの方が何倍もマシですよ」

「むむむむ。仕方ない。イシス、俺が満足するまで死ぬんじゃないぞおおお!」


 そんなわけの分からない捨てセリフを最後に、奴らは黒い竜巻に包まれて姿を消した。


「終わったのか」

「はあああ。疲れたあああ」


 ラルカが情けない声を出しながらその場にへたりこんだ。


「ふう。危ない危ない。何とかなって良かったよ」

「ロキ支部長。少し聞きたいことが」


 私が気になったことを聞こうとすると、彼女はそれを止めるように手を突き出した。


「その前に怪我人の救助と死者の確認だ。今回はずいぶんとしてやられたからね。報告書とか忙しくなりそうだ」

「待て。お前は一体何を」

「知りたいなら、支部の救護活動を手伝ってくれ。じゃあね~」


 彼女はそう言ってどこかに行ってしまった。追いたい気持ちもあったが、支部の惨状をほおっておくことも出来ず、私は救護活動を始めた。

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