第141話 アースガルズを進む一行

 カイツたち一行は巨大な雑草をかき分けながら先へと進んでいた。アリアが雑草を切り落とし、カイツに気を遣いながら先頭を進んでいる。


「ふう。でかい植物だね。切るのに苦労するよ」

「すまないアリア。全部お前に任せちまってるな」

「気にしないで。カイツは体力を温存することが大切だし、この程度の露払いは私がやらないと」

「それにしても、アースガルズってのは凄い場所だな」


 カイツが呆気にとられながら周りを見渡す。何もかもが巨大でめちゃくちゃな世界。花粉は虫かと思えるほどに大きく、まるで自分たちが小人になったかのよう感覚を感じた。それに加え、空はドラゴン、人の顔をした蝶や鳥、羽の生えた馬が空を飛んでるという魔境だ。そしてなによりも問題なのは。


「暑くて……寒い。なんだこの変な感覚は」


 太陽の光がカイツを焼き、まるで肌を焦がすかのような異常な暑さとなっている。それと同時に、吹きすさぶ風は氷とは比べ物にならないほどに冷たく、彼の肌に突き刺さる。異常なほどに暑くて異常なほどに寒いというわけのわからない感覚に襲われていた。


「アースガルズの気候は異常じゃからの。常人がここに来ると、その異常な気候に耐え切れず、3分も経たんうちに発狂すると言われておる。お主はよく持っとる方じゃよ」

「確かに、こんな所じゃ発狂するのも分かる。アリアとミカエルはよく平気でいられるな」

「伊達にこの世界におったわけじゃないからのお。この程度の環境などぬるま湯と変わらん」

「フェンリル族はこの世界出身だからね。この環境にも適応できるようになってるんだよ」

「なるほど……あれ? けどアリアって、最初からここにいたのか? 確か、その耳を気味悪がられて捨てられたとか言ってたけど。そもそも、最初は自分を人間だと思ってたみたいだけど」

「ああ。それは」


 アリアが話そうとした瞬間、3人は何かが来るのを感知し、その場から遠く離れる。彼らのいた場所に何かが飛来し、土煙が舞って辺りの草木が吹き飛ばされていく。


「くそ。一体誰だ!」

「たく。面倒くさいなあ」

「ま、素直に行けるほどやすうないか」


 土煙が払われ、彼らの前に現れたのは巨大なドラゴンだった。体長は優に10メートルを超えるものであり、硬そうな鱗が体を覆っている。


「マジか。ここまででかい魔物は初めて見るぞ」

「レッドドラゴンか。アースガルズに住む怪物だね。カイツは下がってて。こいつは私1人で片付ける」

「お主1人に殺れるのか? 妾も手を貸すが」

「弱ったババアの手なんて必要ないよ。あんたはカイツを守ることに集中してて」


 ミカエルの額に青筋が浮かび、拳を強く握りしめる。


「ほんと……クソ生意気な奴じゃのお。妾が力を取り戻した時には、八つ裂きにしてやる」

「それは良いね。ライバルを1人減らせそうで助かるよ」


 2人はバチバチと火花が飛び散っており、今にも殺し合いが始まりそうな重い圧があった。


「喧嘩すんなよ。なんでお前らはそんなに仲が悪いんだ」


 呆れるカイツをミカエルが遠くに連れて行き、アリアはドラゴンと対峙する。


「さてと。トカゲごときに時間かけてられないし、さっさと終わらせるか」

「グオオオオオオオ!」


 ドラゴンは思いっきり息を吸い込むと巨大な炎を吐き出した。その炎は草木を灰にし、高熱が大地をドロドロに溶かしていく。その炎はミカエルたちにも迫っていた。


「あのトカゲ野郎! とんでもないことしてくれるのお!」


 ミカエルは巨大な魔法陣のドームでカイツ達と自分を包み、炎を防ぐ。防いでる最中、彼女の体に痛みが走った。


「ぐ……今の状態では、炎を防ぐだけで手いっぱいか」


 ドラゴンが炎を吐き終わると、辺り一帯が激変していた。大地はミカエルが守ってた場所を除いて溶岩のようになっており、煙を噴き出している。その範囲は扇状になって数十キロ先まで続いている。


「流石はアースガルズに住む怪物。これぐらいのことは簡単にこなすか。じゃが」


 ドラゴンは見失ったアリアを探しているが、ミカエルはそんな姿を見てフン、と鼻で笑う。


「お主の負けじゃ。神獣はその程度でやられる相手ではない」


 そう言った瞬間、ドラゴンの首が跳ね飛ばされた。切断された首の上にはアリアが立っていた。


「カイツに被害が行ったらどうすんだよ。このクソトカゲが」


 アリアがその場から降りようとすると、ドラゴンの腕が彼女を掴もうと襲い掛かってきたので、彼女はそこから即座に退避し、距離を取った。もう片方の腕が飛ばされた首を掴み、それを切断された部分にくっつけると、数秒で完治してしまった。


「流石はドラゴン。首を飛ばされた程度じゃ死なないか」

「グゴオオオオオオオ!」


 ドラゴンが再び息を吸い込み、炎を吐こうとすると。


「でもこれで終わり」


 彼女が指を鳴らすと、ドラゴンが炎を吐くのをやめ、苦しむように胸を抑える。


「グゴ!? ゴオオオオオ!」


 それだけでなく、ドラゴンの体が粒子のようにバラバラになっていく。


「生きた時間は約2000年か。とんでもない時間だけど、首を落とすほどのダメージを与えれば、それぐらいの過去は破壊できる。終わりだ」

「グゴアアアアア!?」


 ドラゴンの体は完全に消え去った。


「終わったよ」

「ふふ。とんでもない怪物じゃの。流石は神獣じゃ」

「まあ、この程度なら余裕でやれるよ。先を急ごう」

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