第134話 ヴァ―ユVSカイツ

 side カイツ


「まずは小手調べかな」


 彼が腕を突き出すと、壁にぶつかったかのような衝撃が襲い掛かり、大きくふっ飛ばされる。何とか体勢を立て直し、砂浜に着地した。


 なんだ。今の攻撃は。魔力とかでふっ飛ばしたわけでもなさそうだが。今まで喰らってきたどんな魔術とも何かが違う。


「考えてる暇はないな。六聖天・第2解放!」


 天使のような羽が2枚生える。両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。


「へえ。オリジナルの力をそこそこ使えるのか。はっはっはっは! 愉快愉快だな。ま、器なんだからそれぐらい出来ないと面白くないよな」

「行くぞ!」


 俺は砂浜を蹴り、一気に距離を詰める。


「剣舞・龍刃百華!」


 剣を一振りしようとすると、何かに刀がぶつかってしまった。


「なに!」

「そーれ!」


 奴が腕を突き出す前に、俺は一気に移動して背後に回り込む。


「その程度の動きは読めてるよ」


 攻撃しようとした瞬間、また見えない壁にふっ飛ばされてしまった。


「があ!? くそが」


 また体勢を立て直そうとしたが、その前に横からキラリとした何かが見えたかと思えば、また突き飛ばされてしまい、砂浜をゴロゴロと転がった。


「厄介だな。その吹っ飛ばす力」

「ふふふ。すげえだろ。愉快で笑える力なんだよなあ。はっはっはっは!」

「だが、何となく分かってきた」


 横にふっ飛ばされる直前、太陽の光のおかげか、ガラスのような何かが見えた。だがぶつかった感触はガラスよりも遥かに硬いものだ。恐らくこいつの魔術は。


「空気を固める魔術といったところか?」


 そう言うと、奴は少し驚いたような顔をした。


「はっはっはっは! こんな短時間で理解するとは恐れ入ったよ。流石は器になった男。ちょっと舐めすぎたかな」

「仕組みさえ分かれば!」


 俺は刀の切っ先を奴に向ける。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 周囲にいくつもの紅い球体が生まれ、一斉に奴に向かって飛んでいく。


「無駄だよ」


 奴に届く直前、見えない壁によって攻撃が防がれてしまった。だがその程度のことは想定内だ。指を動かすと、龍炎弾は壁を避けるようにして動き、奴に向かっていく。


「やるねえ。だが!」


 その攻撃も見えない壁によって防がれてしまった。だがこれも想定内。どうせ防がれることは目に見えていた。


「まだだ! 五月雨龍炎弾!」


 再び何十発もの龍炎弾を放ち、様々な方向から攻撃していく。様々な方向から攻撃していくが、その攻撃は壁に防がれて奴に届かない。


「はっはっはっは! やめておきなよ。そんなの無駄だからさ!」


 奴が何かを投げる様な動作をした瞬間、俺は嫌な予感がした。


「剣舞・龍封陣!」


 俺は刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。その直後、魔法陣に透明な槍が何本も刺さった。防いでなかったら死んでたな。


「お前。俺の壁の強度を確認してたな。残念だが、壁の限界を見せるつもりはねえぞ。そんな隙は与えねからな。はっはっはっは!」


 こっちの狙いは筒抜けだったようだ。あんなのでもヴァルキュリア家の実力者。そんな奴が馬鹿なわけないか。


「さてどうしたものか」


 第2解放の龍炎弾をいくらぶつけても、奴の壁が壊れる気配は無かった。壁だけでなく槍とかの武器も作り出せるとなると、かなり厄介だぞ。後手に回ればこっちが殺られる。先に仕掛けるしかない。


「六聖天 脚部集中」


 脚に六聖天の力を集中させ、先ほどとは比較にならないスピードで奴の後ろに回り込んだ。


「はや!?」

「剣舞・龍刃百華 凪!」


 奴が対応するよりも先に、奴の首を刀で攻撃する。だが、その攻撃は見えない空気の壁で防がれてしまった。


「く! またかよ」

「はっはっはっは! お前は馬鹿だなあ」


 奴がそう言った瞬間、目の前でなにかがきらりと光り、俺は咄嗟にその場を離れた。


「おっと。対応してきたな。流石に何回もぶっ飛ばしたら分かって来るよな」

「ま、あんだけ見せつけてくれたからな。にしても、首にある壁は特別頑丈なようだな」

「はっはっはっは! 当たり前だろ。首は生物にとって大切な部分だ。重点的に守るのは何もおかしいことじゃない」

「ごもっともな意見だこと」


 最悪だ。首を狙わなければ多少のダメージは期待できたかもしれないのに。奴に攻撃できる絶好の機会を失ってしまった。


「はっはっは。行くぞお!」


 奴が腕を上げて振り下ろす。俺が横に飛んだその直後、立っていたところに何かに貫かれたかのような穴がいくつも出来た。恐らく、空気を槍の形に固定して攻撃したものなのだろう。喰らったら確実に即死だな。


「このお。やってくれるな!」


 俺は周囲を動き回りながら奴を攪乱する。


「ノロいね。目を瞑ってても余裕だよ」

「そうかよ。ならこいつも余裕なのか?」


 俺はあちこち動き回りながら龍炎弾を放っていく。だが、その攻撃は見えない壁によって全て防がれていく。何をするにしても、あの壁を破壊しないとどうしようもないな。龍炎弾じゃあれを突破するのは難しい。なら。

 俺は砂浜を蹴り、一気に奴に接近しようとする。だが、間合いに入る直前で俺の動きがいきなり止められてしまった。


「が……これは」

「悪いね。もう少し遊びたいけど、あっちにも色々いるし、君とはここでおしまいだ」


 指1本も動かすことが出来ない。しかも、呼吸することも。このままじゃまずい。周りの空気を固定して俺の動きを封じているのか。


「剣舞・龍烙波動!」


 体にありったけの魔力を込め、それを灼熱の衝撃波にして放つ。その衝撃波で破壊できたが、体力を一気に持っていかれてしまった。


「はあはあ……くそ」

「疲れてるねえ。まあ無理もないよ。いきなり空気が吸い込めなくなったら、しんどくなるよね!」


 奴が腕を突き出すと、俺はまた見えない壁にふっ飛ばされてしまった。


「がは!?」


 その威力は先ほどまでとは比べ物にならず、遠くにふっ飛ばされ、受け身も取れずに転がっていく。


「があ! なんだ……この威力」


 ここが砂浜じゃなかったら、ダメージはこんなんじゃ済まなかったぞ。


「どうだい。俺の本気は?」

「お前。手加減してたのか」

「そりゃするよ。本気でやったら君即死しちゃうじゃん」

「この……舐めやがって」


 俺が立ち上がろうとすると、奴に踏みつけられ、動きを封じられる。


「馬鹿だなあ。アレスなんかに苦戦する程度の実力で、俺らとやりあえるわけないだろ。はっはっはっは!」

「くそがああ。剣舞・龍烙」

「させないよ」


 衝撃波を放とうとした瞬間、上から見えない壁が押しつぶすように襲い掛かってきた。その重さはあまりにも重く、砂浜に四角い痕が出来て、どんどん深くなっていく。まるで巨大な岩石の下敷きになってる気分だ。


「あが!? ぐ!」

「お前はここで終わりだ。ばいばーい」

「こんなところで……俺は……ごはっ!」


 口から血を吐いてしまい、このまま殺されるかと思った瞬間。


「ずいぶん楽しいことしてるね。私も混ぜてよ」


 ダレスの声が聞こえ、彼女がヴァ―ユに飛びまわし蹴りを喰らわせる。そのおかげか、おれを押しつぶそうとしていた壁が消え、立つことが出来るようになった。


「ぐ!? お前は」

「ふふふ。良い蹴りが入った!」


 彼女はその勢いのまま奴を蹴り飛ばしたが、何事も無かったかのように体勢を立て直して着地する。

 彼女の方をよく見ると、四肢の筋肉が少しばかり肥大化し、体中の血管が浮き出ている。一体何をしてあんなことになったんだ。


「ノーダメージか。これは驚いたね」

「カイツの仲間か」

「ご名答。ついでに言うと、仲間はまだいるよ」


 彼女が指を鳴らすと、空中から何本もの矢が雷を纏って降り注ぐ。しかし、その攻撃は見えない壁によって全て弾かれてしまった。


「ほお。ウルの攻撃を全て弾くとは。矮小なる者にしてはやるじゃないか」


 そう言いながらラルカが現れ、俺の前に立つ。


「大丈夫か。右腕」

「何とかな。それよりお前ら、どうしてここに」

「なんか派手にどったんばったんしてたから、気になって来てみたんだよ。にしても、こんな面白そうな奴との戦いを1人占めするなんて。カイツも人が悪いねえ」

「伝える余裕が無かったんだよ。かなりの化け物だからな。攻撃を当てるのも一苦労だった」

「確かに。見るだけで分かるよ。あいつはかなりの化け物だね。ペルセウスの時より楽しめそうだ」

「ペルセウス……ああお前か。あのナンパ野郎を倒した女ってのは。んで、角の生えた奴は、ヘラクレスの攻撃を受けとめた女だな。はっはっはっは! こりゃあ面白い。遊び甲斐がありそうな敵たちだ。全力で来な。俺と一緒に遊ぼうぜ」

「ふふ。面白い。君はとっても面白いよ! 全力で遊ぶから、覚悟しといてね!」


 彼女はそのまま走り出し、奴に向かっていった。

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