第135話 ヴァーユ討伐戦
カイツたちが戦ってる場所から離れた砂浜。ウルが家の屋根に立って弓を構えており、ニーアとクロノスがカイツたちの状況を見ていた。
「防がれたわ。まさか、あんなに頑丈な壁を作れるとは思わなかったわね」
「流石は六神王って言ったところですかね。カイツ様も危なそうですし、私も介入したほうが」
クロノスが動こうとすると、ニーアがそれを阻止した。
「待て。お前はまだ待機だ。騎士団とヴァルキュリア家の戦力差を比較するためにも、もう少し戦いを見ておきたい」
「良いんですか? カイツ様が傷ついてますよ。あなたとしては見てられないんじゃないですか? 早く助けに行ったほうが」
「そんなふうに甘やかしたら、兄様のためにならない。弱者が虐げられない世界を作る。その理想を叶えるためには、兄様はもっと強くなる必要がある。ここは心を鬼にして見守るさ。命が危なくなったら助けに行くがな」
「なるほど。まあ私も同じ意見なので、ここは見守るとしましょうか。あの犬っころの監視もしないといけませんからね」
そう言ってクロノスは家の中をちらりと見る。
クロノスたちが話してる中、ウルは次の手を考えていた。
(あれだけ頑丈な壁だと、破るのは難しいわね。ならば、奴が油断した隙を突いて矢をぶち込むしかない。そのために出来るのは待つこと。カイツたちが奴の隙を作ることを信じ、待つしかないわ。無闇矢鱈と撃っても意味ないでしょうしね)
ウルはそう考え、ヴァーユの隙を見逃さないように目を研ぎ澄ませ、カイツたちの戦いを観察する。
side カイツ
「魔石開放!」
ダレスの首にかけてる青い石が輝きを放ち、石から4個のガントレットが現れた。彼女は腕を4本に増やしてガントレットを装着し、奴に殴りかかろうとする。だが。
「そんな攻撃など」
攻撃が届く直前、空気の壁が攻撃を阻んだ。やはりあの壁を何とかしないと、奴にダメージを与えることは出来ない。
「あはははは! こいつは頑丈だね。ラッシュブレイクううう!」
ダレスは4本の腕で奴に高速で殴りかかっていく。しかし、どれほど攻撃を加えても、壁には傷ひとつすら付けることが出来なかった。
「無駄だ。その程度の威力で壊れるほど、この壁はヤワじゃない」
「ダレス! まずはその壁を壊さないとどうしようもないぞ!」
「了解。ならばこうだ!」
彼女は生えてた2本の腕を消し、足の膝の右横と左横に腕を生やした。
「インパクトブレイク!」
最大威力の蹴りを入れるも、空気の壁にヒビが入る程度で、破壊には至らなかった。
「無駄だって。この程度で壊れるほど弱くないっての」
「みたいだね。なら!」
彼女は一旦その場を離れて距離を取った。彼にはその理由がわからないようで、首を傾げている。
「こんな攻撃ならどうだ?」
どこからかメリナの声が聞こえた瞬間、上空から巨大な鉄の塊が落下し、奴を押しつぶした。塊が落下した衝撃で砂埃が舞い上がり、俺たちは目に入らないように腕で防ぐ。
「うおおお!? とんでもない攻撃だな。偉大なる我でもちびってしまいそうだぞ」
「ははは。お前がちびるってのは想像に容易いな。実際にあったら面白そうだ」
そんな軽口を叩きながら、メリナが歩いてこっちにやってきた。
「メリナ!」
「ようカイツ。まだ生きていたようで良かったよ」
「そりゃどうも。ウルたちはどうしたんだ?」
「ウルは向こうで狙撃準備。クロノスとニーアは見学してるらしい。なんでも、私達が六神王とどれだけ戦えるか見たいんだと。アリアは多分寝てる」
なるほど。それでウルたちは来てないのか。というかアリアはよく寝れるな。ダレスたちが駆けつけるくらいには派手な騒ぎらしいが、よっぽど睡眠が深いようだ。
「そうか。にしても、とんでもないことしてきたな。まさかあんな鉄の塊を落とすとは」
「海があるおかげで原材料には困らないからな。とびきりの一撃を加えてやった。魔力をゴッソリ持ってかれたが、あの攻撃ならあいつも」
「残念だが、現実はそう甘くないようだ」
「……何?」
「カイツの言うとおりだよ。ていうか、あれだけの化け物があんなので倒されるわけないじゃないか」
ダレスがそう言うと、鉄の塊に巨大な亀裂が入った。亀裂は徐々に大きくなっていき、やがて粉々に砕け散った。奴の背中には2対4枚の黒い翼が生えている。腕にヒビのような模様があり、赤い目が輝いている。
「全く。とんでもないことしてくれるなあ。だが連発するのは不可能と見た。仕組みもなんとなく分かったし、もう喰らうことはないな」
「言ってくれるな。確かに連発は無理だが、これぐらいのことなら出来るぞ!」
メリナが指を鳴らすと、海から何本ものナイフが出現して彼に襲い掛かる。しかし、それらは全て空気の壁で防がれていく。
「こんなの効かないよ。六神王舐めすぎだわ。あっはっはっはっは!」
完全に舐められてるな。だが現状、奴に有効な攻撃が無い。どうするべきか。
「なら、今度は我がやろう。右腕、最大火力の攻撃を準備しろ。我が隙を作ってやる」
「分かった。準備しておく」
「あっはっはっはっは! お前みたいなチビが俺の隙を作る? 寝言も大概にしておきなよ」
「寝言かどうかは、これを見て決めるが良い!」
ラルカがそう言うと、奴の足下の砂浜から何本もの鎖が飛び出した。その鎖は空気の壁を破壊し、彼の体を貫こうとする。
「おっと!?」
彼が即座に砂浜を蹴り、空中に飛び出した。
「馬鹿め。そんな風に避けることを予想出来ぬ我ではない」
彼女は袖口から何本もの鎖を出し、彼の体をぐるぐる巻きに縛り上げた。それに続くように、砂浜から飛び出した鎖も彼を縛る。
「この感じ。封魔の首輪と似たような性能か」
「魔術師であれば、この封魔の鎖に縛られた時点で終わりだ。降参するが良い。今ならば、寛大なる我が許してやるぞ」
「生憎だけど、王はこの程度の鎖じゃ縛れないんだよ!」
奴は体に力を込め、縛ってた鎖を引きちぎった。結構な数の鎖で縛られてたというのに、とんでもない腕力だ。
「ふん。その程度のことは予想できてたさ」
奴が縛られてる間に俺は奴の後ろまで飛んで接近していた。刀を2本に増やし、強い光を纏わせ、巨大な光の剣にしている。後ろからの奇襲。ここで勝負を決める。
(剣舞・神羅龍炎剣!)
奴の体を切り裂こうと振り抜く。しかし、その攻撃は空気の壁で防がれてしまい、ヒビを入れるまでしか出来なかった。
「なに!?」
空気の壁は先ほどよりも遥かに硬く、神羅龍炎剣でも破壊できると思えない強度だった。
「その程度の奇襲に俺が気づけないとでも? 言っただろ。舐めすぎだと」
奴が腕を振り下ろすと、上から見えない壁が押しつぶすように襲い掛かってきたので、その攻撃を刀で受け止める。その勢いはあまりにも凄まじく、砂浜に着地し、どんどん足元がめり込んでいった。
「ぐ!? このお。剣舞・龍烙波動!」
体にありったけの魔力を込め、それを灼熱の衝撃波にして放つ。しかし、その攻撃では壁は傷1つ付かなかった。
「そんなんで壊せるわけ無いだろ。はっはっはっは! ほーれ、隙だらけだぞお」
奴が何かを投げるような動作をしようとすると、ダレスが後ろから近づいていく。
「君も隙だらけだよ、ヴァーユ!」
「馬鹿か。後ろから攻撃するときは、気づかれないようこっそりやるもんだ」
彼女は右腕に2本の腕を生やし、全力で殴りかかろうとする。奴が指を鳴らすと、空気の壁が彼女の攻撃を防いだ。
「その程度じゃ壁は壊せねえよ」
「それはどうかな?」
彼女がそう言った瞬間、空気の壁が壊れ、彼の顔に攻撃を当てた。
「なっ!?」
奴は困惑したままふっ飛ばされていった。彼女の腕を見ると、俺は壁を壊せた理由に納得することが出来た。
なるほど。確かにあれなら破壊できるな。
そう思ってると、ヴァーユは嬉しそうに話す。
「はっはっはっはっは! やるじゃねえか。どうやって俺の壁を壊した?」
「自分で考えてみなよ!」
彼女は両足の膝横にそれぞれ1本の腕を生やし、一気に奴の背後に回り込んだ。
「そこだ! インパクトブレイク!」
彼女が片足のみに腕を2本生やし、蹴りを入れようとする。その攻撃は壁に一瞬だけ防がれるも、即座に破壊して向かっていく。しかし、その攻撃は奴が腕でガードして受け止めた。
「なるほど。鎖で俺の壁を壊してたのか。道理で威力がしょぼくても壊せるわけだ」
彼女の四肢には鎖が巻き付けられていた。あれは恐らく、ラルカの作った封魔の鎖というやつだろう。彼女は足を戻し、次の攻撃に出る。
「ラッシュブレイクうううう!」
腕を4本に増やして攻撃するも、奴はその攻撃を全て捌いていく。だがあれはチャンスだ。
「ダレス、避けろ!」
ラルカの言葉にダレスが距離を離す。その直後、何本もの鎖がドーム状に奴を包み込んだ。
「おや。ずいぶん面白い形状になってるな。一体どんなショーを見せてくれるのかな?」
「とっても素晴らしい殺人ショーだ。メリナ!」
「分かってる!」
メリナがそう言うと、またもや奴の頭上に鉄の塊が落下し、奴は押しつぶされた。一瞬しか見えなかったが、下の面に巨大な棘が無数にあったし、当たったら五体満足じゃ済まないだろう。
「うわ~。えっぐいの決まったねえ」
ダレスがそう言いながらこっちに近づいて来た。
「あーはっはっはっは! 封魔の鎖で奴を覆い、空気の壁を作れなくした。恐らくあの翼も封魔の鎖にはそこまで有効ではないはず。あの攻撃が当たれば奴もただでは済まないはず。これで我らの勝ちだ!」
「別に翼は鎖があっても問題ないが、確かに当たってたらやばかったかもな」
後ろを振り返ると、さっきまで鉄が落下した方にいたはずのヴァ―ユが立っていた。
「てめえ、なんでここにいる! さっき私の攻撃で」
「躱したからに決まってるだろ。あんなのに当たったら回復するのも大変そうだからな」
「馬鹿な。我の鎖をかいくぐって避けたというのか!? そんなことが出来るなんて」
「出来るに決まってんだろ。あんなしょぼい鎖で拘束されるほど、俺は弱くない」
「ははははは! 良いねえ。君も本気を出してきたってことなのかなあ。もっと力を見せてくれよ!」
ダレスが嬉しそうに笑いながら突っ込んでいき、攻撃しようとした瞬間。
「悪いけど、遊びはもう終わりだ」
奴が腕を振った瞬間、彼女の体に何かで斬られたような深い傷が入った。
「ダレス!? ヴァ―ユ!」
俺が一気に距離を詰めて背後に詰め寄るも。
「遅い。もう攻撃は終わってる」
奴がそう言った瞬間、空気の槍が俺の腹と肩を貫いた。
「が!?」
「そーれ」
奴が腕を振り下ろすと、頭上から降ってきた空気の壁が俺を押しつぶす。先ほどよりも遥かに威力が高く、今にも押しつぶされそうだった。
「ぐああ……このおお」
指1本すら動かすことが出来ない。これが奴の本当の力だというのか。
「貴様。我の右腕を離せ!」
ラルカが鎖を出して攻撃するも、奴はその場から一瞬で姿を消し、彼女の後ろに立つ。
「お前が一番邪魔だし、少しきつめにやっとくか」
奴が腕を振ると、彼女の両腕が斬り落とされた。
「が!? 我の腕を」
「ラルカ! この野郎おおお!」
「待て! メリナ!」
奴の元へ行こうにも、空気の壁のせいでまともに動くことが出来ない。このままじゃ。
「死ねえ!」
メリナがそう言うと、ヴァーユの足元から何本もの剣が飛び出してきた。しかし、奴は一瞬でその場から姿を消し、攻撃を躱した。
「どこに……!?」
彼女が奴を探そうとすると、背中から奴の手が彼女の体を貫いた。
やめろ。これ以上はやめてくれ。
「ヴァーユーー!」
「くそ……私が……こんなところで」
そう言って、メリナは倒れてしまった。俺のせいだ。俺が弱いせいで。皆を。
「はい。これでおしまい。後はあっちにいるイシスたちだけだな。じゃあな、カイツ。お前は仲間たちの死を眺めながらゆったりしててくれ。はっはっはっは!」
そう言って、奴はその場を去ろうとする。
ふざけるな。こんなところで終わってたまるか。俺にはまだやるべきことがあるんだ。こんな奴に負けるわけには行かないんだよ。
やるしかない。今ここで。
『やめろカイツ! お主、今度こそ死んでしまうぞ!』
「今やらなきゃどっちみち殺されるんだ。ならやるしかないだろ。俺の命を糧に、さらなる高みへと昇れ! 禁忌・第3開放!」
背中に3枚の翼が増え、刀は白く強い輝きを放つ。それだけでなく、手首まで広がったヒビのような模様は肘の部分まで広がり、目元にもそれが出現した。翼は3枚に増え、放たれた魔力の衝撃波により、俺を押し潰そうとしていた空気の壁は粉々に砕け散った。
すると、奴は興味深そうにこちらを見つめる。
「へえ。なんか面白そうな姿になったな。それがお前の本気というわけ――どびゃ!?」
奴がべらべらと話してる間に俺は一気に接近し、海の方めがけて蹴り飛ばした。奴は水切りをする石のように跳ねながら飛んでいく。
「はっはっはっは! 中々凄いパワーじゃないか。気に入ったぞ!」
奴は体勢を整え、海の上に手を付けて着地した。恐らく、海の上に空気の床を作って着地したのだろう。俺は砂浜を蹴り、一気に奴の元へ接近して斬りかかるも、その攻撃は奴に当たる直前で受け止められた。壁とは違う。薄くて鋭い何か。
「空気で作った剣か。ダレスを斬ったのはそれだな」
「はっはっはっは! ご名答だ!」
何度も切り結びながら攻撃の隙を伺うも、それを見つけることはできず、一旦距離を離した。その瞬間。
「ごふっ!?」
口から血を吐き、目や耳から血が流れてきた。それだけでなく、体中に激痛が走る。
「はっはっはっは! どうした? 体調悪そうだなあ」
「くそっ……体が」
『カイツ、もうやめろ! 今すぐ六聖天を解除するんじゃ!』
今解除する訳にはいかない。体がどうなろうと知ったことか。こいつを倒せるのなら。何だってやってやる
「魔力を吸い尽くして……それでも足りないなら……血の一滴まで使い果たして高まれ! 六聖天・第3開放!」
六聖天の力を使い、無理やり体を立たせる。第3解放まで使ってる影響か、体の傷が少しずつ治り始めてる。まだ体中が痛むが、戦うには問題ない。
「さあ。第2ラウンド開始だ。ここで決着をつける!」
「はっはっはっはっは! 面白い。イシスたちと戦うつもりだったけど気が変わった。まずはお前を徹底的に叩き潰す!」
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