第133話 最悪の襲撃
side カイツ
食料班が戻って来るのを待っていると、アリアが巨大な猪を抱え、皆が戻ってきた。
「おお。すごいでかいな」
「わお。ビッグボアじゃないか。場所によっては高級肉として扱われる奴だよ。まさかそんなのを採れるとは」
メリナが感心したように呟く中、アリアは巨大な猪を地面にゆっくり降ろした。
「カイツ。これだけ大きい肉なら、ここを乗り切れると思うよ!」
「そうだな。ありがとう、アリア」
そう言って頭を撫でると、彼女は嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせる。
「カイツ様。私も頑張りましたよ」
「兄様、私も頑張ったぞ。褒めてくれ」
そうしてると、クロノスとニーアも来たので、彼女たちの頭を撫でる。彼女たちは嬉しそうに顔を綻ばせるが、アリアはムスッとしていた。
「さて。家も出来たし、食料も手に入った。後は飲み水だけだな」
「それなら問題ありません。きっちりあります」
クロノスがそう言って指を鳴らすと、透明な1Lサイズの瓶いくつもが現れた。その中にはたっぷりの水が入っている。
「これは」
「ふふふ。水もちゃーんと補充してきました。抜かりなしです」
「ありがとうクロノス! おかげでなんとかなりそうだ」
皆のおかげで今日は快適に過ごすことが出来そうだ。最初はどうなるかと思ったが、皆が凄い力を持ってるおかげでなんとか乗り切れそうだ。
その夜。みんなでビッグボアの肉を食べ、メリナの魔術で用意した湯船で体を洗った。その際にアリアやニーア、ウルは覗いても良いと言われたが、俺はそれを無視して見ないように努めた。そして寝る時間になった頃、クロノスが頼み事をしてきた。
「さてカイツ様。そろそろ就寝の時間ですが、1つ頼みたいことがあります」
「なんだ?」
「私は抱きまくらがないと寝ることが出来ません。しかしここには抱きまくらがありません」
「それなら、メリナに作ってもらったらどうだ? あいつなら」
「残念だが、私は抱きまくらなんて作れねえぞ」
俺の言葉を遮り、メリナがそう言った。
「私が作れるのは鉄とか木材とか、そういう単純な物質だけだ。抱きまくらなんて高度なものは出来ない」
「ということなので、カイツ様を抱きまくらにしたいのですが、よろしいでしょうか?」
なるほど。俺を抱きまくら代わりにして寝たいというわけか。確かにその方が安眠できるかもしれないな。しかし
「良いのか? 俺は気にしないけど、異性と一緒に寝るというのは」
「気にしませんよ。それに、私はカイツ様にいつ襲われても良いよう、体を整えてますからね! ですのでご安心ください」
何に安心すれば良いというんだ。間違っても手を出さないよう気をつけよう。そういうのはあまりにも速すぎるし。
「カイツ。私も頼み事して良いか?」
「メリナもか。なんだ?」
「私も抱きまくらがないと寝れないから、カイツを抱きまくら代わりにさせてほしい」
それを聞くと、クロノスが少しばかりムッとした表情をしたが、その前にちょっと待とうか。お前は抱きまくらとかいらないってタイプだったはずだぞ。
「お前。ギルドにいたときは抱きまくら使わなかったよな?」
「……騎士団に入ってから無性に使いたくなってな。今では抱きまくらが無いと眠れねえ」
嘘を言ってるようにしか見えないんだが。まあどんな理由であれ、俺は一緒に寝るのは断る気はない。
「まあ良いぞ……と言いたいが」
クロノスの方をちらりと見る。俺自身は構わないが、彼女の意見も聞かないと駄目だろう。
「えっと。クロノスは、メリナが一緒でも大丈夫か?」
「構いませんよ。別に気にしませんから」
「大丈夫か? なんか瞼がピクピクしてる気がするが」
「問題ありませんよ。別に気にしませんから。一緒に寝るのは楽しいですし、今は喧嘩したくないですから」
クロノスは笑顔を浮かべているが、明らかに不機嫌そうだ。
「すまないメリナ。クロノスも嫌そうだし、今回は別の人と寝てくれないか?」
「……分かった。じゃあ諦めるよ」
メリナはそう言って一緒に寝るのを諦めてくれた。彼女には申し訳ないが、3人で寝たらクロノスが嫌がるだろうからな。仕方ない。
「では、寝ましょうか。カイツ様」
俺は一緒に用意された寝室に行って寝転がり、彼女は抱き着いて来た。
「ふふふ。カイツ様を抱き枕にして眠れるのは最高ですね。とっても心地良いです」
「そうか。それは良かった」
「カイツ様。さっきはありがとうございます。私のことを考えてメリナさんのお願いを断ってくれて。私嬉しかったです」
「まあ、お前が嫌がることはしたくなかったし、あのまま3人で寝たら、大変なことになりそうだからな」
「ふふ。カイツ様は優しいですね。ますます好きになってしまいそうです」
彼女は俺の頬を両手で包み込み、視線を合わせる。
「そんな貴方だからこそ、守りたくなるんですよねえ。本当ならヴァルキュリア家は全員私が殺したいですが、それは嫌なんですよね?」
「ああ。奴等との決着は俺がつけたい。過去と決別するためにも、テルネやネメイツの仇を討つためにも」
「かっこいいですね。そんなカイツ様も大好きですよ。カイツ様は私のこと好きですか?」
「ああ。大好きだよ」
彼女は仲間に対して冷たい所があるように思うが、なんだかんだでリナーテを助けてくれたし、タルタロスでもみんなを助けてくれたと聞く。根は優しい人なのだろう。彼女といるのはすごく楽しいし、やるべきことが終わったらゆったり暮らしたいと思ってる。
「ふふ。好きと言われるのは嬉しいですが、私とは価値観が違いますから、少し複雑ですね。ま、今はそれで良いんですけど」
「? どういうことだ」
「今は気にしなくて良いですよ。カイツ様はそのままで。私は変わりのないあなたが大好きですから」
彼女はそう言って俺の頬を撫でる。それが少し恥ずかしくて、視線を逸らしてしまう。
「ふふ。恥ずかしがるカイツ様も可愛いですね。惚れ直しちゃいます」
「やけに俺に好意を持ってるが、なんでだ? そんなきっかけがあったとは思えないんだが」
「簡単ですよ。強い人は好きになる。それだけのことです。あなたは近い将来、私やニーアの3倍以上は強くなります。そのポテンシャルに惚れ込んだ。それだけのことですよ」
俺がニーアたちの3倍以上強くなる未来が全く見えないんだが、彼女が言うのならそうなんだろう。多分。
「ではお休みなさいカイツ様。良い夢を」
「ああ。お休み」
朝。いつもより早く目が覚めてしまった俺は、クロノスを起こさないようにして起き上がり、砂浜を歩く。朝日が昇り始める頃の空は美しく、海がキラキラと輝いている。気温はちょうど良いくらいで、砂浜を踏みしめるこの感覚も気持ち良い。
「サバイバルになった時はどうなるかと思ったが、なんとかなって良かったよ」
「そうじゃのお。快適に過ごせそうで良かったわい」
ミカエルがそう言いながら実体化して出て来た。なぜか水着姿で。しかもあの時と同じ紐ビキニだ。
「その格好。他の人がいる前ではしない方が良いぞ。色々きわどいし」
「なんじゃ? 独占欲でもあるのか? 安心せい。妾はこの姿はお主以外には絶対見せぬよ」
「それならいいんだが」
歩いていると、彼女は俺の腕に抱き着いて来た。
「おい」
「くふふふ。他の奴とは違う反応じゃな。ウルとやらに抱き着かれてもこんな反応はせんじゃろ」
「……さあ。どうだかな」
「カイツ。お主にとって妾はなんじゃ?」
「大切な人だ。いつか一緒に暮らしたいと思っている」
「ウルやアリア、その他もろもろのお主の仲間は?」
「大切な人だよ」
「なら、その中で優先順位は付けられるか?」
「つけれるわけないだろ。皆大切だ。皆と幸せになりたい」
「ま、お主ならそう言うじゃろうと思ったよ。じゃが、その幸せのために頑張るのは大変じゃぞ」
「大変でもやるさ。それぐらいのことは出来ないと男が廃る」
「くふふふ。ほんと、お主は面白い男じゃ。そんなお主だから妾も愛してしまうんじゃよなあ。とんでもない浮気者で軽い男と知りながら」
彼女と歩いていると、嫌な気配を感じた。
「なんだ……この気配は」
「まずいのお。やばい奴が来たようじゃ」
彼女はすぐに紫色の玉になり、俺の服の中に入る。その直後、何かがものすごい勢いで着地し、砂煙と突風が舞う。
「ぐ!? 誰だよ。こんな派手に登場する馬鹿は」
「はっはっはっは! いやー、意外と時間かかったな」
砂煙の中から現れたのは1人の男。真ん中分けの黒い髪、真っ赤に染まった左目、草食系男子を思わせるような中性的な顔立ちだ。
「これぐらいの距離なら、2時間で着くと思ったが、意外と遠かったな。はっはっはっはっはっは! 初めましてだなカイツ。意外とイケメンで面白そうな見た目じゃないか。はっはっはっはっはっは!」
急に笑い出すところ、中性的な顔。こいつはおそらく。
「お前。六神王のヴァーユだな!」
「ほお。俺のことを知ってるか。イシスから聞いたな」
「なんでてめえがこんなところに来てんだ。何が狙いだ」
「何。ヴァルハラ騎士団が来るというんで、暇つぶしがてらに来たのさ」
待て待て待て。なんで俺たちがいることが筒抜けになってるんだ。まさかロキ支部長が情報を流したのか。だとしたらなんで。そもそもどうやってヴァルキュリア家と繋がりを。
『カイツ。まずはあやつをどうにかせねばならんぞ』
「! そうだな。まずはあいつをどうにかしないと」
「はっはっはっは。まずはお前と遊ぶとしようか。楽しませてくれよ!」
ニーアたちに伝える余裕はない。こいつは俺1人で叩き潰す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます