第132話 サバイバル

 まずは寝床の建築、食料と飲み水の確保。この2つをやるため、班を2つに分けた。


 寝床建築班

 メリナ、ダレス、ラルカ、カイツ


 食料、飲み水確保班

 アリア、クロノス、ウル、ニーア


 食料班が少し不安だが、まずいことにはならないと思う。多分。アリアが少し怪しいところがあるが、ちゃんと働いてくれることだろう。俺は彼女たちを信じ、寝床の建築を行うことにした。とりあえず木の伐採に行こうとすると。


「カイツ。ちょっとこっちに来てくれ」


 メリナが呼んできたので、俺は彼女の元へ行く。彼女は靴と靴下を脱いで、浅瀬に立っていた。


「どうした?」

「製品のテストついでに試したいことがある。とりあえずこの棒を持ってくれ」


 そう言って彼女は短い棒を取り出した。その棒はメリナの持ってる部分が赤色でBの白文字が付いている。俺の持つ部分が青色になっており、Dの白文字が付いていた。


「なんだこれ?」

「騎士団本部が開発した新製品。マジックアダプターだ。これを使うと、他者の魔力を供給してもらえるらしい。私はこいつのテストプレイを頼まれててな。やりたいことがあるから使ってみたいんだ」

「やりたいことって、何をするんだ?」

「海水を錬金して家を作る。けど私の魔力だけじゃ足りないから、カイツに協力してほしいんだ」

「なるほど。それは面白そうだな」


 上手く行けば大幅な時間短縮になるし、やってみる価値はありそうだ。俺が棒を握ると、棒が光りだした。それと同時に、魔力が体から吸い取られていくのが実感できた。


「くっ。他人の魔力が入ってくるのは、変な感じだな。まるで、知らない誰かが私の中に入り込んでくるような」

「メリナ、大丈夫か? 辛いならすぐにやめるが」

「大丈夫。この程度でへばるほどやわじゃない。行くぞ。錬成フォージング!」


 彼女がそう言うと、海の水が意思を持ったかのように動き出していく。それと同時に、吸い取られる魔力量が一気に増加した。かなりの魔力が供給されてるが、メリナは大丈夫なのだろうか。


「くっ……魔力は足りてるが、これをコントロールするのは大変だな。うおおおおお!」


 海水は何百本もの木材へと変化していき、それらが壁になって積み上がっていく。


「おお、凄い! どんどん木材が建てられていくねえ」

「私は建築の知識とか無いから大雑把にやるけど、文句言うなよ!」


 彼女は更に海水を木材へと変えていき、床や壁を作っていく。ほんの数分も経つ頃には、木で出来た箱型の家が建てられていた。


「終わった……はあ……はあ。疲れたあ」


 俺が棒を離すと、彼女はふらりと倒れそうになったのでそれを支えた。


「お疲れ。こんなに立派な家を作れるなんて凄いな」

「カイツのおかげだよ……魔力コントロールがむずくて疲れたあ。ハーブウッドの木材だから、リラクゼーション効果は完璧だ」


 ハーブウッド。確か、触れてるだけで疲れがみるみる無くなっていくという木だったな。滅多に見ることの出来ないあの木がこんなにもあるってのは凄い光景だ。

 彼女のおかげで素晴らしい家が完成したし、これなら夜も快適に過ごすことが出来そうだ。


「なんと。右腕の力を借りたとはいえ、こんな立派なものが出来上がるとは。この美しき香り。偉大なる我に相応しき香りだ」

「おお。触るだけで元気になるってのはほんとみたいだねえ。体がギンギンにみなぎってくる感じがするよ。メリナー、最高の家をありがとうねー!」


 ダレスやラルカたちも満足してるようだ。あとは食料調達だが、ウルたちなら心配いらないだろう。






 食料、飲み水確保班は現在、森の中で食料になりそうな獣を探していた。誰も一言も発することなく、静かに行動している。全員の距離も微妙に離れており、とても仲良く行動しているようには見えなかった。そんな中ウルは。


(空気が重い! 辛い! なにこの状況!?)


 クロノス、ニーア、アリアといるこの状況に体が悲鳴をあげていた。周囲の空気は異常なほどに重くて殺気立っており、これから殺し合いでも始まるかのような恐ろしい雰囲気と圧があった。


(カイツのばかあ。なんでこんなチームにしたのよ。どうせならカイツが私の代わりにこっちになってほしかったわ)


 彼女はそう思いながら獲物を探していた。そんな中、ニーアが話しかける。


「そういえばサキュバス女。お前に聞きたいことがあった」

「何かしら? あとサキュバス女はやめて。せめてウルって呼んで」

「お前はなんで兄様に近付くんだ? 快楽のためか? それとも進化するためか? もしそうだとしたらなぜ兄様にこだわるんだ?」

「進化のためでも、性のためでもないわよ。純粋にカイツのことが好きだから近づくのよ。彼は私を何度も助けてくれた。優しくて強くて。けど少し危なっかしくて。そんなところが好きになったのよ。こんな理由で良かったかしら?」

「……ああ。かなり満足した。お前がそこまで危険人物ではないと理解も出来たしな」


 そう言ってニーアが笑ったのを見て、ウルは少し驚いた。


「! あなた……カイツと一緒にいないときも笑うのね」

「兄様がいないときでも笑うことはあるさ。私のことをなんだと思ってるんだ」

「えっと……カイツ以外のことに興味ない冷徹女?」

「その言葉は神獣やツインテ女の方がふさわしいな。私は他人に興味が無いわけではない。ただ、兄様のためなら非情なこともする。それだけのことだ」


 その言葉を聞き、ウルは内心で驚愕していた。


(意外だわ。彼女もクロノスと似たような感じだと思ってたけど、あいつよりは他人に情があるのね。やばい人には変わり無さそうだけど、まだ話せるほうなのかも。それにしても)


 彼女はアリアの方を見る。


(彼女はずいぶんと変わったわね。離反する前は極度の人見知りって感じだったけど、今は氷のように冷たく、カイツに対する思いは炎よりも熱く、私たちを焼き尽くそうとする。こんなにも変わるとは思わなかったわ)

「アリア。あなたの目的は何なのかしら? 騎士団を裏切ったかと思えば戻ってきて。カイツにいつもひっついて私たちを睨んで。あなたは何がしたいの?」

「私の目的は寄生体のネメシスやミカエルを殺してカイツと一緒に暮らす。そのためなら私はなんでもやるよ」

「ネメシスはまだしも、ミカエルを殺したらカイツは悲しむわよ」

「大丈夫。ちゃんと事故死に見えるようにする予定だし、私が彼を支えるから」

「怖いこと言うわね。ところで、あなたが殺す標的はネメシスとミカエルだけ? それともまだいるのかしら?」

「もちろんいるに決まってるじゃん。ここにいる女と、あっちにいる鎖女や水女。その他もろもろ。全員近いうちに殺すよ。カイツには私だけがいれば良い。あんたらは邪魔だから」


 イカれてる。ウルはアリアのその言葉を聞いて真っ先に思ったのはそれだった。自分のために他者のことなど省みず、自分が邪魔だと思った者は全員殺す。彼女はアリアが恐ろしき怪物のように見えた。


「ずいぶんと恐ろしい本性ね。殺される前に殺した方が良いかしら?」

「かもね。まあ安心しなよ。あんたらはまだ殺さない。今殺すのは時期が早すぎるからね。もっと良い時期に殺さないと、面倒ごとを背負うことになっちゃうから」


(何に安心しろと言うのよ。怖すぎでしょ)

「……クロノスも、アリアと似たような考えなのかしら? 邪魔者は全員殺す。そんな危ない思想?」

「生憎、私はそこまでイカれてません。カイツ様が好きな人を殺すなんて物騒なことはしませんよ。相手が殺しに来るならそれ相応の対応はしますが。私はあなたたちのことなんてどうでも良いですから」


 この言葉を本気で言ってるのだということを、ウルはよく理解していた。


(こっちもこっちでイカれてるわよね。彼女は他人に興味を持たず、助けることは滅多にない。仮にあったとしてもそれはカイツが関係してるから。それだけのこと。アリアよりはマシだけど、十分に危険人物なのよね。元敵だったニーアが一番安全そうって、うちの支部どうなってるのよ)


 彼女がノース支部の危なさに絶望していると、足音が聞こえて来た。それは巨大な動物が走ってくるような音で、自分たちの方に近付いてくることが分かった。そこで戦う準備をしていると、1匹の巨大な猪が現れた。大きさは3メートル近く。赤い体毛に頭に槍のような角が生えており、目が血走っている。


「お。ビッグボアじゃないか。ヴァルキュリア家にいたときによく食べたなあ。肉が柔らかくて美味いんだ」

「カイツ様に捧げるものとしてふさわしい獲物です。肉を出来る限り残して殺しましょう」

「匂いからして美味しそう。早く殺してカイツと食べたい」

「色々不安が残るけど、やるしかないわね。あっちにいる皆のためにも」


 ビッグボアが突進すると、彼女たちは散開してそれを躱し、攻撃態勢に移った。その後は一瞬で殺し、彼女たちは巨大な食料をゲットすることに成功したのだった。

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