第123話 全てが終わった日
俺は目の前の状況が恐ろしく見えた。ネメシスは背中から紅い翼を出してるが、それは俺やテルネ、プロメテウスのような黒い翼とは何かが違うということがなんとなく理解できた。この世のものでないような不気味さと異質さ。それを出現させてる彼女の見たことのない表情。
「なんだよ……あれ」
「理解不能。あれは私たちの持つ力とは何かが違う。それにこの感じ。疑問噴出。何がどうなってるのでしょう」
プロメテウスと彼女は互いににらみ合い、一触即発という状況だった。
「あなたですか。この妙な感覚を生み出したのは。なにをしたんですか?」
「さあ。私は何をしたのかしらね」
「……まあ良いでしょう。さっさと叩き潰します」
彼が手を突き出すも、何も起きなかった。
「? これは」
「どうしたの? はやくあなたの力を使いなさいよ」
「言われなくても!」
彼はもう1度手を突き出すも、またしてもなにも起こらなかった。
「……なるほど。そういうものですか」
「理解できたみたいね。お利口さんな人は好きよ!」
彼女が紅い翼を刃のような形に変えて彼に放つ。彼はその攻撃を躱して距離を取った。
「ちっ。なんですかこの力は」
「逃げるのが得意なのね。でもこれなら!」
彼女は刃を6つに分裂させて斬りかかる。その速度は目で追うことすら出来ず、俺の目には何が起こってるのか理解することすら出来なかった。しかし、プロメテウスはその速度をしっかりと把握できてるようで、全て躱していき、傷1つついていない。奴の方も凄いが、ネメシスはもっと凄い。
「あいつ……あんなに強かったのか」
「驚愕。まさかあそこまでの実力を持ってるとは思いませんでした。どうやってあれほどの力を……!」
テルネが驚いてると、彼女の背中から黒い翼が再び現れた。
「これは」
「テルネの力が戻ってる……じゃああいつも!」
奴も力が戻ったのを理解したようで、手をぐっぱーさせている。
「やっと戻りましたか。これで!」
彼が指を鳴らすと、床から何本もの巨大な蔓が現れ、ネメシスの翼を壊し、そのまま彼女に襲い掛かってきた。
「やるじゃない。でも」
彼女が何かを斬るように腕を振ると、襲い掛かってきた蔓が突然、何もなかったかのように消滅した。
「また! さっきと同じ力か」
「いえ。私の力は消えてません」
テルネの方を見ると、確かに彼女の翼は消えていなかった。
「なら、一体何を。そもそもあの力はなんなんだ」
わけもわからず、立つ力すら残ってない俺は、戦いを見ることしか出来なかった。
「なるほど。消滅……というよりはルールの書き換えでしょうか。己の消したいものを消すことが出来る魔術。一定時間経つと元に戻るようですが」
「流石はヴァルキュリア家。ご明察よ。私の魔術は
「しかし、それを私に使わないということは、なんらかの使えない理由があると見ました。どういう仕組みか知りませんが、口で言うほど思い通りに出来るわけではなさそうですね」
「どうかしらね。もしかしたら、舐めプしてるだけかもしれないわよ?」
「なるほど。その可能性もあるかもしれませんね」
再びにらみ合う状況が始まるかと思うと。
「も~。めちゃくちゃふっ飛ばされたぽよ」
ぶっ飛ばした穴の方からスティクスが現れた。ダメージをほとんど与えられてなかったようで、ぴんぴんしている。
「プロメテウス! しかもネメシスも。てかその紅い翼なにぽよ!?
「……スティクス。この研究所を放棄しますよ」
「は!? なに言ってるぽよ! データはどうするぽよ! ていうかそんなことしたらボスがカンカンに怒るぽよ!」
「データは既に本家に送っています。それに、これ以上ここにいても利益はありません。あの女と戦うのは面倒ですしね」
「えー。そんな理由でここ放棄しても大丈夫ぽよ? 怒られても知らないぽよよ?」
「問題ありませんよ。ボスも分かってくれますから。行きますよ」
「はーいはい」
スティクスが紫色の石を取り出して床に投げると、魔法陣が出現した。
「待て……てめえらは……逃がさねえぞ」
「待機。カイツは安静にして」
「うるせえ。奴を殺さねえことには」
「カイツ・ケラウノス。あなたは優秀な素体と思ってましたが、それは思い違いだったようです。反逆してくるカスなどいりません。次に会う時は、徹底的に叩き潰してあげますよ」
彼らはその言葉を最後に、その姿を消した。結局、俺は奴らに大したダメージを与えることも出来ずにこのざまか。
「くそ。結局俺は何も」
「カイツ」
落ち込む俺を、テルネが撫でてなぐさめてくれた。
「大丈夫? カイツ」
そんな中、ネメシスが近寄って俺を撫でてくれた。
「まさかこんなことするとは思わなかったわ。びっくりしたわ」
「だが、結果はこれだ。大したことも出来ず、お前に助けられる始末だ。みんなを救うと決意して起こした行動がこれじゃ情けねえよ」
「そんなことないわ。ちょっと先行き過ぎた部分はあるけど、私たちのためにここまでしてくれて、本当にありがとう」
彼女はそう言って頭を撫でてくれた。完全に失敗だったが、こうして彼女が喜んでくれるなら、やって良かったと思える。テルネはなぜか不機嫌そうにしてたが、追及できるほどの余裕と元気は無かった。そうしていると、ネメイツがやってきた。
「パパ、大丈夫?」
彼女は一気に走ってきて、俺に抱き着いてきた。
「馬鹿! パパの大馬鹿! ネメシスから殴り込みしたことを聞いた時、すっっっっごく怖くなったんだからあ!」
彼女の声が涙ぐんでおり、目元が真っ赤に腫れている。
「ごめん」
「次からは絶対にこんなことしないで 次したら絶交だからあ!」
彼女は泣きじゃくりながら叫び、俺は彼女を抱きかかえて頭を撫でる。良かれと思って行動したけど、それはだめなことだったようだ。
「あいつら殺すなら私も手伝うから! 1人で行動しないで! パパがいなくなるのは嫌なの!」
「そうだな。次殴り込みする時は、お前のことも頼りにするよ」
「発言。私も手伝う。次こそ奴らを殺す」
「そうだな。次にやる時は、みんなで行こう」
「パパ! 今から部屋に戻って遊ぼう! ぱぱとやりたい遊びが沢山あるんだから! 今日はずっと付き合ってもらうからね!」
「ああ。今日は1日一緒だ」
「やったあ! 遊ぼ遊ぼう!」
彼女が嬉しそうに飛び跳ねながら扉の方まで向かっていく。彼女を悲しませたお詫びだ。今日1日は言う通りに動くとしよう。そう考えて扉の方へ向かおうとした瞬間。
「残念だけど、楽しいお遊戯会はもう終わりよ」
ネメイツの足下から紅い翼が刃のような形となって飛び出し、彼女の体をバラバラに斬り落とした。
「……え」
「これは」
見間違うはずのない紅い翼。後ろを見ると、ネメシスが狂気的な笑みを浮かべていた。
「ふふ。これで2人目」
「ネメシス……これは」
「質問! 何をしてるんですか!」
テルネが怒りながら黒い翼を出し、ネメシスにその矛を向けるも。
「邪魔」
彼女が何かを斬るように、手を手刀の形にして振ると、翼が一瞬にして消えてしまった。
「あなたもここで死んで」
ネメシスの背中から飛び出した2枚の翼が、テルネの体を貫いた。
「がはっ」
「テルネ!」
「逃走……逃げて……カイツ」
その言葉を最後に、彼女の首が斬り落とされた。あまりにも衝撃的で、理解不能な出来事。俺はどうすることも出来ず、ただ立ち尽くすしか無かった。血によって全てが真っ赤に染まった地獄のような景色。
「なんで……こんな」
「あなたのせいよ。カイツ」
そう言ってネメシスが刀を俺の首に突き立てる。
「俺の? どういうことだよ」
「あなたがあっちこっちフラフラするから、私はこんな手段を取らざるを得なかったの」
「なんだよそれ……意味わかんねえよ」
「はじめはね。ニーアと3人で。あるいはもっと増えた人数で楽しく穏やかに過ごすのも良いと思ってたの。けど、あなたが助けてくれたあの日、私はあなたに恋してしまった。あなたを1人占めしたいと思ったけど、それはできなかった。ライバルがいたというのもあるけど、それ以上にあなたがフラフラしてるから」
「? なんの話だよ」
「意識してるのか無意識なのか知らないけど、あなたは愛を求めてる。人のぬくもりを、愛情を。だからあなたは人とのつながりを求め、色んな人を愛そうとする。色んな人と結婚しようとする尻軽さがその証拠。ふふふ、今思い返すと面白いわよね。誰でも結婚するだの愛してるだの。でもね、私はそれが我慢できなかった。だからこうするしか無かったのよ。長々と話したけど、これで理解できた?」
「理解できるわけないだろ。お前は何を言ってるんだよ!」
俺は感情のままに黒い翼を出現させて攻撃しようとするも。
「だから邪魔だって」
彼女が腕を振ると、なぜか俺の翼が消えてしまった。
「さて。そろそろやりましょうか」
彼女が紅い翼で俺の体を貫いた。
「がっ……ネメシス……なんで」
「ふふふ。これで、私とあなたは永遠に1つ。ずっとずっと一緒よ。この時をどれほど待ちわびた……?」
彼女が急に話すのを止めると、俺の体に黒い魔法陣が現れた。
「なんだ……これ」
「ああ。やっぱりこうなっちゃうか。対策はしたつもりだったのに。まあ良いわ。今更こんなのが発動しても何も変わらないし」
「あが……なんだ……この感覚」
体の中から何かがはじけ飛びそうな痛みに襲われ、それと同時に体の中に異物が入ってくるような気味悪い感覚。わけの分からないものに立て続けに襲われ、俺の意識が飛びそうになっていた。
「俺……は……みんな……救うんだ」
「残念だけどカイツ。あなたはもう誰も救えない。あなたが誰かを救おうとするたびに、私がそいつを殺すからね。カイツを愛する人は私だけで良い。これからはずっと私が傍にいてあげるわ。大好きよ。カイツ」
「ネメシス……なんで……こんなことを」
「じっくり教えてあげるわ。私とあなたが1つになったらね」
彼女が俺の顔を両手で抑えて近づく中、魔法陣が強い輝きを放ち、俺とネメシスはその光に飲みこまれ、意識が消えてしまった。
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