第122話 研究室襲撃
俺はテルネと共に研究室の扉の前に立った。扉の先からは研究者やプロメテウス、スティクスの話し声が聞こえている。プロメテウスたちがまだここでダラダラしてるのは幸運だった。おかげで探す手間が省けた。
「いやー、プロメテウス様たちが来てくれたおかげで、実験がぐんぐん進んでますよ。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらも優秀な素体の面倒を見ることが出来て助かりますよ」
「ぽよぽよ~。プロメテウス、このお肉とっても美味しいぽよよ~。食べてみると良いぽよ」
いかにも宴を開いてると言った感じだ。奴らは間違いなく油断してるはずだ。そこを突く。
「テルネ。合図をしたら、この扉を翼で破壊してくれ。その直後に俺が奴らを殺す」
「理解。分かりました」
彼女と俺は黒い翼を出現させ、攻撃の準備をする。
「いまだ!」
「了解!」
俺の合図と共に、彼女は自分の翼を扉にぶつけた。
部屋の中。プロメテウスたちは研究者たちとともにお酒や軽い食事でパーティーのようなことをして楽しんでいた。その部屋は血が飛び散ったりミンチになった原型も分からない死体があったりと中々に酷い有様だが、そんなことを気にするまともな人間はここに存在しない。
「いやー。プロメテウス様の飲みっぷりは素晴らしいですね。そんなに飲んでるのにいまだにピンピンしてますからね」
「まあ、この程度の度数のお酒なら、いくら飲んでも問題ありませんからね。スティクスの方は」
「ひゃっほーい! 楽しいぽよ~」
スティクスの方は完全に出来上がっており、顔が真っ赤になっていた。
「全く。完全に酔ってますね」
「まあまあ良いじゃないですか。たまにはあんな風に酔っても問題ありませんよ」
そう言って彼がコップに入ったお酒を飲もうとすると、突然それを止めた。
「ほお。これはまた面白い」
「へ? 何か言いましたか?」
研究者がそう質問した瞬間、2枚の黒い翼が扉をぶち破って襲い掛かってきた。
「ひいい!? なんだこ」
研究者は最後まで言葉を続けることも出来ず、その翼に飲みこまれ、体をズタズタに引き裂かれた。プロメテウスはその攻撃を跳んで躱し、後ろに下がった。
「て、敵襲だああ! てきしゅ」
周りの研究者が警報ボタンを押そうとするも、新たに現れた2枚の黒い翼が彼らの顔を抉り飛ばした。残ったのは、プロメテウスとスティクスの2人のみとなった。
「動きが素早いですね。ずいぶんと手際が良い。スティクス、寝ぼけてると死んでしまいますよ」
「ぽよ~? 一体なんなんだぽ」
スティクスは酔った状態で状況を確認しようとすると、その黒い翼に壁を越えて突き飛ばされ、遠くに吹っ飛んでしまった。
「あらら。手遅れでしたか」
その直後、カイツが扉から飛び出し、プロメテウスの元へ接近する。
「死ねえええ!」
彼がナイフで突き刺そうとしたが、プロメテウスはその攻撃を指でつまんで受けとめた。
「こんな攻撃など」
「まだ終わりじゃない!」
彼はナイフを手放して距離を取り、翼で攻撃してくる。
「素晴らしい攻撃ですね。ですが」
翼の攻撃は、突然生えて来た巨大な蔓によって防がれてしまった。
「この程度では私は殺せませんよ」
「なら、この程度の攻撃はどうだ?」
彼がそう言った直後、後ろに忍び寄っていたテルネはが翼で攻撃してくる。しかし、その攻撃は読まれていたようで、床から生えて来た蔓によって防がれてしまった。
「チッ。この攻撃でも傷1つ付かないのかよ」
「驚愕。まさかここまで強いとは」
「あなたたちの行動は素晴らしい物でした。相手に反撃をさせないように速攻で潰そうとする姿勢。感嘆しましたよ。しかし、あなたがたは私を舐めすぎなんですよ」
そう言うと、彼は一瞬で姿を消し、カイツの後ろに現れた。
「は?」
カイツが攻撃しようとした瞬間、彼に顔を殴られ、壁に叩きつけられた。
「が!?」
「カイツ!」
彼女はすぐさまカイツに駈け寄り、その体を抱える。
「状態確認。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……げほ……ただ、ここまでの強さとは予想外だった」
「私はヴァルキュリア家の1人にして神の名を与えられたもの、プロメテウス。そんじょそこらの雑魚とは次元が違います」
「だったら……もっと強くなればいいだけだ」
彼は彼女から何本もの薬を受け取った。
「おや。いつのまにかに盗まれてましたか。これは驚きです」
「初めから今の状態でお前に追い付くとは思ってなかった。だから、この薬が必要だったんだよ!」
彼は薬を取り、蓋を開けて中身を飲みこんだ。
「ぐう!? まだだ……まだこれじゃ」
彼は続けざまに薬を3本、中身を全て飲みこんだ。
「がああ!? これで……ぎぐ……うおおおおおおおおお!」
彼の身体中にヒビのような模様が入り、2対4枚の黒い翼が出現する。それはあまりにも歪で不気味な形をしており、天使というよりは悪魔を思わせるような翼だった。
「ぎげwひqdがあ……殺xがnびえど……るどぅあああああ!」
彼は消えそうな理性や意思をなんとか堪えながら、プロメテウスに向かって翼で攻撃してくる。その攻撃は先ほどとは比べ物にならないほどに速く、威力強大なものだった。
「ほお。これは素晴らしい」
巨大な蔓を出現させて攻撃を防ごうとするも、それは即座に突き破られ、プロメテウスが翼に飲みこまれた。
「消えろおおお!」
カイツは全身全霊を込め、翼の攻撃に全ての力を込める。その力は床を抉り、壁をいくつも突き破って進んでいった。
「はあ……はあ……これで流石に……ぐ!?」
「カイツ!」
疲労感で翼が消え、彼が倒れそうになるも、彼女が支えてくれたおかげで事なきを得た。辺りに土煙が舞い、視界が非常に悪くなっている。
「これだけの一撃……さすがのあいつでも」
倒したはず、彼はそう信じていたが。
「いやー。驚きましたよ。薬を使ったとはいえ、ここまでパワーアップするとは思いませんでした」
突然聞こえた声に、カイツたちは驚きを隠せなかった。土煙が晴れると、プロメテウスは2対4枚の黒い翼を出現させており、何事も無かったかのように姿を現した。 その翼は形が綺麗で、色が白ならば天使の翼と思えるようなものだった。
「初めてですよ。あなたのような子供相手に、この翼を披露したのは」
「くそが……化け物かよ」
「驚愕……いえ。絶望ですね。ここまで実力差が開いていたなんて」
元の実力で勝てると思うほど、カイツたちも馬鹿ではなかった。しかし、彼らはプロメテウスたちの実力を完全に見誤っていた。
その実力差は薬を打ち込んだり、戦術を立てた程度で縮まるようなものではなく、どれだけ策を弄しても、どれだけ薬でパワーアップしても絶対に勝てないということを本能で理解させられた。
「さてと。あなたたちの策は面白かったですが、我らに逆らった罰を与えないといけませんね」
プロメテウスの背中から生えている黒い翼が大きく広がり、巨大な刃へと形を変えていく。
「どれだけ優秀でも、我らに逆らう者など必要ありません。データも取れましたし、ここで死んでもらいましょう」
その言葉と同時に、黒い翼が振り下ろされた。
「くそ……ここまでなのか!?」
「絶対守護。カイツだけでも!」
カイツが絶望し、テルネが身を挺してかばおうとした瞬間。
「ふふふ。少しはめそめそすると思ったのに。まさかこんなことになるとは思わなかったわ」
襲い掛かってきた巨大な翼が一瞬にして消え去った。
「!? これは」
「! なんだ……これ」
「理解不能……なんですかこれ」
誰もがその光景に驚きを隠せなかった。異常事態だったのはプロメテウスの翼が消えただけではない。いつの間にかテルネの翼も消え去っていたのだ。
それと同時に、彼らは体になんらかの違和感があるのを感じた。当たり前にあったものが欠けてしまったような感覚。しかし、それが何なのかはまだ分からなかった。
「あなたの仕業ですか。ネメシス」
プロメテウスは後ろにいたネメシスの方を見る。
「ふふふ。予想外の展開だったけど、まあいいわ。やるべきことが少し早くなっただけだから……やっぱり、こうするのが一番速かったのよね。分かっていたことなのに、ダラダラと無駄な時間を過ごしすぎたわ」
ネメシスは2対4枚の紅い翼を出現させ、狂気的な笑みを浮かべて立っていた。
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