第113話 禁じられし力

 side カイツ


 第3解放の発動。それと同時に全身に激痛が走る。まるで骨が砕け、肉が引き裂けるような痛みーいや、実際に砕けてる感覚があるし、引き裂かれているーに襲われた。背中に3枚の翼が増え、刀は白く強い輝きを放つ。それだけでなく、手首まで広がったヒビのような模様は肘の部分まで広がり、目元にもそれが出現した。


「ぎあ!? ぐげがああああああ!」


 奴は俺の危険性を感じ取ったのか、水の刃をその手に握って切り裂こうとするが、その攻撃を俺は素手で受け止めた。


「ぎぐ!? ぎりああああ!」


 奴は水の刃を消し、咄嗟に距離を取って離れようとする。俺はそれよりも速く接近し、奴の傍を通り過ぎた。


「ぎべあ?」


 奴は通り過ぎる俺に違和感を感じたのか、こちらを振り返る。だがその行動は間違いだ。


「ぎぎがああ!?」


 俺は既に2発の斬撃を与えていたのだから。奴の首は離れ、体も真っ二つに切り裂かれた。ラルカやメリナは唖然としており、ダレスは満面の笑みを浮かべていた。


「ラルカ。あの力」

「ああ。さっきまでとは次元が違う。アレスよりもはるかに格上の力。右腕がここまでのものを持っているとは」


 奴の体は真っ二つにしたし、首も離した。普通ならとっくに死んでてもおかしくないはずだが。


「ぎぎぐえ。げでぃいいいいいいああああ!」


 奴はそれで終わることなく、体を再生させ、水で首を繋げてそのままくっつけた。ここまでくると化け物だな。ヴァルキュリア家の奴らよりよっぽど恐ろしい。


「ぎげがあああああ!」


 奴が叫びながら腕を交差させると、俺の頭上に巨大な水の塊が出てきた。まともに喰らえば、俺の体はぺしゃんこになるだろう。


「ぐがあああああ!」


 奴が腕を振り下ろすと、水の塊が落下してくる。


「逃げろ右腕! 死んでしまうぞ!」


 ラルカは慌てながら大声で叫ぶが、俺は落ち着いて刀を鞘に納める。


「剣舞・紅龍一閃!」


 上空に居合切りを放つと、巨大な水の塊は真っ二つに割れた。


「げああ!? ぎぐがああああああ!」


 奴は水の塊を斬られたことに怒り狂って両手を上げる。そうすると、俺の周囲の地面から大量の水が噴き出してきた。それは何百本もの刃となってドーム状に俺を包み込んだ。小さな隙間程度しか残されない死の檻。こんな場所はネズミや蟻ですら逃げ出せないだろう。しかも、刃の硬さもさっきの数倍以上はあるだろう。ダレスやラルカ、メリナがこれに捕らわれたら死は免れない。

 奴がこれを発射するまで待ってやっても良いが、今はそんな余裕なんてない。さっさと終わらせる。


「剣舞・龍刃百華!」


 刀を横一閃に降り抜く。その直後、無数の斬撃が刀の斬れる範囲を超え、ドーム状に展開されていた何百本もの水の刃をバラバラに切り裂いた。


「ぎげああ!?」


 これが無力化されるとは思ってなかったのか、奴は驚いた声を出す。アホ面で驚いてくれて助かるよ。俺は奴が唖然としてる間に一気に距離を詰めようとするが、足元から何本もの鎖が飛び出し、俺の行く手を阻む。


「邪魔だ。剣舞・龍烙波動!」


 体にありったけの魔力を込め、それを灼熱の衝撃波にして放つ。その灼熱は地面を焦がし、その衝撃波は鎖を粉々に消し飛ばした。


「ぐゅがあああああ!?」


 その衝撃波は奴にも及び、大きく吹っ飛んでいった。何とか体勢を整えたようで、地面にうまく着地する。だが、それはあまりにも大きな隙だ。俺は一気に詰め寄り、刀で切り裂こうとする。


「ぐげ。でぎあああああ!」


 水の壁を出して防御しようとするが、その程度の防御など意味はない。


「剣舞・斬龍剣!」


 刀を上から振り下ろし、水の壁を切り裂いて奴の体を真っ二つに切り裂いた。斬撃の勢いはそれだけで収まらず、そのまま直進して壁に穴を開けた。


「ぎあ……ああ」

「とどめだ。剣舞・絶龍怨嗟ぜつりゅうえんさ


 指を鳴らすと、真っ二つになった奴の体がぶくぶくと膨れ上がっていき、粉々にはじけ飛んだ。飛び散って来る返り血が俺の頬に当たってしまい、それを服で拭う。


 絶龍炎嗟。敵の体の奥に流し込んだ俺の魔力を体内から爆発させる技だ。第2解放だと魔力を奥に流し込むのが上手くいかないから使わなかったが、第3解放だと呼吸するかのように使えるからかなり便利だ。

 奴の体は粉々に消し飛んだ。魔力も感じないし、覆っていた結界も消えた。これで確実に死んだはずだ。ダレスも水の球体から解放されていた。


「第3解放……解除」


 腕や目元にあったヒビ模様や背中に生えてた羽は消えた。


「凄いじゃんカイツ! あの変てこな奴、ペルセウスの何倍も強かったのに、それを瞬殺するなんて!」

「さすがは我が右腕だ。あの気味の悪い化け物を瞬殺するとはな」

「? 待て。何か様子が」


 彼女たちが褒めてくれたが、今の俺はそんなことに気を配る余裕などなかった。


「ぐ……がは」


 吐血し、身体中から血が噴き出して服ににじむ。


「カイツ!?」

「右腕! どうしたのだ右腕!」

「カイツ! まずいぞ。身体中から血が流れてる!」


 まずい。意識が重くなってきた。皆が泣きそうになりながら何かを言ってたが、俺はそれを聞き取ることが出来ず、視界が真っ暗になった。






「メリナ! どうすれば右腕を治せる!」

「身体中の骨や肉がボロボロになってる。治すには2リットルぐらいの水が必要だが」

「水! もう水は余ってないのか!」

「さっきの戦いで使い切った。とにかく、さっさと上に戻って水を補給して治さないと」

「そんなものなくても、私が治しますよ」


 声がしたほうを彼女たちが振り向くと、クロノスとニーア。後ろにはリナーテとメジーマがいた。


「メリナ。なんで来なかったんだよ」

「仕方ないでしょ。結界のせいでこれなかったんだよ。それより、これどういう状況?」

「カイツが自分の魔術で体がボロボロになった。治そうにも水がないんだが」

「これは私が治します」


 そう言って、クロノスがカイツの元に近付く。


「クロノス。なんで君がここに」

「今はどうでもいいでしょう。治療に専念させてください」


 彼女はカイツに触れ、状態を調べる。


(体の損傷も酷いですが、それ以上に魂の損傷も激しい。まずはこの損傷をなんとかしなければ)


 彼女は青い魔法陣を展開し、カイツの魂を治癒していく。


「白髪のメス豚さん。そこの変てこ茶髪に血を与えて下さい」

「だれがメス豚だ。それになんでそんなことを」

「そいつは液体を治療液に変換できます。なのであなたが治療液の材料源になってください。熾天使セラフィムですから失血死することもないでしょう」

「失血死しないわけではないが……まあいいだろう。おい。そこの茶髪人間。血を用意するからそれで治療液を作れ」


 彼女は自身の手首に傷を入れ、血を流す。


「茶髪じゃなくてメリナなんだが……まあいい。ありがとう」


 メリナは彼女の血に触れ、治療液に錬成する。クロノスはその間にカイツの魂を治癒していく。


(これで魂の治癒は完了した。後は)


「変てこ茶髪。治療液をカイツ様にかけて治療してください」

「分かった」


 メリナ彼の傷に治療液をかけ、体内に染み込ませて治癒していく。


(筋肉や血管の損傷が酷い。まずはこれを治して。それ以外にも組織を錬成してある程度治しておかないと)


「ニーア! もっと血をくれ! カイツを治すのに液体が足りない」

「はいはい」


 ニーアは更に血を分け与え、メリナはそれで治療していく。


(組織と神経の断裂を繋げ、血の量も増やして。血管にあいてる穴とか亀裂も修復させていく。後は大きな傷を治して)


 傷は酷かったが、ある程度体を修復させ、歩ける程度に回復させることは出来た。


「ふう。これでなんとかなったな。戦うのは無理だろうが、歩くことぐらいは出来るはずだ」

「……まあ、雑魚にしてはそこそこ良い所行ってますね。出来れば全快レベルまで回復してほしかったですが、あなたにそれを求めるのは酷でしょうし」

「ちっ。てめえが傷ついても絶対に治してやらねえ」


 メリナが睨みながらそこを離れ、ダレスが質問する。


「それで? これからどうするんだい?」


 その質問にはニーアが答えた。


「とりあえず図書室に向かう。ここにいると」


 彼女は後ろから襲ってきた鎖と地面から飛び出し、カイツに襲いかかってきた鎖をレーザーで破壊した。


「邪魔者が多すぎるからな。図書室でならゆったり過ごせるだろうし、色んな話が出来る」

「色んな話? それってどんな話なんだ?」

「ヴァルキュリア家やカイツの秘密。それと、これから倒さなければならない敵、六神王ろくしんおうについて」






 タルタロスのとある場所。そこにはカーリーがおり、少しばかり体が火傷していた。


「ふう。危なかったですねえ。あと少し行動が遅かったら、確実に消し飛んでましたよ。まさかあれほどの化け物が騎士団にいるとは。ふふふふふふ。あの子との戦いが楽しみでたまりませんね」

「楽しそうですね。ボス」


 彼女が声のした方を振り向くと、そこにはプロメテウスがおり、紅い穴があった。それはひし形に三角形が上にくっついたような図形の形をしており、周りには四角形の穴がどこにつながってるかは分からない。


「それはそうと、ケルーナはどこに?」

「ああ。彼女ならここに」


 体の中に手を入れてまさぐると、彼女は何か違和感を感じた。


「あれ?」

「どうしました?」

「えっと……確かここに……」


 彼女は体の中を何度もまさぐるが、ケルーナは見つからなかった。


「あー。いつの間にか無くしちゃったみたいです」

「はあ!? なんで無くしてるんですか!」

「いやー。いつの間にか落としちゃったみたいですねえ。ごめんなさい」

「なんで落としてるんですか。もう……探しに行かなければ」

「嫌ですよ。今は楽しくないものがありますから戻りたくないで~す。さっさと撤退しますよ」

「また勝手な。せっかくの素体の確保が」

「それは問題ありませんよ」


 彼女は体の中から手のひらサイズの円柱型のボトルを取り出した。その中には血がたっぷりと入っていた。


「あの子の血はちゃーんと回収してますから」

「……まあそれならいいですが。どうせなら体も欲しかったですが」

「良いじゃないですか。今から素体回収するのも面倒だから嫌ですし、血だけ回収できれば十分ですよ。それより、騎士団の子たちの血は回収していますか?」

「問題ありません。アダム……いえ、カイツとフェンリルを除いた全員の血、300ml回収しています」

「十分ですね。では、ここから撤退しましょう」

「良いのですか? ニーアのこともありますし、ここを放棄すれば、我々の計画や熾天使セラフィムについても」

「問題ありませんよ。放置する方が楽しいことが待ってそうですからね。ふふふ。騎士団にも思ったより楽しい人がいるのが分かりましたし、これからが楽しみです」

「はあ。ボスが自由奔放だと私たちは大変ですね」


 彼らはそんな話をしながら紅い穴の中へ入り、その穴が閉じた。

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