第114話 情報整理
ニーアはカイツを抱え、ウルはダレスが抱え、皆と共にある場所へと向かった。メジーマはその場所を見て呟く。
「ここは」
「ここは図書室。あらゆる情報が集う知識の倉庫。これから知ってほしいことを教えるためには、ここが一番都合が良いからな。ダレス、その女はそこのベッドに寝かせろ」
「りょーかーい」
ニーアは抱えてるカイツを近くのベッドに寝かせ、ダレスもその隣にあるベッドに寝かせた。
「さてと。まずはヴァルキュリア家についてだが」
「その前に、1つ良いですか?」
彼女が話そうとすると、メジーマが手を上げて話す。
「今のうちにはっきりさせておきたいんですが、あなたは我々の味方なんですか?」
「味方だ。少なくとも害が及ぶようなことはしないと誓おう」
「カイツの妹と聞きました。そして、何度か会ってるということも。ならなぜ、最初に会った時に正体を明かさなかったのですか? それに、人体実験などにも参加していたようですが」
「あの時は状況が整ってなかった。私はヴァルキュリア家に監視されてたし、下手な動きをするのは得策ではないと判断した。アルフヘイムで兄様と会った時に正体を明かしてたら、兄様が私に巻き込まれて殺される可能性があったからな。人体実験の件に関しては、言い訳をするつもりはない。私は参加してたし、素体を捕まえたりもした」
「罪のない人を手にかける。こんなことをしても、あなたは私たちの味方であると言えるのですか?」
「ふむ。確かに罪のない人を手にかけたことは良くないことだな。だが、そのことに関しては貴様らにだけは言われたくない」
「は? 俺たち騎士団は人々を守るために戦う組織なのですよ? そんな俺たちに言われたくないというのはどういうことですか!」
「貴様らも似たようなことをしているということだ」
「俺たちの組織が、人体実験しているとでも言いたいんですか!」
「? もしかして気づいてないのか?」
「何の話ですか」
彼が聞くと、彼女は鼻で笑った。
「……ふっ。まあ気づいてないならいいさ。せいぜい純粋無垢なままでいておけ」
「この! クロノスさん、この女は殺すべきです! こいつは我々の敵です」
「ぴーぴーうるさいですね。耳が腐ります。それに私はともかく、あなたがたが戦ったとしても3秒も持たずに殺されますよ。それだけの圧倒的な実力差があります」
「だからって、こいつをこのまま野放しにするのは」
「良いじゃん。野放しにしても問題ないって」
彼らの話し合いにダレスが乱入し、彼は彼女を睨み付ける。
「なぜ問題ないと言い切れるのですか? 何か根拠でも?」
「私の魂が大丈夫って言ってる。だから大丈夫」
「ふざけないでください! そんなわけのわからない理屈で納得するとでも思ってるんですか!」
「えー。これ以上ないくらいに立派な理屈だと思うんだけど」
「そんなわけないでしょう! 大体いつもあなたはそんなふざけた態度で」
彼がダレスに怒り狂ってる間、リナーテはメジーマに言う。
「ダレスって奴の理由は酷いけど、私もこいつは信用して良いと思うよ」
「私も同感だ。こいつは信用できる」
「なぜですか! こいつが私たちの味方と言い切れる根拠は?」
「私たちが牢に入れられてる間に落ちて来た剣と鍵。あれを用意してくれたのはあんたでしょ?」
「奴らはニーアが鍵を管理してるだのなんだの言ってた。最初は敵が間抜けだと思ってたが、あんたが味方だってんなら納得できる」
「!? この女が俺たちを」
「ほお。よく分かったな」
「ふっふーん! 私は超絶頭が良いからね。あの程度の小細工はバレバレなんだよ」
「暴いたの私だけどな。お前は私の説明聞いてただけだろ」
「そんなことはともかく! こいつは信用できると思うよ」
「……ラルカ。あなたはどうですか?」
「ふむ。そこのニーアは、我が右腕、カイツの妹だったな」
「右腕というのが引っかかるが、そうだな。私は兄様の妹だ」
「ならば我はお前を信じる! 右腕の身内なら信用できる!」
「そんなことで良いんですか?」
「構わない。我はあいつを信じると決めた。メジーマはどうする?」
「……はあ。分かりましたよ。俺も彼女を信用します。一応、俺たちの敵になることはなさそうですからね。では、ヴァルキュリア家や私たちの敵について教えてください」
「了解だ。だが数秒待て。お客さんが来た」
彼女がそう言うと、地面から巨大な蛇が飛び出してきた。
「ぎやあああああ!? なんだこの蛇は!」
ラルカは蛇に絶叫し、鎖で攻撃しようとするが、それをイシスが制する。
「待て。奴は敵じゃない。今はな」
蛇が口を開けると、そこから黒の和服メイド服を着た女性が落ちて来た。右腕が無くなっており、体から血が流れている。
「驚いた。まさか生きていたとはな」
「ものすっごいギリギリやけどな。血もごっそり無くなったし、身体中ボロボロや。ていうか、あんたイシスやんな? なんでヴァルキュリア家の者が騎士団とおるんや?」
「私はヴァルキュリア家の味方ではない。兄様の味方だ」
「ふーん。なんかよお分からんけど、敵でないならええわ」
「誰ですか。あの女は」
メジーマがそうつぶやくと、ダレスはうーんと考える。
「あの子。どこかで会ったような」
「おや。ダレスはんやないか。生きてるうとは思わんかったわ」
「ダレス。あの女と知り合いなのですか?」
「えっと……確か……ああそうだ! お茶会にいた子だよ」
「思い出してくれて良かったわ。それより、カイツやウルはどこにおるんや? カイツの魔力がえらい弱弱しくなっとるけど」
「今はベッドで安静中だ。それより、傷の方は大丈夫なのか? こっちにはヒーラーがいるが」
「ほんまか? なら回復させてくれると助かるわ」
「了解だ。おい、メリナ。こいつを回復させてくれ。ここから左に行くと水道がある。それを使え」
「あんたに命令されるって嫌な気分だな。それに、ここまでの傷だと血を止めるくらいしか出来ないが。そもそもそいつは誰だ。信用して良いのか?」
「問題ない。奴が私たちに危害を与えることはしないさ。奴の敵は私たちではなく、ヴァルキュリア家だ」
「……分かった。こいつを治すよ。ついてこい」
メリナは少し不満げになりながらも彼女に従った。
「なんだかあの女がリーダー面してますけど、これで良いんですかね? 我々は騎士団。奴はヴァルキュリア家で敵同士だというのに」
「大丈夫でしょ。彼女良い人そうだし、なんとかなるって」
「楽観的ですね」
メジーマは不安を口にするも、ダレスは楽観的な調子で答えるので、彼はそんな彼女に呆れていた。
しばらくしてメリナの治療が終わり、2人が戻ってきた。
「さて。色々あって遅れたが、ようやく説明が出来るな。まずはヴァルキュリア家の経歴についてだが」
「そこら辺は……俺が話す」
声のした方を振り返ると、カイツが壁にもたれながら立っていた。かなり辛そうにしており、今にも倒れそうだ。
「兄様!」
「カイツ様!」
ニーアとクロノスが咄嗟に駈け寄り、彼の体を支えるが、互いにバチバチと火花を鳴らしながらにらみ合う。
「ありがとう。助かる」
カイツは2人に抱えられながらみんなの元へ行った。
「……ケルーナ。生きていたのか」
「うん。右腕なくなってもうたけどな~」
「ま、無事ではないみたいだが、生きてて良かったよ。それよりヴァルキュリア家の出来れば話したくなかったが……ここまでくるとそうもいかないみたいだからな。話すよ。俺の過去。そしてヴァルキュリア家のやってきたことについて」
「その話。私も興味あるわ」
カイツの後ろから、ウルが体を壁で支えながら現れた。
「ウル。体は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。それより聞かせて。カイツの子供時代、とても興味があるわ」
「一応言っとくが、楽しい要素はほとんどないぞ。これから話すのは、全てを失い、絶望した愚か者の物語だ。それでも良いなら聞いてくれ。ヴァルキュリア家の経歴。俺の過去を」
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