第112話 天使の血を喰らいて悪魔は育つ

 カイツ達が戦ってる間、リナーテとメジーマは手助けに行こうとしたが。


「ちょっとおお! なにこの透明バリア! カイツ達の手助けに行けないじゃんかああ!」

「これは結界ですね。恐らく、カイツさんさちを落とした後に結界を貼り、邪魔者が入らないようにしたのでしょう」

「結界か。どうすればこれを破壊できるの?」

「破壊するには強力な魔術をぶつけるしかありません。しかし、俺たちではそんな強力なものなど」

「いや出来る。私の新しい技で。マルチアタックコマンド……」


 彼女は詠唱しようとしたが、頭には何の言葉も浮かばなかった。


「なんで!? 死にかけたあの時は出来たのに! なんで今は使えないの!?」

「ああ。殺されかけた人によくあるものですね。魔術を使う人は、死にそうになった時に強力な技を生み出すことが多いんですよ。生きたいと思う本能が強く働くのか、あるいは別の理由かは分かりませんがね。ただ、その時に出た技は習得するのに数年かかるらしいですが」

「じゃあ間に合わないじゃん! どうすれば良いの!」

「俺に聞かないでください。俺の魔術には破壊力のあるものなどないですし、どうしたものですかね」

「地面を動かすやつは? あれなら結界も」

「破壊できるでしょうが、あれはコントロールできません。下手に使えば、カイツ達を殺してしまう可能性があります。ここも無事では済まないでしょうしね」

「じゃあどうしようもないじゃん! どうするのおおおおお!」

「今考えてますよ! しかし、この結界を破壊できる手段は何も」


 彼らは結界の前に完全に八方ふさがりとなり、どうすることも出来なかった。







 side カイツ


 いつの間にか奴の手のひらの傷が治っている。治癒力も並大抵のレベルじゃないな。出来ればリナーテたちにも助太刀に来てほしいが、妙な結界が張られてる今じゃそれは望み薄だな。倒すにはかなりの火力が必要そうだ。奴が手のひらをこちらに向けた瞬間。


「させるか!」


 奴の足下から鎖が飛び出し、雁字搦めに縛り上げた。これがラルカの魔術か。拘束系に長けた魔術というのは面白いな。


「そこまで長くはもたない。今のうちに行け!」

「了解! やるぞダレス!」

「オーケー!」


 俺とダレスは一気に奴に接近し、俺は後ろ、ダレスは前を担当する。


「六聖天・第2解放。剣舞・龍刃百華 凪!」

増殖腕インクリース・アーム。クワトロブレイク!」


 後ろから龍刃百華を1点に集中した斬撃を奴の背中にぶち込んだ。ダレスは自身の右腕に3本の腕を生やし、ガントレットを装着して強大な一撃を奴にぶちこんだ。後ろにも伝わってくるかなりの衝撃波。殴られたた奴はひとたまりもないな。


「ぴぎゃあああああ!」

「!」

「馬鹿な!」


 奴の体から鋭い水の針が飛び出し、俺たちは咄嗟に後ろに下がって回避した。


「へえ。あれだけの攻撃喰らってピンピンしてる。面白いねえ」

「こいつ。どういう体の仕組みだ」

「ぴぎゃぎゃ……ぴあああ!」


 奴は自身を縛ってた鎖を壊し、自身の周囲に大きな水の球をいくつも生み出し、こっちに放ってきた。だが、あの攻撃なら問題ない。


「水を操れるのはお前だけじゃねえぞ」


 メリナが指を鳴らすと、水の球はぴたりと動きを止めた。


「お返しだ。錬成フォージング


 水の球は何百本もの小さく鋭い槍となって襲い掛かる。しかし、その槍では包帯人間の体に傷をつけることすら出来なかった。


「貫通力高めの武器にしたつもりだったけど、全く傷がつけられないな」

「頑丈な奴だね。こういう敵は殴り続けるに限る!」


 彼女は懐から小さな瓶を取り出しす。中の白い玉を取り出して飲み込むと、彼女の四肢の筋肉が少しばかり肥大化し、体中の血管が浮き出てきた。あの白い玉、恐らくだが血の巡りを速くし、筋肉に強力な刺激を与えるものだろう。あんなものを持っていたとはな。


「いっくよお!」


 ダレスは再び接近し、包帯人間に攻撃を続ける。


「そらそらそらあ! ラッシュブレイクううううう!」


 4本の腕で高速で何十、何百と殴り続けていく。一見ダメージを与えてるように見えるが、奴は全くダメージを受けてるようには見えない。拳の威力もかなり上がってるはずなのに、それでもダメージが無いとはな。


「全く。頑丈な奴だねえ。殴り甲斐があるから良いけどね!」


 彼女は尚も攻撃の手を緩めることなく殴り続けていく。


「おいカイツ。あれじゃ私たちが手出しできないぞ。どうするんだ?」

「ひとまず奴の出方を見る。ラルカは隙を見てもう1度捕らえろ。俺のとっておきをぶちこむ。メリナも攻撃の準備をしておいてくれ」

「了解」

「承知した。我のとっておきの鎖で縛り上げてやろう」


 ダレスと包帯人間の戦いはさらに激しくなっていく。奴も攻撃を受けとめるのがしんどくなってきたのか、後ろに下がって飛び上がる。


「そこだ!」


 ラルカが隙を突き、地面や壁から何本もの鎖を出して奴の体を雁字搦めに縛り上げる。


「ぴぎえあああああ!」


 しかし、その拘束は数秒も持たず、即座に破壊されてしまった。


「あああ! 我の特注があ!」

「騒ぐな。一瞬拘束で来ただけで十分だ」


 メリナはそう言って腕を振り下ろした。すると、いつのまに用意したのか、巨大な鉄の塊が奴に降りてきてそのまま押し潰した。


「すげえ。こんなに大きな鉄を落とせるなんて」

「その分水の消費もえぐいけどな。現に、保持してた水は使い切っちまった」

「しかしこれだけの攻撃だ。いくらあやつが頑丈であろうと」

「残念だけどメリナって人。そう簡単にはいかないみたいだよ」


 ダレスがそう言うと、それに反応するかのように巨大な鉄が粉々に砕かれ、奴が現れた。体のあちこちにヒビが入っており、多少のダメージは受けてるようだ。


「ぴげな……ぴがああああああああああ!!」


 耳が潰れるかと思えるほどに奴は叫び、体中から鎖を生やして攻撃してきた。


「ひあああ!? なんだあれはあああ!」

「おいおいマジかよ」

「くそ。もう水が無いってのに」


 何本もの鎖の攻撃を、俺たちは砕いたり避けたりしながらして捌いていく。メリナの方は大丈夫かと思って見ると。


「我が臣下に手は出させんぞ!」


 ラルカは鎖を竜巻のように伸ばし、飛んでくる鎖の攻撃を防いだ。あの様子なら問題はなさそうだ。ダレスも鎖を拳で破壊したりして防いでいる。問題はこっちだな。

 何故か分からないが、こっちだけ襲ってくる鎖の量が異常なほどに多い。一体どういう差があるというんだ。向こうの手助けは期待できないし、数も多い。


「まずいな。このままじゃ」


 そう思ってると、1本破壊し損ねてしまい、こっちに襲いかかってきた。


「しまった!」


 攻撃を受けるかと思ったが、地面から鎖が竜巻のように飛び出し、その攻撃を防いだ。


「ラルカ! ありがとう」

「ふん。右腕を助けるのも我の大事な務めだからな」


 助かった。おかげであの包帯人間の攻撃を防げる。そう思っていたが


 ズドンッ!


「ぐ! 野郎」

「馬鹿な。我のチェーンストームを貫いただと!?」


 竜巻を貫き、1本の鎖が俺の体を貫いた。それだけでなく、血が猛烈に抜かれて行くような脱力感を感じた。即座に引き抜き、後ろに下がる。


「ぴげああああ」


 奴は俺の返り血が付いた鎖を自分の元に持ってきてその鎖をかみ砕き、俺の返り血もろとも飲みこんだ。


「でぃげえ……げべあああああああ!」


 奴は気味の悪い叫び声をあげ、さらに体が歪に変形していく。真っ黒な刺々しい翼。あんな翼は見たことがない。今まで見て来たものとは明らかに何かが違う。


「へえ。中々面白い変形だね。ペルセウスとも違うようだし、どういうものなのかな」

「ぎげげ……ふぺああああああ!」


 奴は黒い翼から水の刃を何百本も生み出して攻撃してくる。


「させるか!」


 メリナが手を突き出して刃を止めようとするも、それは一瞬止まるだけであり、こっちに襲い掛かってきた。


「なに!?」


 俺とダレスは水の刃を躱し、ラルカは鎖の壁でメリナを守った。メリナの魔術でも操れない水。どういう仕組みだ。


「ふふふ。良いねえ。とっても面白いじゃないか。そうこなくちゃ! 行くよカイツ!」

「ああ!」


 ダレスは嬉しそうに笑いながら俺と共に走り、包帯人間に殴りかかろうとすると。


「ぴけがあああああああ!」


 奴は巨大な水の壁を作り、俺たちの道を阻む。それはまるで檻のように俺たちを囲んでいった。邪魔な壁だが、この程度は簡単に破壊できる。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 紅い球体を周囲に生み出し、周囲の水の壁に撃ち込んで爆発させ、水を蒸発させた。


「サンキューカイツ!」


 彼女は一気に奴との距離を詰め、両腕から1本ずつ腕を生やした。


「ダブルブレイク!」


 両腕で同時に奴の体を殴りつける。その威力は凄まじく、奴の体が九の字に折れ曲がった。


「からの。ショットブレイク!」


 両腕に生えてた腕が消え、拳から腕が生えた。その勢いで奴はふっ飛ばされ、ドゴオオオンと音を立てて壁にめり込んで土煙が舞う。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 周囲に紅い球体を多数生み出し、それを奴向けて発射してぶつけまくった。爆炎と黒煙、土煙やら色々混ざったものが奴がめりこんだ所の周囲を舞っていた。手ごたえはあった。どれだけ効いている。


「それなりに手ごたえはあったはずだけど。どうなるかな?」


 彼女が様子を見ようとすると、土煙から何本もの水の刃が襲い掛かってきた。


「ダレス!」


 俺は地面を蹴って彼女の前に立った。


「剣舞・龍封陣!」


 俺は刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。それは盾となり、刃の攻撃を防いだ。


「お。また助けられた。ありがと」

「これぐらい何ともない。それよりあいつ」


 土煙の中から現れた奴はダメージを受けてる様子はなく、ピンピンしている。


「凄い! 手ごたえがあったはずなのに、あんなにピンピンしてるなんて。今までの奴らとは明らかに違ってて楽しいね」

「楽しんでる場合かよ」


 どうも妙な感じだな。最初に剣をぶつけた時はここまでの実力はなかった。なのに今は俺やダレスの攻撃をものともしないくらいに強化されている。俺の血が原因だというのはなんとなく分かるが、なんで俺の血でここまで強くなる。

 それにあの鎖。あれは奴の力で生み出されたものじゃない。別の何かが生み出したものだ。鎖やあの包帯人間は誰が何の目的で用意してここに持ってきた。


「来るよカイツ!」

「分かってる!」


 奴がこっちに飛んできたので、俺とダレスはそれに備える。奴がこっちに向かってきた途中、地面から飛び出した何本もの鎖が奴の体を刺し貫いた。


「! これはラルカの」

「行け右腕! とっておきをぶつけろ!」

「了解。剣舞・双龍剣。六聖天 腕部集中!」


 刀を2本に増やし、六聖天の力を腕に集中させる。刀は強い光を纏い、巨大な光の剣となる。


「剣舞・神羅龍炎剣!」


 巨大な光の剣を出現させ、奴の体を切り裂こうと振り抜く。奴は水の壁を出し、それで身を守ろうとする。


「無駄だああ!」


 水の壁など意に介さず、俺は奴の体を真っ二つに切り裂こうとするが、奴は鎖を破壊し、その攻撃を腕で受け止めた。


「く! その程度で防げるかよ!」


 奴の腕もろとも切り裂こうとするが、剣は奴の腕に深く食い込む程度で、斬り飛ばす事すら出来なかった。


「ぎべええ。ぎがあああああ!」

「!?」


 奴は俺の攻撃に耐えながら、水の刃を生み出した。まずい。このままじゃ防御できない。咄嗟に神羅龍炎剣を解除するも、防御の技を出す余裕などなかった。


「後ろガラ空きだよ!」


 攻撃されると思ったが、ダレスが奴の首を後ろから蹴り飛ばし、奴はそのまま吹っ飛んでいった。作られた水の刃はただの水に戻って地面に落ちていった。


「すまない。助かった」

「気にしないでよ。にしても、カイツの神羅龍炎剣すら防ぎきるほどの化け物か。これはますます楽しいね」


 彼女は楽しそうにしてるが、俺にはそんな余裕などなかった。俺の最大火力の攻撃すら奴の腕を傷つける程度で精一杯。どうすればあんな化け物を倒せる。しかも、さっきの神羅龍炎剣のせいで魔力はまだしも、体力は既に限界。正直いつ倒れてもおかしくない。


「ぎべあああ!」


 奴が腕を突き出すと、ダレスは水の球体に閉じ込められた。


「ダレス!」

「がぼっ!」

(こりゃ凄いね。けどこのぐらいのものなら)


 彼女は拳を振ったりして必死に破壊しようとしていたが、水の球体はまるで壊れる気配が無かった。


(凄い! 魔力をたっぷりこめた拳を振るってるのに、まるで壊せそうにない。ここまで頑丈な檻を造れるとは。とっても楽しいじゃないか)


「ぎべでぃああ。でゅあああああああ!」


 奴は腕の再生が終わってない状態にもかかわらず、こっちに襲い掛かってきた。俺は横に飛んで奴の突進を躱すと、奴は直角に曲がり、スピードを落とさずこっちに突っ込み、その突進を剣で受け止める。


「ぐ。なんつう力だ」


 受けとめただけで腕が痺れる。間違いない。こいつ、時間の経過と共に強くなっている。どういう理屈か知らないが、短期決戦で決着をつけないとまずい。だが今の力じゃ無理だ。明らかにパワーはあっちの方が上。最大火力もそこまで効果が無かった。

 となると、やるしかないよな。こんなところで使いたくなかったが、そんなことを言ってられる余裕はない。


『カイツ、やめろ! お主、本当に死んでしまうぞ!』


 ミカエルが止めようとするが、こいつは第2解放じゃ倒せない。ここでやらないとどっちにしろ死ぬ。なら使うしかないんだ。それに、10秒ぐらいなら何とか耐えられるはずだ。


「禁忌・第3解放!」


 命を削る禁じられし力を、俺は使う。

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