第110話 カーリーVSクロノス

 カーリーは気絶してるケルーナを抱え、プロメテウスと共にとある場所へと向かっていた。


「ボス。イシスの方は良いのですか? あの女は確実に」

「問題ないですよ。あの子が裏切ってたとしても、そこまで問題はありませんからね。それに、妙な奴らも近づいてますから、出来るだけ早めに脱出したいんですよ。今から入って来る敵は、楽しくなさそうですから」


 彼女たちが歩いていると、目の前の地面がもこっと膨らみ、そこからヘラクレスが現れた。


「ぷはー! ようやく脱出できた。いやー。あの男は凄かったな。久しぶりに心がギンギンしたぜ……ってボス! なんでこんなところにいるんですか?」

「あら。こんなところまで飛ばされてたんですね。ちょうど良いです。私たちと一緒に来てください」

「どこかに行くんですか?」

「ここから撤退します。やり残したことが多くありますが、ここに留まるのは楽しくありません」

「なるほど。事情はよく分かりませんが了解です! 撤退しましょう!」


 彼らがそう言って再び歩き始めたが、カーリーは立ち止まったままだった。


「ボス。どうかしましたか?」

「またお客様が来たようですね。あなたたちは先に船に向かって下さい。今から来るものは私が相手をします」

「かしこまりました。お気をつけて」

「頑張ってくださいね」


 彼らはそう言ってその場を離れた。彼女は抱えているケルーナを自身の体の中に収納する。


「これでよしと……来ますね」

「スピリットショット!」


 どこかから何本もの青いレーザーがカーリーに向かって放たれる。


「魔力解放 風界ふうかい


 彼女の魔力が周囲を包み込む暴風となって放たれ、レーザーから彼女を守る。


「やはりこの程度では殺せませんか」


 レーザーの出所を見ると、そこにはツインテールの女性が立っていた。


「魔力解放 風斬!」


 彼女の魔力が見えない風の斬撃となって解き放たれる。


「クリエイション!」


 彼女の前に青い火の玉が現れると、それが黒い盾となって斬撃を防いだ。


「あなたですよね。ヴァルキュリア家当主というのは。ここで死んでもらいます」


 彼女は自身の周囲にいくつもの青い火の玉を出現させる。それらは三日月のような形の刃へと変化する


「スピリットブーメラン!」


 その刃がカーリーに向かって一斉に放たれていく。彼女はその攻撃を黒い棒で全て弾いた。


「この程度の攻撃。魔力を使うまでもありません」

「ならこの攻撃はどうですか?」


 弾かれた三日月の刃は更に勢いを増して後ろから襲い掛かって来る。


「魔力解放 風爆ふうばく


 彼女の体から衝撃波が放たれ、刃の攻撃をその弾き飛ばした。


「ふむ。魂を作り出す魔術ですか。魂の持つ爆発力やパワーだけが本物と同等の力。そしてそれを武器にすることも出来る。とっても面白い魔術ですね。ですが残念です。あなた相手では、愉快に鑑賞している余裕はなさそうですからね。本気で行きましょう」

「そんな余裕は与えませんよ」


 クロノスが指を鳴らすと、カーリーの周囲にいくつもの青い火の玉が現れた。


「死ね。スピリットボム!」


 火の玉が輝き、彼女を大爆発の渦に巻き込んだ。その爆発はあまりにも大きく、離れたクロノスも爆炎の中に包み込んだが、彼女は透明なバリアに守られていた。爆炎や煙が消えると、爆発した場所に黒い球体があった。その球体が開いて翼となり、無傷のカーリーが現れた。翼は勢いが衰えていき、彼女の背中の中に戻っていった。


「素晴らしい攻撃です。熾天使セラフィムの力を発動しなければ、確実に死んでいたことでしょう」

「この攻撃も耐えますか。中々のものですね」

「とても面白い存在ですよ。ですが、いつまでも遊んでいられません。ここで終わらせます。魔力解放 風槍かぜやり


 彼女の魔力が風の槍となり、クロノスに襲いかかってくる。本来なら見ることさえ叶わない攻撃だが、彼女は魂を見ることが出来る存在。魔術の魂を見ることで、見えない攻撃も見ることが出来た。


「ソウルクリエイション」


 彼女の前に青い火の玉が現れ、再び黒い盾となって槍を防いだが、盾はひび割れてしまった。


「まだまだい行きますよ。魔力解放 風弾かぜだま


 カーリーは自身の魔力を何十発もの風の弾丸に変え、一斉に解き放つ。しかし、クロノスは慌てることなく火の玉を生み出し、それを見えないバリアに変えて攻撃を防いだ。弾かれた風の弾丸はただの風へと戻り、周囲を漂う。


「本気で来るなら、もっと強い攻撃で来たらどうですか?」

「言ってくれますね。ならばこれはどうでしょうか?」


 カーリーが彼女に手を向けると、周囲を漂う風が彼女をドーム状に包み込んでいく。それはそよ風よりも微弱であり、普通の人間ならば風が吹いてることさえ気づかないだろう。


「魔力開放 風伐ふうばつ


 クロノスを包み込んだドーム状の風は無数の刃となって襲いかかってきた。彼女に斬撃が当たろうとした瞬間。


「はあ!」


 彼女は自身の魔力を突風に変えて周囲に解き放つ。それによって風の刃は形が崩れ、殺傷力を持たないただの風になってしまった。


「あなたに出来たことが、私にできないとでも思いましたか? 豊富な魔力とコントロール技術さえあれば、この程度は容易いです」

「ほんとに強いですね。攻撃を当てるのも一苦労ですよ」

「あなたがチマチマした攻撃ばかりしてるからでしょう。本気で来ると言った割にはしょぼい攻撃ばかり。あなたがやりたいことは時間稼ぎでしょう? 新しい乱入者が来るのを待っている。違いますか?」

「さあ? どうでしょうね」

「ま、どっちでもいいです。どちらにしても、ここで殺せば全部解決しますから」


 クロノスは一気に距離を詰め、魂から作った剣で切り裂こうとするも、その攻撃はカーリーが液体になることで躱されてしまった。液体がそのまま距離を離そうとするが。


「逃しませんよ。スピリットチェーン」


 地面から白い鎖が何本も飛び出し、黒い液体を貫いた。そのまますり抜けるかと思われたが液体は固定され、強制的に人の形になっていった。


「馬鹿な。液状の私には物理攻撃が効かないはず」

「どんな形をしていようと、その鎖は魂を捕らえて確実に肉体を縛る。物理攻撃が効かない程度では、私の鎖から逃げられません。いい加減鬱陶しいので、ここで死ね。スピリットティアー」


 カーリーの内部から何本もの剣がその体を貫いた。


「これでようやくーー!?」


 彼女が終わったと安堵した瞬間、カーリーの体の一部が液体となり、刃となって襲いかかる。


「ちっ!」 


 彼女は瞬時に後ろに下がり、不意打ちにも関わらず傷1つつかなかった。


「あらあら。この攻撃も完璧に躱すとは。憎たらしいほどに強いですね」


 彼女は自身の体を液体にし、鎖から逃れた。


「魂を縛る鎖から逃げた。ということは」

「ええ。うまいこと魂から鎖を外すことが出来ました。あなたのおかげですよ。魂に鎖を打ち込んでくれたおかげで、魂について少しばかり理解することが出来ました。おかげで先程の魂を突き刺す刃も何とか躱せました」

「へえ。鎖で刺されても魂を知覚できる人はほとんどいないというのに、大したものですね。ですが、その足の微かな震えは誤魔化せませんよ」

「ふふふ。あなたほどの強者になると、誤魔化すのも大変ですね。最初は時間稼ぎで終わらせようと思いましたが、気が変わりました。快楽を快楽して快楽しろ。享楽を享楽して享楽しろ。悦楽を悦楽して悦楽しろ。我は世界を嗤い、欲望のままに遊びし天使なり!」


 彼女の両目が赤い輝きを放ち、両手にヒビのような模様が入る。それは腕まで広がっていき、彼女の背中から3対6枚の黒い天使のような翼が生えた。


「ここからはほんとの本気。マジのフルパワーでお相手し、あなたを殺すとしましょう」

「……ほんと、熾天使セラフィムというのは醜いものばかりですねえ。吐き気がします」

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