第105話 リナーテVSカムペー

「アタックコマンド、2l0p!」


 彼女が詠唱すると、彼女たちの頭上に巨大な黒の魔法陣が現れた。


「ちょっと外れだけど良いや。ブラックグラビティ!」


 その言葉と共に、全員に何倍もの重力が襲い掛かってきた。


「ぐ!? おいリナーテ! こんな重力をかけられたら、ウルたちが死んじまうぞ!」

「んなこと言われても出す魔術は選べないんだから我慢してよ!」

「たく……あのランダム女」

「ぬるい攻撃だな。この程度の攻撃など全く効かん!」


 カムペーは何倍もの重力をものともせずにリナーテに接近する。


「くそ。アタックコマンド、w6y7!」


 詠唱すると、黒い魔法陣が消え、彼女の前に緑色の魔法陣が現れる。


「大当たり! ウインドスラッシュ!」


 魔法陣から風の斬撃が何十発も飛び出し、彼に襲い掛かって来る。しかし、彼はその攻撃をさすまたで全て弾いた。


「この程度の攻撃とは。ずいぶんと弱っちいな」

「馬鹿にしてくれちゃって。アタックコマンド、d5a2!」


 彼の足下に赤い魔法陣が現れた。


「焼き尽くせ。ブレイズトルネード!」


 魔法陣から炎の竜巻が彼に襲い掛かるが、その攻撃も肌や服を少しばかり焼く程度であり、それほど効いてるとは言えなかった。


「ふむ。さっきの攻撃に比べれば悪くはないが、やはり火力はそこまでないな」


 彼は多少のダメージを負いながらも、余裕綽々といった感じで竜巻の中から出て来た。


「くそ。自信無くしそうなんだけど」

「ふん。この程度で無くす自信とは情けないものだな。今度はこちらから行くぞ!」


 彼は一気に接近し、さすまたを横に振り払う。彼女はそれを後ろに跳んで躱そうとするも、攻撃が来る直前にさすまたが伸び、まともにくらって壁に叩きつけられてしまった。


「が!? このお。アタックコマンド」

「もう飽きたよ。いちいちそれは使わせない!」


 彼は彼女が魔術を使う前にさすまたで突き飛ばし、彼女は地面を転がっていった。


「ぐ……ここまで強いとはね」

「ふん。お前と俺とでは、実力差がありすぎたようだな。そろそろ終わらせるとするか」


 彼がさすまたを伸ばして攻撃しようとすると。


「ディフェンスコマンド、4j7u!」


 彼女が詠唱すると、白いバリアが展開され、さすまたの攻撃を防ぎ、その隙に彼女は体勢を立て直して距離を離した。


「ホワイトバリア。大当たりで良かった」

「無駄にしぶといな。あんまり時間をかけたくないんだが」

「だったらあんたが速めに倒されてよ。アタックコマンド、6pak!」


 彼の足下に黒い魔法陣が展開される。


「大当たり。アンチグラビティ!」


 黒い魔法陣から強大な重力が発生し、彼を天井へと押し込んだ。


「上空に重力をかける魔術か。上が空いて無くて良かったよ。まあ仮に空いてたとしても、この程度はどうということもないが」

「ならこの攻撃はどう? アタックコマンド、k8u2!」


 彼を天井と挟むかのように、赤い魔法陣が出現する。


「あ、ちょっとやばいかも……まあいいや! ボムブレイク!」


 魔法陣が大爆発を起こし、爆風や火炎がリナーテたちにも襲い掛かる。


「うあああああ!? 思ったより威力やばい!」

「リナーテええええ! こんな所で爆発魔術使うな!」

「使いたい魔術は制御できないんだから仕方ないでしょ!」


 爆発によって彼のいたところの天井が壊れ、沢山の瓦礫が降り注いで道をふさいだ。


「ひょええええ。めちゃくちゃ危なかった」

「たく。ほんと勘弁してくれ」

「でも、これであいつを倒すことが」


 彼女が話してる間、瓦礫から伸びてきた1本の銀色の棒が彼女の腹を貫いた。


「があ……嘘でしょ」

「情けないな。この程度の攻撃で油断するとは」


 カムペーは瓦礫を吹き飛ばし、中から出て来た。あちこちに痣のようなものがあってダメージは負ってるが、動く分には問題ないらしい。


「ふん。まさか生き埋めみたいなことをされるとは思わなかったよ。だがこの程度のダメージなら問題はない。急所を刺した。これでお前は終わりだ」

「……誰が終わりだって? アタックコマンド、f58o!」


 彼の頭上に茶色の魔法陣が現れた。


「死んじゃえ。ロックブラスト!」


 魔法陣から人の顔くらいの大きさの岩が何十個も落ちて来た。しかし彼は慌てることなく、銀色の棒を振り回し、落石攻撃を防いでいった。


「無駄だ。さっきのような奇跡はもう起きない。貴様らはここで終わりだ」


 彼は銀の棒の先をさすまたに変えて伸ばし、彼女を捕らえる。


「ぐ……離しなさいよ」

「ふん。この程度の拘束も外せんとはな。また暴れられても面倒だし」


 彼はさすまたを振り回し、何度も壁や天井、地面に叩きつけて行く。


「が!? ぐ!? あが!?」

「リナーテ! てめえええ!」


 メリナは自身の体内の水を体外に排出し、それを4本の鉄のナイフに錬成して撃ちだすも、カムペーはその攻撃を指で掴んで受けとめた。


「のろいな。この程度の攻撃など簡単に受け止められる」

「くそ。もっと水があれば」


 彼女の魔術に必要なの水。それが無ければ、彼女は満足に戦うことも誰かを治療することも出来ない。彼女はウルとダレスの治療のために体内の水をかなり使い果たしている。ただでさえ危険な状態であり、これ以上使うのは脱水で死亡する可能性がさらに高くなる。そのため彼女は今、まともに戦うことすら出来なかった。


「ふん。戦うことすら儘ならない雑魚はくたばってろ!」


 彼は懐から3本のナイフを取り出し、それを投げつける。彼女は回避しようと横に飛ぶが、怪我人を背負ってるせいで避けきれず、2本のナイフが彼女の足に刺さった。


「ぐ!? しまった」

「メリナ! が!?」


 メリナの心配をするリナーテは、また壁に叩きつけられてしまった。既に2桁に行くほどに壁や天井に体を叩きつけられており、体や顔のあちこちから血が出たり痣が出来たりしている。


「この……可愛い乙女にこんなことして……ただで済む……が!?」

「うるさい女だな。いい加減にくたばれ」


 彼は更にナイフを3本取り出し、彼女に投げつける。そのナイフは彼女の体に突き刺さってしまった。


「うう……こんのおお。アタックコマンド」

「させねえよ」


 彼は懐からナイフを取り出し、それを彼女の顔に投げつける。それは彼女の片目に突き刺さった。


「あが……あああああああ!?」


 彼女はあまりの痛みに詠唱をやめて絶叫する。眼球をナイフで抉られ、潰される痛みは今にも失神しそうなほどの激痛であり、彼女は今にも意識が飛んでいってしまいそうだった。


「あがあ……くそが」

「終わりだ。くたばれ!」


 彼は彼女をまた壁に思いっきり叩きつけた。


(私はこんなところで負けるわけにはいかない。カイツと会えてないし、目も潰されるし、いみわかんないストーカーにもボコられるし。良いことも良い所も全くないじゃない。こんな奴に負けるわけにはいかない。奴に勝つために必要なのは威力だ。もっと強い威力。それをするためには……コマンドの複数発動しかない。やったことない。成功する保証もない。でもここでやらないと)


 彼女は消えそうになる意識を必死に保ち、コマンドを複数発動させるためにどうすれば良いかに思考を集中させていく。出血や痛みのせいで思考もまとまっていなかったが、不思議と複数発動させるためにどうすれば良いかの方法は思いついていた。


(こいつを倒すため……コマンド……複数発動……思考ぐちゃぐちゃ……でも、方法は理解できた。後はやるだけだ)


 彼女が考えてる間、彼は攻撃をやめ、彼女の様子を観察していた。


「ふう。ようやく静かになったか」

「リナーテ……まずい。このままじゃ」

「後はお前たちを捕らえるだけだな。さて」


 彼がメリナたちの方へ行こうとすると。


「……マルチアタックコマンド、fd71l9!」


 彼女の詠唱で、周囲のあちこちに赤い魔法陣が現れた。その数は優に50を超えるほどの数だった。


「な!? この女、まだ戦えたのか」

「リナーテ」

「メリナ……後は頼んだよ。ディフェンスコマンド、e2y7!」


 彼女の詠唱で、メリナやウルたちの周囲に白い球体のバリアが展開された。それと同時に彼女は吐血してしまう。


「こふっ……複数発動って……リスク高いなあ。まあいいや。カムペーだっけ? 私と一緒に地獄に落ちてもらうよ!」

「貴様。一体何を」

「全部ぶっ壊れろお! バーストブレイク!」


 彼女がそう言うと、魔法陣が次々に大爆発を起こしテイク。1つ1つの破壊力はそれほどでもないが、何十もの爆発は彼女たちのいる場所を破壊するには十分な火力であり、天井や壁だけでなく、地面も崩壊していく。カムペーは即座に逃げ出そうとするも、爆発のせいで瓦礫、爆炎、煙があちこちを舞い、迂闊に動くことが出来なかった。


「くそ。この女、俺を道連れにするつもりか」

「大正解! 死ぬ恐怖に怯えながら瓦礫に埋もれちゃいな!」

「ふざけるな。俺はこんな所で、終われないんだよ! 貴様らみたいな雑魚にやられるなど!」


 彼はどうにかして逃げ出そうとするもそれは敵わず、どんどんと体が瓦礫に埋められていった。


「はははははは。愉快痛快爽快ねえ! ようやく……私も良い所見せれたね……出来れば……カイツにも見せたかったなあ」


 彼女はその言葉を最後に、降り注ぐ瓦礫に埋められ、地面が崩壊して何も見えない暗い底へと落ちて行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る