第104話 戦況変化
騎士団とヘラクレスとの戦い。ヘラクレスが巨大なビームを放ち、辺り一面が煙に包まれており、カムペーは拍手していた。
「ふふ。俺の受けたダメージを蓄積し、それをいっぺんに相手にぶつけるカウンターバースト。この感覚は最高だな。痛みを受け続けるのも良いが、こうしてため込んだものを吐き出すのも良い気分だ」
「さすがですヘラクレス様! あのヴァルハラ騎士団をあっという間に倒すなんて。素晴らしすぎます!」
「……いや。まだ倒せてないな」
彼の言葉にカムペーが疑問を持ったが、その言葉の意味はすぐに理解できた。煙が晴れると、ラルカが両手を突き出しており、腕の一部が炭化していた。全身が火傷でボロボロになっており、角も欠けている。後ろにいたリナーテたちは怪我をしているが軽傷であり、動くのに問題なかった。
「ラルカさん……あなた」
「ふふ。我は偉大なるものだ。矮小なる貴様らを守るのは当然の義務だ」
「まさか……ヘラクレス様の力を防御しきったというのか!?」
「ふふふ……どうだヘラクレスとやらよ。これが我の力だ」
「なるほどな。俺が攻撃する直前、鎖で壁を作り、自身の両手を鎖で鎧のように覆って防御したのか。驚いたよ。まさか俺のカウンターバーストを防御出来る奴がいるとは。そんな芸当が出来るのはプロメテウスやイシス、ボスくらいだと思ってた。だがその腕では、もう戦えないな」
「ふん……貴様のような矮小なる者。腕が使えなくても……ぐ」
ラルカは立つことすらままならなくなり、その場に倒れそうになるが、リナーテが彼女を支えた。
「ありがとうラルカ。後は私たちでけりを着ける」
「意気込んでいる所悪いが、お前たちの魔術では俺は満足できんぞ」
「そうだそうだ。お前たちが勝てる可能性など、万に一つもありはしない! 大人しく牢屋に戻るんだな!」
「チッ。言ってくれんじゃん。ならこいつを受けてみなよ。アタックコマンド」
彼女が詠唱しようとすると、メジーマが前に出て、それを制する。
「何よ? 邪魔なんだけど」
「リナーテさん。冷静に考えてください。今の私たちではカムペーとやらはともかく、ヘラクレスには絶対に敵いません。実力が違いすぎます」
「何よそれ! 戦う前から諦めるって言うの!?」
「状況から判断した事実です。それに、敵わないからと言って、勝てないとは言ってません」
そう言って、彼は地面に両手を突っ込んだ。
「メリナさん! ラルカさんをお願いします!」
「了解だ」
彼女は彼のいうことに従い、ラルカを横抱きすして離れる。
「俺の全魔力で、あの2人を出来るだけ遠くに離しておきます。本当はやりたくないですが、このままだと確実に殺されますからね」
「? あんた、何をする気なの?」
メリナは何をするか感づいたようで、彼に声をかける。
「おいメジーマ。まさかあれをやる気か? そんなことしたら余計にピンチになる可能性があるぞ」
「分かってますよ。しかしこのままでは全滅は確定です。ならいちかばちかやるしかないじゃないですか! 大地よ。我が仲間たちを包みなさい!」
彼がそう命令すると、大地が波打つ海のようにうねり、リナーテやメリナは包み込まれて球状となる。
「そして海のごとくうねり、我が敵を薙ぎ払いなさい!」
ヘラクレスたちの方はまるで津波のように大地がうめっており、今にも飲みこもうとしていた。
「おおおお! こいつは素晴らしい! まさか地形を変えることのできる魔術師がいるとは」
「いやあああああ!? へ、ヘラクレス様ああ! 助けてくださああああい!」
ヘラクレスは楽しそうに高笑いし、カムペーは情けない声で彼に助けを求める。彼らはそれに抗うことが出来ず、どこかに流されてしまった。リナーテたちを包んだ球体もそれに巻き込まれ、濁流に飲みこまれるかのように流され、どこかに消えてしまった。
メジーマが地形を変える魔術を使った頃。プロメテウスとカーリーは図書館の入り口に立っていた。
「! ボス。この感覚」
「ええ。地形変動の魔術ですね。方角からして騎士団が使った物でしょう。素晴らしいですねえ! まさか地形を変える魔術を使えるものがいらっしゃるとは」
カーリーが感嘆していると、地形変動の影響で周りの壁が津波のようになって襲ってきたので、彼らはそこから離れて津波を回避する。その後もあちこちの壁が津波のようになって襲ってくるが、彼らはそれらを全て回避していった。
「しかし、魔力のコントロールが下手くそなのか、慣れてないかは知りませんが、地形の動かし方が下手くそですね」
「ですね。おかげで図書館がどこかに行っちゃいましたよ。おまけにあちこちぐちゃぐちゃになっちゃいましたよ」
「どうします? これ以上変なことされても困りますし、潰しに行きますか?」
「そんなのダメですよ! こんなに下手くそな地形変動の被害に合うなんて滅多にないんですよ! どうせならもっと楽しみたいです。それに、そんなことよりも楽しいものが目の前で待ってますからね」
「……楽しいかは知りませんが、面倒なものは目の前で待ってますね」
彼がそう言ってとある方を向くと、そこにケルーナが上空から飛び降りて来た。
「ふう。いきなり地形がめっちゃくちゃになるから驚いたわ。けど、そのおかげであんたら見つけること出来たわ」
「ケルーナさん。あなたとはもう1度お茶会の席で語らいたかったのですがね」
「わっちも語らいたかったけど、旦那様からあんたら潰すように言われとるからのお。悪いけど、全力で行かせてもらうわ」
「良いでしょう。私が直々に」
彼が行こうとすると、それをカーリーが制する。
「ここは私にやらせてください。せっかくの楽しそうな客人。私直々に相手したいです」
「……分かりました。お任せします」
「へえ。大将が直々に相手してくれるとは嬉しいなあ。あんたを落とせば、ヴァルキュリア家は崩壊するも同然。頑張るでえ」
「ふふふ。久しぶりの面白人間。あなたの味、たっぷり堪能させてもらいますよ」
メジーマが地形変動を使ったことであちこちがめちゃくちゃになり、リナーテたちを包んだ土の球体もあっちこっちに流されていた。彼の魔術が収まり、球体も安定した場所に着地した頃、それがボロボロと崩れて行き、中から口を両手で抑えたリナーテと気分を悪そうにしてるメリナと今にも倒れそうになってるメジーマが現れた。
「……はあ……はあ。とりあえず……距離を離すことは出来ましたね……後は任せましたよ」
彼はそう言った後、魔力を過剰消費したことが原因で倒れてしまった。2人はかなり気分を悪くしており、ふらふらしていた。
「うぷ……は、吐きそう」
「こうなるから……地形変動を使ってほしくなかったんだよ。気持ちわりい」
メリナは頭を抑えながらもウルたちを落とさないようになんとか努力した。
「けど、これであいつらと距離を離せた。後はウルたちを治療できるような場所と水源を探せば」
「残念だが、そう上手くはいかないぞ」
どこかから声がし、彼女たちは周りを見るが、どこにも他の人はいなかった。不審に思っていると、彼女たちの腕に紫色の光の腕輪が出現し、その腕輪から細い光の線が飛びだし、それが地面に当たって魔法陣を作成していく。魔法陣が完成すると、その魔法陣から白黒模様のシャツとズボンを着て、さすまたを持った男性が現れた。
「なんで……なんであんたがここに現れてんのよ!」
「ふふふ。俺の魔術のおかげさ。俺の魔術はマーキングポイント。触れた相手がどこにいようとすぐにその場にワープすることが出来る超便利魔術さ。この魔術があるからこそ、俺は牢の番人を担当出来てるんだよ」
「うわー。最低最悪なストーカー魔術ね。気持ち悪いわー」
「ヘラクレス様とははぐれてしまったが、貴様らごときは俺1人で簡単に潰せる。もう1度牢屋の中に入れていぇるとしよう」
「あんなとこは2度と行きたくないっての! リナーテ。あんたは下がってて。こいつは私1人で叩き潰すから」
「お前1人でやれるのか?」
「やれるかやれないか関係なくやるしかないでしょ。あんたはもう体内の水がほとんど残ってないみたいだし、メジーマとラルカはまともに戦える体じゃない。ウルやダレスってのは論外。なら私がやるしかないでしょ。心配しないでよ。あんなストーカー野郎はちょちょいと片付けてあげるから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます