第106話 激化する戦い
リナーテがカムペーと相打ちになった同時刻。プロメテウスたちは少し大きめの魔力の反応を察知し、その方を見る。
「ボス。この感じ」
「ええ。とんでもない爆発ですねえ。ここまでの大爆発を起こせるものが騎士団にいるとは。生きてる感じがなさそうなのが残念ですね。私も爆発を起こした人の戦いを見たかったです。プンプン」
「ずいぶんとよそ見してるなあ」
ケルーナは彼らが自分を向いてない隙に一気に近づき、蹴りを喰らわせようとする。しかし、カーリーは液体になってその攻撃を躱し、距離を取って人型に戻る。
「まあ良いでしょう。私はあなたと楽しませてもらうことにします。プロメテウス、あなたは手を出さないでくださいよ」
「かしこまりました」
「ずいぶんと余裕やな。その余裕がいつまで見れるか楽しみやわ!」
彼女は口から黒い豆のようなものをいくつも空中に吐き出す。
「行け。レベル1!」
それらは巨大な口を持った黒い玉に変化し、カーリーに襲い掛かって来る。彼女は慌てることなく液体に変化し、玉の攻撃を躱して接近し、近距離で人型に変わって黒い棒を振り下ろす。ケルーナがそれを受けとめた瞬間、彼女の足下が小さなクレーターのように凹み、巨大な岩で潰されるような重さと痛みが襲い掛かる。
「ぐ!? なんちゅうパワーや。アレスとは比べ物にならんのお」
「当然ですよ。私はヴァルキュリア家現当主。そんじょそこらの雑魚とは次元が違います!」
彼女は再び液体に変化して後ろに回り込んで人型となり、横から黒い棒を振って彼女を叩き飛ばした。
「うああ!?」
彼女は頭を叩かれた痛みに苦しみながらもなんとか体勢を立て直し、地面に着地する。
「やってくれるなあ。なら!」
彼女は口から黒い豆のようなものを地面に吐き出す。それが地面の中に潜り込んでいく。次の瞬間、カーリーのいる地面を突き破って巨大な蛇が出現した。しかし、彼女は飲みこまれるよりも先に液体化して逃げ出し、距離を取った。蛇は彼女を食おうと追いかけるが、彼女はその攻撃を躱し、棒で頭を叩き潰した。その瞬間、死んだ蛇の頭が大爆発を起こした。
「!? ボス!」
「……逃げてもうたか」
煙が晴れると、そこに彼女の姿は無かった。どこにいったのかと探すと、彼女はいつの間にかすぐ後ろに接近していた。
「後ろがお留守ですよ」
「忠告ありがと。でも大丈夫やで」
ケルーナがそう言った瞬間、彼女の足下から蛇が現れ、彼女を丸呑みした。次の瞬間、彼女のいたところが大爆発を起こす。彼女は蛇によって守られ、そのまま遠くへと避難して口の中から出て来た。
「さて。これでどのくらいのダメージになったんや?」
爆発が収まり、煙が晴れた場所にはまたしてもカーリーの姿がなく、いつの間にか爆発の及ばない箇所に避難していた。
「ふふふふ。凄いですね。爆発の威力もパないですし、なにより戦術が凄いです。こんなにも頭が良い人と戦えるなんて、私は幸せ者ですね。頭が良い人ってさっきみたいなとんでもない戦い方で攻めてきますから、それを見るのがとっても楽しいんですよ」
「無傷の状態で言われると腹立つなあ」
ケルーナはそう言いながら、右腕を抑える。
(あの攻撃でも傷1つ付かんとはな。あの液体になる魔術が大層厄介やのお。右腕の骨が折れてもうてるし、頭の中も出血してる。たった一撃でここまでのダメージ。レベル1やレベル2を瞬殺。攻撃力、魔術、動き。全てがアレスとはけた違いの強さ。流石はヴァルキュリア家当主つったところか)
「どうしました? あなたの実力はこの程度ではないでしょう。もっと楽しいものを見せてくださいよ」
「言われんくても見せたるわ。うちが作った切り札を。レベル0!」
ケルーナが体の中で新たなモンスターを作りだす準備をすると、カーリーたちは彼女から異質な気配を感じ取った。
「ボス。この感じ。明らかに普通ではありませんよ。ここは私も」
「ダメですよプロメテウス。せっかく面白そうなことが始まりそうなのに、あなたに邪魔されたくありません。この楽しみは私1人で独占したいんです」
「随分余裕やな。こいつを見ても同じ態度でいれるか楽しみやわ」
黒い豆を吐き出すと、それは巨大な魔物となる。腕はゴリラの何倍も太く、かなりの筋肉質である。大きさは3メートルを超え、顔は1つ目に裂けたような口と不気味なもの。腕と足、そして背中についてる蛇の何十倍もある尻尾は青い炎を纏っている。炎が出す熱気は凄まじく、遠く離れているプロメテウスですら、その熱さにやられてしまいそうだった。
(なんという熱量。恐らく、ボスが浴びている熱気はこれとは比較にならないはず。それにこの威圧感。今までの奴らとは次元が違う。こんな化け物を隠し持っていたとは。恐ろしい女ですね)
「これがあんたを倒すためだけに用意した切り札。レベル0や」
「ふふふふふ。アハハハハハハ! 素晴らしいですね。まさかこんなにもファンタスティックな魔物を持っていたとは。びっくりして嬉しくなって興奮して手汗が止まりません。どうすればいいでしょうか?」
「安心しなはれ。そんなことも気にならないくらいに痛い目見ることになるからな。レベル0!」
彼女が命令すると、魔物はぐるんと一周して炎をばらまく。ばらまかれた炎は円状に燃え盛り、まるで牢獄のように、カーリーとケルーナを閉じ込めた。
「これはパないですね。それにこの熱。服を着てなくて良かったですよ。この熱量だと、あっという間に燃えていたでしょうからね」
彼女は魔力で体を覆って熱をふせごうとしたが、それでも体中から汗をかくのを止めることは出来なかった。ケルーナの方は汗1つかかず涼しい顔をしていた。
「さあ。ここからはわっちの時間や。行け。レベル0!」
「UOOOOOOOOOOO!」
魔物は巨大な雄たけびをあげ、激しくドラミングする。それに反応するかのように、彼女たちを閉じ込める炎は更に勢いよく燃え盛る。そして魔物はカーリーの元へ突進していく。
「わお。さらに熱くなりましたね。それにこの重量感。常人ならこの振動を感じただけでちびっちゃいそうですね」
彼女は軽口をたたきながら上から振り下ろされる魔物の攻撃を躱そうと後ろに跳ぼうとする。しかしそれは間に合わず、魔物の腕に叩き潰されてしまった。
「ぐ!? これは」
「UOO。AAAAAAAAAA!」
魔物はそれで動きを止めることなく、何十回も彼女を叩き潰していく。
「ぐ……はああ!」
彼女はありったけの魔力を解き放ち、魔物の攻撃を一瞬だけ止め、その隙を突いて距離を離した。
「へえ。魔力を放った衝撃波で動きを止めるとはな。おまけにそこまでダメージも無さそうやし。もはや人を超えた化け物やな」
「あなたの魔物も凄いですよ。腕力がパないですし、なぜか動きも鈍くなってますし」
「そらそうやろ。こんな熱い場所におって体がいつも通りに動くわけないやん。ここの温度は今、1000℃は超えてるんや。体は熱くなるし中の水分も蒸発していく。もしかしたら血も蒸発しとるかもな。こんな温度で焼け死なないあんたの体の方が不思議やわ。魔力で体を守ってるにしてもこの温度に耐えれるのは異常としか言いようがないわ」
「1000℃ぐらいの温度なら耐えられますよ。私は
「わっちは慣れとるだけや。旦那様の熱が凄いもんやからな。これぐらいやったら涼しく感じるレベルやわ。正直あんたの化け物具合にはビビったけど、このフィールドで真に怖いのは熱やないで」
カーリーがその言葉に疑問を持ってると、突然体が重くなった。
(これは……まさか!?)
「気が付いたようやな。このフィールドは炎の牢獄。わっちらを閉じ込めてる炎は10000度近くある。その炎の燃焼量を維持するには、莫大な酸素を消費するねん」
「なるほど。酸素が減少し、炎に囲まれたフィールドでのデスマッチというわけですか。ふふふふ。あはははははは! 良いじゃないですか。やっぱり頭のいい人の戦いを見るのは楽しいですね。私の頭では思いつかないようなことを思いついて実行する。とっても楽しいです。ですが、酸欠で死ぬのも嫌ですし」
彼女は一気に距離を詰める。
「手早く終わらせましょう」
黒い棒を振り抜いた。しかし、その棒はケルーナの体をすり抜けていき、まるで何も無かったかのように彼女の姿が消えた。
「!? これは」
「馬鹿やなあ。わっちが何のためにおしゃべりしてたと思ってるんや」
声のした方を振り向くと、レベル0の魔物とケルーナが何人もいた。どれが本物かはカーリーには分からない。
「これは……蜃気楼ですか」
「へえ。すぐに理解出来るって凄いなあ。あんたの言う通り、これは蜃気楼を利用した幻覚。さあ。どれが本物のわっちか分かるかな? 早めに見つけんと酸欠で死んでまうから気を付けや」
「ふふふふ。こんなファンタスティックな仕掛けを用意してくれるとは。あなたの戦いを見れることは、私にとって至上の幸福ですね」
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