第102話 イシスとの戦い
カイツとアリアが戦っていた頃。騎士団メンバーのいる場所はカイツ達の戦いの出す衝撃波や魔力によって軽く揺れていた。リナーテはその揺れに怯え、ガクガクと震えている。
「ひええええ。さっきからでかい魔力がビンビン伝わって来るわね。ほんわかとカイツの魔力が感じられるけど、あいつどんな化け物と戦ってるのよ」
「恐ろしいな。魔力の感じからして、敵は、我がこれまで戦った奴らとは次元が違う。右腕がここまでの強者と戦って苦労してるのに……我はこんな所に捕らえれて情けない!」
「自分を蔑んでる暇はないですよ。一刻も早く首輪を破壊して、ここから脱出しないと」
なおも揺れ続けていると、ガシャンと何かが落ちたような音が響き、全員がその方を見る。そこには鍵束と1本の剣があった。
「メリナ! 凄い物あったよ!」
「あれは……剣と鍵か」
「あれがあれば、何とかなるかもしれません」
side カイツ
俺はイシスと対峙しながら、撤退する方法を考えていた。
「さて。行くぞ!」
奴の姿がいきなり消えたかと思った瞬間、何かに殴られたような一撃を何十発も喰らってしまった。
「があ!?」
「どうした? 余裕と言う割にはずいぶんとボコボコにされてるじゃないか」
「この程度の攻撃なら……どうにでもなる」
まずいな。スピードとパワーはアリアと同等。あるいはそれ以上だ。全開時でも確実に勝てないし、今の状態じゃまともに戦うことすら不可能だ。ならやるべきことは。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
俺は周囲の地面にいくつもの紅い球体をぶつけて爆発させ、辺り一帯を煙で覆う。奴の視界が封じられてる間にアリアを担ぐ。
「六聖天 脚部集中!」
第2解放した六聖天の力を足に集中させ、その場から全力で地面を蹴って逃げる。とにかく今は距離を離す。そうしないとウルたちを探す余裕もない。かなりの距離を走ったかと思ったが。
「おいおい逃げるなよ。せっかくだから戦おうじゃないか」
奴はいつの間にか俺の目の前に立っていた。
「……くそ。やるしかないのか」
「ああ。今のお前に残された道は2つ。私に殺されるか、私を殺すかの2つだ」
「だったら、お前を殺すしかないよな!」
俺はアリアを少し離れた所に置く。こんな所に置きたくないが、抱えたまま戦うのも危険だからな。足に力を込め、一気に背後を取る。
「剣舞・四龍戦禍!」
2本の刀で十字型の4つの斬撃を出そうとしたが、攻撃が届く前に奴の姿が消えた。
「遅い」
奴はいつの間にか俺の背後を取っており、振り向きざまに攻撃する。防御したり避ける素振りも見せなかったので、確実に当たるかと思った。攻撃は確かに当たった。だが、首を狙ったその一撃は薄皮を斬ることすら出来ず、その首で受け止められてしまった。
「……嘘だろ」
「脆いな。この程度の攻撃しか出来ないとは」
「舐めるな。剣舞・龍刃百華 凪!」
俺は奴の首に再び刃をぶつける。その直後、無数の斬撃が一箇所部分を襲うが、またもや薄皮すら斬ることが出来なかった。
「ふふふ。素晴らしい剣術だ。だがこの程度の攻撃で倒れるほど、私は甘くない」
嘘だろ。龍刃百華を1か所に集中させた攻撃でも傷すらつけられないというのか。
「しかし疑問だな。この程度の攻撃では神獣を倒すことは出来ない。どうやって神獣に勝ったのだ?」
「お前に教える理由はない」
一旦距離を離し、刀を1本に戻して鞘に納める。
「剣舞・紅龍一閃!」
刀を抜いて居合切りを放つが、その攻撃は奴の首に傷をつけることが出来ない。
「君の攻撃は確かに素晴らしい。剣術のレベルもかなりのもの。魔術の扱いも高レベル。だがそれでも、私に傷をつけることは出来ない」
「だったら、この一撃はどうだ。剣舞・双龍剣。六聖天 腕部集中!」
刀を再び2本に増やし、六聖天の力を腕に集中させる。刀は強い光を纏い、巨大な光の剣となる。
「剣舞・神羅龍炎剣!」
巨大な光の剣を奴に向かって奴にぶつけようとする。
「ほお。これほどまでの攻撃が出来るとは。だが」
奴は緑色に光る剣をその手に出現させた。だが関係ない。このまま奴の剣ごとぶっ壊す。
「うおおおおおお!」
「それでもまだ、私には及ばない」
その緑色の剣を俺の攻撃にぶつけると、巨大な光の剣が消滅し、弾き飛ばされた。
「……馬鹿な。神羅龍炎剣を」
「終わりだ」
いくつもの緑色のレーザーが放たれ、俺の体を貫いた。
「がはっ……こんな……ところで」
俺は負けるわけにはいかないんだ。ヴァルキュリア家を潰すためにも、こんな所で。
「しばらく寝ていろ。カイツ」
最後に放たれた緑色のレーザーが頭を貫き、俺の意識はそこで途絶えた。
カイツは意識を失い、その場に倒れた。
「さて。ここまでお膳立てしたんだ。そろそろ出て来ても良い頃だろ」
イシスのその言葉に反応するかのように、カイツの背中から紅い歪な翼が現れて襲い掛かって来る。彼女はその攻撃を緑色の盾を出現して防いだ。そして、意識が無いはずのカイツの体が起き上がり、血のように真っ赤な瞳が開かれる。
「やっと目覚められた。カイツもしぶといものだな」
「目覚めてくれて助かったよ。今度こそ貴様を倒す」
「お前もしつこいな。どんだけやろうが、無駄なんだよ!」
紅い翼が再び襲いかかり、彼女はそれを躱して一気に後ろを取る。
「遅い!」
しかし、彼はそのスピードに対応して裏拳で殴りつける。間一髪のところで防御はしたが、その勢いを殺しきれず、大きくふっ飛ばされてしまった。
「く! やはりそう簡単にはいかないか」
「あいつとは違う。お前程度のスピードなら簡単に見切ることが出来る」
彼が手を突き出すと、彼女の地面から巨大な紅い竜巻が飛び出し、その体を切り裂いてく。
「ぐううううう!? このお」
「そのまま体をミンチにしてやるよ」
「生憎だが、ミンチにされるわけにはいかない!」
彼女は自身の体内から強大な魔力を放出し、竜巻を消し飛ばした。
「やるね」
「お返しだ」
そう言って指を星型に振ると、緑色の魔法陣が現れた。
「崩衝流星群!」
魔法陣から緑色の流星が空を舞い、あらゆる方向から襲い掛かる。彼は翼を周囲に纏ってその攻撃を防御した。攻撃が終わった後、彼女はその手に緑色の緑色のフランベルジュのような剣を生み出して詰め寄り、翼を破壊して体を切り裂こうとする。しかし、その攻撃は紙一重で躱され、そこから続く攻撃も簡単に躱されていく。
「やるねえ。あっちの異世界で戦った時よりも動きにキレが出ている。だがその程度じゃ俺には勝てないぞ」
「ならこの程度の攻撃はどうだ?」
彼女が指を立てると、足下に緑色の魔法陣が現れた。
「崩衝滅魔!」
魔法陣から出た巨大な光の柱が2人を飲みこもうとするが、彼はその攻撃を遠くに飛んで回避した。
「あぶねえな。消し飛ばす気満々じゃねえか」
「当たり前だ。貴様は害悪そのものだからな!」
その瞬間、空中に巨大な緑色の魔法陣が二重で浮かび上がる。
「崩衝大時雨!」
魔法陣から雨のように緑色のレーザーが降り注いだ。再び翼で防御しようとするが、嫌な予感が脳裏をよぎり、咄嗟に飛んで回避した。レーザーが翼をかすめると、その熱と光によって翼が抉れてしまった。
「この威力」
必死にそれらの攻撃を避けて行くが、翼まで回避させるのは間に合わず、翼の大半が消し飛んでしまった。
「くそ。私の翼を」
「これで終わりだ」
彼女はいつの間にか距離を詰めて背後を取っていた。
「消えろ!」
背後からの攻撃は腕で受け止められる。刃が深く入り込んだが、斬り落とされることはなかった。
「生憎だが、まだ消えねえよ!」
彼が腕を振ると、彼女の体に何かで斬られたかのような傷がついた。
「ぐ!? 面倒な攻撃だな」
一旦距離を取り、右手から何発ものレーザーを放つ。彼がその攻撃を躱しながら距離を詰めようとすると、彼女が指を立てる。その直後、巨大な緑色のレーザが上空から降って来る。間一髪のところで躱したものの、足に被弾してしまい、レーザーによって焼かれてしまった。
「くそ。やってくれるねえ」
腹立たしそうにそう言って腕を振ると、彼女は横に飛んだ。その直後、彼女が元いた場所に何かで斬られたかのような亀裂が走る。
「やはり今の状態だと大した威力にならないな」
「相変わらずえげつない魔術だな。これで全力でないとは恐ろしい」
「お前の魔術もえげつねえだろ。
「覚えてたのか。私の魔術になど興味をもたないと思ってたが」
「邪魔になりそうな奴の魔術くらいは覚えるさ。お前は面倒な奴だからな。少ししんどくなってきたし、そろそろここで……ごふっ」
彼は突然吐血し、その場にうずくまってしまう。
「ぐう……のやろう。またか」
そして、その体を白い光が覆い始めた。光から粒子が生まれ、頭上で人の形を作っていき、小さな少女となる。天使を思わせるような羽が3対6枚生えており、髪はカイツと同じ銀色。髪は腰まで伸ばしており、美しくなびき、頭からは狐のような耳が生えていた。
「やっぱり、てめえが邪魔して来たか。ミカエル」
「この程度のことは予測出来たじゃろ。妾はお主に好き勝手されたくないからのお」
「くそ。ほんと鬱陶しいな。どいつもこいつも私の邪魔してさあ」
「お主みたいな害悪はさっさと倒しておきたいんじゃよ。カイツもうすうす気づいてるようじゃし、尚更倒さないといかん」
「ふふふ。ほんと、計画の達成も楽じゃないねえ。」
「お主の計画など達成させぬよ!」
ミカエルの手が輝くと、カイツの体に激痛が走る。
「ぐ!? ぐあああああああああ……この野郎」
「残念だったな。お前はここで終わりだ」
イシスはその隙を突き、何発ものレーザーを放ち、それがカイツの体を貫いた。
「があ……こんな……ところで……なんてな!」
「!?」
彼の姿が消えたかと思うと、いつの間にか遠く離れていた。
「貴様」
「あの程度で私がやられるかよ。お前たちとの戦いのおかげで、今どれだけ好き勝手やれるかもなんとなく分かってきた。ついでにイシスの実力も把握できたし、今はこれで十分だな。体がしんどくなってきたし、そろそろ帰らせてもらうよ」
「このまま逃がすと思っているのか!」
とどめを刺すために何発ものレーザーを放とうとすると、それよりも速く、彼の紅い瞳が元の色に戻ってその場に倒れた。
「……ちっ。また仕留められなかったか。まあいい。今はこれで良しとしよう」
「……イシスといったか。お主のことは一応、味方と見て良いのか?」
「好きにしろ。私はお前の味方であるつもりはないがな」
「なるほど。妙な動きをしているかと思ってたが、そういうことじゃったか。まあそれでええわ。カイツに敵対しないのなら、妾は敵対するつもりはない。妾もそろそろ帰らせてもらう」
「勝手にしろ。貴様は味方ではないが、今すぐに倒さないといけないわけでもないからな」
「それは助かるのお。お主と敵対するのは骨が折れそうじゃし」
そう言った後、ミカエルは姿を消した。
「ふう。色々あったが、何とかなりそうだな。ようやく私のやりたいことを始められる。ふふふ。この時をどれほど待ちわびたことか。後はカイツを連れて行くだけ……あの神獣も連れて行ってやるか。あれが死んだら、カイツが悲しむだろうしな」
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