第101話 アリアVSカイツ
カイツとアレスが戦っていた頃、メリナ、リナーテ、メジーマ、ラルカは必死に首輪を壊そうとしていた。メジーマが必死にメリナの首輪を壊そうと引っ張っていたが、壊れるどころか亀裂が入りそうな気配も無かった。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
「メジーマ、もっと気合入れてろ! そんなんじゃいつまで経っても首輪壊せねえぞ!」
「全力で力入れてますよ! しかし、魔力も込められない今の状況では、それほど力が出ないんですよ」
「くそ。さっさとこいつら治療して脱出しないといけないってのに。」
ラルカもリナーテの首輪を引きちぎろうとしていたが、結果は芳しくなかった。
「ダメだあ。我の腕力ではこの首輪を壊せん」
「次は私がやる。この首輪さえ破壊出来れば、あとはなんとかなる。絶対にぶっ壊してやる!」
「頼むぞ。我が右腕の友よ」
メジーマはそんな光景を見ながら少しばかり焦っていた。
「何とかしないといけませんね。いつまでもこんな所にいるわけには行きませんし」
時を同じくして。とある場所にて。
プロメテウスは図書館のような場所にいた。壁一面に本がぎっしりと並んでおり、本棚が塔のように建てられている。彼は椅子に座り、1冊の本を読んでいた。そんな彼に近づく者が2人。1人は仮面を着けた女性。もう1人は日焼けした体に黒のサングラスを着けた男性だった。
「ヘラクレスにイシス。何の用ですか?」
「よおプロメテウス。早速だが悪いニュースだ。古代の神獣がアレスを倒してしまったらしい。あいつは良い奴だったのに残念だ」
「その程度のことは既に知ってますよ。あいつはアダム……いえ、カイツとぶつかるようですし、2人が消耗した所を私が殺します」
「その仕事。私に任せてもらえないか?」
イシスがそう言うと、プロメテウスは意外そうな顔をした。
「今までまともに働くことが無かったのに、どういう風の吹き回しですか?」
「大した意味はない。あの神獣とは戦ったことがあるから分かる。多少消耗した程度でお前に負けない。私が殺った方が良い」
「ほお! プロメテウスに勝てるとはとんでもない化け物だな。俺を満足させてくれそうだ」
「……良いでしょう。ならば神獣の相手は貴方に任せます。ヘラクレスは牢の番人と協力し、牢に入れた者たちを研究室のカプセルににぶちこんでおいてください」
「了解だ。ところで、お前は何をするんだ? そうやって本を読んでるだけか?」
「ここで敵が来るのを待ちます。ボスの首を取るには、ここを通過しないといけませんからね。ですからここを守っていれば、ボスの首を取りに来る雑魚を一掃することが出来ます」
「全く。相変わらずニートみたいな奴だな。たまには俺やアレスのように体を動かすべきだと思うが」
「インテリはじっとしている方が性に合ってるんですよ。それに、護衛だって立派な仕事ですから。それより、さっさと行動して牢にいる奴らをぶち込んでください。イシスも神獣がいるところに行ってください」
「了解だ。神獣と戦えないのは残念だが、俺は自分のやるべきことをやるとしよう」
「……行ってくる」
彼らはそう言ってその場から姿を消し、彼は再び読書を再開した。
(残るヴァルキュリア家はボス、イシス、私、ヘラクレスの4人。ま、残った奴らを狩るには十分でしょう。イシスの実力はボスと同等。古代の神獣とはいえ、彼女に勝つことは不可能。牢屋にいる雑魚もなにやら動いてるようですが、仮に首輪を壊して牢屋を抜けても、ヘラクレスに勝つことは出来ない。仮に勝利できても、私やボスには勝てませんし、脱出も不可能。騎士団の負けは確実ですね。
問題はカイツの中にある呪い。スティクスやアレスとの戦いでも動きは見れませんでしたが、神獣やイシスが相手なら動かざるを得ないはず。呪いの目的。しかと見定めるとしましょう)
彼はそう考えながら、本をめくっていた。
side カイツ
「さて。邪魔者も消えたし、戦おうよ。カイツ」
そう言うと、彼女は一瞬で距離を詰め、俺に殴りかかって来る。対応できずに殴られるかと思ったが、下半身が砲台のような形をした怪物がその攻撃を受けとめた。
「邪魔だ!」
彼女は腕を振り、怪物を消し飛ばし、こっちにも衝撃波が飛んできた。腕を振るだけでここまでの威力。アレスとは比べ物にならないほどの力だな。
「そら行くよお!」
彼女が再び殴りかかってきたので、その攻撃を2本の刀で受け止めたが、勢いを殺しきれずに大きくふっ飛ばされてしまった。
「ぐ!? この野郎」
なんとか体勢を立て直して着地すると、彼女は目の前から姿を消していた。どこに行ったのかと思うと、彼女はいつの間にか後ろに来ていた。
「遅いよ」
再び彼女が殴りかかり、その攻撃をモロに受けてふっ飛ばされ、何回もバウンドしながら地面を転がっていった。
「ごは!? くそ……なんてパワーだ」
「凄いでしょ。今の私はフェンリルの力をほぼ100%引き出すことが出来る。カイツじゃ相手にならないよ!」
彼女が再びこっちに接近しようとした瞬間、彼女の足下の地面が崩れ、巨大な蛇が彼女を丸呑みした。しかし、彼女はその蛇を即座に内部からバラバラにした。
「この程度の攻撃が効くとでも?」
「思ってへんよ。やからこいつがいるんや」
ケルーナが指を動かすと、地面から巨大な黒いレーザーが放たれ、彼女を飲みこんだ。
「全く。とんでもない化け物やのお。わっちのレベル3を瞬殺するとは。カイツはん。大丈夫か?」
「なんとかな。だが、もう体が限界に近い。あと1回でも攻撃が掠れば終わりだ」
「なら、早急になんとかせんとな」
彼女は口の中から緑色の玉を取出し、それを地面に投げる。
「ヒーリングガス!」
玉から緑色のガスが噴き出し、俺の体を満たしていく。その瞬間、身体中の傷が修復し、痛みが治っていった。
「これは」
「わっちの体で作った回復ガス。効能はわっちのお墨付きやで~」
確かに効能は凄いものだな。ここまでのものを生み出せるとはな。
「あちゃー。そういえばそんなのもあったんだねえ。すっかり忘れてたよ」
声のした方を見ると、彼女はいつのまにかこっちに来ていた。体に傷はなく、ピンピンしている。
「わっちの攻撃をものともせんか。ほんまに化け物みたいな奴やのお」
「あの程度の攻撃なんて、私にとっては蚊に刺されたような感覚なんだよ」
「……ケルーナ。お前は他のヴァルキュリア家を潰しに行け。こいつは俺が倒す」
「ええんか? わっちをフリーにして。もしかしたらあんたのお仲間殺すかもしれへんで」
「さっきの戦いと回復させてくれた件で確信した。理由は知らんが、お前はヴァルキュリア家を潰すためにここに来た。俺たちの仲間を傷つけることはない。ならフリーにしても大した問題は無い。それに、奴らを倒すための切り札もあるんだろ?」
「……参ったなあ。そこまで見抜かれるとは思わんかったわ。もうちょいミステリアスな雰囲気出したかったのに」
「ただし、ヴァルキュリア家当主カーリー。こいつだけは俺が殺すから間違っても手を出すなよ」
「努力するわ。ほな、頑張ってな~」
彼女はそう言ってその場を去っていった。
「さっき。なんて言ったの?」
「お前を倒すって言ったんだよ」
「誰が? 誰を?」
「俺が、お前を倒すって言ったんだ」
「……ぷ、はははははは! 寄生体ならまだしも、カイツじゃ私を殺せないよ。多少体を治した程度で、私との距離が縮まるわけないじゃん」
そう言うと、彼女は一瞬で姿を消した。そして気が付いた時には、俺の後ろに立っていた。
「ほら。こんなにも簡単に後ろを取れる」
即座に刀を振るが、その攻撃は簡単に躱されてしまい、また後ろを取られる。
「外れー」
また振り返りざまに攻撃するも、それは当たらずに躱されてしまった。そして次の瞬間、背中に2つの斬撃が走る。
「が!? この傷は」
「あんまりにも遅いからゆったりつけさせてもらったよ。にしても、カイツはノロマだね~。ノロノロカイツだね~」
この女。完全に俺のことを舐め腐ってるな。だが隙は全く存在しない。それに彼女の言う通り、俺のスピードは彼女とは比べ物にならないほどに遅い。奴の動きに全然ついていけてないからな。この状況を何とかしない限り、勝つ可能性は0。さてどうするべきか。
「さあ。どんどん行くよ!」
彼女は一瞬で距離を詰めて斬りかかり、俺はその攻撃を受けとめる。
「これ以上好き勝手させるかよ。剣舞・四龍戦禍!」
「獣王剣・天!」
2本の刀で4つの斬撃を十字型に放つと、それと同時に彼女が腕を振り抜き、巨大な斬撃が俺の攻撃とぶつかり合って巨大な衝撃波を生む。
「ぐ!? この威力は!」
「あははは。これは凄いね」
その衝撃波で地面が抉れ、俺は大きくふっ飛ばされ、壁に叩きつけられた。周りを見渡すと、さっきの衝撃波で瓦礫なども吹き飛んでいる。
「くそ……なんつう威力だ」
しかも腕を見てみると、何かに斬られたような大きな傷があった。俺の四龍戦禍で相殺できなかったということか。第2解放の攻撃を軽々と超え、バカでかい衝撃波も生み出す。これがアリアの本当の実力というわけか。彼女もふっ飛ばされてるがピンピンしており、傷を負った様子はない。速度だけじゃない。パワー、耐久力、戦いにおける全ての能力が俺とは比べ物にならないほどに格上。
「カイツの力って、思ったより弱いんだね。手加減するのも苦労するよ」
最早戦うとかそういう次元じゃない。彼女にとっては、死なないように手加減して攻撃する。ただそれだけのこと。これが、今の俺とあいつの差だというのか。こんなのどうやって戦えば勝てるというんだ。
「そら。休んでる暇はないよ!」
そう言って彼女の姿が消えたかと思うと、腕に斬撃が走り、かと思ったら今度は腹を斬られ、痛みを感じてる暇もなく、背中を斬られ、気が付いたら体をズタズタに切り裂かれていた。
「がは……嘘……だろ」
速いとかいう次元じゃない。気が付いた時には既に斬られてる。こんなの、生物が出して良い速度じゃないだろ。ここまで成長してるのは驚きだ。
「ほら。私を倒すんじゃなかったの!」
いつの間にか後ろをとられており、攻撃してくる。何とか2本の刀で受け止めるも、受けとめた瞬間に体に2本の斬撃が走った。防いだつもりだったが、全く防げていなかったようだ。
「やるう。3回目の攻撃を防ぐとはね。かっこいいよ」
「アリア。てめえはなんで俺と戦う? 薬のせいってわけでもないだろ?」
「……へえ。気づいてたんだ」
「覚醒したきっかけは薬なんだろうが、お前は自分の意思で考え、行動してる。それぐらいのことは分かってんだよ」
「あははははは! 嬉しいねえ。カイツがそこまで私のことを分かってくれてるなんて。キュンキュンしちゃうよ!」
彼女は俺の頭を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
「が!? この」
「さて。そろそろ気絶してもらうよ」
「するか! 剣舞・五月雨龍炎弾!」
アリアと俺の間にいくつもの紅い球体を生み出し、それを爆発させ、炎や煙、衝撃波がこっちに襲い掛かる。彼女はいつの間にか遠くに離れ、爆発攻撃を回避していた。あの攻撃すら避けられるとはな。本当、化け物みたいなスピードだ。他の魔物とかはともかく、これに対応できる人間なんて存在するのか?
「まだ気絶しないんだ。すごいタフだね」
「当たり前だ。俺はヴァルハラ騎士団のメンバーやお前を取り戻して、ヴァルキュリア家のメンバーを潰さないといけないんだ。こんな所でくたばってる余裕はないんだよ」
「……ヴァルハラ騎士団ねえ。それってそんなに大事?」
「当たり前だろ。彼女たちは俺の仲間だ。大事じゃないわけがない」
「……そうだよね。カイツはそう言うと思ったよ……でもさ! 私はそれが気に入らないんだよ!」
彼女の殺気がさらに強くなり、魔力がさらに高まっていく。まるで彼女の怒りに反応してるかのようだ。
「カイツはいつもいつも色んな女と一緒にいる。私はそれがずっと嫌だったんだよ! カイツは優しいからメス共が沢山寄って来て盗ろうとする。私にはカイツしかいないのに!」
彼女は一瞬で距離を詰め、鋭い爪で斬りかかって来る。その攻撃を2本の刀で受け止めると、足元の地面がクレーターのように凹み、腕の骨にヒビが入ったような音が聞こえた。うつむいていて表情は良く分からないが、頬を伝う涙は見えた。
「私はずっと奴隷で地獄のような生活をしてた。でもカイツはそんな私を助けだしてくれた。だから一緒にいたいと思えた。ずっと一緒にいたい、暮らしていきたいって。でもウルもミカエルもダレスもクロノスも! みんながカイツを盗ろうとしてくる。嫌だ。カイツが他の誰かのものになったら、私はまた1人になる。そんなの嫌なんだよ!」
彼女は俺の刀を掴み、力一杯に投げつける。抵抗することすら出来ずに投げ飛ばされ、何度も地面をはねながら転がっていった。
そうか。アリアはそんなことを考えてたのか。だからあいつは騎士団を。
「私のものにならないなら、私のものになるよう、カイツの周りのものを全部ぶっ壊す! ミカエルも、ウルも、クロノスも、その他の奴らも。そして、カイツの中にいる寄生体も!」
寂しさゆえの破壊衝動。その気持ちはある程度理解は出来る。大切なものが無くなるのは嫌だ。だから人は、それを守り、己の手の中で生かそうと必死になる。俺だってそんな時があった。彼女は1人になることを恐れてる。なら、俺がすべきことは。
「そういうわけでさ! とっとと寄生体に主導権を変えろよ!」
彼女は怒り狂いながら距離を詰め、爪で切り裂こうとしてくる。俺はその攻撃をその身で受け、血が彼女や俺、周りの地面に飛び散った。
「!? なんのつもり? 全く抵抗せずに攻撃を受けるなんて」
「俺自身がやるべきことを理解しただけだ。俺がやることは、お前と戦うことじゃない」
「その通りだよ。やっとわかったんだね。カイツがやるべきことは、さっさとやられて寄生体に主導権を渡す事だよ」
「それも違う。俺が本当にやるべきことは」
俺は両腕を広げ、力強く彼女を抱きしめた。
「な!? 何を」
「ごめん。お前がそこまで辛い思いをしてるなんて全く分からなかった。だがこれだけは聞いてくれ。俺は、他の騎士団のメンバーよりもお前を大切に思い、愛してる」
「……ふ、ふざけるな! そんな口だけの言葉なんて!」
彼女は何度も俺を殴るが、俺はそれでも離さないように必死に抵抗する。
「本当だ! 最初はただお前を助けたいと思ったから助けた。その程度の関係だった。でも、お前と一緒に過ごす時間は凄く楽しかった。お前は色んなものにワクワクしたり、感謝したり、急なスキンシップ取ってきたりと。そういう風に過ごす時間はとても楽しかった。お前が一緒に寝て、心を許してくれることが嬉しかった。お前と一緒に食う飯は今まで1人で食う飯よりも美味かった。俺はお前のことを心から愛してるんだ」
「今更そんな言葉で……私は止まらないんだよ!」
彼女はさらに強い一撃を俺の腹に入れ、吐血してしまう。
「そんなこと言ったって、カイツはすぐに他の女の所に行って助けに行く。私がそれがどれだけ嫌なのかも知らずに! 本当に私を愛してるなら、私だけを見てよ! ミカエルもウルも、寄生体も。何もかも捨てて私だけ見て!」
「……ごめん。それは出来ない。俺にはやるべきことがあるし、困ってる人は見過ごすことは出来ない。たとえ、お前が嫌がる女性だったとしても。それは変わらない」
「じゃあここで倒れててよ。困ってる女も、仲間も全部消してあげるからさ!」
「させねえよ。お前にそんなことはさせたくない」
「ざけんな……お前が私をこうしたんだよ。お前のせいで私は!」
彼女は爪をとがらせ、俺の体を切り裂いた。
「……そうだ。お前を変えてしまったのは俺だ……だから取り戻す。本当の気持ちを伝えて。俺はお前を愛してるんだ! だから絶対に連れ戻す!」
「言葉だけじゃ止まらないって……言ってんだろ!」
「言葉で……分からないなら!」
俺は彼女を顔を両手で抑え、その唇にキスをする。彼女はいきなりのことで戸惑ってるのか、真っ赤な顔で困惑したような表情を見せるが、俺はそれを無視してキスを続ける。その憩いのまま彼女を押し倒し、俺が彼女にのしかかるような姿勢になった。
「これで……信じてくれるか?」
「ふ……ふざけるな……私は、この程度のことで」
「だったら」
俺は彼女を抱きかかえ、再びキスをする。今度はさっきよりも深く、長く続ける。アリアは最初こそ抵抗していたが、次第に大人しくなっていった。
「まだ足りないか? これだけすれば」
彼女は俺の言葉を遮るようにまたキスをし、舌を入れる。そして彼女は俺の首に手を伸ばし、自分の方へと引き寄せた。
「んぅ……ん、んあ……んんっ」
長い口づけを終え、俺とアリアは互いに見つめ合う。
「はぁ……はぁ……」
アリアは頬を赤く染めながら息を整え、潤んだ瞳でこちらを見つめていた。
「カイツ……私は」
「アリア」
俺は彼女を抱え、強く抱きしめる。
「俺がずっとそばにいる。約束する。お前のことを愛してるんだ。だから戻ってきてくれ。お前がいない部屋は寂しいんだよ」
「……カイツ」
(そうか。私はこんなにもカイツに愛されてたんだ。こんなことしなくても……私は。なのに、そんなことにも気づかないで、勝手に癇癪起こして)
彼女は俺を強く抱き返し、俺の顔を見た。彼女の目からは涙が流れており、俺の服を濡らす。
「カイツ……ごめんなさい。私、本当はこんなことしたくなかった。だけど怖くて、どうしようもなくて。だからあなたを傷つけるようなことをしてしまった。ごめんなさい」
「もう良い。お前は何も悪くないんだ。お前が戻ってきてくれるだけで、俺は嬉しいから」
俺達は自然と見つめ合い、お互いに求め合うようにキスをした。そうしていると、突然彼女の体が光り始めた。彼女の髪や獣耳が黒くなっていき、四肢に生えてた白い毛はボロボロと抜け落ちて行って、左目の青い炎も消えた。
「カイツ……ありがとう」
彼女はそれだけ言うと、意識を落としてしまった。脈に異常はなく、ただ気絶しているだけみたいだ。どうやら元に戻ってくれたようだな。
「……何とか……なったか。ぐ!?」
安心すると、いきなり体の痛みが酷くなり、その場にうずくまってしまった。
「はぁ……はぁ……流石にこうも連戦が続くとしんどいな」
『お疲れ様じゃ。頑張ったのお。にしても、この小娘にも困ったもんじゃ。惚れた腫れたでとんでもないことをしてくれたのお』
そう言いながら。ミカエルが実体化して現れた。
「彼女を責めないでやってくれ。ここまでこじれたのは俺が原因なんだから」
「お主にそこまで非があるとは思わんが……ところで、お主はこの小娘に愛してるだの言ってキスまでしたが、実際の所本命は誰なんじゃ? 妾か? こやつか? それとも別の女か?」
殺気と圧が凄い。下手なことを言ったらそのまま粉微塵にされそうだ。ミカエルの奴、相当怒ってるな。
「……今はノーコメントで頼む。やることまだあるし」
「……まあ良いじゃろう。後できっちり答えてもらうからな」
「あいさー」
「さてと。これからどうするんじゃ?」
「とりあえず、ウルたちを探しに行く。彼女たちを見つけな――!? くそ。この気配は」
「最悪のタイミングで現れたのお。カイツ、気合入れ直せよ」
ミカエルはそう言って玉に戻り、俺の服の中に入る。そして、歩いてくる足音が1つ。アリアを傷つけないようにゆっくり寝かせ、音がする方を睨み付ける。現れたのはピエロ仮面を着けた黒いコートの女性だった。
「イシス」
「おや。ずいぶんと傷だらけだな。そんな状態で私と戦えるのか?」
「はん。お前と戦うには、これぐらいのハンデでも余裕だ」
ここは踏ん張りどころだな。今の状態でこいつに勝つのは不可能だし、なんとかしてこいつから逃げきらないと。
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