第98話 闇満ちる神の都 タルタロス
side カイツ
目を覚ますと、俺は赤い海の中にいた。血のように真っ赤な海の中。というか、ここ来たことあるぞ。確か、アルフヘイムの時にも。なんなんだここは。
「ふふふ。まさかここでまた会えるとは思わなかったわ」
海の中にはもう1人の女性がいた。銀髪の髪と雪のように白い肌。そして、目は血のように赤く染まっていた。狂気的な笑みを浮かべるその顔。真っ黒なセーラー服とスカート。俺はその姿に見覚えがあった。
「お前……なんで、ここに」
「あら。私のことが見えるようになったのね。この前体を奪った影響かしら。それとも、冥府の影響だったり? まあいいわ。こうして貴方に素顔を見せることが出来て嬉しいわ。貴方と会うのは、牢屋の時以来ね」
「……まさか、スヴァルトアルフヘイムで俺の体を乗っ取ったの」
「そう。この私の仕業よ。貴方の体を乗っ取って、色々させてもらったわ」
「どういうことだ。お前にそんな力は無かった筈。それに、死んだはずのお前がなんでこんな所に」
「ふむ。私がやったことは理解してないのね。まあいいわ。それよりも、せっかくここに来たのだから、少し味見を」
彼女がそう言って近づこうとすると、真っ赤な海は急に荒れ狂い始めた。
「なんだ!?」
「思ったより動きが速いのね。相変わらず過保護なこと。カイツ。残念だけどお別れよ。また会える日を楽しみにしてるわ」
「……イツ。カ……。起きろ!」
誰かが俺を呼ぶ声がし、俺は目を覚ました。視界に入ったのはミカエルの顔であり、彼女は俺の上に乗っかっている。
「ミカエル」
「ようやく起きたか。随分うなされておったようじゃが、何かあったのか?」
「……会うはずのない怪物と会った。それよりここは」
辺りを見渡すと、そこは真っ暗闇な世界だった。よく見てみると、崩れた建物や瓦礫やらがあちこちに転がっている。
「なんだ。ここ」
「おそらく、ここがタルタロスとかいう所なのじゃろう。お主はここを知らぬのか?」
「ああ。初めて来る場所だ。館の時に感じた感覚からして、異世界って感じなんだろうが」
ここまで不気味な世界は初めてだな。それに人の気配を全く感じない。一体なにがどうなっている。
「とりあえず、進むしかないな」
「じゃな」
ミカエルは玉になって俺の懐に入り、俺は闇の中を歩いていく。崩れた建物や瓦礫。文字が消えかかってる看板。まるで人が住んでたような形跡がある。誰かが住んでたとして、何があったらこんなことになるんだ。というか、ウルたちは今どこで何をしている。全く連絡が取れないが、無事なんだろうか。そう思いながら歩いてると、妙な気配を感じ、気配がする方へ振り返った。
「なんだ。あれ」
目に見えたのは不気味な人型の何か。真っ黒な体。背中には歪な黒い翼が1つ。真っ赤に染まった目は焦点が合っておらず、薬でもキめたかのような目をしている。どういう奴かは分からないが、敵であることは間違いないな。
「UAA……AAAAAA!」
奴は呻き声をあげながらこっちに向かってきた。俺は刀を抜いて接近し、すれ違いざまに首を斬り落とす。
「AA……AA」
奴は意味の分からない声を出しながら倒れ、その体は黒い霧となって雲散した。さっきの奴。手ごたえがあまり感じられなかった。それにこの霧。どう見ても体に良くなさそうだが、一体なんなんだ。
「ミカエル。さっきの奴について何か分かるか?」
『うむ。少しばかり
「ということは、
十中八九、ヴァルキュリア家が関わってる物だろうな。それにしても、どういう才能があれば、こんな不気味なものばかり作り出すことができるんだか。そう思いながら周りを見ると、いつの間にかさっきの黒い人型もどきが大量に湧いて来ていた。
「ひとまず、こいつらを片付けるか」
考え事や人探しはその後だな。
同時刻。とある場所にて。
「ん……んうう……ここは」
「目が覚めましたか。リナーテ」
リナーテが目をこすりながら意識を覚醒させると、彼女は目の前の光景に驚きを禁じ得なかった。
「ちょ!? なにこれええええええ!」
自分たちはいつの間にかあちこちがボロボロになった牢屋の中に閉じ込められており、首輪のような物を着けられていた。周りを見ると、ウル、ダレスが血だらけになって倒れており、メリナ、メジーマ、ラルカは目を覚ましている。
「メジーマ。これどういうことよ! ていうか血だらけで倒れてる人が1人追加されてるんだけど!」
「どうやら、俺たちは捕まってしまったようです。それと、追加で倒れてるのはウル・ルーミナス。ラルカと同じ、ノース支部所属の団員です」
「くそ。まさかこの我が敵に捕らえられるとはな。情けないものだ。これでは右腕に合わせる顔がない」
「まさか牢屋に閉じ込められるとはね。でも、この程度の鉄格子なら私でも。アタックコマンド、w@7Q!」
彼女はコマンドを唱えるが、何も発動しなかった。
「なんで!? 私の魔術が使えない!?」
「この首輪のせいですよ」
メジーマはそう言いながら、首輪に手をかけ、彼女に見せる。
「この首輪は恐らく、封魔の首輪。これに繋がれてる間は、いかなる魔術も発動できません。おまけに道具も全て取り上げられました」
「え……じゃあ私たちが今出来ることって」
「ありませんね。メリナ。お2人の怪我はどうですか?」
「良くないな。2人とも外傷が酷い。特に酷いのは赤髪の女だな。なにをされたのか知らないが、身体中の骨や臓器がめちゃくちゃにされてる。魔術で治療しようにも水がないし、そもそも首輪のせいで発動出来ないし、このままだとかなりまずい」
「……どうしたものですかね。素の身体能力だけで壊せるほど牢屋は脆くないですし、抜け穴のようなものも無し。脱出するのはほぼ不可能でしょう。完全にお手上げ状態ですよ」
メジーマが落ち込んでいると、ラルカが発言する。
「ふっふっふっふ。皆の者。心配するな! 我らノース支部には切り札にして我の右腕。カイツ・ケラウノスがいる! あの男がいれば、こんな牢屋などちょちょいのちょいだ!」
「そうか! そう言えばカイツがいたのね。確かにカイツならこんな牢屋や首輪もちょちょいのちょいだわ!」
「そうだな。カイツがきっと私たちを助けてくれるはずだ!」
「俺はそのカイツという男を良く知りませんが、それほどまでに強いんですか?」
「あったりまえよ! カイツはギルド最強と呼ばれるほどの実力で、あいつより強い男はいないんだから!」
「私もカイツ以上に強い男は知らないな。あいつは人類最強の団員だと思う」
「ふむ。ずいぶんと買ってるようですね。しかし、ここにいる奴らも相当化け物ですよ。糸を出す女に服がピチピチの筋肉男、それに加えてラルカが会ったという男性2人。そして俺たちを飲みこんだ黒い水。これだけの奴らを相手に、彼が勝ってくれるといいんですが」
「勝つさ。我は右腕の実力は詳しく知らんが、あいつからは強いオーラをビンビン感じた。あの男ならきっと勝ってくれるさ。我らはあの男が助けに来るのを待ってれば良い!」
「ま、あんまり待ってばかりもいられないがな。さっきも言ったが2人は重傷だ。さっさとこの首輪を外してくれないとまずいことになる」
「……妙なレースになってますね。2人が生きてる間にカイツとやらが来るのが先か、あるいは彼が来る前に2人が死ぬのが先か。出来ればさっさと来てほしいものです」
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