第99話 アレス強襲!

 side カイツ


「ようやく片付いたか」


 何十体もいた黒い人型もどきは全滅し、全員が地に倒れている。数は多かったものの強さは大したことなかったので簡単に倒すことが出来た。倒したせいで人型もどきが発している黒い霧が辺りを覆っており、そのせいで視界が少し悪いが、これぐらいの悪さならそこまで問題ない。問題なのは少しばかり吸い込んでしまったことだ。なんの影響もないと良いんだが


『ようやく片付いたか。ずいぶんと時間がかかったのお』

「数が多かったからな。そのせいで無駄に時間を取られた」


 俺はウルたちを探すため、再び歩き始めた。それにしても、あちこち酷い有様だな。建物がめちゃくちゃであちこちに瓦礫が落ちてる。だが妙だ。今まで色んな世界に行ったが、どの世界にもそこに住む特有の種族がいて生活があった。なのにこの世界には誰も住んでいない。周りの惨状からして誰かが生活してたのは明らかだ。なら誰が住んでた。住んでた奴らはどこに消えた。ヴァルキュリア族が根こそぎ連れ去ったのだろうか? だとしても、血の1滴や死体の1つも見つからないというのは明らかにおかしい。奴らは不要と思った存在は全員殺す外道だし、ペルセウスは虐殺大好き人間だ。全員生きたまま捕まえるというのはありえない。


『カイツ。そんなことは奴らを叩き潰せば分かる話じゃ』


 考え事をしてると、ミカエルがそれを見透かしたかのように言う。


「……そうだな。そのためにも、ウルたちを探しながら、奴らも倒していかないと」


 彼女たちを探そうと歩き始めると、上空から気配を感じた。すぐにそこから飛んで離れると、俺がいたところに何かが落下し、地響きが鳴って土煙が舞う。


「ふっふーん! 見つけたのだね。アダム……いや、カイツ・ケラウノス!」


 そこにいたのは上半身が裸になったでかい口ひげの男だった。


「アレスか。面倒な時に来てくれたな」

「ふっふーん。お前が相手の場合は最初から本気で行くとするのだね! 圧殺を圧殺して圧殺せよ。我こそは力の悪魔。全てを圧迫し、ねじ伏せる。存分に泣け。喚け。絶望するのだね!」


 彼の赤い目が輝きを放ち、両手にヒビのような模様が入る。それは腕まで広がっていき、彼の背中から2対4枚の黒い天使のような翼が生えた。筋肉は更に肥大化し、、4枚の翼は鎧になるかのように彼の体を纏った。偽熾天使フラウド・セラフィムと同じ力か。最もあれらどころか、アルフヘイムの時のルサルカとも次元が違う。これが完成体って事なのだろう。


「ふふふ。これぞ選ばれた者だけが扱える熾天使セラフィムの完成体。今まで戦った奴らとはレベルが違うのだね。行くぞ。筋肉タックル!」


 その勢いは地面を蹴った部分がへこむほどであり、その強さは巨大な鉄塊を想像させた。


「くっ。六聖天・第2解放!」


 六聖天の力を即座に発動させ、その勢いを受けとめる。しかし、その勢いは第2解放の力でも受けとめきることが出来ず、大きくふっ飛ばされてしまった。


「があ!? んのやろう」

「ほお。流石はミカエルに選ばれた器。私の筋肉タックルでも大したダメージにならないのは驚いたのだね」


 なんつうパワーだ。こんな化け物がいたとはな。だが負けるわけにはいかない。


「剣舞・双龍剣!」


 刀を2本に増やして斬りかかり、奴はそれを腕で受け止める。


「ふおお! 良い刺激だね。筋肉が喜んでるよ。今日だけで筋肉が喜んだり泣いたりと大変だね」

「筋肉筋肉うるせえよ! 剣舞・四龍戦禍!」


 2本の刀で4つの斬撃を高速で放つ。だがその斬撃は黒い翼で出来た鎧は破壊できても皮膚まで斬撃が届かなかった。


「やるねえ。私の筋肉アーマーを壊すとは。だがそれでも、私の方が上だ!」


 奴は自身の両腕を俺のお腹に当てる。


「筋肉インパクト!」


 両腕から巨大な衝撃波が内部をも貫通して伝わり、ふっ飛ばされてしまった。


「が!? この野郎」

「まだまだ行くぞ!」


 奴は俺に詰め寄り、追撃しようとする。俺はそれを躱していく。ここまで攻め込まれると前から攻撃するのは不可能だ。


「そらああ!」


 奴が拳を振り下ろして攻撃してくる。その攻撃を躱し、奴の後ろに回り込んだ。


「剣舞・爆龍十字!」


 俺は2本の剣で、奴の体をバツ形のように切り裂いた。しかし、その斬撃では奴の鎧すら壊せなかった。


「受け取れ!」


 切り裂いた部分が爆発を起こし、奴の鎧にヒビを入れた。


「ほお。その攻撃は素晴らしいね。だが、その程度は効かんぞ!」

「剣舞・龍刃百華 凪!」


 奴の言葉を無視し、俺は奴の体に刃をぶつける。その直後、無数の斬撃が一箇所部分を襲い、奴の鎧を破壊して体に傷を入れた。


「ぬおおお!? 鎧を貫通してダメージを与えるとは。だがそれも無駄だ。筋肉ストーム!」


 奴は体をぐるぐると回転させ、駒のように回る。腕の部分が掠ってしまったが、俺はなんとかそこから回避できた。それはまるで竜巻のようであり、触れるだけで全てを壊してしまいそうなほどに凄まじいものだった。実際、少し掠っただけで腕の肉が切り裂かれた。下手したら一部の肉が持っていかれてただろう


「くそ。少し触れるだけでこの威力か。しかもあんな風に動かれると後ろからの攻撃も届かない」

「これで終わりだあああ!」


 奴はぐるぐると回転しながらこっちに迫って来る。その勢いは先ほどよりも速く、一瞬でも油断すればそれで終わってしまうだろう。俺はそれを後ろに跳んで回避しながら、刀の切っ先を奴に向ける。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの赤い球体を生み出し、奴に飛ばしていく。しかし、その攻撃は全て竜巻に防がれ、1発も有効打を与えることが出来なかった。第2解放の龍炎弾だというのに、ここまでダメージが通らないのか。これがヴァルキュリア家の力。


「そんなのは無駄だあ!」


 奴は再びこっちに接近してくる。再び距離を離そうとした瞬間、頭が沸騰してるのかと思えるほどに熱くなり、頭痛が走る。それだけでなく、体の方も熱くなり、四肢が痺れるような痛みが襲い掛かる。


「が!? なんだこれ……しまった!」


 そのせいでうずくまってしまい、気が付いた時には奴が眼前に近づいていた。


「剣舞・龍封陣!」


 俺は刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。それは盾となり、奴の攻撃を防いだ。しかし、それでも防ぎきることは出来ず、大きくふっ飛ばされてしまった。しかも、剣舞で防御しても勢いを減らす事しか出来ず、衝撃波で体の骨にヒビが入ってしまった。


「あが……のやろう」

「ふふふ。ようやくダストの毒が回ってきたみたいなのだね」

「ダスト? なんの話だ」

「私と戦う前、真っ黒な人間もどきと戦っただろう? あれはダストと言ってね。熾天使セラフィムもどき。ああ、君たちは偽熾天使フラウド・セラフィムと呼んでいたね。あれにすらなれなかった本物のゴミ。このタルタロスでしか生きることを許されない真の失敗作だ。だが失敗作でもようはつかいようなのだね。奴らの放つ黒い霧は人体に多大な悪影響をもたらす。君はミカエルの力でマシになってるが、他の奴らでは即死は免れないだろう」


 冗談だろ。ただでさえこっちが劣勢だっていうのに、黒い霧による弱体化。このままじゃ確実に負ける。俺はこんなところで負けるわけには行かないんだ。ヴァルキュリア家を倒し、カーリーを殺すためにも。


『やめろカイツ! 体が消し飛んでしまうぞ!』


 ミカエルは俺がやろうとしてることを察したようで、切迫した声で止めようとする。だがこのままじゃ、どんな策を考えても勝てない。策とかで何とかできるレベルを超えてる。やるしかないんだ。


「禁忌・第3開――!?」


 第3解放を使おうとした瞬間、奴の足下の地面から巨大な蛇が飛び出し、奴を一飲みしてしまった。


「なんだ!? この不気味な蛇は!」

「酷いこと言うのお。わっちのペットに対して」


 声がした方を振り向くと、黒の和服メイド服を着た女、ケルーナが立っていた。


「あの蛇はお前のか?」

「そやでえ。わっちの可愛い可愛いレベル2の悪魔」

「凄いな。あんなでかい蛇を造れるなんて。けど」

「うん。流石はヴァルキュリア家といった所か。レベル2が役に立たんとはな」


 彼女がそう言うと、蛇が内部から破裂して粉々になり、彼が出て来た。体液のようなものを被ってるが、ピンピンしている。


「ふむ。まさか足下を狙われるとは思わなかったのだね。だがこの程度の雑魚では、私の筋肉どころか、鎧にすら傷を入れられないのだね」


 良く見てみると、いつの間にか鎧が修復されているし、背中に付けた傷も治ってるようだ。十中八九、熾天使セラフィムとやらの力が関係してるのだろう。


「ケルーナ。あいつは俺1人じゃ手に余る。協力しろ」

「ええよお。協力プレイって奴やな。わくわくするわ」

「ふん。2人でかかってくるか。面白いのだね。まとめて薙ぎ払ってやるのだね」

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