第97話 冥府への招待
時は遡ること5分ほど前。
side カイツ
俺は館の中を進み、中庭へと向かっていた。結局ウルやケルーナとは合流できなかったが、あいつらは無事なんだろうか。ケルーナは生きてようが死んでようがどうでも良いが、ウルは無事でいてほしいものだ。そう思いながら館を走り続けると、ようやく扉が見えて来た。恐らく、あの扉の先が中庭だろう。
扉を蹴破ると、予想通り中庭に出た。中庭の大きさはかなりのものでまるで公園のような広さだ。あちこちに毒々しい色の花が植えられており、巨大な白い建物も建てられている。建物にはいくつものパイプが繋がれており、地面の中を通って何かを供給してるのか、あるいは排出してるのか。白い建物には扉が1つあり、その扉には天使の羽のようなものが3対6枚で描かれている。なんとも不気味な場所だ。それにこの感覚。
「ミカエル。あの白い建物」
『ああ。間違いなく
だろうな。だが生きてる気配がしない。死んでるのか水槽みたいな場所に閉じ込められてるのか。どちらにせよ、ここに入らない事には始まらないか。ウルたちが来ない上にダレスたちも行方不明だが、行くしかないな。俺は扉を蹴破り、中に入っていく。中は全部が真っ白となっており、その白さが不気味さを醸し出している。それに加え、中は血の臭いがあちこちにこびりついている。何をしてるか知らないが、まず禄でもない事だろう。先に進んでいくと黒い扉があった。
その扉を蹴破って入ると、巨大な部屋に出た。中は相変わらず真っ白の部屋だが、筒のような形をした水槽のようなものが大量にある。中は緑色の液体で満たされており、中には
「……また気味の悪い場所に来たな」
中には
分かっていたことだが、やはり物理攻撃は通じないか。後ろを振り返ると、黒い水は人の形へと変形し始めていた。人の形になると、まるで絵具で塗るかのように色がついていく。服どころか下着すら着ないという痴女のような体。長い茶色の髪や黒い水で胸や股付近などの危ない部分は隠れている。手には黒く長い棒を持っている。血のように真っ赤に染まった両目。大人しめな顔つきと垂れた目は人によってはのんびりとして平和そうな雰囲気を感じさせるだろう。実際は平和でものんびりともしてないが。
「お久しぶりですね。アダム。いえ。今はカイツ・ケラウノスでしたか」
「……カーリー」
ヴァルキュリア家当主にして、イカれた実験が大好きな外道女。まさか奴の方から来るとは思わなかった。
「悲しいですね。もう私のことは母と呼んでくれないのですか?」
「お前を母と思ったことなんて1度もねえよ! 六聖天・第2解放!」
六聖天の力を発動し、俺は一気に接近して斬りかかるも、奴は黒い水となって俺の攻撃を躱し、遠くに離れる。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
俺は周囲にいくつもの紅い球体を生み出し、それを奴に向けて放つ。奴は体を液体化させ、あちこちを動き回ったり壁を這うようにして動きながら俺の攻撃を避けて行く。
「物騒な力を使いますね。思わずびびっちゃいましたよ」
この女。俺が六聖天の力を使ったら急に逃げに徹した。こいつは基本的に攻撃を避けることは無いはずだ。俺の力に当たると何かあるのか?
「考えてる暇はないな」
とにかく奴を叩きのめす。俺はこいつらを倒すために牙を研いで来たんだ。俺は距離を詰めて奴に斬りかかるも、その攻撃は黒い棒で受け止められる。
「剣舞・双龍剣!」
奴の言葉を無視し、刀を2本に増やして何度も切り合うが、全て受け止められ、余裕を崩すことが出来ない。
「素晴らしいですね。ヴァルキュリア家を離れて数年。その間にここまで剣術を鍛えてるとは思いませんでした」
「お前に褒められても嬉しくねえよ。六聖天 腕部集中!」
腕に六聖天の力を集中させ、更に攻撃の速度を速めて行くが、奴には一太刀も届かない。
「楽しいですね。久しぶりに生を実感できる気分です。しかし、ここは戦いに相応しくありませんね。アダム。貴方を招待しましょう。闇の底にある神の都へ」
彼女は後ろに下がり、両手で印を組む。
「開け。冥府の門よ。我らを闇の底へといざなえ!」
彼女がそう言った瞬間、地面や壁、天井が歪み始めた。それらはまるで海が荒れるかのように波打ち、俺やカーリーの足がどんどん沈んでいく。しかもこの感覚。
「まさか……別世界へ行くのか!? だが、門なんてどこにも」
「この館そのものが、タルタロスへと誘う門となってるのですよ。貴方がたはここに来た時点で、私達の罠にかかったも同然なんですよ」
タルタロス。確かイシスが言っていた場所だな。舘そのものが門になっているというのは、ヘルヘイムの時と似たような仕組みか。まずい。体がどんどん取り込まれてる。このままじゃタルタロスとやらに入れられちまう。刀を振って脱出しようとするも、地面は液体のようになっており、刀は水を斬るかのようにすりぬけていって手ごたえがない。
「貴方たちは幸運ですよ。選ばれし者だけが住むことを許される都へと招待されるのですから。冥府の瘴気にやられないよう、気をつけてくださいね」
「くそ。カーリーーーー!」
俺は奴に斬りかかろうとするも、床に吸い込まれてるせいで体を動かすことが出来ず、そのまま取り込まれてしまい、意識が遠のいていった。
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