第91話 ダレスVSペルセウス 2

 ペルセウスの真の力。そのスピードはダレスの目で追うことも不可能であり、パワーは一発一発が骨にヒビを入れるほどの力だった。ペルセウスは超高速であちこちを飛び回り、彼女にダメージを与えていく。彼女は避けることも逃げることも防御も不可能であり、ただ殴られたり蹴られたりするしかなかった。


「どうした? お前の力はこんなもんなのか? もっと面白いものを見せてくれよ!」

「そうしたいけど、こう攻められると上手くいかなくてね」


 彼女は彼の動きを予測して動こうとするも、それは簡単に見切られ、反撃に出ることが出来ない。少しでも攻撃しようとすればそこを突かれてカウンターを喰らい、余計にダメージを喰らってしまう。


(まずいね。このままだと負ける。何とかしてこのリンチから脱出しないと)


 彼女は自身の両足の膝横から腕を1本ずつ生やし、床を蹴ってその場から脱出しようとする。


「おせえ!」


 しかし、その動きは彼にとっては簡単に見切れる速度であり、彼女を蹴り飛ばした。


「ぐ……撤退の余裕も与えてくれないんだね」

「そんな余裕与えるわけないだろ。このまま一方的に殴り殺してやるよ!」


 彼は更に攻めを加速してパワーも上げ、一方的に殴り続ける。


(何か。何かないか。この状況を脱するための策)


「おらあ! てめえはここで終わるのか? もっと抵抗してくれよお!」


 彼がそう叫ぶと、彼女はなにかに蹴り飛ばされたような強い痛みが襲い、空中にふっ飛ばされた。


「まだ終わらねえぞ!」


 彼も上空に飛んで彼女のもとに行く。その直後、何百発も殴られたような痛み共に地面に叩き落とされた。


「ごはっ!?」


 体の中をやられ、彼女は吐血してしまう。それだけでなく、骨のあちこちにヒビがはいっており、今にも壊れそうだということをすぐに理解できた。


「そらトドメ!」


 彼が上から攻撃しようとし、彼女はそれをなんとかして躱した。


「えげつない身体能力だね。絶対命中の魔術にその身体能力。恐ろしいものだよ」

「すげえだろ。この身体能力。この力があるからこそ、神の名を与えられるのさ」

「ああ。十分に納得だよ。だからこそ、負けるわけにはいかない。君に勝ちたいんだよ!」

「ふん。口だけは達者だが、お前はもう戦えないだろ。もうボロボロだし、骨もあちこちヒビが入ってるみたいだからな」

「いや。まだまだ戦えるよ。むしろ、ここからが本番だ!」


 彼女は懐から小さな瓶を取り出し、中の白い玉を取り出して飲み込んだ。その瞬間、彼女は体中に電流が走ったような感覚を味わった。


「くふふふ。来たよ。きたきたきたきたああ!」


 彼女の四肢の筋肉が少しばかり肥大化し、体中の血管が浮き出る。笑みは悪魔のように不気味なものとなる。


「ほお。薬で血の巡りを速くし、筋肉に強力な刺激を与え続けることで体を強化しているのか。面白い女だ」

「さあ行くよ!」


 彼女は先ほどまでよりもはるかに速い速度で接近する。しかし、彼にとってはまだ簡単に見切れる速度だった。彼女の攻撃に合わせてカウンターを狙おうと思った瞬間、彼女の腹から腕が飛び出し、彼に攻撃を仕掛けて来た。しかし、その攻撃は簡単に止められた。


「面白い策だが、俺には効か――!?」


 彼が余裕の笑みを浮かべた時、足を何かに引っ張られ、倒れそうになってしまった。足元の方を見ると、彼女の足から出た腕が彼の足を掴み、引っ張っていたのだ。


「この野郎」

「チャンス!」


 彼女はその隙を逃さず、彼の顔を殴り飛ばした。彼は大きく吹っ飛び、地面を跳ねながら転がっていく。


「やってくれるじゃねえか。そんなボロボロな状態で一発来るとは思わなかったぜ」 


 彼は鼻血をこすりながら立ち上がると、彼女は足に出てた腕を消して腹から2本の腕を生やし、一気に距離を詰めた。


「ラッシュブレイクうううううう!」


 4本の腕で高速で殴りかかる。とてつもないスピードではあり、常人では見ることすら不可能だろう。しかし、彼にとっては余裕で見切れる速度であり、その全ての攻撃を受け流したり防いだりした。


「なっ!?」

「良い攻撃だが、俺には効かねえよ!」


 彼がそう言うと、彼女は何百発も殴られたような痛みに襲われ、大きく吹っ飛んでいた。


「がはっ!?……この」

「俺のこと舐め過ぎだ。俺は熾天使セラフィムの力を完璧に制御した成功作だぞ。さっき殴れたような奇跡が何度も起きるわけ無いだろ。お前は俺には勝てねえよ」

「それでも……戦う。勝ちたいんだよ。君のような強者に! そのために、私は戦ってるんだ」

「ふふふ。ほんとに面白い女だぜ。だが、強がりもそれくらいにしときな。お前じゃ俺に勝つのは不可能。たまには諦めも肝心だぜ」

「生憎だけど……私の辞書に、諦めるという言葉はないのさ!」


 彼女は体に力を入れて立ち上がり、彼の元へ向かっていく。しかし、そのスピードはあまりにも遅く、簡単に対処できるレベルだった。


「おせえよ」


 彼が攻撃しようとした瞬間、いきなり上空へと飛んだ。


「くそ」

「そう何度も引っかかるかよ」


 彼が飛んだのは、彼女が足から生やした腕の攻撃を躱すためだった。


「終わりだ!」


 彼が魔術で蹴りを当てようとして足を動かした瞬間、彼女はその足を掴んだ。


「なに!?」

「なんとなく……分かってきた!」


 彼女はそのまま彼を投げ飛ばした。


「く……のやろ」


 彼は体勢を立て直して着地した。


「てめえ。なにをしやがった」

「さあ。何をしたんだろうね」

「てめえ。ならこれはどうだ!」


 彼は一気に距離を詰めて殴りかかろうとすると、彼女はその攻撃を掴んで受けとめた。


「また!?」

「うん。やっぱりそういうことか。分かってきたよ」


 彼女はそのまま動揺する彼の顔を殴り飛ばした。吹っ飛びそうになったが、彼女が拳を掴んでいるので。遠くに行くことが無かった。


「にゃろ」

「もう一発!」


 彼女はもう一度全力で彼女を殴り飛ばした。今度は吹っ飛びの強さに手を離してしまい、吹っ飛んでいった。


「がは!? なんで……俺の魔術が」

「君の魔術……もう1つ弱点があったね。振り切る前の動き……それを止めれば問題ない」

「動きを止めるだと……俺の攻撃は」

「ああ。君の攻撃は見えない。命中するまで存在しないような感覚だ。だが攻撃してる以上、動きの軌跡があるはずだ。なら、それを予測して動きを妨害すれば行ける気がしたけど、ドンピシャだったね。威力も振り切る前に止めればそこまででもない」

「馬鹿な。見えない動きを予測だと? そんなこと出来るわけが」

「君が何百回も殴ってくれるからだよ。おかげでその経験から動きの予測がしやすくなった。宣言しよう。君の攻撃はもう当たらないよ」

「舐めんなよ。そんな簡単に見切れるか!」


 彼は自身の速度を利用し、一気に後ろに回って殴ろうとする。しかし、彼女はその攻撃にも対応し、拳を受けとめた。


「な!?」

「ふふ。また殴ってあげるよ!」


 彼女は顎の部分を狙い、彼を殴り飛ばした。彼は顎に来る痛みのせいで一瞬だけ意識を失ったしまった。そして、それは大きな隙となる。


「ラッシュブレイクうううううう!」


 4本の腕で高速で殴りかかった。その攻撃はモロにヒットし、彼の体に撃ち込まれていく。


「うおおおおおおおお!」


 彼女は最後の攻撃をする直前、右腕に腕2本を増やし、最大火力の一撃を顔に叩きこんだ。彼の顔は拳の勢いでへこんだようになり、壁に叩きつけられた。顔は鼻血や返り血で汚れており、鼻の部分が歪んで片目が赤く膨れ上がっている。戦う前の綺麗な顔はどこかへ消え去っていた。


「ふふふ。ようやく君の顔が歪むさまを見れたよ。私にその気はないはずだけど、その顔を見るとすっきりするね。まるで新しいガントレットを装着したような気分だ」


 彼女がそう言うと、彼は何がおかしいのか、くつくつと笑い始める。


「ははははは。俺の攻撃をここまで防いだ奴はお前が初めてだぜ。ほんと、面白い女だ。だがお前。そんな軽口叩けるほど元気じゃねえだろ」


 彼の言葉に彼女は黙り、睨み付ける。


「最後の一撃を食らった時、お前の腕から骨が砕ける音が聞こえた。右腕はもう使い物にならないだろ。左腕も既に限界なはず。それどころか、体全体が悲鳴をあげている。そんな状態で俺の攻撃を防げるか?」

「……無理だね。もう体中ボロボロだ。ぶっちゃけ、あと一撃入れるのが限界だろうね」

「なら、その一撃を耐えれば勝てるってわけだ」

「ああ。文字通り一撃で終わる。君か私のどちらかがね」

「ふ……ふふふふふ。あははははははははは! お前最高の女だぜ! 雑魚をいたぶるのも楽しいが、お前のような面白い女と戦うのも最高だ。なあ。名前を聞かせてくれよ」

「ダレス・エンピシー。戦うのが好きな普通の人間さ」

「俺はペルセウス。本名はアルバ・ヴァルキュリア。名前を教えたのはお前が初めてだぜ」

「それは光栄だね。行くよ!」


 2人は真っ向から行き、距離を詰める。彼女は左腕に2本の腕を生やし、殴りかかる。彼も同時に殴りかかり、互いに拳をぶつけ合う。何かが爆発したかのような音が鳴り響き、2人は腕に力を入れる。目の前の敵に勝つために全てを賭けた一撃。その威力もさることながら、気迫も凄く、ラルカはその雰囲気に完全に飲まれていた。

 ほんの数秒のはずなのに、何時間にも思えるほどに濃密で短い時間。互いの力が拮抗する最中、ダレスが先に力尽きてしまい、押し負けてしまった。


「ふふ。俺の勝ちだあああああ!」


 彼がその勢いのまま殴りかかろうとした瞬間、横から何かで斬られるかのような痛みと衝撃が襲い掛かる。


「が!? これは」


 彼女はふらつきながらも堪え、足で首を狙って蹴りを入れたのだ。その攻撃力は凄まじく、彼は一瞬だけ意識を失ってしまった。そして、それが彼女のチャンスとなった。


「おおおおおおおおおお!!」


 彼女は全てを振り絞り、彼の首を蹴り飛ばした。その勢いはあまりにも強く、首の骨が砕けながら遠くへと吹っ飛んでいった。首がへしまがっており、完全に意識を失っていた。


「私の……勝ちだ!」


 彼女はそう言ってガッツポーズをした後、その場に倒れてしまった。

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