第89話 神を騙る者との戦い
カイツ達が逃げ出して少しした後、プロメテウスは黒い球体を何本もの蔦で串刺しにしていた。
「全く。あの女が敵になることは予測してましたが。まさかカイツと手を組むとは。一体何を考えているのでしょうね」
「良いではないか。あの女、かなりの実力者のようだし、満足するダメージを与えてくれそうだ」
ヘラクレスはそう言いながら高笑いし、プロメテウスはそんな彼の態度に呆れていた。
「相変わらずのドMですね」
「ドMではない。痛いのが好きなだけだ。それより、あいつらはどうする? 追いかけるのか?」
「今は放っておきます。どうせここから逃げることは不可能なのですから。それよりも、少し確かめたいことがあります。カイツ達には適当な失敗作どもでもぶつけておいてください」
「了解だ。しかし何を確かめるんだ? カイツの実力か?」
「カイツなどどうでもいいですよ。あんな雑魚はいつでも殺せます。それよりも、奴の中にいる呪いがどう動くのかを見ておきたいんですよ。あれに好き勝手されないよう、動きを把握しておかなくてはなりません」
「呪いか。確かにあれの動きは把握するに越したことはないな。なら、イシスが連れて来たあれを使うのはどうだ?」
「……ああ。あの弱っちい神獣ですか。確かに、呪いの動きを知るには一番都合の良い駒かもしれませんね。消費しても何も痛くないですし、ぶつけておきますか」
side カイツ
プロメテウスたちを播き、俺たちは倉庫のような場所へとたどり着いた。
「いやー危なかったなあ。あともう少しであんたらやられてたかもしれへんで?」
「助けてくれたことは感謝する。それで? お前は何の目的があって俺たちを助けた?」
「そんな疑り深い目で見んといてえなあ。わっちはあんたと手を組んだんだから、ピンチなあんたを助けるのは当たり前のことや。損得も利害も関係なしや」
全然信用できない。ほとんど関わったことはないが、こいつがそんな義理人情に厚い人間じゃないということは分かる。何を考えているかは分からないが、何があっても対応できるようにしておかないと。
「そういや、あんたらの他の仲間はどこにおるん? あと2人おったはずやけど」
「2人はメイドや執事たちと一緒にどこかに行った。一応、ウルが彼女たちの場所を把握してるらしいが」
「メイド……ああ。あの天使もどきか」
「天使もどき? それはどういうことかしら?」
「あやつらは人工的に作られた人間よ。特定の魔術を埋め込むために造られた存在らしいよ。どんな魔術を埋め込んだのか分からんけど」
「ありえないわ! 特定の魔術を開発して埋め込むなんて」
「ありえるだろ。ワルキューレ家がどうか知らんが、ヴァルキュリア家は
「けど、そんなことどうやって。魔術は先天的に備わってる力。後天的につけれるなんて聞いたことないわよ」
「さあな。とりあえず、ヴァルキュリア家を叩き潰して尋問すれば分かることだ。それより、これからどうするんだ。何か策でもあるのか?」
「一応当てはあるよお。とりあえず、ここから南に進んだところにある中庭に行くでえ。そこで、ヴァルキュリア家が怪しげなことを考えてるらしいからなあ」
「了解だ。なら、そこに行くとしよう。案内してくれ」
「おっけー。しっかりついてきてなあ」
彼女は楽しそうにスキップしながら歩いていく。
「カイツ。あの女信用できるの? いかにも怪しそうな雰囲気出してるけど」
「信用できるわけがない。だが奴を野放しにするのも危険だし、ひとまずは一緒に行動しておいた方が良い。少しでも怪しいと感じたら撃ち殺せ。行くぞ」
俺たちは彼女の動きに警戒しながら、彼女の後をついていく。館の中は恐ろしいほどに静かであり、メイドたちや執事が来る気配がない。
「不気味ね。さっきまでかなり暴れまわってたのに、誰一人動いてないなんて」
「いや。動いてるやつはおるみたいやでえ」
「ああ。嫌な気配がする。備えておけ」
そう言って走っていると、目の前の床が破壊され、床の破片や煙が襲ってきた。
「きゃあ!? なによこれ」
「きおったな。戦闘態勢じゃ」
穴から現れたのは、3体の真っ白な体の奇妙な人型の化け物、
「
ウルは驚いてるが、俺としては出てきたことが普通だと思ってる。アルフヘイムやルライドシティでの事件。裏で糸を引いてたのはこいつらだろうからな。
「ケルーナ。手を貸せ。こいつらを片付ける」
「おっけー。信頼勝ち取るためにも頑張るでえ」
とりあえず、とっととこいつらを片付けて中庭に行く。それが今やるべきことだ。
その頃。ダレス、ラルカはメイドたちに連れられ、ある場所へ向かっていた。
「いやー。我はとっても嬉しいぞ。まさか我に謁見したい者が他にもいるとはな」
「君に謁見したい人はどうでも良いけど、強い人がいるというのは嬉しいね。戦いの話が楽しかったからか、体が火照ってきてるからね。はやくこの熱を発散したいよ」
ラルカもダレスもメイドたちの催眠にかけられていた。多少の魔術の力は使ってるが、彼女たちが催眠にかかってる本当の理由は、メイドたちの話術にあった。メイドたちは相手の嗜好、好みを把握できる魔術を持っている人工的に作られた存在。その魔術と彼女たちの話術があるからこそ、こうしてラルカたちの行動をコントロールできるようになった。
「ここですよお。ラルカ様に謁見したい人とダレスさんが満足しそうな強い人です」
扉を開けると、そこは研究所のような場所だった。緑色の液体がたっぷり入った巨大な水槽のようなものが何百もあり、少しばかり錆びた分娩台が列のように並んでいる。
「おお。ずいぶんと不気味な場所に来たものだな。それで? 我に謁見したいというのはどこにいるのだ?」
彼女がそう言いながら歩いてると、ダレスが何かに気付いたように、ラルカの足下に目を向ける。
「ラルカ! その先に行くな!」
「ほえ?」
ラルカが間抜けな声を出しながら前に進むと、かちりと何かを押したような音がした。彼女が足下を見てみると、床に擬態したボタンを押していた。そこから離れた直後、あちこちから何十本もの白い糸が飛び出し、彼女をがんじがらめに捕らえた。
「ぎにゃーーーー!? なんなのだこれは!」
「ははははは! 素体1体。捕獲完了!」
高笑いをしながら、1人の男性が現れた。白のパーカーを着た水色の髪の男。
「いやー。スティクスの用意したこの装置は便利だな。あっという間に捕まえることが出来る」
「君は確か、ペルセウスだったね。ずいぶん面白いことをするじゃないか。驚いてしまったよ」
「お前も引っかかると思ったが、勘が鋭いな。ルックスも良くて俺好みだし、面白い女だ。今なら俺の彼女にしてやるぜ? この世で最上の快楽を与えて鳴かせてやるよ」
「鳴かせるねえ。それは一体どんな快楽なんだい?」
「そりゃもちろん、夜のダンスに決まってんだろ。俺のテクは最高だし、超気持ちよくなること間違いなしだ!」
「悪いけど、私にとって最上の快楽はダンスじゃない。強い者と戦うことだ。神の名を騙ってる痛々しい男は、私を満足させられるかな?」
「……へえ。ほんとに面白い女だな。俺がなんで神の名を与えられたか、その身にたっぷり教えてやるよ」
「嬉しいねえ。私の体にたっぷり教えてくれるなんて。最高の娯楽になりそうだ」
2人の間に火花が飛び散り、一触即発状態となっていた。そんな中。
「おーーーーーい! これはどういうことなんだ! 我に謁見したいものはどこに行ったんだーーー!」
ラルカはがんじがらめに縛られ、半泣き状態になっていた。
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