第75話 大乱戦! カイツVSイシスVSアリア
拳をぶつけ合った後、3人は一旦後ろへと下がる。イシスが腕を上げると、上空に緑色の巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「
魔法陣から雨のように緑色のレーザーが降り注いだ。カイツは紅い翼で防御し、アリアはその攻撃に掠ることもなく、全てを避けて行った。
「呪いはまだしも、犬にも避けられるとはな。これは驚いたよ」
「誰が犬だあああ!」
アリアは一気にイシスの元へ近づき、顔に蹴りを浴びせようとする。イシスはそれを防御し、もう片方の手で緑色の球体を生み出す。それで攻撃しようとするが、それよりも先に。
「うがああああああ!」
アリアが咆哮し、その衝撃で彼女を吹き飛ばした。両腕で防御してもそれを殺しきれず、大きく後ろに下がった。
「くそ。一筋縄ではいかないな。あいつも」
彼女は後ろに振り返り、奇襲しようとしたカイツの翼を避ける。
「お前も」
「惜しい。あと少しで当たると思ったんだけどな」
カイツはそのまま追撃するように翼で攻撃してくる。イシスはその攻撃を避けて距離を取った。そして、彼女が後ろに下がった隙を突き、アリアが爪で切り裂こうと攻撃してくる。
「ちっ!」
イシスがその攻撃を防いだ瞬間、当たった部分が青色に光る。そして、彼女の体勢が崩れ、膝をついた。
「これは!?」
「チャンス!」
イシスの動きが鈍った瞬間、カイツが翼で攻撃してきた。しかし、アリアがイシスを抱え、その攻撃を避けて上空に飛んだ。
「どうした? 急にそいつを守りたくなったか?」
「そんなわけないでしょ。こいつはこうするために抱えたんだよ!」
アリアは腕に力を込め、イシスをボールのようにぶん投げた。
「マジか!?」
カイツは飛んできた彼女を翼でふっ飛ばそうとしたが、予想以上の速さに避けざるを得なかった。そしてアリアの方に視線を移した時、アリアの姿がどこにもなかった。
「どこにー!?」
後ろを向いた時にはアリアの爪が迫っていた。
「当たるかよ!」
カイツは翼で上から突き落とすように攻撃する。アリアは紙一重で躱し、後ろに下がった。
「たく。すばしっこい犬ッコロだな」
「攻撃のスピードが速い。寄生体、意外と厄介なのです」
「お前もな!」
カイツが翼でアリアを攻撃しようとしたが、彼女はその攻撃を避け、カイツに殴りかかろうとする。彼はその攻撃を受け止めようとしたが、嫌な予感がよぎり、それを避けて後ろに下がった。
「あれ? 避けられちゃったです」
「お前の拳。なんか嫌な感じがするなあ。一体何を仕込んでやがる」
「わざわざ教えるわけないでしょ!」
彼女が攻撃しようとすると、それよりも先に巨大な緑色のレーザーがアリアの後ろから襲い掛かる。2人がその攻撃を飛んで避けると、彼女の着地点にイシスが現れた。
「意外と復帰が速いですね」
「それほどでも!」
彼女とアリアは互いに拳をぶつけあう。その直後、再び青い光が放たれ、彼女の姿勢が崩れた。そしてその隙を突き、アリアがイシスの顔を蹴り飛ばした。彼女はまともに喰らって大きく吹きとばされ、受け身も取れずに床を転がっていった。
「ぐ。またか」
彼女は即座に体勢を立て直そうとしたが、思うように体に力が入らず、立ち上がることが出来なかった。
「そら行くよおおおお!」
アリアが爪で切り裂こうとすると、彼女の足下に緑色の魔法陣が現れた。
「崩衝滅魔!」
魔法陣から出た巨大な光の柱が建物を飲み込み、消滅させる。アリアは間一髪のところで躱し、後ろに下がった。
「危ないねえ。死ぬかと思ったよ」
「あまり調子に乗るなよ。この程度で私は倒せないぞ」
「みたいだね。なら!」
彼女は姿勢を低くし、あちこちを飛び回りながらイシスを翻弄する。イシスは何とか立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かず、動くことが出来ない。
「くそ。動け!」
「今度こそ終わりだよ!」
アリアの爪がイシスを襲おうとする。それに合わせたのか、カイツも別方向からイシスに襲い掛かってきた。彼女たちがイシスの近くの地面に足を置いた瞬間、突然地面が緑色の爆発を起こし、2人はその爆発に巻き込まれた。
「ぐう!?」
「おおっと!」
2人は爆発でふっ飛ばされ、体に火傷を負う。
「
「やってくれるねえ。こずるい手使いやがって。だが威力はそこまでじゃないな。犬ッコロの攻撃が何か関係してるのか?」
「貴様に教える必要はない!」
「あっそ!」
イシスとカイツが近接戦闘を始めようとすると、アリアが上から襲い掛かり、イシスに回し蹴りを、カイツに裏拳を浴びせようとする。カイツはそれを翼で防ぎ、イシスは腕で防ぐ。ぶつかり合う直前、イシスは腕に魔力を込め、緑色の光を纏わせた。アリアの攻撃がぶつかった瞬間、巨大な衝撃波が放たれる。それと同時に当たった拳と足の部分が青く光る。
「!? これは」
カイツは自身の力が突然抜け、その場にうずくまった。イシスの方は青い光が放たれるも、それを打ち消すように緑色の光が放たれる。
「!? お前」
「なるほど。お前の魔術。なんとなく見えてきた」
2人の戦闘は更に激しさを増していく。アリアは即座にもカイツを攻撃したかったが、目の前のイシスをほおっておくのは危険だと判断し、彼女を先に倒すことを考える。足や腕を使って果敢に攻めていき、イシスはそれを防御していく。その際、腕や足に魔力を込めて緑色の光を纏わせ、防御力を底上げする。だが、緑色の光を纏わせてるのは防御のためだけではなかった。
「お前の魔術。仕組みはよくわからんが、魔力で防げば問題はないようだな」
「たく。この短時間で気づくのはめんどいね。けど!」
彼女の爪が伸び、その爪が腕を切り裂いた。
「ぐっ!?」
「私の武器は魔術だけじゃない。この爪も立派な武器なのさ!」
「なるほど。なら私もー!?」
本能とでも言うべきか、2人は1秒後に自分が死ぬ未来を予感し、そこから飛んで遠く離れた。その直後、地面を貫き、巨大な紅い竜巻が舞い上がる。2人は避けるのが間に合わず、アリアは腕に。イシスは足に少しばかりのダメージを負った。
「おっしいー! もう少しで殺せると思ったんだが」
「寄生体が。邪魔すんじゃないよ!」
アリアがカイツの元へ行こうとすると、それを邪魔するかのように紅い翼が襲いかかる。
「てめえは近づけさせねえぞ。持ってる魔術がずいぶんと不気味だからな」
「鬱陶しいな。うがあああああああ!」
彼女は獣のように咆哮し、襲ってくる翼を消し飛ばし、地面に亀裂を生み出した。その衝撃波イシスにも襲い掛かり、彼女は後ろに跳んでそれを回避する。
「はははは! やるじゃないか。覚醒してるだけのことはあるな」
彼が感心しながら、後ろの方へ翼を動かし、攻撃の準備をしていたイシスを攻撃する。彼女はなんとか攻撃を躱すも、準備は台無しにされてしまった。
「何度も同じ手をくらうかよ」
「流石に許してくれないか。ならば」
彼女が指を星型に振ると、緑色の魔法陣が現れた。
「崩衝流星群!」
魔法陣から緑色の流星が空を舞い、カイツやアリアたちに襲いかかる。それは崩衝時雨よりもはるかに弾数が多く、威力も大きい。一発一発が巨大なクレーターを作るほどの破壊力であり、建物が大きく揺れ動いた。カイツは翼で防御するも、アリアは防御する術などないので、ひたすら避けるしか無かった。
「雨なら避けるのは容易い。上から来ると分かっているからな。だが、四方八方から襲い来る流星群はそうもいかない。貴様には避けられない」
流星群のように降り注ぐその攻撃は避けることがあまりにも困難で、アリアはついに何発か被弾してしまった。そのせいで体が焼け焦げ、大きくふっ飛ばされてしまった。
「があ!? しまっ……」
「隙ありだ!」
カイツがアリアの隙を突いて攻撃しようとすると、それと同時にイシスがカイツに向けて何本もの緑色のレーザーを放つ。
「ちっ!」
カイツはその攻撃を避け、レーザーは誰もいない地面を貫いた。
「邪魔しやがって。あいつに仲間意識でも芽生えたのか?」
「そんなわけ無いだろ。奴は私の敵だ。後できっちり殺す。だが、あいつは貴様より弱い。この場合は、より強い奴を先に叩くほうが楽だと判断しただけだ」
イシスは緑色のフランベルジュのような剣を生み出し、先ほどよりも速い速度でカイツに詰め寄って斬りかかる。
「おっとあぶねえ。急に速度を上げるじゃねえか。舐めプでもしてたのか?」
「体が温まってきただけだ。ここまで本気で戦うのは久しいからな」
「ほー、そりゃ結構なことで」
「ここまで近づけば貴様は翼を使えない。いっきに決めさせてもらう!」
彼女は何度も激しく斬りかかっていく。その速度は常人には見ることが不可能なレベルであり、周りは何をしているか理解していなかった。それはウルやガルードさえ例外ではなく、イシスの動きを目で追うことすら出来ない。しかし、それほどの剣戟でもカイツは余裕で見切っており、全ての攻撃を紙一重で躱している。
「やるじゃねえか。ここまで凄いとは思わなかったよ。流石は神の名を騙るだけはある」
「ちっ。鬱陶しいな。その見下したような物言いは!」
イシスは己の魔力を込め、先ほどよりもはるかに速く、重い斬撃を放つが、それは手で受け止められてしまった。
「なに!?」
「大したもんだ。翼を封じ、己の得意な距離で戦う。お前にしては頭使ってるじゃねえか。だがな」
カイツは手で受け止めた状態で握り、そのまま剣をへし折った。
「その程度の小細工で、俺とお前の差が縮まるかよ!」
カイツは魔力を込めた拳を顔に当て、彼女を殴り飛ばした。彼女は大きくふっ飛ばされ、壁に叩きつけられて巨大なクレーターが出来る。
「がは!?」
「雑魚の小細工なんざ、俺には通用しない」
「なら、この小細工はどうだ?」
彼女の言葉に彼が疑問を持った瞬間、彼女を殴った腕に緑色の斑点のようなものがいくつも浮かび上がった。
「これは」
彼が腕を斬り落とそうとするより速く、斑点が爆発してダメージを負った。
「ぐ……やってくれるじゃねえか」
「はなから近接戦で勝てるとは思ってない。だから、こういう小細工が大切になる」
「ふふ。面白い。だがこの程度じゃ俺は倒せねえぞ」
カイツはニヤリと笑いながら、彼女に近づいて行く。
「確かにそうだ。ならば、これではどうか」
彼女は再び無数の緑色のレーザーを何発も放つが、彼はその攻撃を翼で防ぐ。
「無駄だと分からないのか? 同じ手ばかり使いやがって」
「同じではないさ。少しばかりの一工夫もある」
「へえ。それは一体ー!?」
彼は嫌な気配を感じ、そこから離れた。その直後、彼がいたところにアリアが飛び降り、クレーターが出来上がる。
「ちっ。雑魚の癖にしつこいな」
「雑魚かどうかはこれを見て判断しろ!」
アリアが腕を交差させると、青い光が集中し、爪が少しばかり伸びた。
「
彼女が腕を振り抜くと、巨大な斬撃が壁に亀裂を生み出す。彼は何とか翼で防御するも、その翼が斬られてしまい、防御するために交差した腕が軽く斬られた。
(この威力。パワーだけで言えばイシスより上。流石は古代の神獣ってとこか)
「まだまだああ!」
彼女は一気に距離を詰めて殴りかかるも、その攻撃は片手で受け止められた。しかしその瞬間、青い光が放たれ、彼の力が抜けた
「ぐ!? またかよ」
「そらああ!」
アリアはそのまま彼の顎を殴り、上空へと吹きとばした。
「が! にゃろう」
反撃しようにも、力が入らないせいで上手く攻撃することが出来なかった。
(この感じ。やはりそういうことか。あいつの魔術は俺と相性悪すぎるな)
彼は自分に起こったことを分析して理解した。だがそれは、体が上手く動かないこともあって、ほんのわずかな隙となってしまった。そして、その隙をアリアとイシスは見逃さない。2人がカイツに近づき、攻撃しようと近づくと。
「……ちっ。使うしかないか」
カイツが腕をひと振りした。その瞬間、2人の体に刃物で斬られたよな傷ができ、出血した。
「ぐ!? なにこれ」
「……やっと本気になったか」
2人は傷を抑えながら、一旦後ろに下がる。
「てめえらが思ったよりも強いから、つい本気になっちまったよ……うぐ……げほごほ! がっ!?」
カイツは突然苦しみだし、その場に吐血した。それだけでなく、少しずつではあるが、体のあちこちから出血し始めていた。
(くそ。やっぱり今の状態で魔術を使うのはきついな。おまけに、本来の3割も機能してね)
カイツのその様子をアリアは炎の宿った目で観察していた。
(なるほど。今の寄生体はこういう感じなのか。だから戦うたびにつながりが薄くなってる)
「寄生体も、案外自由がないんだね。色々苦労してるくらいには」
「犬ッコロが。知ったような口叩くんじゃねえよ!」
彼は翼をいくつにもわけ、その手数で攻撃する。アリアはその攻撃を避けていくが、体へのダメージのせいで動きは鈍くなり、そこを狙われてしまった。
「く。獣王剣・颯!」
彼女が両腕を横に振ると、暴風のような風が彼女の周りに吹く。その風の中には見えない斬撃があり、全ての翼を斬り落とした。
「やるねえ。だが」
「はぁ……はぁ……はぁ」
彼女は明らかに疲労しており、床に膝をついていた。
「獣王剣ってのは体力と魔力の消耗が激しいみたいだな。もう限界だろ?」
「まだ……終わってない」
「強がりを言っても無駄だ。お前はここで終わりだよ」
彼はそう言い、彼女に止めを刺そうとした瞬間、緑色の剣が空からカイツとアリアの元に降り注いだ。
「なにー!?」
カイツが後ろを向くと、イシスが彼の顔を蹴り飛ばした。彼はその攻撃をもろに喰らい、壁際までふっ飛ばされて叩きつけられた。
「があ……なんだよ。結局犬ッコロの味方をすんのか?」
「さっきも言ったはずだ。こいつは貴様より弱い。この場合は、より強い奴を先に叩くほうが楽だと判断しただけだ。それと、限界なのは貴様も同じようだな。さっきより動きと反射神経が鈍くなっている」
「ち……鬱陶しい観察力だな」(まずいな。少しばかり不利になってきた。とっとと叩き潰したいが、魔術を使わなければ厳しい。だが魔術を使うのは負担がでかすぎる。さあどうしようかな)
彼が対策を考えていると、突然何かで抉られるような激痛に襲われた。
「ぐ!? あが……うあああ」
彼はあまりの痛みにその場にうずくまり、体を抑える。
「!? 寄生体の力が」
「……カイツか」
2人はカイツの様子を観察し、出方を見る。カイツは激痛で動くことどころかアリアたちを気にする暇さえなかった。
「ぐう……カイツ。こんな時に」
カイツの中にある精神世界。そこではカイツが鎖で十字架に縛られていた。近くには幻影のような奇妙な存在もおり、何かに苦しんでるように見える。
「カイツ。今は大人しくしててよ。忙しいのよ」
「ざけんな。てめえにいつまでも主導権握られてたまるか。俺の体は俺のものだ。とっとと返しやがれええ!」
カイツがそう叫ぶと、幻影のような存在に青い雷がふりかかり、彼女に直撃する。
「ぐううう!? まずい。このままじゃ、主導権が。大人しくしてなさい!」
幻影のような存在がそう言うと、カイツに紅い雷が直撃した。
「がああああ!? 負けるか……俺は……あいつらを……倒す……ため……に」
雷に包まれ、カイツは激痛で意識が遠のいていく。
「あなたはまだ起きるべきじゃないのよ。もう少しだけ寝ていなさい」
幻影が彼を眠らせるため、とどめを刺そうとした瞬間。
「妾の大切なものになにをする」
「!? この声」
精神世界で聞こえた声。カイツと幻影はその声に聞き覚えがあった。
現実世界。教会の壁を派手にぶち壊し、1人の女性が現れた。豊満な胸にスレンダーな体型の綺麗な姿。天使を思わせるような羽が3対6枚生えている。髪はカイツと同じ銀色で腰まで伸ばしており、美しくなびいている。頭からは狐のような耳が生えていた。妖艶を思わせるような大人っぽい顔つきは、見る者を魅了するオーラがある。腰にはカイツが使っていた刀を下げていた。イシスは彼女を興味深そうに見つめ、アリアは舌打ちしてめんどくさそうな顔をする。
「ちっ。あんだけ縛ったってのに。こっちに来ちゃうとはね」
「ほお。これは予想外だったな」
彼女は辺りを一通り見渡した後、カイツの方を見る。その目は彼をー彼の中にいる何かーを睨み付けていた。彼も負けじと彼女を睨み付け、忌々しそうに口を開く。
「面倒な奴が来ちまったな」
「どうやら祭りには間に合ったようじゃな。妾も混ぜてもらうぞ。お主らの好きにはさせぬ」
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