第62話 戦いの終わり 妖精族の宴

 カイツとルサルカの戦い、ダレスとモルぺウスの戦いが終わる頃、ウルは未だに3階へ行く階段に行くための方法を模索していた。


「もう。どうすればあそこに行けるのよ。しかも、さっきからでかい魔力が出たり変な気配出てきたりと。何がどうなってるのかしら」


 彼女は何とかして3階へ続く階段へ行こうとするも、距離があるせいで行くことが出来なかった。魔術を使っても上手く行かず、矢も4、5本は無駄にしていた。


「はあ。3階に行けないわ。これもダレスのせいよ! あいつが2階の床ぶち壊したせいよ! あいつがあんなことしなければこんな場所で足止めくらうことなかったのにいいい!」


 彼女は地団太を踏みながら愚痴を吐いた。そんな中。


「何してるんですか。尻軽女」


 きつめの罵倒を浴びせながら、クロノスが現れた。


「クロノス。今まで何してたのよ」

「鬱陶しい神様と殴り合いをしてました。それよりも」


 クロノスは上を見上げ、破壊されて無くなった2階の床を見る。


「なるほど。こういうことですか。なら」


 彼女は一旦しゃがみ、地面を蹴って大ジャンプする。その跳躍力は1階から3階へ続く階段までひとっ跳びするほどだった。


「では」


 彼女はそう言って3階へと行ってしまい、ウルはぽかんとした顔でそれを見送っていた。


「……嘘でしょ。何なのよ。あの身体能力」



 クロノスが3階に着くと、そこにはモルぺウスとダレスが地面に横たわっていた。モルぺウスの顔は潰れており、肉片がそこらに散らばっている。ダレスは意識こそないものの、息はまだあった。


「カイツ様はこの上ですね。急ぎましょう」


 彼女はそう言ってダレスたちを無視し、先へと進んでいった。4階に着くと、カイツとルサルカが倒れていた。


「……やはり、あの妖精族では呪いは殺せなかったようですね。まあ良いでしょう」


 彼女はカイツの元へ駈け寄り、彼を膝の上に乗せる。


「カイツ様、大丈夫ですか? カイツ様!」


 彼女がそう呼びかけて少しした後、カイツが目を覚ました。


「うう……ここは、研究所……クロノス! お前、どうしてここに」

「カイツ様を助けに来たのです。それより、何があったのですか?」

「分からない……ルサルカに突き刺されてからの記憶が……そうだ! ルサルカはどこだ!?」


 彼は体を起こそうとしたが、痛みと疲労のせいで上手く起こすことが出来なかった。


「くそ。体が重い。何があった」

「無理を為さらないでください。ルサルカならそこにいますから」


 カイツは彼女が指さした方、ルサルカが倒れている所を見る。


「あれ。生きてるのか?」

「ええ。意識は無いようですが、魂に異常はありませんし、重傷ではなさそうです」

「そうか……良かった」


 彼は安心したのか、彼女の膝に倒れ込んだ。


「ていうか今更だが……これどういう状況だ?」

「膝枕です。カイツ様を床の上で寝かせるわけには行きませんから」

「そうか。それは悪いことをしたな。しんどかったろ」

「いえいえ。カイツ様のためなら、私は何でも出来ますから。それより、カイツ様はもう少し休んでください。ここは私がなんとかします。ですから、カイツ様はゆっくりお休みください」

「分かった……じゃ、あとは任せる」


 彼はそう言って眠ってしまった。


「よほどお疲れだったのですね。さて。私がやるべきは」


 彼女は手のひらから青い火の玉を生み出した。


「壊せ。スピリットブレイク!」


 青い火の玉が何もない壁に向かってぶつかり、大爆発を起こした。彼女は彼にダメージが行かないように爆風から守る。その直後、建物が煙のように消え、地面に落ちた。もちろん、カイツにはダメージが無いように苦心した。


「え!? いきなり建物消えたけど。これどういうことなの!?」


 ウルが突然の事態に混乱していたが、クロノスはそれを無視し、指を鳴らした。すると、いくつもの火の玉が現れ、それは人と同じくらいの大きさがある鳥のような生物となる。鳥たちは一斉に妖精族の元に向かい、嘴で服を掴み、自身の背中に器用に投げ飛ばし、ついでにダレスも背中の上に乗せた。


「さて。後はあれらを森へと運ぶだけですね」







 side カイツ


 クロノスの膝の上で眠っていると、どんちゃんどんちゃんと何かが鳴るような音が聞こえて来た。最初は気にしないレベルだったが、次第に音が大きくなっていき、少しうるさくなってきたせいで意識も浮上していった。目を覚ますと、クロノスが目の前で優しそうな笑みを浮かべていた。隣にはアリアがすやすやと眠っており、その隣でルサルカがすやすやと寝ている。木で出来た小屋のような場所にいた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ああ。それより、この音は何だ? 何が起こってる」

「お祭りですよ。アルフヘイムの侵略者がいなくなりましたからね。見に行きますか?」

「ああ」


 クロノスの肩を借りて小屋を出ると、そこは桜が舞い吹雪く場所となっており、辺り一面に桜の木が広がっている。どんだけ少なく見積もっても20本以上はある。妖精族は皆楽しそうにしており、酒や料理を口にしている。ダレスも他の妖精族とどんちゃん騒ぎをしており、ウルは妖精族の男に告白していた。スーパーマンズはどこにもいないが、どこにいるのだろうか。というか、ダレスは身体中包帯まみれだが大丈夫なのだろうか。


「いええええええ! 酒! 酒! 酒! 誰か私と飲み比べしようよ! 飲み比べバトル飲み比べバトル!」

「あの! あなた、とってもいい眼鏡をしてるわね。私と結婚を前提にお付き合いを……え、無理? そう」


 ウルはショックを受けたような感じであり、ダレスは完全に出来上がっている。その光景にぽかんとしていると、妖精族の人間が声をかけた。


「おお! カイツさん。お目覚めになられたんですね。気分はどうですか?」

「少し体が重いが、そこまで問題ない。それより、これは一体」

「宴ですよ。貴方がたのおかげで侵略者がいなくなりましたからね。ねぎらいや祝いを込めて宴をしています。この桜も、わっちらのパワーで作ったもんでしてね」


 妖精族って凄いな。こんだけの桜を作ることが出来るなんて。



「さあさあ! あなたもこのお酒をどうぞ。侵略のせいであまり質は良くないですが、この酒は中々に良い味ですよ」

「いや。俺は酒は飲まないから大丈夫だ」

「そうですか。まあ楽しんでくださいな。安い料理しかありませんが、味は保証しますよ」


 彼はそう言ってダレスの元へ行き、酒の飲み比べ勝負をしていく。


「カイツ様。この葉っぱ肉をどうぞ。さっぱりしてて美味しいですよ」


 クロノスはそう言って皿を差しだす。皿の上には葉っぱのような形をした分厚い肉と割りばしがあった。それを受け取り、肉を食べる。肉は脂がなくて口触りもよく、後味もなくさっぱりしている。確かに味は素晴らしいな。俺たちのいる世界ならそれなりの高級料理として扱われそうと思えるほどだ。


「美味しいな。ありがとう。クロノス」

「ふふふ。カイツ様にお礼を言われると嬉しくなっちゃいますね。色んなのありますから、欲しいものがあったら言ってください。取ってきますから」

「ありがとう。じゃあ、さっきの肉と、あそこにある緑色の麺みたいなものを」

「分かりました。では取ってきます」


 クロノスはそう言って俺を葉っぱのソファの上に座らせ、料理を取りに行った。待っていると、クロノスがゾンビのような足取りでこっちに来た。


「カイツ~。私また告白断られたああ!? やっぱり私には貴方しかいないのおおおお!」


 そう言って俺に抱き着いて来た。


「おう。告白断られるってのは辛いよな。けど俺も結婚する気は」

「あるの!? ありがとうカイツ! やっぱり貴方は最強の夫だわ!」


 涙を拭いて一転。嬉しそうな顔で俺を抱きしめる。結婚する気はないんだが、今言っても聞いてくれなさそうだ。後でちゃんと言うとしよう。


「カイツー! このハート葉っぱ食べましょう。これって結婚する人同士が食べるものらしいわ」


 いつのまに取ってきたのか、ピンク色でハートの形をした葉っぱを差し出してくる。


「いや。今は良い」

「えええ。一緒に食べてほしいのだけど。食べて食べて食べてーー!」

「いや……あの」


 ぐいぐいと押し付ける彼女をどうしようかと思っていると、クロノスが頭を叩いて来た。


「ふにゃ!?」

「尻軽女は離れてください。カイツ様が迷惑してます」

「うううう。こんなに強く叩かなくても」

「離れろ。ついでにあっちに行け」


 彼女がそう言うと、ウルは人操られた人形のように俺から離れ、どこかへ行っていく。


「ちょっとおおおおおお!? まだ堪能出来てないのにいい! カイツ! また後で来るわよおお!」


 そう言って彼女は離れて行った。あの感じからして、クロノスの言霊って奴だろう。


「全く。尻軽は本当に鬱陶しいですね。私の至福の時を邪魔して。はいカイツ様。あーんです」


 そう言って彼女は食べ物を差し出してくる。こういうのは少し恥ずかしいし、周りの妖精族も興味ありげにチラチラ見てるが、まあいいだろう。


「あーん」

「ああ。カイツ様可愛いですね。持ち帰りたくなっちゃいます」

「そうかい。持ち帰られるのは勘弁だな」

「分かってますよ。ですから、私が持ち帰りされたいですね」

「意味が分からん。それより、クロノスは何か食べなくていいのか?」

「私はカイツ様の食べてる姿を見るだけで満腹ですから」

「そうか」


 良く分からないが、彼女は食べる気はないようだ。


「カイツ様。今回はお疲れ様でした。あなたのおかげで、妖精族を助け、この世界を救うことが出来ました」

「……俺はそこまで役に立ってねえよ。ルサルカを助けることも出来なかったからな」


 そもそもあの時の記憶が無いんだが。一体何があったんだ。


「ですが、カイツ様がいたからこそ、出来損ないの天使や蛇人間も倒せたのです。それに、ルサルカを救えたのはなたの功績だと思いますよ。覚えていらっしゃらないようですが、私はばっちりこのおめめで見てましたから!」


 本当かどうか分からないが、もしそうなら嬉しいことだ。ルサルカを助けることは出来たみたいだからな。


「クロノス。ありがとうな。お前のおかげで、幾分か心が軽くなった。ありがとう」


 そう言うと、彼女は顔を赤くし、くねくねとし始めた。


「うふふふふ。カイツ様にお礼を言われるのは最高ですね。心がキュンキュンします~」

「さいですか」


 色々と謎はある。イシスの目的も不明だし、ヴァルキュリア家についての情報もない。けど、この世界を救うことは出来た。なら、今はそれで良しとしよう。

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