第58話 ダレスVSモルペウス

 研究所第1階。2階の床がダレスによって破壊され、2階から3階へと続く階段が宙ぶらりんのようになっている。ウルは2階に続く階段の一番上に登り、弓を構え、青白い光を纏った矢を引いていた。


「上手く行ってよ。サンダーショット!」


 光を纏った矢が放たれ、2階から3階へと続く階段の段に突き刺さる。矢から青白い紐のようなものが飛び出した。それはウルの元まで伸びていき、彼女はそれを掴んだ。


「せーの!」


 彼女は掛け声とともに飛び降りた。紐は彼女と共に下へとぶら下がっていく。矢はミシミシと音を立てており、今にも壊れそうだった。


「ここまでは上手く行ったわね。あとは」


 彼女が紐を伝って上へ登ろうとすると、重みに耐えきれなかっのか、矢がバキッと音を立てて壊れてしまった。彼女は真っ逆さまに下へと落下していく。彼女は空中で姿勢を変え、地面に向かって弓を構え、矢を引いた。


「プラズマネット!」


 放たれた矢が地面に突き刺さると、矢から雷が放たれ、それがネットのようなものに形を変える。そのネットはウルを優しく受け止め、衝撃から身を守った。


「はあ。上手くいかないわね。もう少し体重落とせば良かったかも」


 彼女はそう言いながら、3階の床を見上げる。


「どうやってあそこまで行こうかしらねえ」


 彼女は髪の毛をかきあげながら、上へと行く方法を考えていた。






 研究所第3階。ダレスとモルペウスが激しい戦闘を繰り広げていた。ダレスはガントレットを装着し、モルぺウスに攻撃を仕掛けていた。裏拳からの蹴り、ストレート、フック。次々に攻撃を仕掛けていくも、モルぺウスは全ていなしていた。


「やるねえ。薬を飲んだ私と互角以上にやれるとは。カイツの次の次くらいには、優良な人材だよ」

「薬。なるほどなのだ」


 彼女は自分とダレスの間に壁を出現させ、距離を離した。


「なんか妙だと思ってたのだ。やたら高い身体能力、浮き出た血管。薬によって血の巡りを速くし、筋肉に強力な刺激を与え続けることで体を強化している。面白い奴なのだ」

「褒めてくれて嬉しいよ。強くなるため、無い頭使って必死に考えたからね」

「でも、その程度では僕に勝てないのだ。溶けるのだ!」


 彼女がそう言うと、辺り一帯がマグマに変わった。しかし、ダレスは特にダメージを受けた様子もなく、元気にしている。


「幻覚は効かないといってるだろ!」


 彼女はマグマを気にすることなく進み、モルペウスの元へ向かっていく。


「ならこれはどうなのだ!」


 マグマが消え、ダレスの目の前に巨大な壁が出現した。


「鬱陶しい壁だね」


 彼女は壁を避けて行こうとすると、その前にも壁が出現していき、行く手を阻む。


「ああもう。ほんとにめんどくさいなあ」


 彼女は壁を飛び越えようとジャンプして壁の上に立ち、そこを蹴ってモルペウスの元へ向かう。彼女の打撃をモルペウスは後ろに下がって躱し、蹴りを繰り出す。

 ダレスはその蹴りを腕で防ぎ、カウンターするようにモルペウスの腹に蹴りを繰り出す。それは飛んで躱され、モルペウスが頭を狙って蹴りを仕掛ける。ダレスはそれを後ろに飛んで避けた。


「素晴らしい! ここまで肉弾戦をやれるのは中々にレアだよ!」

「これぐらいは普通にやれるのだ!」


 モルペウスが腕を上げると、上空に何本もの剣が出現した。


「これは……幻覚じゃない!」


 上空から降り注ぐ剣をダレスは前に行きながら躱し、再びモルペウスと距離を詰める。


「ああもう! ほんとにめんどいのだ!」


 モルペウスが腕を突き出すと、そこから大量の煙が噴き出し、ダレスの視界を封じた。


「幻覚か。だけど、これは厄介だね」


 幻覚と言えど、彼女の視界を封じるには十分な煙だった。彼女がそこから抜け出そうとすると、それを封じるように煙の中から何本もの剣が襲ってくる。


「ちっ。面倒だね」


 彼女は舌打ちしながら、その剣を弾きながら煙の中を脱出した。その瞬間、モルぺウスがダレスの方向けて指を指していた。


「はい貫けなのだー」


 巨大な槍が出現し、彼女向かって襲い掛かる。


「どらああああ!」


 彼女は掛け声と共に槍を殴り壊した。


「飛び道具が多いね。なら私もそれに習おう!」


 彼女は近くにあった瓦礫の破片を拾い、それを投げつけて行く。


「無駄なのだ」


 モルぺウスは壁を出現させ、その攻撃を防いだ。


「ふむ。このままじゃ埒が明かないね。ならこの手で行こう」


 彼女の両足の膝横から1本ずつ腕を生やした。


「? なんなのだ。それ」

「面白いものさ。行くよー!」


 そう言った瞬間、彼女の姿がそこから消えた。


「!? どこにーぎゃ!?」


 探そうとしたモルぺウスの顔をダレスが全力で殴り、大きくふっ飛ばした。


「こいつ。いきなりスピードが」

「さあさあさあ! どんどん行くよお!」


 ダレスはあちこちを高速で飛び回っていき、顔や体を殴ったり蹴ったりと次々に攻撃を加えていく。


「このお……調子に乗るななのだ!」


 彼女がカウンターを狙おうと攻撃しようとするも、ダレスはその攻撃を躱し、首を蹴り飛ばす。


「ごはっ! この」


 彼女が後ろに振り向いて殴ろうとするが、ダレスはその攻撃をしゃがんで避け、腹を殴り飛ばした。彼女は大きくふっ飛ばされ、地面を転がっていった。


「くそ。ならこれはどうなのだ!」


 彼女は自身の周囲に壁を出現させた。しかし。


「無駄だよお!」


 ダレスは壁に勢いよく突っ込んで貫通し、その勢いを使ってモルぺウスをふっ飛ばした。その勢いは後ろの壁を破壊し、遠くにふっ飛ばしていった。


「があ!? だあもう……いきなり強くなって面倒なのだ」

「とどめだ!」


 彼女が攻撃しようとすると、モルぺウスは自身の足下に壁を出現させ、攻撃を避けた。


「ほんとに鬱陶しい奴なのだ。これで終わらせてやるのだ!」


 彼女は両腕を交差させて上に上げた。


「闇に飲まれよ。ミッドナイトフィールド!」


 彼女の両手から黒い闇が噴き出し、それが3階のフロア全体を包み込んだ。


「これは」


 光の無い完全な闇の世界。目の前どころか、自分の体さえ見ることが出来ないほどの深い闇。先ほどの煙とは違い、全く何も見えない世界では彼女も動くことが出来なかった。


「参ったなあ。これじゃあーぐ!?」


 どこかから剣が飛び出し、ダレスの肩に刺さる。


「くそ。これはほんとに鬱陶しい」

「ここは真っ暗闇の世界。この世界では、お前は何も出来ないのだ」


 モルぺウスの声が聞こえた瞬間、背中に2本の剣が突き刺さる。


「ぐ……凄いね。こんな技があるとは。なら!」


 彼女が地面に向かって殴ろうとすると、自分が高く突き上げられる感覚がした。


「これは……上空に上げられたのか」


 ダレスの推測通り、彼女は足下から出て来た壁によって、上空に上げられたのだ。そして、モルぺウスはその隙を逃さずに何本もの剣を放つ。ダレスはその剣を見ることが出来ず、その剣が体に突き刺さった。


「が!? これは辛いな」


 彼女は地面に落下し、それを追撃するように何本もの剣が闇の中で襲い掛かる。


(これで終わりなのだ)


 モルぺウスがそう思い、勝ちを確信した瞬間、ダレスはその剣の攻撃を一部弾いた。全てを弾くことは出来なかったが、それでも剣が刺さることは回避できた。


「なっ!? お前、見えるように」

「いや。全く見えてないよ。けど見えないからって、攻撃を避けれなくなるわけじゃない。剣が飛ぶ時の音を聞けば、どう避ければいいかはなんとなく分かる。」

「なら、この攻撃も避けてみるのだ!」


 モルぺウスが闇の中で手を突き出すと、ダレスの上空に何本もの剣や斧、槍、鎚が現れる。


「潰れて終わりなのだ!」


 武器がダレスの元に降り注ぐが、彼女はその攻撃が来るのが分かってるかのように次々と避けて行く。多少かすったりはしているものの、致命傷を受けることは無く、全ての攻撃を避けて行った。


「まだ多少のダメージはあるけど、もう問題ないね。次はノーダメージでやれる気がするよ。さあ。もっと面白い攻撃をしてきなよ。幻覚を使う奴と戦えるのはレアだ。色んなものを見せてくれ!」

「そんなに色んなものを見たいのなら、お前にとっておきの地獄を見せてやるのだ」

「良いねえ。どんな地獄を見せてくれるか楽しみだ」


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