第57話 それぞれの攻防戦2

 side カイツ


 奴は幻覚で作った剣を俺に放ってきた。俺はそれを避けることなく突き進み、奴に近づいていく。元から幻覚だと分かっていれば、防ぐ必要は無い。幻覚の剣は俺の体をすりぬけるだけであり、痛みは無かった。


「たく。本当にめんどくさいのだ」


 奴が指を鳴らすと、俺と奴の間に爆弾が出て来た。本物ではなく幻覚の攻撃。


「ドーン」


 その言葉と共に爆発を起こし、辺り一帯が煙で覆われる。幻覚とはいえ、こうして視界を封じられるのは厄介だな。それに、こいつの戦い方。

 俺が考え事をしようとすると、それを許さないかのように何本もの剣が襲い掛かってきた。さっきの攻撃とは違い、これは本物の剣。俺はそれらを全て弾き、煙の中から脱出した。脱出すると、奴が人差し指を俺に向けていた。


「はいポーン!」


 そう言うと、何もない所から突然瓦礫が出現し、俺に襲い掛かってきた。実体を持った攻撃というのが厄介だが、剣で弾くのはそう難しくなかった。


「溶けるのだー」


 奴がそう言うと、辺り一帯がマグマに変わった。だがこれは幻覚だ。何も焦る必要はない。奴の元へ向かうと、マグマが消え、俺と奴の間に本物の壁が出現した。


「もう。完全に幻覚を見破られてるのだ。これは辛いのだ」

「色んな所で散々見て来たからな。見破る方法もなんとなく分かって来るさ」


 幻覚を見破るのはそこまで問題じゃない。問題は。俺は壁のないところへ移動し、刀の切っ先を奴に向ける。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの紅い球体を奴に放って攻撃する。


「はーいドーン!」


 奴のふざけた言葉と共に壁が出現し、俺の攻撃を防いだ。


「ほーれほーれ!」


 奴は何個も爆弾を生み出し、こっちに投げてきた。俺はその攻撃を躱しながら近づいていくが。


「さーせなーい!」


 彼女が腕を上に上げると、俺の足下から壁が飛び出し、俺を高く上げた。


「そーれ!」


 俺が上がった所を狙うように、奴は何個もの爆弾を投げる。それを飛んで躱すも、また距離を離されてしまった。

 やはりそうだ。奴は俺とまともに戦う気が無い。奴の目的は恐らく、俺をこの場に足止めすること。理由は分からないが、上に行かれると困るんだろう。だからこうして足止めをしているんだ。


「うえ~。カイツ強すぎなのだ。どうやってそんなに強くなったのだ?」

「六聖天 脚部集中!」


 俺は奴の質問に答えず、六聖天の力を足に集中させる。地面を蹴って一気に奴の背後を取った。


「剣舞・紅龍一閃!」


 居合切りを放ち、奴に刀が届くかと思った瞬間。


「させないのだ!」


 奴の足下に壁が出現し、奴を高く上げた。そのせいで、俺の刀が当たらず、壁を切り裂いただけだった。


「質問してるのだから答えてほしいのだ。嫌な男なのだ」

「お前の質問に答える義務はないんだよ! 剣舞・五月雨龍炎弾!」


 大量の紅い球体を生み出して放つも、奴はそれを飛んで躱す。いくつかの球体が追尾していくが。


「ほーい!」


 奴が自分の前に壁を出現させ、俺の攻撃を防いだ。こんなんじゃ埒が明かない。速くルサルカの元に行かないといけないのに。

 どうする。あっちが積極的に攻撃してくることはないだろうから、攻撃の隙を突くのは難しい。かといって無視して螺旋階段に行くのは、どう考えても愚策だ。力を足に集中させて不意打ちしようにも、それは通じなかった。足に力を集中させても、スピードで翻弄するのは難しいだろう。仮に出来たとしても、俺の足がもたない。ただでさえ痛みが出てしんどいというのに。


「おおお。なんだか楽しそうなことしてるねえ」


 声のした方を見ると、ダレスが目をキラキラと輝かせながらこちらを見ていた。というか、なんかごつくなってないか。血管も浮き出てるし、一体なにがあったんだ。


「やあカイツ。なんだか焦ってるようだけど、私が代わりに殺ってやろうか?」

「そうしてくれるならありがたいが、やれるのか?」

「あんなのに負けはしないよ。それに、イシスと戦う前の良いウォーミングアップになりそうだし」


 ウォーミングアップの意味は分からないが、彼女にこの場を任せるのも良いな。今は一刻も早くルサルカを助けないといけないし。それに、めちゃくちゃモルペウスと戦いたがってるみたいだし、先に行けって言ったら絶対キレられる。


「分かった。ここはお前に任せる!」


 俺は刀を収め、地面を蹴って奴の横を通り過ぎようとする。


「行かせると思ってるのだ?」


 奴が俺に向かって手を伸ばそうとすると、その腕に矢のように飛んできた瓦礫が当たった。


「ぐ!? なんなのー!」


 奴が腕を抑えながら前を見ると、いくつもの瓦礫が奴に襲い掛かり、奴は両腕で防御していく。


「うん。中々使える攻撃だね。なんか瓦礫が多いし、弾には困らなさそうだ」


 瓦礫を飛ばしたのはダレスであり、近くにあったものを投げ飛ばしたのだろう。爆弾使ったり壁に龍炎弾が当たったりと瓦礫飛びまくりだったからな。確かに弾には困らないだろう。俺はこの場を奴に任せ、螺旋階段を駆け上がって次の階層へと向かっていった。







 カイツが去った後の3階。モルぺウスはダレスを睨み、ダレスは笑みを浮かべていた。まるで、楽しいことを待つ子供のように。


「たく。面倒なことをしてくれたのだ。しかも、この僕をウォーミングアップにちょうどいいって言うとは。ずいぶんと舐め腐った奴なのだ」

「安心したまえ。私はたとえウォーミングアップでも全力を出す女だ。君を満足させられると思うよ」

「僕は相手の強さに満足するような変人じゃないのだ。やることも多いし、とっとと片付けるのだ!」


 彼女が腕を突き出すと、ダレスの頭上に何十本もの剣が生み出された。ダレスはそれをじっと見つめている。


「はいドーン」


 その言葉と共に剣が降り注ぐが、彼女は避けることも防御することもせず、まともにその攻撃を食らった。剣は彼女に突き刺さるかと思いきや、彼女の体をすり抜け、地面もすり抜けて行った。


「やっぱり幻覚だったか。なんとなくそんな気はしたんだよねえ」

「お前……どうやって僕の幻覚を」

「いやー。なんとなく分かっちゃうんだよね。だってさ。幻覚って実体を持つものを除いて、どうにも生気というかパワーを感じないんだよね。リアルにあるものと比べると見劣りするというか。だから分かっちゃうんだよ」

「は? お前何言ってるのだ」


 モルぺウスは彼女の言ってることが理解できなかった。パワーだの生気だの、モルペウスからすれば意味不明であり、彼女はまともなコミュニケーションが出来ないと感じた。


「そんな意味不明なこと言ってる奴は、こうするのに限るのだ」


 彼女が指を鳴らすと、ダレスは氷に覆われてしまった。


「ほーいどーん」


 彼女がそう言うと、ダレスごと氷に巨大な亀裂が入った。明らかにダレスの体が切断されており、普通なら生きてる可能性は0だろう。


「さて。雑魚の掃除も終わったし、速くカイツを追いかけるのだ」


 モルペウスがカイツを追いかけようとすると、ダレスを包んでいた氷にヒビが入った。


「! この女」


 彼女が忌々しそうにそう言うと、氷が砕け、ダレスが飛び出してきた。ピンピンとしており、全くダメージを負ってるようには見えない。


「残念だけど、君の幻覚は効かないよ。だって、君の幻覚にはパワーが無いからね。そんなちょろい魔術は簡単に見抜ける。さあ。そろそろ本気で来なよ。君の底を見せてくれ」


 ダレスは挑発するように手招きする。それはモルペウスの怒りに火を付けた。自身の魔術はわけのわからない理由で破られ、馬鹿にされる。おまけに格下と見ているのか、相手はこうやって自分を挑発してくる。モルペウスは先ほどよりも強く睨み、ダレスはそんな彼女の目を見て笑みを浮かべる。


「良いねえ。お遊びはおしまいって感じの顔だ。楽しませてくれよ」

「楽しむ間もなく。お前を殺してやるのだ!」

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