第56話 それぞれの攻防戦

 カイツがモルぺウスと戦い始めた頃。ダレスは建物内を突き進んでいた。


「そらそらそらそらああ!」


 彼女は周りの人間を殴り飛ばしていた。


「止めろ! 誰か奴をーがびゅ!?」

「強い奴はいないのかな? 私はまだまだ元気だよ!」


 彼女は近くにいた人間の頭を掴み、それを鞭のようにぶんぶんと振り回して周りにいる敵たちをぶっ飛ばす。


「あははははは! たまにはこういう乱戦も良いものだね! とっても元気になれるよ!」

「騎士団風情が。調子に乗るな!」


 敵の1人が上から襲い掛かり、ハンマーで叩き潰そうとするも、彼女はそれを躱し、顔を蹴り飛ばした。


「ほらほらあ! もっとかかってきな! あんたたちの実力見せてみなよ!」

「くそ! なんて野郎だ。一体どういう体の構造してるんだよ!」

「怯むな! 数はこちらが上だ! 蹴散らせーーー!」


 敵は周囲から一斉に襲い掛かり、ダレスは笑みを浮かべる。


「ふふふ。良いね。そうこなくっちゃ!」


 彼女は背中から2本の腕を生やし、4本腕となる。それぞれの腕で敵の頭を掴み、指を脳みその中へと食い込ませた。頭の中に指を入れられた敵は口や目から血を流し、そのまま絶命した。


「行くよおおおお!」


 彼女は4本の腕で掴んだ敵たちを鞭のように振り回しながら突き進む。


「うわああああ! げふ!」

「がっ!?」

「あびえ!?」



 周りの人間を鞭のように振り回してる敵でぶっ飛ばし、ただまっすぐ突き進んでいった。


「クソ野郎がああああ!」


 それでも敵は諦めることなく、何人もの敵が四方八方から襲い掛かる。ダレスは掴んでいた敵たちを、襲ってくる敵たちに投げつけ、その動きを止めた。


「ぐ!? 舐めた真似ーひっ!」


 彼女は敵が止まった隙を突き、首を掴んで握り潰した。そのまま別の敵の元へ向かう。


「このおおお!」


 敵は槍で突き刺そうとするも、彼女はそれを躱して腕を掴み、それをまた握りつぶす。


「があ!? どういう腕力してんだ」

「こういう腕力をしてるのさ!」


 彼女は手刀で敵の心臓を貫き、そのまま絶命させる。


「ふう。思ったよりも楽しめたね。やっぱり乱戦は楽しいよ……あれ?」


 彼女が残った敵のいる方を見ると、残った人たちはガクブルと震えており、腰が抜けていた。


「ありゃりゃ。もう戦えないのか。案外敵たちも腑抜けなんだね。まあいいや。君たちに聞きたいことがある」


 彼女はそう言ってしゃがみ、視線を敵たちと合わせる。


「イシスって奴がどこにいるか知らないかい? あいつと戦いたいんだけど、居場所が分からなくて苦労してるんだ」

「い、イシス様なら、4階で特殊実験体の……最終調整を」

「4階か。ありがとう。情報提供感謝するよ!」


 彼女はそう言って扉の方へ進んでいく。彼女は戦う時にあるルールを決めている。彼女が倒すのは、あくまで自分と戦おうとしたり、殺そうとする者だけ。戦意を失い、怯えることしか出来ない者たちには用が無かった。

 扉を蹴破った先にあったのは円形の部屋であり、中央に螺旋階段があった。


「なるほど。あの階段を使って登れば良いわけか。さっさと行くとしますか!」


 彼女はイシスと戦えることを楽しみに思いながら、螺旋階段を駆け上がって行く。2階に行くと、ウルと偽熾天使フラウド・セラフィムが戦いを繰り広げていた。


「Aaaaaaa!」


 何体もの天使が光弾を放つと、ウルはその攻撃を躱しながら5本の矢を取り、弓を構える。


「プラズマショット!」


 彼女が5本の矢を放つと、その矢は5体の天使たちの頭を貫き、絶命させた。


「おお。流石ウル! 狙いは完璧だね」

「ダレス!」


 彼女は3本の矢を放ち、近くに来た3体の天使の頭を貫き、ダレスの近くに来た。


「カイツは先に行ったわ。あなたも後を追いなさい」

「了解だ。ここの敵は任せたよ」


 彼女が螺旋階段へ進もうとすると、その行く手を阻むように何発もの光弾が放たれ、彼女は後ろに下がった。


「と思ったけど、そう簡単に進ませてもらえないようだね」

「そのようね。なら、私がもう1度道をー!」


 話してる最中も敵は容赦なく光弾を放ち、ダレスとウルは散開して避けた。


「たく。鬱陶しいのよ!」


 彼女は攻撃を避けながら3本の矢を放ち、3体の天使の頭を貫き、絶命させた。その直後に3本の矢を纏めて放とうとすると、天使たちがウルのやることを察知したのか、光弾で集中攻撃してくる。彼女は避けることは出来たものの、攻撃する暇が無かった。


「やれやれ。私が頑張るしかないかな!」


 ダレスは近くにいた天使の頭を掴み、指を食いこませて脳みそを掻きまわし、天使を絶命させる。


「よし。これならちょうど良い盾にー!?」


 彼女が盾として使おうとすると、突然天使の体が輝き、大爆発を起こした。


「!? ダレス!」


 ウルが叫ぶと、爆発の中からダレスが飛び出し、彼女と背中合わせになる。


「いやー参った参った。まさか爆発してくるとは思わなかったよ」

「ひやっとしたわよ。にしても、敵の数が多いわね」

「確かに。ここまで多いとめんどくさいなあ。あいつら盾にして強行突破は出来ないし、だからといってちまちま倒すのも面倒」


 ウルたちは天使たちをどうすべきか考えながら、攻撃を避けていく。攻撃を避ける中、ダレスは何かを確かめるように足で床をコンコンと叩く。


「床は結構薄い。なら、ここら一帯ぶち壊す方が速いね。魔石解放!」


 そう言うと、彼女はガントレットを右腕に装着した。さらに2本の腕を生やし、その右腕を包むように添える。


「! 待ってダレス! あなた何をする気なの!?」

「こうするんだよ! インパクトおおおおおおお!」


 彼女が全力で床を殴ると、全体に亀裂が入り、その際に生じた衝撃でウルや天使たちがよろめく。


「もういっちょおおおおおおお!」


 彼女が再び全力で床を殴ると、ヒビだらけだった床は崩壊し、天使やウルたちは足場を失った。みんな足場を探したり、自分の身を守ることに必死で、ダレスのことを気にかける余裕などなかった。ダレスはその隙を突き、崩れゆく足場をジャンプ台のように使い、あっという間に螺旋階段の所へと飛んでいった。


「ダレスううううう! 覚えてなさいよおおおお!」


 ウルはそう叫びながら下に落下していった。


「覚えてる暇があったらね。さてと。とっとと3階に行くとしよう。速くイシスと戦いたいしね」


 ダレスはそう言って螺旋階段を上って行った。





「くそ! あのゴリラ女。ふざけたことしてくれるわね」


 ウルは愚痴を言いながら、空中で体勢を変え、地面に矢を向けて弓を構える。


「プラズマネット!」


 矢を放つと、矢から雷が放たれ、それがネットのようなものに形を変える。そのネットはウルを優しく受け止め、衝撃から身を守った。周りを見ると、ウルのように衝撃から身を守るすべのない天使たちは、次々と落下していき、首があらぬ方向へ曲がったり、地面に当たった瞬間に体の骨がめちゃくちゃになって耳や目、口から血を吐いたりなど、凄惨な有様だった。


「えっぐいわね。気持ち悪くなっちゃいそう」


 彼女は口元を抑えながら、視線をそらした。


「にしても」


 彼女が上を見ると、螺旋階段が上にぽつんと残っており、2階の床は完全に無くなっていた。2階へ行くための螺旋階段は、あちこちに穴が開いたりへこんだりヒビが入ってたりと、歩くのが危険な状態になっていた。


「どうやってあそこまで行こうかしら」








 一方その頃。クロノスは研究所内で、つまらなさそうな顔をしながら暴れまわっていた。


「逃げろおおおお! 奴は死神だあああああ!」


 研究員はもちろん、戦うために来た兵士達ですら、彼女の力に恐怖し、逃げ回っていた。


「はあ。雑魚を倒すのはつまらないですね。消えろ」


 彼女がそう言うと、逃げ回っていた兵士や研究員たちは煙のように消えてしまい、服だけがぱさりと落ちた。


「はあ。カイツ様は結構上にいるみたいですね。追うのは簡単ですけど、こいつら逃がすと怒られちゃいそうですし」


 彼女はそう言いながら、周りの敵や逃げて行く敵を片っ端から煙のように消していく。そうして研究室のような部屋を歩いていくと、目の前の床が破壊され、そこから偽熾天使フラウド・セラフィムが殴りかかって来る。拳に鋭い鉄棘があったが、彼女はその攻撃を手のひらで受け止めた。棘は彼女の皮膚を貫通できず、そのまま止まってしまった。クロノスの手のひらは魔力が込められていない。それなのに、天使の魔力を込めた一撃は傷をつけることすら出来なかった。天使の力が弱いわけではない。武器の性能も悪くない。しかし、その程度のものでは超えられないほどに、彼女が強すぎるのだ。


「Aaaa!?」

「脆いですね。消えろ」


 彼女がそう言うと、天使は煙のように消えてしまい、武器だけがカタンと音を立てて落ちた。


「ふう。後は」


 彼女が扉に向かって歩くと、その隙を突き、後ろから2体の天使が武器を持って襲い掛かってきた。


「弾けろ」


 彼女がそう言った瞬間、天使たちの動きが止まり、その肉体が風船のように膨張していく。


「Aaaa……Aaaaaaa!?」


 天使達は断末魔のような叫びを最後に、その肉体がバラバラになって弾けた。返り血などがクロノスに飛んで来るも、それは見えないバリアのようなもので防がれた。


「後ろから襲うのは気に入りませんが、私の道を阻まなかったことは、褒めてあげます。さて。速いとこカイツ様の元へ」


 彼女が扉を開けようとすると、死角から何発もの緑色のレーザーが襲い掛かる。しかし、その攻撃は彼女に当たる前に、見えないバリアのようなもので防がれた。


「……はあ。面倒なのが来ましたね」

「悪いな。これが私の仕事なんだ」


 クロノスが声のした方を振り返ると、そこにはピエロの仮面を着け、黒いコートに身を包んだ女性が立っていた。


「あなたがここにいるということは、調整は終わったわけですか」

「ああ。すこぶる順調に終わったよ。おかげで、私のやりたいことも果たせる」

「……で? あなたがここにいる理由は、私の足止めですか?」

「その通りだ。こうでもしないと、怪しまれてしまうからね」

「あなたも大変ですね……まあいいでしょう。あなたと私の利害は一致してます。協力するために戦ってあげますから、うっかり死なないで下さいよ」

「そちらもな。森でやったような手加減をすれば、1秒で死ぬから覚悟しておけ」

「ご忠告感謝します。では、行きましょうか」


 彼女たちが同時に地面を蹴り、互いの拳が衝突した。その瞬間、巨大な衝撃波が発生し、周囲の壁や地面に亀裂が走った。

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