第55話 攻撃開始! ルサルカを取り戻せ!
side カイツ
俺たちは最後に残った研究所の近くの森に着き、でかい岩や木の後ろに身を隠していた。研究所は塔のような形になっており、さっき見た研究所よりも何倍もでかい。これも魔術で作ったものなのかね。だとしたら恐ろしいことこの上無いが。ここに来るまで、
「びっくりするほど敵に会わなかったわね」
「ああ。もしかしたら、敵の数もかなり少なくなってるのかもな」
なんせ、研究所を2つも壊して、捕らえられてた妖精族も助けたからな。
「ではカイツ様。手筈通りに行ってまいります」
「ああ。気を付けろよ。危なくなったらすぐに逃げろ」
「ふふふふ。カイツ様に心配されるのは嬉しいですね。濡れてきちゃいます。では」
彼女は恍惚とした表情になりながら建物へと向かっていった。少し不安を感じるけど、多分大丈夫だろう。あいつは俺達とは次元が違うみたいだかな。
「じゃあ。私も行ってくるよ」
「おお。お前も気をつけろよ」
「ああ。死なないように頑張るさ」
そう言って、ダレスも建物へ向かった。
「……大丈夫なのかしらね。あれ」
「ま、信じるしかないだろ。あいつらが攻め込んだら、俺達も行くぞ」
「ええ。必ずルサルカを取り戻しましょう」
ルサルカは建物の壁の近くに着き、破壊するための準備を始める。彼女がいる壁の向かい側にはダレスが待機しており、ガントレットを装着した。
「さて。カイツ様が楽に攻め込めるよう、頑張っちゃいますよ!」
彼女は青い火の玉を生み出し、魔力を凝集させていく。
「消し飛ばせ。スピリットバースト」
火の玉から巨大なビームが放たれ、壁を消し飛ばして突き進んだ。中にいた人や装置なども巻き込んで消し飛ばし、一直線に放たれていく。そのビームは全てを貫き、向かい側の壁も消し飛ばして突き進んだ。その近くにいたダレスは驚いたような表情をした後、笑みを浮かべる。
「危なかったー。あれを食らってたら確実に死んでたね。やっぱりクロノスはすごいなあ。こんなえげつない攻撃が出来るんだから。私も負けられないぞー」
彼女は懐から小さな瓶を取り出し、中の白い玉を取り出して飲み込んだ。その瞬間、彼女は体中に電流が走ったような感覚を味わった。
「くふふふ。来たよ。きたきたきたきたああ!」
彼女の四肢の筋肉が少しばかり肥大化し、体中の血管が浮き出る。笑みは悪魔のように不気味なものとなり、玉を飲む前とは明らかに何かが違っていた。
「さあ行くよ。そいやああああ!」
彼女が全力で壁を殴ると、轟音と共に、壁に巨大な穴が開いた。どこかの研究室ったらしく、中にいる研究者達が唖然とした顔でダレスを見つめていた。
「お。人がいるとは都合が良いね。ねえ。君たちに聞きたいことがある」
side カイツ
始まったな。クロノスの奴、随分と派手に壁を壊してたな。ダレスが巻き込まれてないと良いんだけど。
「行くぞ。ウル」
「了解!」
俺たちは研究所へ向かって走り出す。研究所の扉の前には2人の兵士がいた。
「貴様ら。ヴァルハラ騎士団の人間だな!」
「ここは通さんぞ! 我らの悲願、貴様らに邪魔させぬ!」
奴らは剣を抜いて襲いかかってくる。だが問題ない。
「邪魔だ!」
刀を抜いて奴らを斬り殺し、そのまま前に進んでいく。扉を蹴破り、中へと侵入した。意外なことに、中には誰もおらず、がらんとしている。円形の部屋になっており、中央に螺旋階段、壁にはいくつもの扉がある。何の部屋か分からないが、調べてる暇は無いな。
「随分と静かね。ダレス達が暴れてるせいかしら?」
「それはあるかもしれないが、だとしても静かすぎる。まあいい。進むぞ。まずはイシスとモルペウスを見つける!」
奴らが何を考えていようと、俺たちがやることはこの研究所を破壊し、イシスとモルペウスを倒すこと。ここは奴らのフィールド。時間をかければこっちが不利になっていく。速攻で勝負を決めることが、勝つために必要なことだ。何が待ち構えていようと、突き進むしかない。
俺たちは前へと進み、中央にある螺旋階段を使って上に上がっていき、2階に着いた。そこには。
「あらあら。随分な歓迎ね」
何十体もの
「カイツ。先に行きなさい。ここは私が引き受けるわ」
「けど、これだけの数を相手にするのは」
「大丈夫。私もヴァルハラ騎士団の団員よ。これぐらいの数、なんてことないわ」
そう言って彼女は、3本の矢を持ち、弓を構える。
「ぶち抜け。サンダービースト!」
彼女が3本の矢を放つと、矢が雷の獣を纏い、一直線に進んでいく。障害物だった
「行って! こいつらは私が片付ける!」
「分かった。間違っても死んでくれるなよ」
「心配しないで。こいつらごときに殺されはしないわ! あんたこそ、ルサルカを必ず取り戻しなさいよ!」
「分かってる。必ずあいつを助けだす。六聖天・第2解放!」
背中から2枚の天使のような翼が生え、両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。足に力を込めて床を蹴り、1本道を一気に突き進んで螺旋階段へと到着した。この場をウルに任せ、俺は螺旋階段を駆け上がる。
3階に続く扉を破ると、目の前に広がったのは、またしても胸糞悪い光景だった。無数にある巨大な瓶の形をした容器。その中は緑色の液体で満たされていて、妖精族が入っている。
「……人体実験か」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいのだ。これは妖精実験。人間が犠牲になってるわけではないのだ」
声のした方を見ると、白衣の女性が立っていた。黒い髪を後ろに束ね、前髪をかきあげている。おっとりとした目をしてるが、柔らかい雰囲気は一切感じられない。この魔力。
「モルぺウスの本体か」
「正解。僕はモルぺウスの本体なのだ。やっぱりカイツは頭がよくて素晴らしいのだ」
「……お前。まるで俺のことを知ってるかのような言い方だな。どこで俺のことを知った」
「うーん。やっぱり僕のことを覚えてないのだね。まあ所属は違ったし、あんまり喋ったこともないから、覚えてないのも無理はないのだ」
「所属が違う?」
「なんとなく察してるとは思うし、正解のためのヒントをあげるのだ。僕は、ある神様のメイドをしているのだ」
「神様のメイド……やっぱり、お前はヴァルキュリア家の人間か」
「正解! さすがはカイツなのだ!」
まさかこんなところで探してた奴らが見つかるとはな。ヴァルキュリア家。俺が叩き潰すと決めた外道一族。
「……てめえらは未だに胸糞悪い実験をしてやがるのか!」
「胸糞悪い実験とは酷いのだ。これも人類のための大切な実験というのに」
彼女はそう言いながら、うっとりとした顔で容器に触る。俺はその隙を突いて斬りかかるも、刀は奴の体をすり抜けてしまい、手ごたえも感じられなかった。どういうことかと思うと、奴の体が煙のように消えてしまった。
「全く。いきなり斬りかかるのはやめてほしいのだ。とっても危ないのだ」
声のした方を見ると、モルぺウスがそこに立っていた。さっきのは幻覚のたぐいだろうな。
「隙を見せる方が悪い。後、お前の長話に付き合ってる暇はねえんだ」
「あっそ。もう少し話をしたかったのだけど、それなら仕方ないのだ」
彼女が指を鳴らすと、俺の上の天井から何本もの剣が降り注いだ。避けることは可能だが、俺はあえて避けず、向かってくる剣全てを弾き飛ばした。
弾き飛ばした剣。あまり手ごたえを感じなかったな。恐らく、あの剣は幻術で作られたもの。なんとなくだが、奴の魔術がどういうものかは掴めてきた。
「人類のため。そしてヴァルキュリア家のため。お前にはここでくたばってもらうのだ」
「くたばるのはお前だ。カス女」
奴が手を突き出すと同時に、俺は地面を蹴って奴の元へ向かった。
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