第54話 ルサルカ奪還作戦

 side カイツ


 ルサルカを助けるため、俺は即座に攻め込みたかったが。


「カイツ。間違っても1人で攻め込むなんて馬鹿なことしないでね。まずはダレスとスーパーマンズがこっちに来てからよ」

「けど、あんまりもたもたしてるわけには」

「残った建物には、あの化け物ピエロがいるのよ。出来る限りの準備を終わらせてから行くべきだわ」

「私としては、カイツ様と2人で十分だと思うんですけどね」

「クロノスは黙ってなさい! とにかく、ダレスたちが来るまで待つ! 良い?」

「……分かった」


 正直今すぐにでも行きたいが、ウルの言ってることは正論だ。下手に攻め込んだところで、あのピエロ女にやられるのがオチだろう。まずはダレスたちを待つしかないな。少し待っていると、何かが動いてるような音が聞こえてきた。


「なんだ? この音」

「これ。スーパーマンズの魔術ね。また変なもの作ったみたいね」

「ウル? それはどういう」

「見れば分かるわ。行くわよ」


 そう言って彼女は外に出て、俺もついていく。音はだんだんと大きくなっていき、妙なものが見えてきた。馬車よりもはるかにでかい巨大な鉄の箱のような何か。色は赤、青、黄、黒の線が入っている。箱の下には車輪が4つ付いており、あの車輪のおかげで動いてるようだ。


「……なんだ。あれ」


 そう思ってると、箱の上からダレスが飛び降りてきた。


「おや。やけにお通夜のような感じだね。何があったの?」

「ルサルカが連れ去られたからな。お通夜にもなる。それより、これはなんなんだ?」

「スーパーマンズの合体変形だ。妖精族を守るための部屋になってもらってる。流石にあれだけの数を運ぶのはしんどかったからね」


 部屋になってるというのは、この鉄の箱のようなもののことを言ってるのだろうか。まあいい。今はそんなことを聞いてる暇はないな。俺たちは先ほどまでの出来事をダレスに説明し、ダレスは攻撃していた建物で起きたことを話してくれた。


「なるほど。私やスーパーマンズがわちゃわちゃしてる間にそんなことが。ビックリ驚きだよ」

「俺としては、そっちにもピエロ女が出てきたことに驚きだけどな」

「私とは戦ってくれなかったけどね。見たいものが終わったとかなんとかで。んで? あの妖精を取り戻すんだっけ?」

「ああ。今すぐあいつを連れ戻さないといけない。協力してくれ」

「了解だ。あのピエロ仮面とも戦えるチャンスだし、喜んで引き受けよう。それで? 作戦はどうするんだい?」

「作戦。作戦か」


 敵は間違いなく俺たちを待ち構えている。おまけにあのピエロ仮面の女もいる。馬鹿正直に突っ込むことはリスクが高すぎる。どうやって作戦を立てるべきか。悩んでいると、クロノスが意見する。


「作戦は簡単ですよ。私が真正面から突っ込みますから、カイツ様たちは別の入り口から攻め込んで下さい」

「けど、そんな作戦じゃおまえが」

「心配しないで下さい。私は強いですから、1人でも問題ありません」

「へえ。面白いこと言うね。なら、私も1人でやるとしよう!」

「ダレス! あなたまで何言ってるのよ!」

「だって。クロノスは1人で囮になるといってるんだよ。そんな面白いことを言い出したら、私も同じことがやりたくなっちゃうじゃないか」

「貴方ね! これは大事な作戦なのだけど、そこをちゃんと分かってるの!?」

「分かったうえでこうしてる。心配しないでくれ。私にはこれがある」


 彼女は懐から小さな瓶を取り出した。中には白い玉がいくつか入っている。


「……分かった。ダレスとクロノスは囮を頼む」

「カイツ! クロノスはともかく、ダレスも囮だなんて」

「短い付き合いだけど、ダレスは何の考えも無くそんな馬鹿なことを言う人間じゃないってことは分かる。どんな秘策があるかは分からないけど、任せてみようじゃねえか」

「けど、もしあのピエロ女と戦うことになったら、いくらダレスでも」

「いや。それは多分大丈夫だと思う」

「大丈夫って。何か根拠でもあるの?」

「一応な。それより、ダレスとクロノスは間違っても死ぬなよ。危ないと思ったらすぐに逃げてくれ。良いな?」

「かしこまりました。ですが、私が危ないと思うことはありえないので、その忠告は大丈夫ですね」

「ま、本気で死にそうになったら逃げるよ。私も命は惜しいからね」(面白い戦いをしてる時は別だけど)


 色々と不安は残るが、やるしかないな。


「えっと。チーム行動をするのは、俺とウルと、スーパーマンズで良いのか?」

「いや。私たちには中にいる妖精族を守る義務がある。すまないが、同行は出来ない」


 今まで会話に入らなかったレッドの声が鉄の箱のようなものから聞こえてきた。


「……そうか。どういう仕組みかは分からないが、アリアと、俺たちが連れてきた妖精族もお願いできるか?」

「お安い御用だ!」


 鉄の箱の一部が空くと、そこから機械の腕が沢山飛び出し、アリアをベッドごと掴んだり、クロノスが作った生物ごと妖精族を掴んだりして、あっという間に箱の中に入れてしまった。


「えっと……アリアたちは無事なのか?」

「当たり前だろ。私たちは立派な正義の味方。守るべきものを傷つけるような馬鹿なことはしない」

「そうか。ならいいんだが」


 というか、どういう魔術なんだ。あれ。鉄の箱のようなものも、ずいぶんと人工的なものに見えるけど。まあいい。ようやく準備も終わった。


「行くぞ! ルサルカ奪還作戦開始だ! 必ずあいつを取り戻す!」

『了解!』








 残った研究所の建物内のとある廊下。イシスとモルぺウスが一緒に歩いていた。


「たく。時間かけすぎなのだ。一体なにしてたのだ!」

「いやなに。思った以上に騎士団の奴らが強くてな。少し手間取ってしまった」

「たく。おかげで実験を前倒しにする羽目になってしまったのだ。さっさとあの特殊実験体に材料を入れないと。やることが多くて嫌になるのだ」

「なら、私が最終調整を行うとしよう。私のせいで君に迷惑をかけてしまったからな」

「あんたが?」

「ああ。君へのお詫びとしてな。私のような人間が直々に調整するんだ。これほど嬉しいこともあるまい?」

「確かにそうなのだ。なら、最終調整はお前に任せるのだ。僕はカイツ達を迎え撃つ準備をするのだ」


 そう言って、モルぺウスは準備をするため、どこかに行ってしまった。


「さて。ようやく私のやりたいことをやれる」


 彼女はそう言いながら廊下を歩き、行き止まりの所まで歩いた。そのまま進んで壁にぶつかるかと思われたが、彼女は壁に吸い込まれるようにして中に入っていった。中は何もない暗い部屋であり、天井からの明かりが唯一の光源だ。壁にはルサルカが鎖で縛られており、今は意識を失っている。


「すまないな。こういうのはあまり好きではないが、他に手段がないんだ。私の計画のため、君には少しだけ働いてもらうよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る