第53話 最悪の展開

 時は遡ること少し前。


 side カイツ


 俺がクロノスと一緒にアリアたちのいるところに戻ると、その衝撃の光景に絶句した。


「なんだ……これ」


 ルサルカたちのいた部屋に何かでくりぬいたかのような穴が開いてるし、ウルは気絶してるし、ルサルカは部屋に縮こまっている。それに、アリアがいない。


「ルサルカ! 一体何があった!」

「カイツ! アリアが……アリアが!」


 彼女が何か言おうとすると、俺は異質な気配を2つ感じた。1つ目はこの場を支配しそうな重い圧。まるで何かに押しつぶされそうな感覚。今までに感じたことのないものだ。2つ目はルライドシティで感じたあの気配。


「クロノス。この感覚」

「ええ。またけもの……じゃなかった。アリアが変なことになってるようですね。しかも、彼女以上に異質な何かもいるようですし」

「クロノスはここを頼む! 俺はアリアを助けに行く!」


 そう言って行こうとすると、ルサルカに腕を掴まれた。


「ダメ。あいつと戦ったら、カイツが死んじゃう! 行かないで!」

「心配するな。俺は誰にも負けねえよ。ここで待っててくれ」


 俺は彼女の手を腕から離し、頭を撫でる。


「俺はこう見えて超強いんだ。必ずお前の元に帰ってきてやるよ」

「……絶対だからね。絶対帰ってきてね!」

「おう! 任せとけ!」


 俺はルサルカとそう約束し、アリアの元へ向かった。



 アリアの元に着いた時は驚いた。気味わるい仮面を着けた奴がアリアに攻撃してたからな。怒りを抑えるのが必死だった。奴がルサルカの元に行こうとしてたので妨害し、こうして奴の前に立っている。


「いることは分かってたが、ここで会うとは思わなかったよ。神に感謝しなくては」

「なら俺も感謝するとしよう。お前を倒すことが出来るからな!」


 俺は刀を抜いて奴に斬りかかるも、奴はその攻撃を腕で受け止めた。


「なに!?」

「ほお。中々良い威力だ。並みの奴らが受ければ、腕が落ちていただろうな」


 彼女はそのまま俺の刀を掴み、俺もろとも力強く投げ飛ばした。


「ぐ!? このお」


 即座に体勢を立て直し、なんとか安全に着地することが出来た。この女。一体どうなってんだ。六聖天の力を使ってなかったとは言え、魔力を込めた一撃を腕で受け止め、刀を掴んで投げ飛ばす。どう考えても普通の人間がやれることじゃない。化け物という表現すら生ぬるい。


「どうした? もう攻撃は終わりか? もっとお前の力を見せてくれ」

「望みどおり見せてやるよ! 六聖天・第2解放!」


 背中に2枚の翼が増え、刀は強い輝きを放つ。それだけでなく、両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。地面を強く蹴り、一気に奴の懐へ接近した。


「剣舞・龍刃百華!」


 横に剣を振り抜いたが、その攻撃は掴んで止められた。その後に無数の斬撃が襲いかかるが、その全ての攻撃を彼女は受け止めた。


「……嘘だろ」


 全ての攻撃を受けとめたことに、俺は驚きを隠さずにいられなかった。六聖天で強化した龍刃百華の全ての攻撃を素手で防いだというのか。


「お前。一体何者だ」

「通りすがりの守護者だ」


 女はそう言った後、俺を上空にぶん投げた。


「のわっ!?」


 その直後、女は一気に距離を詰めて殴りかかる。刀で何とか防いだが、衝撃を殺すことは出来ず、大きくふっ飛ばされた。


「がああ!?」


 ぶっ飛ばされながらも何とか体勢を整え、地面に着地した。刀で防いだというのに、腕はかなり痺れていて、衝撃も残っている。どういう腕力してるんだ。


「やるじゃねえか。ずいぶんとえぐいパワーを持ってるもんだ」

「そうか。お前にそう褒められるのは、悪い気分ではないな」


 本当に不気味な奴だ。一体何者なんだ。妙に馴れ馴れしいし、何を考えてるのか分からない。まあどうでもいい。奴が何を考えていようと、俺は奴を倒すだけだ。敵意は無いようだが、倒さない理由もないからな。

 俺は再び距離を詰めて斬りかかるが、その攻撃は難なく躱される。そこから斜め左上に振り上げ、上から振り下ろし、何度も斬りかかるも、その攻撃は全て避けられてしまう。刀を鞘に納め、居合の体勢をとる。


「剣舞・紅龍一閃!」


 居合切りで攻撃するが、その攻撃は素手で受けとめられた。だがその瞬間、俺は刀から手を離し、足に魔力を集中させる。居合の勢いを利用して回転し、顔に蹴りを喰らわせた。


「やるな。少し効いたよ。やはりお前は素晴らしいな。戦いの才能が他の有象無象とは次元が違う」


 女はそう言ってるが、仮面に傷はついておらず、ダメージを受けたようにも見えなかった。俺は刀を回収し、一旦距離を離した。参ったな。攻撃が全く通用しないし、どうやって倒そうかね。

 奴はまだまだ余裕を残してる。多分だが、その気になれば俺を即座に殺せるだろう。そうしないのは俺を舐めてるのか、あるいは別の狙いがあるのか。どちらにせよ、奴が本気で向かってくる前に手を打たないと。


「さあ。もっと来てくれ。お前の成長を私に見せてみろ」

「親しい感覚で話しかけてんじゃねえぞ! 不気味仮面!」


 俺は刀の切っ先を奴に向け、いくつもの紅い球体を生み出す。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 それを奴に向け一斉に放つ。奴は避けることもなくまともに俺の攻撃を食らい続けるが、ダメージを受けているようには見えない。だが、今はこれで良い。まともに喰らってるため爆風や煙が奴の視界を覆っている。


「剣舞・双龍剣。そして、六聖天 脚部、腕部集中!」


 俺は刀を2本に増やし、六聖天の力を両腕と両足に集中させる。一気に奴の後ろに回りむ。


「剣舞・四龍戦禍!」


 高速の斬撃を4発放つも、それは奴の体を斬るどころか、傷すらつけることが出来なかった。


「……嘘だろ。こんなことが」

「凄いな。今の技は見事としか言いようがない。ここまで強くなってるとは思わなかったよ。呪われてるのに大したものだ」


 呪い? 一体何の話をしているんだ。


「本当ならもう少し触れ合いたいが、あまり時間がない。だから」


 彼女がそう言った瞬間。


「ここでお別れだ」


 その言葉を最後まで聞くことは出来なかった。なぜなら、俺は奴の手刀で切り裂かれ、意識がいつの間にか落ちていたからだ。目で追えないとかいうちゃちなレベルじゃない。ほんの一瞬だけ、攻撃されたことにすら気づかず、痛みも無かった。


「くそ……こんなところで」


 俺は地に倒れ、意識を失ってしまった。





 カイツを倒した後、イシスはカイツの方を静かに見ていた。


「すまないな。今はまだ仮面を外せないんだ。またいつか会おう」


 彼女は悲しそうにそう言ってイシスの元へ歩いていく。自分が穴を開けたところに行くと、ルサルカが部屋の中で怯えたようにうずくまっており、その前にツインテールの女性、クロノスがいた。目は赤く、魔法陣の模様が描かれている。イシスはその女を見ただけで理解した。今まで戦った敵とは違う存在だと。


(今の神獣やカイツよりはるかに強い。何者だ。この女)

「面白い奴もいたものだ。これだけの実力者がいたとはな」

「そちらも面白い魂を持っていますね。まさか、こんな魂を見るとは思いませんでした」

「ほお。まるで魂が見えるような発言だな」

「実際見えるんですよ。私は魂の専門家ですから」


 そう言った瞬間、クロノスは一瞬でイシスとの距離を詰めた。そして、小声でイシスに何かを話した。


「! ああ。もちろん知ってるさ。私はそれを破壊するために動いている」


 イシスは一瞬驚いたかのように動揺した後にそう言った。そして、彼女の顔を蹴り飛ばし、遠くにふっ飛ばした。彼女はまともにその攻撃を受けてふっ飛ばされ、切り株に激突して倒れてしまった。


「……クロノス……嘘でしょ」

「残念だったな。最後の警備人は、お前を守ってくれなかった」


 イシスは一瞬で姿を消し、ルサルカの後ろに現れた。


「いや! 離れて!」

「安心しろ。痛みはない」


 イシスはルサルカの首に手刀を当て、彼女を気絶させた。


「さて。色々あったが、ようやくやりたいことをやれる」






 side カイツ


「……ツ! ……なさい。カ……ツ!」


 誰かが呼んでる。重い瞼を開いて意識を覚醒させると、ウルが目の前にいた。


「ウル。起きたのか」

「ええ。それより、ルサルカが!」

「!? まさか!」


 俺はすぐさま飛び起きた。そこはルサルカとアリアがいた部屋であり、アリアはベッドの上で寝ている。クロノスは壁にもたれかかっており。


「……おい。ルサルカはどこにいった」

「……連れ去られたわ、恐らく、あのピエロ仮面の女に」

「……そうか」


 そうかとしか言えなかった。あいつを守ると決めたのに。約束したのに。何1つ守ることが出来なかった。拳を握りしめてると、クロノスが申し訳なさそうに近づいて来た。


「カイツ様。申しわけありません。私がついていながら、彼女を守れませんでした」

「お前のせいじゃない。俺が守れなかったのが原因だ……少し外に出る」


 俺はそう言って外に出て、切り株だらけの森の中を歩く。守ると決めたはずなのに、俺はあいつにボロボロにされた。あいつは手加減しながら戦っていた。それなのに、俺はなすすべなく負け、ルサルカを奪われてしまった。


「……くそおおおおおおおお!」


 俺は怒りのままに近くの木を殴った。ルサルカを奪われた。事態も仲間もめちゃくちゃにされた。だがこうなった以上、やることは1つだ。


「ルサルカを連れ戻す。奴らを殺す!」


 この落とし前は必ずつけてやる。

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