第51話 イシス襲来!
ウルは切り株の後ろに隠れ、アリアたちのいるところに近づいてくる
「これで7体目。流石に疲れてきたわね。あと何体いるのかしら」
彼女が敵の多さにうんざりしていると、異様な気配を感じた。
「!? これは」
今までに感じた事の無いような異質な気配。彼女は恐怖心を必死に隠しながら、近づいてくる敵を探す。少し離れた方に、ピエロの仮面を着けた女性が来ていた。
「……これは、かなりまずいわね」
彼女は一目見て分かってしまった。今見ているのは、自分よりもはるかに格上。正面から戦えば、確実に殺されるということに。女性の動きを観察していると、その者は後ろを向いてどこかに行こうとしていた。
(こっちの位置はばれてない。殺るなら今!)
彼女は静かに弓を構え、魔力を限界まで込めた矢を放つ。放たれた矢は静かに、それでいて素早く女性の元へ向かい、突き刺さるかと思われたが。
「!? 嘘でしょ」
女性は矢を見ずに手で掴み、ウルの攻撃を防いだ。彼女が驚いてると、女性はそこから一瞬で姿を消した。
「! どこに」
「素晴らしい命中率だ。スナイパーとしては一人前だな」
ウルが声のした方を振り向くと、いつの間にかピエロ仮面の女性が後ろに立っていた。
「だが、その程度では私に勝てない」
気が付いた時にはふっ飛ばされていた。何が起こったか理解できず、彼女は後ろにふっ飛ばされた。
「がはっ! 私は……何を」
「蹴られたのさ。かなり強めにやったからな。しばらくは体を動かすのも苦労するだろう」
彼女はピエロ仮面の女性に言われ、初めて蹴られたことに気付いた。
(まずい。みぞおちをやられたせいで呼吸が……こんな化け物をアリアたちの元には)
彼女は頑張って意識を保ちながら弓を構え、ピエロの仮面の女性に矢を向ける。
「やめておけ。矢が無駄になるだけだ」
「無駄かどうかは……これを見てからにしなさい!」
彼女が矢を放つも、女性は簡単にそれを躱し、矢は後ろの木に刺さった。しかし、ウルは不敵に笑う。彼女が指を鳴らすと、矢から雷が発生し、檻のように女性を囲んだ。
「雷の魔術か。これも面白い魔術だな。だが」
彼女が腕を振ると、雷の檻が煙のように消えてしまった。
「……嘘でしょ」
「終わりだ。しばらく寝てろ」
女性の手から緑色のレーザーが放たれ、ウルの体を貫いた。
「がっ!?」
彼女はその場に倒れ、意識を失った。しかし、レーザーが貫いた場所は穴が開いておらず、少し焦げているだけだった。
「さて。ルサルカは……この下か。さっさと回収して帰るとしよう。あんまり遅いと面倒になる」
ルサルカの用意した隠れ家で、アリアはベッドの上に乗りながら自分の体を抱きしめていた。
「うう。カイツ。速く帰ってきてほしいです。なんだか不安です」
ルサルカはアリアほどに不安は感じていなかったが、カイツがいつ帰って来るのかを足踏みしながら待っていた。
「カイツ。速く帰ってきてほしいな。やられてはないと思うけど、なんか落ち着かない」
2人がカイツの帰りを待っていると、扉を開ける音がし、2人が反応した。
「カイツ! 帰ってき……え?」
アリアが扉の方に駈け寄ろうとすると、現れた人物を見て立ち止まった。現れたのはアリアでは無く、ピエロ仮面の女性だったからだ。
「おや。面白い犬がいるな。これは予想外だった」
「!? あんた……イシス!」
「久しぶりだね。ルサルカ」
「ルサルカ。あれは……誰ですか」
「イシス。侵略者の中で最強の存在。あんたが来たってことは」
「ああ。君を回収しに来た。モルぺウスが君を欲してるからね。大人しく来てくれると助かるのだが」
「いや! こっちに来ないで!」
ルサルカは泣きながら近くにあったコップや石を投げつけるが、それらはイシスに触れる寸前に消滅していく。
「面白い抵抗だな。だがあまりふざけてる暇は」
イシスが近づこうとすると、アリアがその前に立つ。足はガクガクと震えており、今にも泣きだしそうになっていた。
「邪魔だ。そこをどいてくれ」
「い、いやです。私はここをどかないです! わ、わわ私は、ルサルカを守るです」
「そうか。なら」
イシスはアリアの顔を蹴り、遠くにふっ飛ばした。
「あぐ!? うあ」
「アリア! いや。来ないでよ!」
「さて。さっさと回収させてもらう」
イシスが近づこうとすると、その前を木のコップが通り過ぎた。
「ぜ、ぜったい、守るです。カイツならそうする。私もそうするのです!」
イシスはそんな彼女の姿を見て少し笑みを浮かべる。アリアは涙を浮かべており、今にも逃げだしそうになってるが、それでもイシスに向ける目は強く、絶対にルサルカを守るという強い意思があった。
「怯えているのに、その勇気は素晴らしいものだ。称賛に値するが、少し邪魔だ。寝ててくれ」
イシスの手から緑色のレーザーが放たれ、アリアの体を貫いた。
「! かふっ」
「アリアーーーーーー!」
アリアは倒れ、意識を失った。
「あんた……なんでこんなことを」
「私もあまりやりたくないが、仕事だからな。さて。そろそろお前を」
イシスが再び近づいていき、ルサルカが逃げようとした瞬間。
「! これは」
イシスは突然立ち止まり、アリアの方を見た。その直後、アリアを中心に、巨大な青い光の柱が出現し、建物を超え、空を貫いた。
「アリア……なにこれ」
「ちっ。面倒なことになったな」
その衝撃波はあまりにも強く、アリアの足下の床や壁にも亀裂が走る。そして、光が収まると。
「グルルル」
アリアの姿が大きく変わっていた。四肢は白い毛がびっしりと生えており、鋭い爪も生やしている。目つきは鋭く、左目に青い炎が宿っていた。口の歯は牙と思えるほどに鋭くなっている。白い尻尾も生えており、その姿は獣のようだった。
「やれやれ。こんな時に覚醒するとはな」
「ガアアアアアアア!!」
彼女は一瞬でイシスに近づき、その鋭い爪で切り裂こうとするが、イシスはその攻撃を腕で受けとめた。
「驚いた。この私に防御させるとは」
「グアアアアア!」
アリアは何度も連続で攻撃を仕掛けるが、イシスは余裕を持った表情で、その攻撃を全ていなしていく。
「ここまで速い奴は初めて見たよ。だが、動きは読みやすい!」
彼女はアリアを顔を蹴とばし、ふっ飛ばした。
「ガウ!? グルルル」
「人語を失ってる。まるで獣のようだな」
「グルルル。ガアアアアアアア!!」
アリアは大地が揺れるほどに咆哮し、その衝撃波でイシスを攻撃した。衝撃波は床に亀裂が走るほどに凄まじく、イシスは咄嗟に両腕を交差して防御する。
「ぐうう!? 咆哮でここまでの威力とは。恐ろしいものだ」
咆哮が止んだ後、アリアはその爪で襲い掛かるが、イシスはその攻撃を跳んで躱し、アリアから距離を取る。
「神獣。中々に面白い。だがここは狭すぎる。少し広くしよう」
彼女はそう言って、手を上に上げた。
「
天井に緑色の魔法陣が現れると、魔法陣から巨大な光の柱が、木や土など、飲み込むもの全てを消滅させ、部屋には大きな穴が開いた。イシスはそこから地上に飛んで着地する。
「さて。これでフィールドもー!」
イシスが地面に降りた瞬間、アリアが後ろから襲い掛かった。間一髪で防御したものの、その勢いを殺しきれず、大きくふっ飛ばされてしまった。
「ぐう! この私が不意打ちを。流石は神獣といった所か」
「ガアアアアアアア!!」
アリアは一気に距離を詰めて切り裂こうとするが、イシスはその攻撃を後ろに下がって躱し、彼女の腹を蹴り飛ばす。
「キャウン!?」
アリアは犬のような悲鳴をあげてふっ飛ばされるも、即座に体勢を立て直し、姿勢を低くして攻撃の体勢を取る。
「グルルルル」
「来い。少しだけ遊んでやろう」
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