第49話 ダレス&スーパーマン達の攻略作戦

 カイツとクロノスが建物を破壊した頃。とある部屋で2人の女性が話していた。1人はピエロの仮面を着け、黒いコートに身を包んだ女性。もう1人は白衣を身に着け、胸元を包帯で隠している女性だった。白衣の女性はモルぺウスの本体であり、今まで現れていた黒いフードを被ったん者は、彼女が魔術で作り出した人形である。ピエロの仮面を着けた女性は本を読んでおり、白衣の女性は窓の外を見ていた。


「あ。僕のお気に入り建物の1つが壊されてしまったのだ」


 白衣の女性がそう言うと、ピエロの仮面の女性が興味を持ったように顔を向ける。


「ほお。建物を攻略されたのか」

「のだー。うーん。騎士団はそんなに強くないと思ったから余裕ぶっこいてたけど、これは認識を改めないといけないのだ」

「ならどうする?」

「イシス。例の実験体を奪ってきた欲しいのだ。あれの調整を済ませる必要があるのだ」

「……分かった。実験体は私が奪うとしよう」


 ピエロの仮面の女性は、少しためらったかのように言い、そこから姿を消した。


「全く。どいつもこいつも邪魔しすぎなのだ。メデューサも死んじゃったし、ここからはちょっとだけ本気でやるとするのだ。人類を進化させるためにも、ここを手放すわけには行かないのだし」








 カイツ達が建物を攻撃してる最中。ダレスとスーパーマン達も攻撃目標の建物にたどり着いていた。


「あれが私たちの攻撃すべき建物か。不気味な外観だね」


 ダレスの言う通り、緑の湖に浮かぶ建物は蔓が無数に絡みついており、あちこちがボロボロで不気味な様相を醸しだしている。ダレスが建物を見ていると、赤いリボンを着けたスーパーレッドが質問した。


「ねえダレス。あの白髪の新人男。カイツだったか。あいつって、いつもあんな感じ?」

「? あんな感じとは?」

「新人の癖に勝手に作戦立案して私たちに指示を出してただろ。任務ではいつもあんな感じか?」

「うーん。言われてみれば、一緒に任務をしてる時はカイツが作戦だしてる気かするね。私は頭使うの苦手だからすごい助かるけど」

「なるほど。これは非常に良くない」

「? 何が良くないのさ」

「先輩が後輩の指示に従ってることだ! これでは先輩の威厳が無くなるし、非常にかっこ悪い! 私たちヴァルハラ騎士団は正義の味方として、常にかっこよくあるべきだ。それなのに後輩の指示に従ってばかりでは、とんでもなくダサい! ブルー、イエロー、ブラック! ここは建物を速攻で破壊し、先輩としてのかっこよさを見せるぞ!」

『了解!』

「かっこよさを見せるのは構わないけど、どうやってあの建物に行くんだい? 泳いでいくの? けどその方法は」


 ダレスが足下にあった石ころを湖に投げると、湖から出てきた魚がそれをかみ砕いた。鋭い牙を生やしており、鱗は刃物のような鋭さを持っていた。目つきは凶悪で、いかにも肉食魚といった様相だ。肉食魚は湖の端に集まっており、ダレスやスーパーマンズが湖に落ちるのを今か今かと待ち構えている


「湖の中はさっきのような肉食魚がうようよしている。今にも私たちを食い殺そうと待ち伏せしてるし」

「分かっている。だからこうするのだ! 合体フォーメーションF!」


 レッドがそう言うと、スーパーマンズが一斉に飛び、フォーメーションを取る。ブラックとイエローが直立の姿勢を取り、ブラックはブルーの右横に、イエローは左横にくっついた。最後に、レッドがブルーの前に立ち、ブルーがレッドを抱きしめる。その瞬間、彼女たちが五色の光に包まれ、その姿を変えていく。ブラックとイエローは鋼鉄の翼となり、ブルーは鋼鉄の鎧となってレッドを包み込む。その鎧の下には巨大な筒のようなものが付いており、中は無数の鉄の刃物のようなものが円状にあり、中心は真ん中に穴の開いた円錐型の部品がある。


「おお。久しぶりに見たね。えーと、その変てこ筒は」

「変てこ筒ではありません。ジェットエンジンと呼んでください!」


 ダレスが感想を述べるとブルーが怒って訂正した。


「そうそうジェットエンジン。それも久しぶりに見る。ほんと、君たちの合体変身ユニオン・チェンジは面白いね」


 合体変身ユニオン・チェンジ。それはレッドが持つ魔術であり、多人数での使用を前提とし、他者との絆が必要不可欠となる魔術だ。多人数でフォーメーションを取ると、様々な姿へと変化する珍しい魔術。1人で使うことも可能ではあるが、多人数で使用する方が便利な魔術である。ダレスはスーパーマンズの魔術や戦い方だけは興味を持っており、性格さえ考慮しなければ何度も戦ってみたいと思っていた。


「レッド。今から敵の本拠地に突っ込むです。準備は良いですか?」

「もちろんだブルー! 我ら先輩団員の力を見せてやるぞ!」


 レッドはそう言って姿勢を低くし、獣のような体勢を取る。


「では発射するです。発射!」


 そう言った直後にジェットエンジンが噴射され、1秒もしないうちに建物の壁に突っ込み、破壊しながら直進していた。壁には彼女たちが突っ込んだ跡が残っている。穴の中にはスーパーマンズの突撃に巻き込まれたであろう研究者や兵士の肉の残骸がいくつもあった。


「おお。すっごい速いね。あの状態なら、騎士団最速になれそうだ。巻き込まれた人は可哀想だ。さてと。私は彼女たちに置いてかれちゃったし」


 ダレスは湖の中に入り、無数の肉食魚と対峙していた。


「湖を泳ぎながら行くとしよう。君たちとの戦いは、とっても面白そうだ」


 ダレスは笑みを浮かべており、肉食魚との戦いが楽しみで仕方ないといった感じだ。そして、肉食魚たちは一斉に彼女に襲い掛かり、戦いが始まった。






 スーパーマンズは建物に突っ込んだ後、合体を解除し、全員で建物の奥へと突き進んでいく。その行く手を、何人もの武装した人間たちが阻む。


「撃てええええええ!」


 人間たちは杖の先を向け、何十発もの光弾を放つ。


「シングルフォーメーションR!」


 レッドがそう言って両腕を横に広げると、その体は巨大な鏡へと変化した。鏡は敵の光弾を吸収していき、仲間たちを守る。


「お返しだ」


 レッドがそう言うと、鏡がため込んだ攻撃を全て放ち、行く手を阻んでいた敵を全滅させていった。攻撃が終了し、煙が消えたところにあったのはあちこちにあいた穴と肉の残骸だけだった。


「ふう。面倒なものだな。行くぞ。皆!」

『了解!』


 彼女たちは前へと突き進んでいき、扉をぶちやぶった。その先は巨大な闘技場となっており、明らかに異質な存在だった。


「こんな所に闘技場があるとは。場違いも甚だしいな」

「……設計者。ダサい感性だ」

「ブラックの言う通りだべ。こんな部屋を造った馬鹿の気がしれないべ」

「酷いことを言うのだ。僕はこの部屋を気に入ってるというのに」


 全員が声のした方を振り向くと、天井付近に、黒いフードを被った者が浮かんでいた。


「お前。あのちょいダサカイツが言ってたフード野郎か」

「おっと。もう僕のことを知ってるとは驚いたのだ」

「まさかとは思いますが、あなた1人で私たちを倒すつもりですか?」

「いやいやいや。僕はそんなに無謀じゃないのだ。お前たちの相手はこいつらなのだ」


 その者が指を鳴らすと、闘技場の入り口から偽熾天使フラウド・セラフィムがぞくぞくと現れ、彼女たちを囲んでいった。


偽熾天使フラウド・セラフィムか。ずいぶんとつまらん手を使うな」

「それなりに強化した特注偽熾天使フラウド・セラフィムが20体ほど。これを切り抜けられたら、僕の本体が遊んであげるのだ」


 その者はそう言って姿を消した。彼女たちは円形に並び、偽熾天使フラウド・セラフィム達と対峙する。


「皆。チームワークを忘れるなよ。私たちは1人で戦うのではない。5人で戦うのだ!」

『了解!』

「行くぞおおお!」


 レッドが向かってきた数体の偽熾天使フラウド・セラフィムの内の1体の攻撃を避け、腹を殴る。それと同時にブルーが天使の顔を殴り、遠くに殴り飛ばした。他の天使はその隙を突き、彼女たちを攻撃しようとするが。


「仲間の背中は私が守るべ!」


 イエローがそれを防ぎ、天使を蹴り飛ばす。4人は円形のフォーメーションで敵を攻撃しながら、見方をカバーし、天使たちと戦っていく。彼女たちが何体もの天使と戦ってる最中、3体ほどの天使が遠くから攻撃しようと魔力を蓄える。そして、彼女たちに攻撃しようとした瞬間。


「させません!」


 ブルーが上空から飛び降り、天使たちの頭を踏みつぶした。2体の天使が彼女を後ろから襲おうと向かっていくと。


「……させない」

「ブルーに触れるな!」


 ブラックとレッドが2体の天使を殴り飛ばす。敵の数が多いため、死角から狙おうとする敵も多い。彼女たちはそんな戦況を把握し、互いが互いをカバーし合い、仲間を守って勝つために戦っている。彼女たちのコンビネーション、空間認識能力は並大抵のレベルではなく、それをなんの合図も無しに行うという凄まじいものだった。


 彼女たちがこれほどのコンビネーションを出来るのは、血のにじむような努力を繰り返してきたからだ。彼女たちは、常に正義の味方として立派でかっこよくあろうと思い、休む日も返上して常に努力し続ける。時にはその努力を笑われることもあったし、女の子らしくないと馬鹿にされたこともあった。遊ぶ暇などあるはずもない。しかし、彼女たちは騎士団として恥ずかしくない存在でありたいと思い、諦めることなく努力を続け、これほどまでに高いレベルのコンビネーションが出来るようになった。


「ブラック! 行くだべ」

「……了解」


 ブラックとイエローが互いに天使の顔を前と後ろから蹴り、首をちぎり飛ばした。その後、襲ってきた天使の攻撃を避け、その腹を蹴り飛ばして他の天使も巻き込みながらふっ飛ばした。その直後に後ろから天使が光弾を放とうとするが、それよりも先にレッドが蹴り飛ばした。


「随分と頑丈だな。削るのが大変だ。いつまでもここで時間を潰すわけには行かないし。イエロー。行くぞ」

「了解だべ」

「ダブルフォーメーションKT!」


 レッドとイエローが手をつなぐと、2人が光に包まれて姿を変える。レッドは長い鎖に。イエローは天使の数倍はありそうな巨大な鉄球へと変化した。


「行きますよ。ブラック!」

「……了解」


 2人は鎖を持ち、ぐるぐると巨大な鉄球を振り回す。その攻撃はまるで竜巻のように、周りにいる天使たちをなぎ倒していき、肉体をめちゃくちゃにしていく。


「Aaaaaaaa!」

「Aaaa……Aaaaa!」


 天使達は悲鳴をあげ、次々に鉄球に体を潰されていく。何体かが空を飛び、上から攻撃しようとすると。


「させません!」


 ブルーはブラックの肩を足場にして飛び上がり、2体の天使を殴り飛ばした。そして、レッドは姿を元に戻し、イエローと同じような鉄球となったブラックとイエローを持ち上げていた。


「これでもくらええええ!」


 レッドが鉄球を投げつけ、天使たちを壁に押し潰した。


「さて。残りは」


 3体の天使が後ろから彼女に襲い掛かっていたが、彼女はその攻撃を見ることなく躱していき、慌てることは無かった。1体の天使が上から襲い掛かろうとすると、元の姿に戻ったブラックがその天使を蹴り飛ばした。もう1体がブラックの死角から襲い掛かるも、イエローがそれを防ぎ、天使を蹴り飛ばした。


「さて。あと3体か」

「はいです!」


 ブルーはレッドの傍に現れ、彼女の腕をレッドが掴む。


「シングルフォーメーションH!」


 彼女がそう言うと、ブルーの姿が変化し、巨大な大砲へと姿を変えた。ブラックとイエローはレッドがやることを察知し、彼女の後ろへと避難する。


「Aaaaaaaa!」


 天使達は怒り狂ったように叫び、一斉に襲い掛かった瞬間、大砲から3発の光弾を放ち、天使たちに直撃して大爆発を起こし、爆風や煙で闘技場が満たされる。煙が収まったところには、天使の残骸と思われるものが散らばっていた。


「やっと片付いたな。さてと。さっさと次に」


 彼女は話の最中、敵の気配に気づき、前にある入り口を見る。


「……レッド。これ」

「ああ。いるな。数は10体前後といった所か。ちまちま相手にするのも面倒だし、敵の強さは大体把握できた。さっさと終わらせよう。フォーメーションDだ」

『了解!』


 彼女たちが円陣になりながら両腕を組むと、姿が光り輝き、巨大なドリルとなる。


「行くぞ。ドリルインパクトおおおお!」


 レッドが叫ぶと、巨大なドリルは壁をえぐりながら突き進み、天使たちをバラバラの肉塊にしていく。その勢いで扉を破壊し、通路へと飛び出す。壁があろうと人がいようとドリルは躊躇なく全てを破壊していき、巻き込まれた人間をぐちゃぐちゃにしていく。


「な、なんだこれ!? ぎゃあ」

「た、助けてく……ぎゅうう」


 幾度となくあがる悲鳴も、ドリルにかかる血や肉片などを彼女たちは無視し、そのまま真っすぐ突き進んでいく。彼女たちは敵に一切の慈悲を与えない。どんなものであろうと、敵は必ず殺す。それが騎士団の立派な団員としてあるべき姿だと思っているが故に。何枚もの壁を破壊し、人々を巻き込み、血で真っ赤に染まったドリルは巨大な部屋に到着した。

 その直後、ドリルから元の姿へと変化し、彼女たちは周りを見る。そこは何十体もの偽熾天使フラウド・セラフィムが天井から吊るされている不気味な部屋だった。


「……気持ち悪い」

「ブラックの言うとおりだべ。ここは不気味でいけないべ」

「ここ。一体何の部屋なのでしょうか?」

「さあな。だが一つ言えるのは……!?」


 レッドが話してる最中、スーパーマンズは恐ろしいものを感じた。今まで感じたことのないような異質な雰囲気。この場を支配しそうな重い圧。それを発してる方へ顔を向けると、1人の女性が立っていた。顔をピエロのお面で隠し、服装は黒いコートに身を包んでいる。


「全く。ずいぶんと暴れてくれたものだな。だが、手間が省けて助かったよ。礼を言う」

「……何者だ。お前」

「私はイシス。お前たちを殺す者だ」


 ピエロの女性はそう言って、レッドに襲いかかってきた。

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