パーティーを追放されたギルド最強の少年は騎士団で無双し、英雄になる

第47話 黒い天使

「Aaaaaaaaaaa!!!!」

　彼女はうめき声を上げたあと、鋭い爪を生やしてこっちに襲いかかってきたので、その攻撃を受けとめた。

「ぐ！？　なんつう重さだ」

　偽熾天使（フラウド・セラフィム）どころか、今まで戦ってきたやつとは重さが違う。さらに、彼女は素早い動きで何度も攻撃を仕掛ける。さばくのは難しくないが、一発一発受けるごとに、とんでもない負担が腕にのしかかる。攻撃力や身体能力がかなり強化されているようだ。

「Aaaaaaaa!!」

　彼女はさらに力強く叫び、攻撃の速度を速めていく。それだけでなく、攻撃力もさらに上昇している。

「ぐっ！　なんて奴だ」

　攻撃するたびに強くなっている。どういう理屈なのかは分からないが、一撃を受けとめるたびに、彼女の腕の筋肉が少し変化しており、攻撃に勢いが増している。だが動きは直線的だし、ちゃんと見切ることが出来る。彼女の爪を上に弾き、後ろに下がった。刀を鞘に納め、居合いの体勢を取る。

「剣舞・紅龍一閃！」

　懐に近づき、居合い斬りを放つ。奴は後ろに下がって回避するが、それならこうするまでだ。

「紅龍一閃　突（とつ）！」

　振り抜いた刀の切っ先を奴に向け、前に踏み込んで突き攻撃をする。その攻撃は避けられなかったようで、やつの胸元に刀が突き刺さった。

「！？　Aaaaaaaaa！」

　悲鳴のような声を上げると、黒い翼が獣の顔みたいになり、俺に襲い掛かって来る。後ろに下がって回避するも、それはしつこく追ってきた。しかも黒い蛇よりも頑丈であり、切り裂くのも難しい。

「剣舞・龍刃百華！」

　俺は刀を横に振り抜いた。その直後、無数の斬撃が獣の顔2つを襲い、それを破壊した。だが。

「Aaaa。Aaaa!」

　しかし、彼女は即座に翼から獣の顔を作り、こっちに攻撃してくる。これじゃ、翼を攻撃しても効果は薄いか。なら、これを無視して本体を叩くしかない。俺は翼をさばきながらそれを踏み台にして飛び上がり、一気に奴の元まで近づく。

「剣舞・斬龍剣！」

　刀を上から振り下ろし、奴の体を真っ二つに切り裂こうとしたが、その攻撃は腕で受け止められた。

「なに！？」

「Aaaaaaaa!」

　奴は叫び声をあげ、強い衝撃波を出して俺をふっ飛ばした。俺は何とか体勢を立て直し、地面に着地する。

「ぐ！　なんて奴だ」

　俺が再び近づこうとすると、奴は獣の顔をした翼で攻撃し、俺の行く手を阻む。

「くそ！　これじゃあまともに近づけない」

　研究所には妖精族が何人もいるから龍炎弾を使うわけにはいかない。だが、こうも翼の攻撃がしつこいと本体を狙うのもままならない。おまけに、奴の体がとんでもなく硬いせいで攻撃を通すのも苦労する。

「さて。どうしたものかな」

　俺がさらに後ろにさがると、翼は追いかけることをやめた。射程範囲外に出たのか。奴も近づく気はなさそうだな。なら、この距離を維持したまま作戦を考えるか。と思ったが、奴は少し近づいて再び翼の射程範囲に俺を入れ、攻撃をしてくる。しかも、今度は俺が後ろに下がれないよう、前と後ろからの同時攻撃だ。

「くう。邪魔なんだよ！」

　俺は再び獣の顔を切り裂くが、すぐに再生されてしまった。

「ああもう。これじゃ埒があかない」

　何回も再生するし、そのたびに攻撃の勢いが増してしんどい。最初は徐々にさばけていた攻撃も裁けなくなり、服や皮膚をかすめだした。あいつの翼便利すぎるだろ。こっちなんかただの飾りみたいなもんなのに。この状態じゃいくらやっても意味ないだろうし、出来る限りの最大火力で本体を叩くしかない。

「六聖天　脚部集中　腕部集中。そして、剣舞・双龍剣」

　俺は全身に流れていた六聖天の力を足と腕に集中させる。そして、刀を再び2本に増やした。翼は俺が止まった隙を狙い、襲い掛かった。

「剣舞・龍刃百華！」

　剣を横に振り抜くと、無数の斬撃が翼を襲い、破壊した。当然、翼はすぐに再生しようとするが、翼が再生する時、一瞬だけ隙が生じる。その隙を突き、俺は強化した足で地面を蹴り、一気に奴の後ろに回り込んだ。ダメージが大きいのか、足から血が噴き出してしまったが、攻撃する分には問題ない。

「剣舞・四龍戦禍（しりゅうせんか）！」

　2本の刀で4つの斬撃を高速で放ち、奴の体は十字架の形に引き裂かれた。

「Aaaa……Aaaa」

　奴は苦しそうな呻き声を出し、地に倒れた。それと同時に、黒い翼も消えた。何とか倒すことが出来たが、このレベルがまだいるとなると、これからの戦いはかなりきつくなりそうだな。

「てか、その前にあれを追いかけないと」

　俺は六聖天の力を解除して刀を収め、メデューサが逃げた先の扉を開けた。そこはまた1本道になっており、はてしなく長い道が続くだけだった。ここの研究所はずいぶんと親切なんだな。基本的に1本道ばかりだから迷うことがなくて助かる。

「にしても、クロノスは大丈夫なんだろうか」

　モルぺウスって奴と戦ってるみたいだけど、苦戦してるみたいだな。

「……先に行くか」

　彼女は大丈夫と言ってたし、それを信じよう。それに、さっきのように妖精族を兵にされる可能性もあるし、そうなる前に敵を叩き潰してこの建物を破壊し、妖精族を救う。俺は扉の先に行き、廊下をひたすら突き進んだ。

　一方、クロノスとモルぺウスのいる場所。そこは今、地獄のような場所となっていた。地面はマグマとなり、足の踏み場もない。天井には巨大な食虫植物が天井に大量に張り付いており、口から毒々しい液体を垂れ流している。モルぺウスは上空に避難しており、液体が落ちてこない場所にいる。クロノスはマグマにどっぷり浸かっており、毒々しい液体もモロに当たっている。

「はははははは！　どうなのだ。下半身をマグマに焼かれ、上半身を毒で溶かされている気分は？　前代未聞の感覚過ぎて言葉も出ないのだ？」

　モルぺウスがそういうも、クロノスは涼しい顔をしながら、何かを調べるように辺りを見回していた。

「なるほど。研究所の構造も理解出来ました。もうあなたは用済みです」

「あ？　調子に乗ってんじゃないのだ！」

　マグマが意思を持つかのようにうねり、クロノスに襲い掛かる。

「全身溶かされて死んじゃえなのだ！」

　マグマが彼女を飲み込もうとした瞬間。

「消えろ」

　彼女が一言そう言っただけで、今までの地獄絵図は無くなり、巨大な容器が大量に並んだ、元の部屋となった。

「！？　馬鹿な。僕の幻覚を……こんな簡単に！」

「前も言いましたよね。本体で来いと。いくら強化しても、人形じゃ話になりません」

「く……人間風情があああああ！」

　モルぺウスがナイフを手に取って彼女を殺そうとするが。

「弾けろ」

　彼女がそう言うと、奴の体が風船のように膨らんでいく。

「馬鹿な……この僕が。お前なんかにいいいい！」

「消えてください。あなたに用はありません」

「くそおおおおおおおお！」

　モルぺウスは悔しそうな声を出しながら、最後はパンとはじけてしまった。

「さて。この建物の仕組みも分かりましたし、カイツ様と合流することにしましょう。少し妙な事態に鳴っているみたいですからね」

　彼女は扉の方ではなく、何もない壁の方に向かって走り出した。その勢いのまま壁とぶつかるのかと思われたが、彼女が壁に当たった瞬間、壁は液体のようになり、彼女はその中へ消えて行った。