第46話 カイツVSメデューサ

 side カイツ


 奴がマントを投げ捨てると、その奇妙な姿に驚いてしまった。首を除いて全身が蛇となっており、蛇が人の形を作っていたのだ。


「ずいぶんと奇妙な姿だな。まあいい。叩き潰す」

「生憎だが、貴様では俺は殺せん」


 奴が右手を突き出すと、何十匹もの蛇が襲い掛かってきた。こんなに容器が沢山ある場所だと、龍炎弾は使えないな。


「剣舞・双龍剣!」


 俺は刀を2本に増やし、襲い来る蛇たちの首を次々に斬り落としていった。


「ふん。俺の蛇を切り裂く奴がまだいるとはな。ならば!」


 奴が右手を上げると、地面から巨大な4匹の黒い蛇が現れた。襲い来る蛇たちの攻撃を躱していき、1匹の首を切り裂こうとしたが、切り裂くことが出来ず、鉄がぶつかり合うような音が響いただけだった。


「! これは」

「そんななまくらでは、黒蛇は切り裂けんよ!」


 黒い蛇が後ろから襲い掛かってきたのでそれを躱す。蛇たちは四方八方から攻撃を仕掛け、それを躱しながら攻撃を仕掛けるが、薄皮も斬ることが出来ない。それに、あちこちから攻撃が来るから面倒だな。俺は一旦後ろに下がると、蛇たちは俺を追撃しようとしてくる。


「逃がさん!」

「逃げるつもりはねえよ」


 面白いくらいに俺の誘いに乗ってくれたな。蛇たちは俺を追いかけ、1方向のみから来ている。これなら対処しやすい。俺は刀を1本に戻し、魔力を込める。


「剣舞・龍刃百華 なぎ!」


 刀に魔力を込め、蛇の首を切り裂くために振った。刀が蛇の首に当たった瞬間、無数の斬撃がその首に集中し、蛇の首を斬り落とした。


「なに!? 俺の黒蛇を」

「なるほど。蛇の固さはこれぐらいか。把握できれば、それほど怖いものではないな」

「くっ。舐めるなよ。この雑魚があ!」


 奴は黒い蛇をでさらに攻撃していくが、俺はその蛇たちの攻撃を躱し、1匹に狙いをつける。


「剣舞・龍刃百華 凪!」


 俺は再び蛇に刀の刃をぶつける。その直後、無数の斬撃が首を襲い、蛇の胴体から斬り離した。


「残り2匹!」

「くそが。どいつもこいつも。俺の黒蛇を斬り落としやがって。来い! 黒蛇共!」


 奴の黒蛇が奴の元へ行ったかと思うと、蛇は奴の体に取り込まれ、奴の全身が黒くなっていった。


「これで貴様を殺す」

「来い」


 奴は手から1匹の蛇を生やし、それを剣に変えて向かってきたので、その攻撃を受けとめた。


「貴様のような雑魚が、この俺に勝てると思ってるのか!」

「勝つさ。俺はこんなところで負けるわけには行かないんだ!」


 俺は奴の攻撃を捌いて良き、剣を横に突き上げた。


「これで!」


 奴の体を切り裂こうとしたが、体があまりにも硬くて切り裂くことが出来ず、刃が止まってしまった。しかも、黒い蛇を斬った時よりもさらに硬くなっている上に、衝撃が凄い。


「ふん。貴様の刃では、俺は斬れん!」


 奴は剣で斬りかかってきたので、後ろに下がって回避した。


「逃がさん!」


 奴の赤く輝くと、ダレスの体はその場で硬直してしまった。


「!? これは」

「終わりだ!」


 奴が俺の体を切り裂こうとした瞬間。


「剣舞・龍炎弾!」


 俺は紅い球体を生み出し、それを爆発させて無理矢理距離を離した。


「ぐ!?」

「ぬうう!」


 距離を離すことは出来たが、体へのダメージがちょっとしんどいな。にしても、体を硬直させる力があるとはな。けど、あんな力があるならもっと前に使ってたはずだし、効果範囲はかなり狭いみたいだな。


「ちっ。面倒なことをしてくれる。ならば!」


 奴は体から何十匹もの蛇を出し、こっちに襲い掛かってきた。次々に蛇を切り裂いていくが、蛇の数が多いし、あちこちから攻撃してくるから面倒だ。それに、その隙を突こうとして蛇男も攻撃してくるので、それの対処もしないといけない。しかも。


「! くそ。またか」


 奴の目が赤く輝くと、また俺の動きが止まってしまった。その隙を突き、奴が切り裂こうとする直前。


「六聖天・第2解放!」


 天使のような羽は2枚に増え、強い衝撃波出て奴らを吹き飛ばした。両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。


「ぐ! 雑魚のくせにめんどくさいことをする。そろそろ終わらせてやろう!」


 奴の背中から4匹の黒い蛇が現れ、その蛇たちが俺に襲い掛かってきた。その蛇たちの攻撃を躱していきながら、奴の元へ一気に近づく。


「無駄だ。貴様は俺を斬ることは出来ない」


 奴の目が赤く輝くと、俺の動きがまた止められてしまった。


「終わりだ」


 奴が斬ろうとする瞬間、俺を俺は全身に魔力をめぐらせ、体に力を込める。


「うおおおおおお!!」


 俺は体を動かし、奴の剣を受けとめた。


「なに!?」

「うん。やっぱり催眠に近いものだったな。大方、光で視神経を通じて脳に働きかけ、一種の催眠状態にするって所か」

「馬鹿な。俺の魔術の謎を。貴様のような人間風情に!」


 奴の目がまた赤く輝いたが、俺は動きが止まることなく奴に斬りかかっていく。


「馬鹿な。俺の蛇女の瞳メデューサ・アイを……貴様のような器が!」


 奴は怒りに任せるかのように攻撃するが、それはあまりにも単調で、簡単に躱すことが出来た。奴の剣を弾き飛ばし、右肩から斜めに斬りおろした。そこまで深く斬れなかったが、かなりのダメージを与えたはずだ。


「がっ……ふざけるな。たかが器に。たかが人間風情に!」


 奴は勢いを落とすことなく斬りかかり、俺はその攻撃を受けとめ、何度も剣をぶつけあった。


「お前だって人間だろうがよ」

「ふざけるな! 俺は貴様らとは違う!」


 奴は俺を弾き、空中に飛んだ。


「俺は真の熾天使セラフィムとなったのだ。貴様のような器とも、偽熾天使フラウド・セラフィムとも違うのだ!」


 奴が右手を突き出すと、そこから何十匹もの黒い蛇が現れ、襲い掛かってきた。俺はその攻撃を躱し、後ろに下がった。


「逃がすか!」


 奴が地面に降りて左手を横に振ると、地面から何十匹もの黒い蛇を出してきた。俺はそれらを捌いていく。こいつらの首はとんでもなく頑丈だ。


「貴様の力はその程度だ! 黒蛇に食われて死んじまえ!」


 黒い蛇たちは四方八方から一斉に襲い掛かってきた。


「剣舞・龍刃百華!」


 俺が剣を横に振ると、無数の斬撃が蛇たちを襲い、バラバラに斬り落とした。


「! 俺の黒蛇たちをこんな簡単に」

「第1解放ならてこずるが、第2解放なら簡単に斬り落とせる。終わりだ!」


 俺が呆然としている奴の首を斬るために近づこうとすると、地面から蛇が飛び出し、俺の行く手を阻む。


「邪魔だ!」


 蛇たちを切り裂いて道を開けると、奴はある巨大な容器のそばにいた。


「俺はこんなところでは終われない。貴様の相手はこいつにしてもらう!」


 奴が容器を操作すると、容器の中の液体が抜かれて行き、中にいる妖精族の女性が目を覚ました。容器が変形して中が開かれると、彼女はそこから飛び出し、俺の前に立ちはだかる。


「貴様。逃げるつもりか!」

「戦略的撤退だ。妖精族! 奴を殺せ!」


 その言葉に従って彼女は鋭い爪を生やし、俺に襲い掛かってきたので、その攻撃を避けて蹴り飛ばし、奴の元へ向かう。


「ざけんな! 逃がすわけないだろ!」

「俺を追いかけるのは良いが、後ろを気を付けた方が良いぞ」


 奴がそう言った直後、後ろから気配を感じて振り返ると、奴が爪で切り裂こうとしてきたので、刀で受けとめる。


「くそ。邪魔だ!」


 俺は奴を引き離そうとしたが、奴を引き離すのは容易なことでは無かった。俺が妖精族にてこずってる間に、奴は逃げていき、奥の扉の前にいた。


「俺を手こずらせた褒美だ。面白いものを見せてやる」


 奴が指を鳴らすと。


「AA! Aaaaaaaaaaa!!!」


 妖精族が苦しむように叫ぶと、全身に黒のまだら模様が生まれ始め、黒い翼が生え始めた。


「なんだ……これ」


 魔力や気配の質が変わった。しかも、偽熾天使フラウド・セラフィムとは何かが違う。


偽熾天使フラウド・セラフィムに薬物や魔術をぶちこんで造り上げた強化体。名付けるなら、暗冥偽熾天使ダーク・フラウド・セラフィム。たっぷり遊んでもらうと良い」


 奴はそう捨て台詞を残して扉の先へ消えて行った。追いかけたいところだが、こいつ相手に背を見せるのはまずい。さっさと倒して奴を追いかける。


「Aaaa。Aaaaaaaaa!!!」

「苦しいよな。わけわからない実験に巻き込まれて、そんな体に勝手に改造されて。」


 奴は苦しそうに叫んでいる。今の俺には、あいつを助ける力はない。だからせめて、奴を殺して、あの苦しみから救う。ふざけた方法かもしれないが、俺にはこれしか思いつかない。


「必ず止める。苦しみからお前を助ける!」

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