第45話 クロノスとカイツの戦い

 side カイツ


 俺とクロノスは東に数キロ歩いた先にある巨大な穴の前にいた。穴は町一つが入るんじゃないかと思えるほどに大きく、穴の中には白い巨大な建物がある。建物は箱型の建物であり、一番上には三角推の形をした何かがある。


「あれがルサルカの言っていた建物か」

「中に奇妙なものが沢山見えてますね。とっとと終わらせたいです」

「正面は警備が2人か。クロノス。どうやって攻め込む?」

「カイツ様の好きに攻めてください。それに合わせますので」

「そうか。そういやこんな時に聞くことではないが、聞いて良いか?」

「何でもいいですよ」


ずいぶんと俺に好意的だな。というか。


「前から聞きたかったんだが。お前。なんでそんなに好意的にしてんだ? 最初は見下してる感じだったのに」

「簡単ですよ。カイツ様は私を超える存在になる。ならば貴方を慕い、好意を持つのは当然のことです」


 言ってる意味が全く分からないが、まあいい。


「好きに攻めて良いんだよな?」

「ええ。私はカイツ様に合わせます」

「なら、正面からカチコミだ」


 色々考えるよりは、そっちの方が性に合ってるからな。俺は刀を抜き、穴の中に降りていく。警備たちは俺を警戒し、剣を構える。


「止まれ! ここから先は、我らエボルヴ教団の第1研究所だ。それ以上近づくなら、武力行使を行う!」


 どうやら俺のことは知らないみたいだな。まあ好都合だから助かるけど。俺は自分の周囲にいくつも紅い球体を生み出した。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの紅い球体を奴らに放ち、扉もろとも破壊してふっ飛ばした。その直後、大きなブザー音が建物から鳴り響く。


「わーお。豪快に行きますね。かっこよくて濡れちゃいそうです」


 良く分からないことを言いながら、クロノスが降りてきた。


「これくらいの力押しが一番楽だからな。俺は先に行く!」


 俺は入り口から中に入っていった。中はとてつもなく長い1本道であり、所々に扉がある。1か所破壊して中を見たが、ただの寝室で怪しいものは何もない。恐らく、この廊下にある扉の先は全て寝室のようなものなのだろう。俺は廊下を走り、先を目指していく。しばらくして扉を見つけて蹴破ると、大広間のような部屋に出た。周りには鎧を着て、剣や槍を持った人間たちが沢山いた。軽く見積もっても30人以上といったところか。


「かかれええええええ!」


 人間たちが一斉に襲い掛かり、俺が応対しようとした瞬間。


「止まれ」


 たった一言の言葉で、武器を持った奴ら全員の動きが止まった。


「カイツ様。そんな雑兵どもを相手にする必要はありません。ここは私にお任せ下さい」


 これだけの人間の動きを、言葉だけで止められるとは。こいつ本当に何者なんだ。明らかに今までの奴と次元が違う。彼女は右手を突き出し、詠唱する。


「消えろ」


 目の前にいた奴らは煙のように消えてしまい、広間には誰もいなくなった。


「さて。先に進みましょう」

「ああ」


 俺たちは大広間の奥にあるドアを蹴破って先へと進む。1本道の廊下を進み、近くにあったドアを蹴破ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。


「!? これは」


 巨大な瓶の形をした容器が無数にあった。中は緑色の液体で満たされており、その中にはきらきらと光る半透明の羽に尖った耳を持つ者が入っていた。


「これ」

「間違いなく人体実験ですね。大方、何かを作るための実験でしょう」


 瓶のような容器はかなりの数だ。恐らく、他の部屋にもこれと似たようなものがあるだろう。その容器を破壊しようと刀を抜くと。


「やめておいた方が良いのだ。その容器に強い衝撃を加えると、中に入ってる液体が毒となり、妖精族を殺す。そうなれば、妖精族はあっという間におだぶつなのだ」


 声のした方を振り向くと、フードを被った小さな人がいた。


「お前は、モルぺウス!」

「おお。カイツに名前を覚えられてるとは。これはとっても嬉しいことなのだ」

「こんなふざけたことの首謀者はお前か?」

「うーーん。まあ一応僕が首謀者になるのかな? 提案者は僕なのだし」

「お前。命を何だと思ってやがる。こんな風に弄んで!」

「ははははは! カイツには言われたくないのだ。騎士団をやってるなら、あんたも魔物を駆除したことはあるはず。僕らがやってるのはそれと同じなのだ。あんたらも僕らも命を奪う。あんたらは人を守るために。僕らは人を救うために。それにどれほどの違いがあるのだ?」

「明らかに違うだろが。お前らは命を弄んで、不必要な苦しみや痛みを与えてるだけ。しかも、これが人類を救うためだと? 寝言をほざくのも大概にしろ!」

「ま、僕らだって皆に理解してもらおうとは思ってないのだ。僕らは僕らの大義のため、前に突き進むだけなのだ」


 奴がそう言うと、地面の一部が変化し、何頭もの巨大な蛇となった。また幻覚か。だが分かっているなら。俺が向かおうとすると、彼女が制する。


「あれは私が倒します。カイツ様は先に向かい、中にいる妖精族を助ける方法を探してください」

「1人で大丈夫か?」

「問題ありません。あの程度の雑魚なら、簡単に蹴散らせます」


 ハッタリや強がりじゃないな。それに、彼女なら大丈夫かもしれないという感じがする。


「分かった。気を付けろよ」


 俺は走り出して奴の横を走り、部屋を出て廊下を突き進む。ずいぶんとあっさり通したな。何が狙いだ。そう考えていると、廊下の先に扉が見え、そこを蹴破った。


 先にあったのはまたしても大量の巨大な容器がある場所で、さっきと同じように緑色の液体で満たされ、中には妖精族が入っている。そして、目の前には1人の男がいた。


「ふん。まさかたった2人で突撃してくるとはな。我らエボルヴ教団も、ずいぶんと舐められたものだ」

「誰だ」

「我が名はメデューサ。貴様を粛清する者だ」

「粛清されるのはお前だ。お前たちを倒して、ふざけた実験も止める! 六聖天・第1解放!」


 紅い光が刀を纏い、背中から天使のような羽根が1枚生えて来た。


「来るが良い。器の男。カイツ・ケラウノス!」

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