第42話 モルぺウス襲来!

 アルフヘイムにある野原。そこではメデューサが息を切らしながら地面に座っていた。近くには、ピエロの仮面を着けた女性がいる。


「はあ……助かったぞイシス。あのまま戦っていたら、少しまずかったよ。まさかこの俺が、人間風情に苦戦するとはな。あの金髪女。中々やってくれる」

「そうか? 私から見れば、ただの雑魚にしか見えなかったけどな」

「貴様から見れば、大半の奴らが雑魚だろ。貴様は化け物の中の化け物なのだからな」

「ふん。レディーに向かって化け物とは。失礼な男だ」

「貴様がレディーになれるわけないだろ。それより、モルぺウスの方はどうなんだ。逃げ出したという特殊実験体は捕まえたのか?」

「いや。まだ捕まえたという報告はないな。少してこずっているらしい」

「ちっ。あのマイペースが。さっさと仕事を終わらせれば良いものを。まあいい。実験体の方は奴に任せるとして、俺は研究所の方に戻る。お前はどうする?」

「私はモルぺウスの援護に行こう。少し気になることがある」

「そうか。好きにしろ」


 彼はそう言って彼女から離れ、研究所へと向かっていった。


「さて。奴は気づいてないようだが、今日は面白い奴が沢山いるみたいだな。それに、あれも来ている。ふふふふふ。まさかこんな場所に来るとはな。思ってもみなかったよ」


 仮面で見えないが、彼女は笑みを浮かべながら、モルぺウスのいる所へと向かっていった。








 side カイツ


「うあ……ここは」


 目を覚ますと、オレンジの明かりが照らす部屋の中にいた。アリアが俺の手を握っており、ルサルカも近くにいた。部屋の面積はかなり大きく、ノース支部で使ってる部屋よりも大きいかもしれない。


「カイツ! 大丈夫ですか!」

「ああ。大丈夫だ。それより、ここは一体」


 俺の質問に、ルサルカが答えた。


「ここは木の根元にある穴の中。守護者の森には、こういう便利な休憩所もあるの」

「確かに便利だな……ぐ」


 体が異常に重い。やっぱり、神羅龍炎剣の負担は大きいな。


「ミカエル。今の俺はどれくらいやれる?」

『体の方は重いじゃろうが、六聖天の力はほとんど問題なしに使える。ただし、次に神羅龍炎剣を使えば、どうなるかは分からんがの』

「そうか」


 ま、あんな大技を使う機会はそんなにないだろうし、そこは多分大丈夫だろう。


「こんな所でゆったりしてるわけにも行かないな。こうしてる間にも、あの変な化け物どもが暴れてんだから」

「待ってください。カイツはさっきまで大変な戦いをしてたのです。少し休むべきです」

「私も賛成。この世界を救ってくれるのは嬉しいけど、あなたはちょっと休むべきだよ!」

「けど」

「「良いから休む!」」


 俺は2人に押し切られ、ベッドの上で休むことになった。ルサルカは疲れに効く飲み物を作りに行ってくれて、アリアは俺の手を相変わらず握っている。


「アリア。そんなに握らなくても、ここを離れないから」

「嫌です。絶対に離さないのです。離れるのも怖いですし、こうして手を握ってないと落ち着かないのです」

「たく。相変わらず俺にべったりだな。少しは他の奴と関わったらどうだ?」

「嫌です! 私にとってカイツがいればそれでいいのです。他の人は怖いのです。皆、私の耳を変だと言ったり、奇妙だと思って見てる。それがとっても嫌なのです。でも、カイツは私の耳を気にすることなく関わってくれるから大好きなのです」


 好意を伝えられるのは嬉しいが、こうも人間関係に偏りがあると大変だな。どうすれば良いのか。


「カイツー。飲み物持ってきたよ」


 ルサルカが青い液体の入った木のコップを持ってきた。


「これ飲んで。体の疲れも癒せるはずだから」

「ありがとう」


 受け取った飲み物を飲むと、即座に効果が出た。体がほんの少し軽くなる感じがして、体のだるさも無くなっていくような気がした。


「ありがとうルサルカ。お前のおかげで助かった」

「これぐらい当然だよ。ごめんね。私が安易に助けを求めたせいで、カイツをこんな目に合わせてしまった」

「気にすんなよ。助けることを決めたのは俺だ。なら、こうなったのも俺の責任だ。お前は何も悪くない」

「けど、私がいなければ、カイツがこんなに傷つくことも」


 俺は彼女の言葉を遮り、頭を撫でる。


「お前を助けるために俺はここに来たんだ。お前が気にすることなんて何もないんだ。だから、自分を責める必要はない」


 頭を撫でてると、彼女の顔がほんのり赤くなった。


「ありがとう。でも、手を離してほしい」

「悪い。撫でられるの嫌だったか?」

「嫌じゃないけど……その」


 急に声がぼそぼそとなり、上手く聞き取ることが出来なかった。


「とりあえず、私の許可が出るまで、頭撫でるの禁止! 良いね!」

「お、おう」


 なんだかよく分からないが、彼女の言う通りにしておこう。


「むうううううう」


 アリアの方を見ると、ほっぺたをふくらませ、不機嫌そうにしていた。


「アリア。どうかしたのか?」

「どうもしないのです。カイツが女誘惑野郎なのを気にしてなんかないのです」

「女誘惑野郎? そんなことした覚えは無いけど」

「無いのならとってもたちが悪いのです」

「ごめんなさい」


 俺が何をしたのか分からないが、どうやらアリアを怒らせてしまったらしい。これから気を付けよう。何を気を付ければいいのか全く分からないけど。


「おやおや。カイツが女といちゃついているのだ。そういうとこは相変わらずなのだ」


 声のした方を振り向くと、フードを被った小さな人。声からして、女性なのだろうか。というか、どうやってここに入ってきたんだ。俺はベッドから降り、アリアたちの前に立って刀を持つ。


「にしても、今日は素晴らしい日なのだ。古代の神獣にケラウノスの名を持つもの。君たちのような優秀な者と会えたのだから。特殊実験体を追いかけた甲斐があったのだ」


 特殊実験体。恐らくルサルカのことだな。一体何の実験をしていやがる。


「何者だ」

「おっと。そういえば自己紹介はまだだったのだ。初めまして。カイツ・ケラウノス、古代の神獣。僕はモルぺウスというのだ。以後お見知りおきをなのだ」


 こいつ。なんで俺の名前を。それに、古代の神獣ってなんのことだ。


「あいつ」


 ルサルカは怯えた表情をしながら俺の後ろに隠れる。


「ルサルカ。あいつを知ってるのか?」

「あいつは、私を弄んだ怪物。それに、他の仲間にも手をかけた」

「人聞きが悪いのだ。僕は実験をしてただけ。弄んではいないのだ」

「あっそ。ところで、この惨状を作った原因はお前か?」

「うーん。間接的には、僕が原因なのかもしれないのだ。一応、僕が発起人なのだし」

「そうか。なら死ね!」


 俺は一気に奴に接近し、居合切りを放った。しかし


「なに!?」


 刀は奴の体をすりぬけていった。その後も何度も連続で斬りかかるも効果は無く、攻撃は全てすり抜けて行った。


「あははは。すごい攻撃なのだ。ほんと、カイツは面白いのだ」


 奴がこちらに手を伸ばそうとした瞬間、言いようのない恐怖を感じ、俺は思わず後ろに下がった。


「ふふふ。カイツの剣も動きも、すっごいスピードなのだ。もし魔術を使ってなかったら、簡単に殺されてたのだ」


 どういうことだ。間違いなく刀が届く距離にいたはずなのに、刀は奴の体をすりぬけた。それにあの手ごたえの無い感覚。まるで煙を斬ったかのような。どういう魔術を使えばこんなことが出来る。


「どうしたのだ? もしかしてさっきの攻撃で息切れしちゃったのだ? だとしたら体力が無さすぎて笑っちゃうのだ」

「んなわけないだろ。これならどうだ」


 俺は刀の切っ先を奴に向け、いくつもの白い球体を生み出した。本当なら紅い球体で行きたいが、爆発でここが大変なことになるかもしれないからな。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの白い球体が奴に向かって放たれるも、それらは全て奴の体をすり抜け、遠くへ飛んで行ってしまった。


「カイツ。あいつの体、すっごくすり抜けてるのです。攻撃当たってないのです」

「分かってるよ。くそ。一体どういう仕組みだ。ルサルカ。あいつの魔術を何か知らないか?」

「分からない。あいつが魔術を使った所なんて見たことないもん」


 参ったな。このままじゃ奴に攻撃を当てられない。どうにかして奴の魔術の秘密を暴かないと。


「ミカエル。奴の魔術について、何か分かることはないか?」

『ううむ。それを把握するにはまだ材料が足らんからの。とりあえず、もう1度攻撃してみてくれ』

「分かった。やってみる。剣舞・双龍剣」


 俺は刀を2本に増やし、奴に斬りかかる。しかし、それらの攻撃は全てすり抜けていき、奴は余裕の笑みを浮かべるだけだった。


「カイツー。僕にこの程度の攻撃なんて当たるわけないのだ」

「くそ。やっぱり当たらないな」


 俺は再び後ろに下がり、ミカエルに話しかける。


「ミカエル。何か分かったか?」

『うむ。あまり良く分からんな。透明化の魔術に見えるんじゃが、あれは魔力消費が大きいし、そんなに長いこと使えんはずじゃし』

「分からないのか。とりあえず、透明化の魔術である線は薄いと考えて良いんだな?」

『一応な』


 さて。だとしてもどうするべきか。奴の魔術の種がいまだに分からないし、攻撃を当てる方法も浮かばない。どうすれば。


「ふむ。カイツが悩んでるのを見るのも面白いけど、あんまり遊んでるとメデューサに怒られそうだし、少し本気で行くのだ」


 奴が両手を合わせると、部屋の壁が蠢き、巨大な蛇の形となった。


「ひい!? なんですかこれ!」

「どういう魔術だよ。これ」

「ふふふふ。食い散らせ。大蛇たちよ!」


 蛇たちが俺たちを食い殺そうとした瞬間。


「消えろ」


 どこからか声が響き、大蛇たちが煙のように姿を消した。


「やっと見つけましたよ。カイツ様」


 入り口から俺の元まで飛んできたのは。


「クロノス!? なんでお前がここに」

「話は後です。まずはあれを片付けましょう」


 クロノスがフードを被った奴を見ると、奴は笑みを浮かべた。


「お前。あの時の奴なのだ。お前とは、一度戦って見たかったのだ!」


 奴が床の一部を大蛇に変え、クロノスに放つも。


「消えろ」


 彼女のその一言で、大蛇たちは姿を消してしまった。


「戦いたいというのなら、本体で来てくださいよ。そんな人形なんかで戦ってないで」

「!? へえ。これに気付くとは凄いのだ」

「簡単に分かりますよ」


 そう言って、彼女は奴に向けて手を突き出す。


「弾けろ」


 彼女がそう言うと、奴の体が風船のように膨らみ、最後はパンとはじけてしまった。


「……すげえ。あいつを瞬殺しやがった」


 前から思ってはいたけど、やっぱり、彼女は今まであってきたやつとは次元が違う。けど、気になることがある。


「あいつ。はじけた時に血が出てなかったけど、どういう仕組みなんだ」

「幻覚です。あれは本人が遠くから操っていた幻覚人形」

「幻覚。じゃああの大蛇とかも」

「幻覚です。お相手はそこそこに優秀な幻覚使いでしたから、カイツ様が気づかないのも無理はありません」

「そうか。にしても、あれを即座に幻覚と見破るって。クロノスは凄いな」

「うふふふふ。カイツ様に褒められるとうれしくなっちゃいますねえ」


 彼女は体をくねくねさせながら嬉しそうにしていた。


「にしても、なんでクロノスがこんな所に?」

「私は任務です。ロキからここの調査をするように言われましてね。カイツ様こそ、どうしてここに? 任務ではありませんよね?」

「ああ。ちょっと材料を調達しに来たって感じだ。んで、助けを求められて、ここにいる」

「なるほどなるほど」


 彼女は俺の後ろにいるアリアやルサルカをじろじろ見ており、2人はぶるぶると震えていた。


「ふむ。ちょっと妙な展開になっているようですね」

「妙な展開?」

「いえ。こちらの話です。とりあえず状況整理しましょう。アルフヘイムについて知ってることを教えてください」(適当に終わらせようと思いましたが、気が変わりました。カイツ様が頑張っているのなら、私も全力で頑張るとしましょう)

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