第41話 騎士団の戦い

 ダレス、ウル、クロノスを乗せた船はモンサンミッシェル島に着き、3人は島に降り立っていた。クロノスはあちこちを見渡しており、ダレスやウルには目もくれていない。


「さてと。洞窟はあそこにあるみたいね。早速行くわよ」


 ウルが洞窟に向かおうとすると、洞窟から1人の男性が現れ、彼女は歩みを止めた。。右半分が黒、左半分が白い髪という不思議な髪色をしていて、肩まで伸ばしている。膝下まである黒い布を羽織っており、その下には何も着てないように見える。


「ん? 誰かいるね」

「そうね。ダレス」

「? 何?」

「彼。超かっこよくない? マントを羽織ってる所が、孤高の男って感じで超かっこいいわ。カイツに負けず劣らずのかっこよさね」


 ウルの目にはハート模様が浮かんでおり、完全にホの字になっていた。


「いやウル。多分だけど、あれ敵だよ?」

「いえ。まだ分からないわ。もしかしたら、アルフヘイムから助けを求めに来た妖精かもしれない。行ってくる!」


 彼女はとんでもないスピードで彼の元へと近づいていった。


「あの! 私とお友達から始めてくれませんか?」


 彼女がそう言うと、彼は頭をぽりぽりとかく。


「やれやれ。敵からそんなことを言われたのは初めてだ」

「え?」


 彼が手を突き出すと、白い蛇が手から現れ、彼女に襲い掛かった。


「くっ!」


 彼女は当たる寸前になんとか回避し、後ろに下がった。


「ちょっと! いきなり何するのよ!」

「侵入者に対して取るべき処置を取っただけだ」

「ほーら。やっぱり敵だった」

「……嘘でしょ。じゃあ私と友達になるのは」

「敵と友達になるわけがないだろ。今お前たちに来られるのは非常に困るんだよ。だから、何としてでも足止めさせてもらう」

「へえ。私たちに来られたら困るものがあるのか。それはちょっと興味があるね。それに、君もかなり強そうだ。ウル、あいつは私が倒すから……って」


 ダレスがウルを見ると、彼女が真っ白になっており、ぶつぶつと何かを呟いていた。


「そんな……せっかく結婚のために友達に……どうして……どうして私の人生は」

「ありゃりゃ。心に相当ダメージ負ってるね。まあ動かないならそっちの方が都合が良い。君との戦いは面白そうだ。来なよ」

「生意気な奴だな。叩き潰してやる」


 彼がマントを手に取り、それを投げ捨てた。彼の体は首を除いて全身が蛇となっており、無数の蛇が人の形をとっていたのだ。そんな衝撃的な姿だが、ダレスは驚くどころか、笑みを浮かべていた。


「ほお。驚きはしないのだな。それどころか笑みを浮かべるとは」

「戦いに外見は関係ないからね。さあ。君の強さを見せてくれよ」

「望み通り見せてやろう。我が名はメデューサ。世界を安寧に導くものだ!」


 彼の身体から何十匹もの蛇が襲い掛かってきた。


「魔石解放」


 彼女は石から2個のガントレットをだし、それを装着した。彼女は手を手刀のようにし、襲い来る蛇たちを次々に切り落としていった。


「驚いた。俺の蛇を手で切り裂くとはな」

「これぐらい朝飯前だよ!」


 彼女は蛇を斬り落としながら地面を蹴り、一気に彼の元へ接近した。


「終わりだ」

「貴様がな」


 彼の目が赤く輝くと、ダレスの体はその場で硬直してしまった。


「なに!?」

「終わりだ」


 蛇が彼女の体を貫こうとした寸前、彼女は足から手を生やして地面を叩き、彼から距離を離した。


「! 動ける」


 自分が動けることを確認した彼女は、体勢を立て直した。


「やれやれ。面倒な能力だね」

「だろ。お前のような近接タイプほど、簡単に止めやすい」


 彼は再び何十匹もの蛇を彼女に放つ。彼女は蛇たちの首を斬り落としながら地面から小石を拾い、再び接近していく。


「ふん。馬鹿の一つ覚えとはこのことだな」


 彼女の拳が当たる寸前、彼の目が赤く輝き、再び動きを止められてしまった。


「くそ。またか」

「終わりだ」


 彼が蛇を放とうとすると、彼女はまた足から手を生やし、そこから離れようとした。しかし、それよりも速く、地面から出てきた蛇が彼女の足に絡みつき、それを封じる。


「何度も同じ手でいけると思ったか」

「思ってないよ。だからこうする」


 彼女は口から勢いよく小石を吐き出した。


「!?」


 彼は彼女のその行動を避けることが出来ず、顔に小石が当たってしまい、目を瞑った。


「よし。動ける!」


 動けることを確認した彼女は、地面を蹴り、再びそこから離れた。


「ちっ。くだらん真似をしてくれる」

「体が動かないからね。なら口を動かして脱出するしかないじゃないか。にしても、君のそれは本当に厄介だね。でも対処法は分かったし、次は拳をお見舞いしてあげるよ」

「雑魚が。ほざくなあ!」


 彼が手を突き出すと、ダレスの足下の地面から4匹の巨大な黒い蛇が現れた。その攻撃を躱し、1匹の首を斬り落とそうと手刀を振るうも。


「! これは」


 鉄がぶつかり合うような音が響いただけで、蛇の首は斬れなかった。そして、後ろから蛇が彼女の体に噛みついた。


「ぐあ!」

「投げ飛ばせ」


 彼の命令に従い、蛇は彼女を投げ飛ばす。彼女は受け身を取ることも出来ずに地面と激突し、転がっていった。


「参ったね。その蛇、とっても頑丈じゃないか」

「終わりだ。このままとどめを刺してやる」

「生憎だけど、私はこの程度でやられるほどやわじゃない」


 ダレスは両肩から1本ずつ腕を生やす。その腕は元々あった腕とくっつき、大きな腕となった。


「面白い腕だな」

「面白いのは見かけだけじゃないよ」


 彼女は襲い来る黒い蛇たちの攻撃を避け、そのうちの1匹の首を手刀で斬り落とした。


「な!? 俺の黒蛇を」

「そら。どんどん行くよお」


 彼女は四方八方から襲い来る蛇たちの攻撃を避けつつ、全ての蛇の首を斬り落とし、蛇たちを地に眠らせた。


「さあ。残るは君だけだ」

「調子に乗るなよ。まだ俺の蛇たちはたくさんいるんだよ!」


 彼が手を突き出すと、体から無数の蛇が彼女に襲い掛かった。


「おっと。これは数が多いな。ならこうするとしよう」


 彼女は両肩に生えてた腕を消し、両方の膝横から1本ずつ腕を生やした。


「行くよお」


 そう言った瞬間、彼女の姿がそこから消えた。


「!? どこーがう!?」


 探そうとした彼の顔をダレスが全力で殴り、大きくふっ飛ばした。


「が!? 貴様あ!」


 彼は怒り狂ってさらに無数の蛇を襲わせるも、彼女にたどり着く寸前、再びそこから姿が消えた。


「くそ。一体どうやって」

「霊鬼との戦いは、私に素晴らしいアイディアをくれた」


 声が聞こえた方を振り返った瞬間、彼はまた顔を殴られ、ふっ飛ばされながら地面をはねていく。


「初めてやったけど、これすっごく便利だね。今の私は、とっても速い自信がある。君ごときじゃ捕らえられないよ」

「貴様……ぐっ」


 彼は立ち上がろうとするも、足に力が入らず、膝をついた。


「はあはあ……くそが」

「さて。そろそろ終わりだ。決めさせてもらう!」


 彼女が彼にとどめを刺そうと走り出した瞬間、横から緑色のレーザーが飛び出し、彼女は後ろに下がって回避した。


「誰だ!」


 彼女が横を振り返ると、異様な人物が立っていた。顔はピエロのお面で隠れており、服装は黒いコートに身を包んでいる。服で分かりにくいが、体つきは女性だということが分かるほどの膨らみがあった。


「イシス」

「無様だな。メデューサ。こんな雑魚に後れを取るとは」


 彼女はそう言って、彼を守るように前に立った。


(なんだ。この不気味な威圧感は)


 ダレスが最初に思ったのは、今まで感じたことのないような異質な雰囲気だということ。この場を支配しそうな重い圧。彼女は初めて会う存在に笑みを浮かべていた。


「きみ。すっごく面白そうだね。出来れば手合わせしたいものだ」

「ほお。私を前にしてそんなことを言えるとは。ずいぶん肝が据わった奴だ。相手したいが、私にも用事があるのでな。この辺で失礼させてもらう」


 彼女の手から緑色の球体が現れ、それはこの場を緑で覆い尽くすほどの強大な光だった。


「くっ! これは」


 彼女はその光の強さに目を瞑った。少しして光が消えたかと思って目を開けると、ピエロの仮面を着けた女も、メデューサと呼ばれた男の姿も消えていた。


「逃げられたか。次会った時は、是非とも戦ってみたいものだ。さて」


 彼女がウルの方を見ると、何があったのか、枝で地面にお絵かきしておりぶつぶつと独り言をつぶやいていた。


「あはははは。相変わらず振られた反応が面白いな。けど、いつまでもああしておくわけには行かないし、元に戻すか。アルフヘイムやあいつらのこともあるしね。にしても」


 ダレスはきょろきょろと周りを見るが、そこには彼女とウル以外誰もいなかった。


「クロノスはどこ行ったんだろ」


 彼女はクロノスがどこにいるのか探すも、クロノスはどこにも見当たらなかった。


「まあいいや。あれは協調性皆無だし、いても迷惑なだけだよね」


 彼女はそう考え、ウルの元へ走っていった。

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