第40話 襲い来る偽天使

 ダレス、ウル、クロノスの3人はボートを使い、モンサンミッシェル島へと向かっていた。クロノスは座りながら寝ており、ダレスとウルものんびりしている。乗っているボートは魔術により、自動で目的地まで連れて行ってくれる便利なボートだ。


「ウル。アルフヘイムってどういう場所だったか覚えてる? 強い奴とかいたっけ?」

「確か、妖精族のいる世界だったはずよ。時間のずれが生じていて、こっちでの1日が向こうでは2日になってる。妖精族はみんな穏やかで、人類に敵対しない珍しい種族だったわね」

「ああ。あの腑抜け種族か。あいつらそんなに強くないし、張り合い無いから嫌いなんだよねえ」

「あなたにとっては強さで好感度決まるのね。相変わらずの戦闘狂っぷりに感心するわ」

「だから戦闘狂じゃないって。それよりさ。なんでそんな奴らのいるところから、偽熾天使フラウド・セラフィムの反応が出たの?」

「その理由は分からないわね。考えられる線は2つ。1つ目は、妖精族が実は危ない種族で、私たち人間を殺すために、偽熾天使フラウド・セラフィムを作っていた。2つ目は偽熾天使フラウド・セラフィムを作ってた奴らに洗脳、あるいは仲間になった妖精が協力し、アルフヘイムで偽熾天使フラウド・セラフィムの反応を作っていたね。どちらにしろ碌なことじゃないけど」

「なるほど。どっちにしても、あんなつまらない奴を生み出したのと戦うというのは、気乗りしないね。つまらなくなりそうだし」

「模擬戦とかならまだしも、命をかけた戦いに面白いとかあるの?」

「あるよ。命をかけ、生の感情をぶつけあう。これが良いんじゃないか! 最高のエンターテインメントだよ!」

「私にはよくわからないわ。そういうの」

「それはウルが戦いの快楽を知らないからだよ。快楽を知れば、きっと私と同じ気持ちになれる」

「出来れば知りたくないわね。そんな気持ち」


 ウルが呆れながら海を見ていると、クロノスが静かに目を覚ました。しかし、2人はそれに気が付いていない。


「この感じ。あの島にカイツ様の残り香があります。まさか、あの方もアルフヘイムに。ふふふ。つまらない任務かと思いましたが、楽しくなりそうじゃないですか。カイツ様があそこにおられるとは」


 クロノスは子供のような笑みを浮かべながら、ミッシェル島に着くのを楽しみにしていた。








 side カイツ


 俺たちは森の中にある大木の枝の上に乗り、奴らから身を潜めていた。現在、俺とアリアとルサルカは巨大な枝の上に座っており、2人は俺にしがみつき、ガクブルと震えている。にしても、こんだけ巨大な枝があるとはな。おかげで座りやすくて助かる。


「カイツ。怖いです」

「怖いよ。あいつらにばれたりしたら」

「落ち着け。ここはかなり上の方だし、葉っぱで俺たちの姿が隠れてる。見つかる可能性は低い」


 といっても、隠れ続けるだけじゃいずれ限界が来る。それ以外の対処をするためにも、この枝の上に乗ったんだが。身を潜めていると、3体の偽熾天使フラウド・セラフィムがこっちにやってきた。奴らは俺たちを探し、あちこちを見ていたが、葉っぱに隠れた俺たちの姿は見つかることがない。

 奴らが踵を返して別の方へ行こうとした瞬間、俺は静かに枝の上から飛び降りた。1体が俺に気付いたようだが、もう遅い。


「剣舞・龍刃百華!」


 着地する寸前に刀を振り、奴らに無数の斬撃を浴びせる。


「Aaaa……aa」


 奴らは奇妙な叫び声を最後に、体がバラバラになって倒れた。


「凄いのです! まるで暗殺するかのようにバラバラにしたのです!」

「カイツ凄い! こんなに強いとは思わなかったよ」

「そりゃどうも。出来ることなら、こういう手が叶う奴らばかりだと助かるんだけどな」


 さっきの3体は簡単に倒せたが、他の奴ら相手だとどうなることやら。



 俺は再び大木の枝の上に乗り、偽熾天使フラウド・セラフィムから身を潜める。殺気殺した奴らは土の中に埋めておいた。残りの数は7体以上。そいつら全員がさっきみたいな単純思考だと助かるんだけど。


「! おっと。数が増えたな」

「? カイツ。どうかしたのですか?」

「ちょっと面倒なことになった」


 かなり小さい音ではあるが、足音が聞こえる。どれだけ少なく見積もっても、10体以上は確実。


「参ったな。ルサルカ。ここ以外に隠れられそうな場所はあるか?」

「分からない。あちこちしっちゃかめっちゃかにされてるし、安全な場所もそんなにないと思うし」

「となると、ここで撃退するのが一番良い方法か。ここに近づいた奴らを暗殺し、敵の出方をー!?」


 嫌な気配を感じ、俺はアリアとルサルカを抱えてそこから飛び降りた。その直後、枝が爆発を起こし、爆風や枝の破片が俺を襲う。


「ぐっ!」

「きゃああ!」

「な、なんですかこれ!」


 俺は必死に2人を守り、地面に着地した。周りには4体の偽熾天使フラウド・セラフィムがおり、剣や槍を持っている。


「くそ。面倒な展開になってきたな」


 彼女たちを守りつつ、こいつらも裁かないといけないというわけか。なら。


「六聖天・第2解放!」


 背中から1対2枚の天使のような羽が生え、紅い光が刀を纏う。両手にはヒビのような模様が入り、手首まで広がった。偽熾天使フラウド・セラフィムが警戒した瞬間、俺は地面を蹴ってそのうちの1体の懐に接近した。


「剣舞・紅龍一閃!」


 そのまま居合切りを放ち、奴の体を真っ二つにした。横にいた天使が俺を襲い掛かって来るが、それを飛んで躱す。


「剣舞・斬龍剣ざんりゅうけん


 刀を上から振り下ろし、奴の体を真っ二つに切り裂いた。後ろを見ると、標的を変えたのか、2体の天使がアリアたちに向かっていた。


「カイツーーー! これやばいのです!」

「安心しろ。アリアたちは絶対に守る。剣舞・双龍剣」


 俺は刀を2本に増やし、その2本を奴らに向かって投げ飛ばした。投げ飛ばされた刀は天使に突き刺さり、奴らは動きを止めた。


「プレゼントだ。剣舞・零距離龍炎弾」


 刀が紅く輝いて爆発を起こし、天使たちの体を吹き飛ばした。体が千切れるほどではなかったが、相当なダメージだったらしく、奴らはそのまま地に倒れた。


「ふう。ざっとこんなもんだな」

「凄いですカイツ! あれだけの数を圧倒するなんて。カイツは最強過ぎるのです」

「ほんとに凄い。あの天使たちをあっという間に倒しちゃうなんて。あなたはこの世界の救世主よ」

「そりゃどうも。それより、早くここから逃げよう。敵の数がー!」


 後ろから嫌な気配を感じて刀を構えると、矢が飛んできたので、それを弾いた。その直後、地面に巨大な魔法陣が現れた。


「まずい! 避けろ!」


 俺はアリアとルサルカを抱え、そこから遠く離れようとしたが、それよりも速くに地面が爆発し、足にダメージを受けた。


「ぐああ……くそ」

「カイツ! 大丈夫ですか!」

「大丈夫。これぐらいなら問題ない」

「ご、ごめんなさい。私も騎士団なのに、カイツの足手まといで」

「足手まといじゃねえよ。アリアは回復するのが役目。俺は戦うのが役目だ。適材適所ってやつだよ。だから自分を責めるな」

「でも、私がいなかったらカイツは」

「お前がいなかったら誰が俺を治すんだよ。ふざけた冗談はやめてくれ。お前は俺にとって必要な人間だ」

「カイツ」

「泣きそうな顔すんなよ。たく。にしても、逃げる時間も与えてくれそうにないな」


 参ったな。遠距離攻撃出来る奴らがどれくらいいるのか分からないが、このままでは逃げるのが大変だ。かといってむやみやたらに攻撃するのも違うだろうし。どうしたものかね。策を考えながら、飛んできた矢や剣を弾いていく。なんとかして敵の攻撃を防いでいくと、足下から白い手と気味の悪い顔が飛び出し、俺の足を掴んだ。


偽熾天使フラウド・セラフィム!? くそ!」


 振り払おうとすると、天使の体が輝いて大爆発を起こす。その直後、俺の足下の地面に魔法陣が現れ、再び爆発が襲ってきた。


「カイツ!」

「ぐ……大丈夫。まだまだやれる」


 体へのダメージは酷いが、まだ戦える。そう思った瞬間、ルサルカの足下の地面から白い手が生えてきた。


「ひっ!?」

「ルサルカ!」


 俺は咄嗟にルサルカと、近くにいたアリアを突き飛ばし、2人に龍封陣で守る。その直後、掴んだ白い手が輝いて爆発を起こし、俺の体を焼く。それだけでなく、爆発で怯んだ隙を突き、2本の矢が俺の肩に突き刺さった。


「があ!? やってくれるじゃねえか」

「カイツ。大丈夫なのですか?」

「問題ない。あんなしょぼい爆発、あと100発喰らっても余裕で耐えられる」


 俺はアリアにそう言いながら、まだ襲い掛かって来る矢や剣を弾いていき、彼女たちを守るように前に立つ。


『カイツ。このままじゃとじり貧じゃぞ。敵の数が多いうえに、ちまちまと増えて来ておる』

「分かってる。少なく見積もっても、こっちに来てるのが20体以上。遠くに40体以上。合計60体以上。かなり面倒な展開だ」

『妾としては、アリアやルサルカを見捨てるのも手じゃと思うんじゃがな。あやつらを守るとなるとかなりしんどいぞ。このままではお主の体がもたん。アリアはマジの足手まといじゃし』

「アリアは足手まといじゃねえよ。それに、守りながら戦うなんて楽勝だ」


 とは言うものの、実は結構きついんだけどな。さっきの爆発を受け続けたら体が持たないし、そろそろ勝負を決めないと。1体1体相手にしててもキリがないし、全員まとめて片付けるしかない。


「ミカエル。今の俺があの技を使ったら、どれくらいの負担になる?」

『……前ほどではないじゃろうが、かなりの負担になるな』

「だよな。けど、やらないよりはマシだ。六聖天 腕部集中!」


 俺の腕に六聖天の力が集中し、刀を纏ってた紅い光は巨大化し、大きな光の剣となった。


「アリア、ルサルカ。限界まで頭を地面に近づけろ。じゃないと死ぬぞ! あとルサルカ。ここの森、ちょっと見晴らし良くさせてもらう」

「な、なに!? なにをするつもりなの!」

「良いから頭を下げるです!」


 アリアがルサルカの頭を掴み、地面ぎりぎりまで下げさせた。


「剣舞・神羅龍炎剣しんらりゅうえんけん!」


 俺は剣を1周して振り回した。その直後、周りにあった木どころか、森全体が斬り、そこに隠れていた天使たちもまとめて真っ二つにした。ルサルカは口をあんぐりとあけて驚いている。


「……凄い。天使たちを……森もろともぶった斬った」

「俺の力がありゃ、これくらい余裕な……んだ」

「!? カイツ!」


 俺は立つ力すら失い、その場に倒れてしまった。やっぱり、無理しすぎたかな。








 どこかにある草原。そこでは、フードを被った小さな人が立っていた。その者は、カイツと偽熾天使フラウド・セラフィムの戦いの一部始終を見ていたのだ。


「わーお。再会したいとは思ってたけど、こんなに早く再会するとは思ってもみなかったのだ。それに、ちゃっかり古代の神獣もついて来てるのだ。ついでに特殊実験体も。実験体が逃げ出したときはどうしようかと思ったけど、これは大変都合が良いのだ。これなら、楽しい実験を行える気がするのだ」


 その者は子供のような笑みを浮かべながらそこから離れていく。


「さて。カイツ以外にも面倒な奴らが来てるみたいだし、迎撃の準備をしておくのだ。とりあえず、カイツやルサルカの捕縛は僕がやるとして、他の対処はあいつに任せるのだ」

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