第27話 メリナVSカイツ 前編
メリナとカイツの突然の決闘。地に倒れていた男たちは全員逃げ出し、今は2人だけとなっていた。リナーテはそれを観客席から半笑いで見つめており、アリアは彼女を睨んでいた。
「リナーテって、性格最悪なのです。クズみたいな奴なのです」
「いやいやいや。私はそこまで性格悪くないよ。ただ面白いものが好きな変わった人だよ」
「この茶番も、面白いものなんですか?」
「茶番って言わないでよ。とっても面白そうな劇なんだから。それに今のカイツ。理由は知らないけど、かなりパワーが落ちてるみたいだからね。その状態でどこまでメリナと戦えるのか興味あるのよ」
「カイツ。勝ってほしいで……ん?」
彼女がふと視線を動かすと、遠くの観客席でツインテールの女性が立っていた。
(あの人は確か、クロノスって人。なんでこんな所にいるんでしょうか?)
アリアは少し考えるも、どうでも良いことだと思い、カイツに視線を向ける。カイツとメリナ。2人の戦いの火蓋が、きって落とされようとしていた。
side カイツ
「行くぜ。ぱちもんカス野郎!」
彼女は懐から水の入った瓶を取り出し、それをこっちに向かって投げてきた。
「
そう言うと、瓶の中の水が弾けて飛び出し、何本もの鉄のナイフに変わって襲い掛かってきた。
「くっ!」
俺はその攻撃を横に飛んで躱す。今のが彼女の力。水を様々な物質に作り変える。水がある限り、彼女は武器倉庫のような存在となるのだ。さてどうするべきか。
「ま、この程度は躱せるよな。仮にもカイツの名を騙ってんだから」
本物のカイツなんだが、今言っても信じてくれないだろうな。
「だが、これならどうだ?」
彼女は水の入った大きな瓶を取り出し、蓋を開けて地面に垂れ流す。何をしてるんだ。水は彼女の武器のはず。それを自ら捨てるような真似をするなんて。
「なあ。土って良いよなあ。土はとっても良い。水がよく染みる。店や建物の床に使われてるレンクリートは、水を弾くから良くないんだよなあ」
「? なんの話をしている」
「水が染みる場所は良い場所って話さ。水が染みるから、攻撃がバレにくいんだよ。こんな風にな!」
彼女が腕を上げると、俺の足下から剣が飛び出してきたので、それを後ろに跳んで躱した。
「なんだ……今の攻撃」
地面から剣が飛び出す。奴の力ではそんな攻撃をすることは……まさか。
「へえ。ぱちもんにしては気づくのが早いな。だが、気づいたところでおせえんだよ!」
俺の足下から何本もの矢が襲い掛かる。俺は後ろに跳んで躱すも、足に矢が掠ってしまった。
「ぐっ!?」
足が傷ついたが、動く分には問題ない。
「地面に染み込んだ水を移動させて、錬金してるのか。ずいぶんと使い方が上手くなったな」
「ぱちもんが知ったような口聞いてんじゃねえぞ。あと、1つ警告だ。毒に気を付けな」
何を言ってるのかと思った瞬間、俺の視界が揺らぎ、膝をついてしまった。
「があ……なんだ……これ」
体が痛む。視界が揺らいでる。思考能力が削られていくみたいだ。
「さっきの矢には毒を塗っておいた。塗ったというか錬金したんだけどな。さすがに即死レベルのものは作れないが、相手の動きを鈍らせることくらいは余裕なんだよ。ゲロカス野郎が」
毒か。なら速攻で勝負を決めないとな。俺は足に魔力を込め、大地を蹴って走り出す。
「おせえよ。カスが」
奴が腕を上げると、また足下から剣が飛び出してきた。何とか当たらずに済んだが、また距離が空いてしまった。再び接近しようとしても、地面から生えてくる剣が俺の邪魔をする。
「てめえのすっとろい動きなんざ、簡単に対処できんだよ」
「やるな。近づく隙が無いよ。出来れば、近づけるような隙をくれるとありがたいんだが」
「あほか。相手の土俵で戦ってやる馬鹿がどこにいるんだよ。絶対に近づけさせねえからな」
彼女はいくつもの剣を地面から生やし、徹底的に俺と距離を遠ざける。それだけでなく、彼女が投げた瓶の中にある水が弾け、ナイフとなって襲い掛かる。
「くっ。とことん近寄らせない気か。ここまで攻撃されると、接近するのは難しい。なら!」
俺は刀の切っ先を奴に向け、いくつもの白い球体を生み出す。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
いくつもの白い球体が切っ先から放たれ、あらゆる方向から奴に襲い掛かる。
「ぬりいんだよ!」
彼女の足下からいくつもの鉄の盾が飛び出して彼女の周囲を守り、俺の攻撃を完全に防いだ。
「くそ。やっぱり六聖天が使えないと威力が低いな」
「カイツのものほん龍炎弾なら、この程度の盾なんて簡単に砕いただろうな。だが、てめえみたいなクソまみれのカス技じゃあ、私の盾は砕けねえんだよ!」
「随分と口が悪いな。パーティーの時とは大違いだ」
「だからさあ。知ったような口聞いてんじゃねえぞお! べちょクソがあ!」
彼女はさっきよりも少し大きめの瓶を取り出し、蓋を開けて水をまき散らした。それはさっきよりも多くのナイフとなり、こちらに襲い掛かってきた。
「ちっ!」
俺はなんとか力を込めて立ち上がり、ナイフの攻撃を躱していく。だが、さっきよりも動きが鈍ったせいか、ナイフが足をかすめた。
「くそ。どうしたもんかね」
今の身体能力じゃあ、接近するのは永遠に無理だ。かといって龍炎弾で攻撃しようにも、奴の盾に防がれて終わり。仮に当たったとしても、大したダメージにはならないだろう。
「参ったな。メリナの奴。だいぶ強くなってる。勝てる気がしねえわ」
『なら降参するか? それも手だと思うのじゃが』
「それは論外。あいつに信じてもらえなくなりそうだし、リナーテに馬鹿にされそうだからな。こんな茶番に巻き込まれた上に馬鹿にされるとか、絶対却下だ」
『しかし、勝つ方法はあるのか? 今のお主のパワーでは、あの小娘に届かんぞ』
「一応策はある。通じるか分からないけどな」
『ほお。その策とはなんじゃ?』
「今から見せてやるよ。少ない時間と足りない頭で考えた、とっておきの作戦をな!」
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