第28話 メリナVSカイツ 後編

 メリナがカイツの出方を伺っていると、彼は再び刀の切っ先を彼女に向け、いくつもの白い球体を生み出した。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 何十もの白い球体が放たれ、四方八方から彼女に襲い掛かる。しかし。


「とろいんだよ」


 彼女は懐から水の入った瓶を取出し、それを投げる。瓶の中の水は弾け、いくつもの鉄の盾となって彼女の周囲を囲み、白い球体からその身を守った。


(この程度の攻撃なんざいくらでも防げる。周囲に盾を展開してるから視界が阻害されてるが、そんなのはなんの問題にもならねえ)


 四方八方からの攻撃が休むことなく放たれるが、彼女はその攻撃を盾で防御し続ける。


(こんな攻撃が通じねえのは奴も分かってるはず。となると奴の狙いは、私の視界を封じ、死角から攻撃することだろう。ご丁寧に上からだけは攻撃せず、隙間が空いてるからな。こんなの、上から攻撃しますって言ってるようなものじゃねえか)


 彼女の読み通り、カイツは上空から刀を構え、斬りかかってきた。


「うおおおおおおおおおお!!」

「攻撃する時に叫ぶなよ。馬鹿のすることだぜ」


 彼女が指を動かすと、地面から剣が飛び出し、彼の体に突き刺さった。


「がっ!? 馬鹿な」

「ずいぶんとお粗末な作戦だ。赤ん坊でも攻略できそうな策だな」


 地面からまた剣が飛び出し、彼の体に突き刺さる。剣はその勢いで彼を遠くまでふっ飛ばした。


「ぐ。まだまだまだあああああ!」


 彼は血を流しながらも何とか立ち上がり、彼女の元へ突っ走っていく。彼女はそんな姿を見てため息を吐く。


「まるで獣の突進。何の恐怖も感じねえな」


 彼女が指を上にくいっと動かすと、彼の足下から何本もの剣が放たれるが、彼はその攻撃を横に飛んで躱した。


「この程度の攻撃。もう通用しねえんだよ!」

「あっそ。だからなんだよ」


 彼女がそう言った瞬間、彼の横腹に剣が突き刺さった。


「がっ!?」


 彼の足は止まり、膝をついてしまった。


「あぐっ……せっかく必死こいて考えたのに」

「ゲロカスまみれの頭で考えた策なんざ、余裕で突破できるんだよ。だから」


 彼女は地面にしみ込んだ水から鉄の盾を作り、それを自身の両横に展開する。その直後、横にあった白い球体が盾に着弾して小さな爆発を起こす。


「この程度の策も無意味だ」

「くそ。せっかくの隠し玉だぞ。くらってくれよ」

「置き玉とでも言えばいいのか? あえて発射させずに死角に移動させ、相手が油断したところを撃つってところか。これを用意したのは、四方八方から攻撃した時だろう。けどな。この程度の小細工なんざ、私には効かないんだよ。もっと頭を使いな」

「ふん。頭を使わないといけないのはお前もじゃないのか? 地面から色んなもの生やしまくってるけど、そろそろ地面に染み込んだ水が枯渇してんじゃねえのか?」

「なんか、小物感が凄くなってきたな。私がそんなことを計算せずに戦ってるとでも思ったのか?」


 地面から、何十本ものナイフが飛び出し、それが彼女の周囲を囲う。


「地面に染み込んだ水はまだまだある。仮に無くなったとしても、水の入った瓶はいくらでもあるんだ。弾切れするのはまだまだ先だぜ」

「反則だろ……それ」

「反則だろうが何だろうが。勝てりゃそれでオールオッケーなんだよ。それで? もう策は尽きたのか? 尽きたのなら、そろそろとどめを刺させてもらうぜ」


 何十本ものナイフは、その切っ先を彼に向け、今にも放たれようとしていた。しかし、カイツは不敵な笑みを浮かべていた。


「あん? 何を笑ってやがる」

「一つ教えといてやるよ。さっきから油断しすぎだ」


 彼女がその言葉に疑問を持った瞬間、背中にいくつもの白い球体が着弾して爆発を起こす。


「があっ!? こ、この弾は」


 これこそがカイツの作戦だった。四方八方から攻撃して視界を封じ、わざと声を出しながら上から攻撃したのも、ばれやすいような横の位置から攻撃したのも、全て彼女を油断させ、背後からの攻撃を当てるための作戦だった。ダメージはないものの一瞬だけ怯んでしまい、ナイフが地面に落ちてしまった。


「舐めた真似をー!?」


 彼女が前を向くと、いつの間にか彼は懐に接近していた。


(まずい。この距離じゃ、錬金が間に合わない!?)


「終わりだ。剣舞・紅龍一閃!」


 カイツは居合切りを放ち、彼女の体を切り裂いた。


「……がっ……この私が……負けるなんて」


 彼女はその言葉を最後に、地に倒れ伏した。


「……ふう。ぎりぎり勝てた。この策すら突破されてたら、本当にやばかった。にしても、油断させるために小物感あふれる感じを演じてたけど、意外に疲れるな」

『流石じゃカイツ! こんなにも素晴らしい作戦を立てるとは! 妾は感動したぞ!』

「そりゃどうも。にしても、これで俺のことは本物と思ってくれるのかね」








 観客席にて。アリアはカイツの勝利を喜んでおり、リナーテはただ驚いていた。


「凄いのです! まさかあれほど凄い作戦を思いつくなんて。カイツは本当に凄い人なのです」

「へえ。実力も大幅に落ちてるだろうに、メリナに勝てるとは思わなかった。凄いね。頭の良さは変わってないどころか、むしろ良くなってそうじゃん。流石~」


 そんな中、クロノスは静かにメリナとカイツの戦いを見ていた。


「……なるほど。あれが彼の力……くふふふふふふふ。最初はくだらないと思ってましたが、中々良いじゃないですか。素晴らしいです。今回は、大変有意義な任務になりましたね。こんなにも素晴らしい人と出会えたのですから」


 彼女はそう言った後、観客席を去っていった。

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