第19話 館に突入!

 カイツが廃墟の中に侵入した後、ウルは見えない何かをペタペタと触っていた。アリアは彼女に怯えているのか、馬車に隠れている。


「ウル。さっきからバリアみたいなのを触ってますけど、何か分かったのですか?」

「まあ、ある程度は」(このバリアの性質。人間以外の侵入を防ぐって所かしら。私はサキュバス族の末裔だとして、アリアも人間じゃなかったのね。てっきり変な耳が生えてるだけの変わり者人間と思ってたけど。でもだとしたら、彼女はなんの種族なのかしら。黒い耳の生えた種族……いえ。今はそんなことどうでも良いわね。このバリアの強度もなんとなく理解できた。なら)


 ウルはそこから少し離れ、矢を3本持って弓を構える。


「ウル。何をするつもりですか?」

「少し離れてなさい。今からあの結界をぶちぬくわ」


 彼女の手から青白い光がほとばしり、それは矢の先端に集中していく。


「ぶち抜け。サンダービースト!」


 彼女が3本の矢を放つと、矢が雷の獣を纏い、見えない何かに突き進み、それを突き破り、破壊した。


「なんだかよく分からないですけど、凄い威力ですね」

「さてと。結界も破壊できたし、行くわよ。ついてきなさい」

「は、はい!」


 アリアは距離を置きながらもウルについていき、廃墟の中へと向かう。2人が廃墟の中に入った瞬間、その姿が消えた。








 俺たちはこの世界を出るため、そして幽鬼族が人間をおもちゃのように扱うのをやめさせるため、餓鬼の館に向かうことになった。しかし、問題は1つ。


「どうやって突入するかだな」

「ああ。堂々と突入しようものなら絶対に失敗するからね。どうにかしてばれないようにしないと」


 俺はミカエルの力で問題ないとしても、それ以外は無理だ。ダレスと橋姫の姿を隠すか変装するかでなんとかしないといけない。


「姿を隠したり、変装できるようなものがあれば良いんだが」

「あ! それなら、良い方法があるし」


 橋姫はそう言って棚のある方に向かい、白い布を3枚取り出した。


「それは?」

「こいつは隠れ布。これを被れば、たちまち気配と匂いを遮断し、究極に影が薄くなるという超便利道具だし」

「てことは、透明人間になれるってことか?」

「残念だけど、透明人間というわけではないし。あくまで影が薄くなるというだけで、視認されたら一発でばれるし。でも、館に突入するには超便利だと思うし」


 確かに便利だな。これがあれば、無駄な戦闘を避けることが出来る。


「よし。これを使おう。ちなみに、館はどこにあるんだ?」

「ここから西に数キロほど行った先にあるし。正面には餓鬼の部下である骸骨兵士が2匹いるし」

「2匹なら、気づかれずに仕留めるのも難しくなさそうだな。よし。突入するための準備を終えたら、すぐに行くとしよう」


 俺やダレスは準備するものはほとんどなかったが、橋姫は色々とやることがあるらしく、彼女が準備を終えるのを待っていた。


「ねえカイツ。餓鬼に勝ったとして、もし幽鬼族が君のいうことに従わなかったらどうするつもりだい?」

「そんときは、幽鬼族を皆殺しにする」

「わお。えぐい考え方してるねえ。敵は全員皆殺しの精神か」

「そういうわけでもない。けど、人間をおもちゃのように扱う奴とは、殺さずに話し合うのは無理だろ。価値観が違いすぎるし、絶対に歩み寄れない」

「ま、それもそうだね。けど、それすっごく大変なことだと思うよ」

「大変でもやるさ。ここにいる人たちを助けるためにな」


 話をしていると、橋姫の準備が終わったらしく、こっちにやってきた。


「お待たせだし。それじゃ布を被って、館に行くとしようし!」






 俺たちは布を被りながら、館に向かうための道を歩いていた。今は墓場のような場所から離れ、農地のような場所に来ている。ちらほらと幽鬼族の奴らがおり、畑のような所を耕している。中には人間の死体をかかしのようにしている奴もおり、気分が悪かった。奴らは俺たちが歩いていることに気付かず、見られることは全く無かった。


「凄いなこの布。あいつらに全然気づかれていない」

「ふっふっふー。これは私が作った最高傑作だし。生半可な奴らじゃ、私たちのことは絶対に見つけられないしー」


 本当にすごいものだ。これがあるだけで無駄な戦闘をしなくて済むし、非常に助かる。俺たちは農地のような場所を歩き続け、大きな館の前にたどり着いた。外観は真っ赤な色をしており、逆三角錐の形をしている。


「不気味な建物だね。非常に趣味が悪い」

「ダレスの言う通りだな。こんな建物作る奴の考えがしれない」

「餓鬼は他の幽鬼族と比べても、ちょっと異常なところがあるし。さてと。どうやって侵入したものかなあ?」


 正面は2人の警備がおり、前を見て立っている。思ったより数は少ないな。


「ダレス。1体任せても良いか? あいつらをばれないように殺す」

「良いよ。軽くぶっ倒してやる」


 俺たち2人は奴らの視界に入らないように近づいていく。そして、奴らのそばに近づいた瞬間、俺は刀で奴の首を斬り落とし、ダレスは拳で頭を砕いた。


「さすがだし。それじゃ、さっそく館に突入するし」


 扉を静かに開け、誰もいないことを確認してから、こっそりと潜入する。


「餓鬼はどこいるんだ?」

「うーん。どこにいるかまでは分からないし。私もここに入るのは初めてだから」

「ここのどこかにいるのか、あるいは外にいるのか。なんにしても、3人一緒に動いて探すのは非効率だし、手分けして探すとしよう。私1人と、カイツと橋姫の2人組に分かれよう」

「俺は構わないけど、ダレスは1人で大丈夫なのか? 身体だって満足に回復してないだろ」

「問題ない。これでも騎士団のメンバーだからね。仮に奴に会ったとしても、負けはしないさ。それに、彼女は女が嫌いみたいだからね。私と一緒にするのは可哀想だろ」

「そうか。橋姫はそれで大丈夫か?」

「? なんの話だし」

「ダレスが言ってただろ。2手に分かれるって」

「私は女の話は聞かないことにしてるし。だから何の話か分からなかったし」


 どんだけ話を聞きたくないんだよ。ある意味すごい奴だな。


「とりあえず、ダレスは1人で行動。俺とお前が一緒に行動だ」

「おお! それは文句ないし。はやく分かれようし~」


 彼女は嬉しそうにしながら、俺を引っ張っていこうとする。


「やれやれ。どんだけ女が嫌いなんだか。カイツ、後は任せたよ」

「分かった。ダレスも気を付けろよ」

「心配いらない。同じ相手に負けるようなヘマはしないから」


 俺たちは2手に分かれ、館の中を捜索する。部屋の扉などを慎重に開けながら捜索するも、餓鬼はどこにも見つからなかった。


「うーん。餓鬼はどこにいるし? 全然見つからないし」

「そもそも餓鬼どころか、骸骨兵士すら見つからない。出口も見つからないし、一体どうなってるんだ」


 門の前では2体の骸骨兵士が見張りの役割をしていた。この館の中にも、他の骸骨兵士たちが警備してもおかしくないはずだが、どこにも見当たらない。


「こんだけ広い館なのに、警備の1人もいないとはな」

「警備はいらないのね。私がこの館そのものだからね。どんな侵入者も簡単に見つけられる」


 声のした方を振り返ると、白い服を着ており、両足と顔の半分が骨になっている奴がいた。橋姫と同じくらいに、肉や皮膚が多くついている。微妙に姿が違うが、ダレスから聞いてた特徴と一致してるし、こいつは餓鬼で間違いないだろう。奴は人間を四つん這いにしており、その上に乗っていた。人間の目には生気が宿っておらず、生きているはずなのに死んでいるように見える。


「おい。さっさと布を外して姿見せるね。あんたらがそこにいるのは、もうばれてるね」


 どういう理由か分からないが、俺たちの姿がばれていたらしい。俺たちは被っていた布を捨てた。すると、奴は人間から降りた。


「人間君ありがとうね~。今は邪魔だから、さっさとどっか行くね!」


 奴はそう言って人間を蹴り飛ばし、向こうの方へ吹きとばす。このクソ野郎。どうも幽鬼族ってのは、俺の神経を逆なでする奴らばかりらしい。今すぐにでもあの人を助けたいが。


『カイツ。今助けても何も意味がないぞ。餓鬼がそれを許すとは思えんし、そんなことしたら、状況は不利になる。ここで人間を守りながら戦うのは難しい。ただでさえ、地の利が相手にあるのに、これ以上不利を重ねたら、勝てるもんも勝てんぞ』

「分かってる」


 今助けるのは無理だ。だから、目の前の奴を殺した後、必ず助ける。人間がどこかに行ってしまった後、奴は俺たちの方を振り向く。


「ふん。まさか橋姫も来てるとは思わなかったね。ビビりのお前が、私に反逆でもしにきたね?」

「ま、そんな所だし。あんたらの人間に対する扱いには吐き気がするから」

「ほんと、あんただけは理解不能ね。どうして人間をペットにすることに抵抗を覚えるのか。理解不能ね」

「俺からすれば、人間をペットにするあんたらが理解不能だがな。そんな風に人間を弄んで楽しいのか?」

「弄ぶ? 勘違いしないでほしいね。私は人間を飼っているだけね。ここに迷い込んだ人間を管理し、ペットにしてあげてるのね。弄ぶとか、悪いことしてるみたいな言い方はやめてほしいね。人間だって、色んな動物をペットとして扱うくせに。しかも、酷い扱いをしてる奴らばかりみたいだし」

「確かに、酷い扱いをしてる奴もいるかもしれないが、全員がそうだってわけじゃねえんだよ。てめえみたいなクソッタレの環境ではなく、大切にしてる人だって山ほどいる」

「ちょっとお・私が酷い環境にしてるみたいな扱いはやめてほしいね。私はちゃーんと、愛を持って接してるのね」

「……はあ。根本的な価値観が違うようだな。これ以上の問答は不要。六聖天・第1解放」


 俺は刀の柄に手を置きながらそう答える。そして、背中から天使のような羽が1枚生えて来た。いい加減うんざりだ。奴はここで殺す。


「と。殺す前に1つ聞くことがあった。この世界を出るための出口はどこにある?」

「出口はこの館の地下にあるね。ついでに言うと、人間の小屋もそこにあるのね。出口の近くに建てると、人間は面白い反応するからね」

「……ほんと、幽鬼族ってのは、俺の神経を逆なでするな。どいつもこいつも嫌な奴ばかりだ」

「わーお。殺気をビンビンに感じるね。けど、あんたらは絶対に私を殺せないね。あたしは、館そのものなのだから」

「殺せるかどうかは、俺が決める!」


 俺は奴に一気に接近し、居合切りで首を斬り落とした。


「おお! 瞬殺したし! あんたつよーいし」

「いや、違う!」


 俺は奴から離れ、刀を構える。斬り飛ばした餓鬼の首から青い鎖が飛び出し、身体に繋がった。鎖は首を体へと引っ張り、断面同士がくっついた。


「……嘘。どういうことだし」

「手ごたえはあった。だが」

「ふふふふふふ。さっきも言ったね。私はこの館そのもの。私をいくら攻撃しても意味ないね」


 言ってることが良く分からないが、ただ攻撃するだけじゃ意味がないということは分かった。どうするべきか。


「く。これでもくらうし!」


 橋姫は丸いカプセルを餓鬼に投げつけた。それが当たると、白い粉が散らばった。


「おお。これは中々に凄い粉ね。わんだほー」


 彼女はふざけたことを言いながら、身体がバラバラに崩壊していった。しかし、崩壊した体が形を作っていき、復活してしまった。


「カイツーーー! あいつどうすれば倒せるし! 全然攻撃効かないし!」

「なにかしら種があるんだろ。それを暴けば良いだけだ」

「ふん。あんたらが暴くまで待つと思うね? そんなことはさせないね」


 奴が指を鳴らすと、俺たちの足下に巨大な穴が現れた。穴の周囲には歯のようなものがあった。


「これは」

「ばいばいね。でも安心するね。橋姫は殺すけど、人間はちゃーんとペットとして扱ってあげるね。大切に。愛情を持って」

「そいつはごめんだな!」


 俺は橋姫の腕を掴み、足元に紅い球体をいくつも出現させた。


「剣舞・五月雨龍炎弾 脱出式!」


 紅い球体を爆発させ、その勢いで穴から脱出した。足がとんでもなく痛いが、動く分には問題ない。


「た、助かったし。ありがとうし」

「へえ。中々やるじゃないかね。なら」

「させるか。剣舞・五月雨龍炎弾!」


 奴が次の手を打つ前に、俺はいくつもの紅い球体を、壁と餓鬼にぶつけて爆発させた。爆風が俺たちを襲い、煙が覆う。


「ぬぐっ!? 煙がきついし」

「脱出するぞ! このまま戦っても勝ち目はない。一度体勢を立て直す」


 俺は彼女の腕を掴み、穴の開いた壁から脱出し、遠くに離れた。


「ふいー。何とか逃げれたし。でも、あの館はどうなってるし。いきなり穴が開いたり、私たちの姿がばれたり、あいつの体が修復したり、意味不明なことが起きすぎだし!」

「そのことだが、ある程度謎は解けて来た」

「マジ!? 一体どういう仕組みだし」

「それを話す前に」


 俺は後ろを振り返り、何体もいる骸骨兵士と向き合う。


「まずはこいつらを片付ける!」








 餓鬼は、館から逃げ出したカイツ達を窓から見ていた。カイツの攻撃によって餓鬼の体はダメージを受けたが、少しすると、彼女の体は完全に治った。


「むう。あと少しだったのに。まあいいね。奴らを追う前に、もう1人の侵入者を捕まえるね」


 彼女がそう言うと、体が館の床に吸い込まれるようにして消えて行った。

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