第20話 ダレスVS霊鬼 再び!

 ウルとアリアは、広場のような場所を歩いていた。相変わらずアリアはウルから距離を置いて歩いている。周りの幽鬼族は、彼女たちを見てひそひそと会話しているが、彼女たちが人間ではないせいか、そこまで興味はなさそうだ。


「ううう。ここ何なのですか。変な人がそこら中にいますし、空の色も不気味で怖いです。早くカイツに会いたいです」

「ここ、確かヘルヘイムって呼ばれる場所だったわね。幽鬼族の住処と呼ばれている世界。あの廃墟は、ヘルヘイムの入り口になってたのね。にしても、カイツやダレスはどこに」


 彼女がカイツ達を探していると、周りにいる幽鬼族の会話が聞こえた。


「おい聞いたか? 餓鬼様の館が、人間どもに襲われてるらしいぞ」

「おいおい。それはずいぶんと馬鹿な奴らだな。そいつら死んだだろ。そんなことしてんのはどんな奴らだ」

「何でも、白髪の人間と金髪の人間らしい。馬鹿だよなあ。大人しく餓鬼様のペットになれば、幸せに暮らせるというのに」


 ウルとアリアは、その会話を立ち止まって聞いていた。


「ウル。金髪と白髪の人間って」

「間違いなくカイツ達ね。ねえ、そこのあなたたち!」


 ウルは話をしている幽鬼族に割り込んだ。


「餓鬼様って奴の館がどこにあるのか教えてくれない?」








 ダレスは館を捜索しながら、餓鬼の居場所を捜索していた。


「やれやれ。ここは本当に広い場所だね。自分がどこにいるのか分からなくなりそうだよ」


 彼女はそんな愚痴をこぼしながら、部屋の扉を開ける。そこには大量のガラス容器が天井に敷き詰められていた。ガラス容器の中にあったのは、人間の臓器や骨だった。心臓、内臓、肺、頭蓋骨と様々なものがある。


「おいおい。ここはずいぶんと悪趣味だね。気持ち悪くて仕方ない」

「むっふー。最高に良い趣味だと思うですけどねえ。なんせ、ペットたちの美しい臓器。まるで星空のごとき美しさでごあす」


 後ろから霊鬼が襲ってきたが、ダレスはそいつの体を蹴り飛ばした。


「ぐむっ!?」


 大きくふっ飛ばされるも、霊鬼は即座に体勢を立て直した。


「むっふー。背後から襲ったのにこの対応。中々のやり手でごあす」

「その姿。確か、霊鬼って奴だったね。最初からその姿で来るとは。お前には大きな借りがある。ここで決着をつけてやるよ」

「むっふー。お前じゃ、俺には勝てないでごあすよ!」


 霊鬼が殴りかかろうとすると、彼女は右腕から1本の腕を生やし、その攻撃を受けとめた。


「なにっ!?」

「相変わらずパワーはすごいけど、もう慣れた!」


 ダレスはそのまま霊鬼を上空へとぶん投げた。


「にゅおおおお」

「そおら行くよおお!」


 彼女はそのまま飛び上がり、2本の拳で連撃を加えていく。


「ぐべあああああああ!?」

「あーらよっと!」


 彼女は最後に顔を殴り、地面に叩き落とした。


「さて。この程度では倒れないだろ。さっさと起き上がりな」


 彼女がそう言うと、霊鬼が起き上がった。


「むっふー! やっぱりこの姿では倒せないでごあすね。なら、マッスル解除!」


 霊鬼がそう言うと、腕が棒のように細くなり、体もスリムになった。


「行くでごあす!」


 そう言うと、霊鬼の姿が一瞬で消え、ダレスの後ろに移動した。彼女は回し蹴りをしようとするも、霊鬼は簡単に躱してしまい、再び彼女の後ろに回った。


「遅いでごあす!」


 霊鬼は彼女の顔を殴り、そこから縦横無尽に動き回りながら攻撃を仕掛けていく。彼女は攻撃を防いでいくのがやっとであり、反撃に出る隙も無かった。


「くそ。相変わらず速いね」

「むっふー! 動きにキレが無くなってるでごあす! ダメージが回復しきってないでごあすね。その程度なら、簡単に狩れるでごあす!」

「ぐっ。このおお」


 彼女はでたらめに拳を振るうも、全く当たらなかった。


「むっふー! 遅いでごあす!」


 前から霊鬼に顔を殴られ、彼女は大きくふっ飛ばされた。


「がふっ……まずいね」(思ったよりダメージが回復してなかったな。奴の動きが前よりも見きれなくなってる。このままじゃ確実にやられる。どうするべきか)


「むっふー! 中々にしぶといでごあすな。もっとはげしく行くでごあす!」


 霊鬼は自分の爪を長くし、縦横無尽に動きながら切り裂いていく。彼女は顔や心臓などの急所は腕でガードしていたが、それでも傷はどんどん増えていき、血が流れていく。


「くっ。動きがさらに」

「むっふっふっふー! あんたじゃ追い付けないでごあす! あんたみたいな雑魚じゃ、吾輩には勝てないでごあすよ!」


 彼女はなすすべもなく切り裂かれ続け、血を流していく。ついには、腕がだらんと崩れ落ちてしまった。


「むっふー! ガードが崩れた。これで終わりでごあす!」


 霊鬼がを手刀の形に変え、ダレスの体を貫いた。


「むっふー。簡単に終わったでごあすね。あっけないでごあす」


 霊鬼が引き抜こうとすると、ダレスはその腕を強く掴んだ。


「ふふ……つーかまーえた」

「むっふー!? は、離すでごあす!」


 霊鬼は何度も彼女を蹴りつけるが、彼女は決してその腕を離さない。


「どんだけ高速で動けても、捕まったら意味ないよね!」


 彼女は掴んでない方の腕に2本の腕を生やし、全力で顔を殴りつける。


「ぐぼおおお!?」

「ぶっ飛べええええ!!!」


 彼女は全体重を込めて霊鬼の顔を殴り、霊鬼の首が殴り飛ばされ、大きな音をたてて壁に埋め込まれた。残された体は力を失い、その場に崩れ落ちる。


「馬鹿な……この吾輩が……お前なんぞに」

「君の敗因は2つ。私のことを舐めすぎた。あと、高速移動状態の攻撃力は、そこまで高くなかった。その2つが敗因だ。楽しかったよ。君との戦いは」


 彼女はそう言いながら、残された体を持ち上げる。


「ばーいばい!」


 埋め込まれた顔の方に投げつけ、体が壁にめり込み、爆発でも起きたかのような大きな音が館に鳴り響く。体が埋め込まれた壁から、骨粉のようなものがパラパラと零れ落ちていく。


「ふう。なんとか勝てた……ぐう」


 彼女は体をおさえ、その場にうずくまった。


「はあはあ……参ったね。ずいぶんと苦戦しちゃったよ。ここまで強いとは思わなかった。けど、霊鬼は倒した。あいつは確か、餓鬼の別人格みたいなもののはずだからこれで」

「驚いたね。まさか最高傑作の骸骨兵士を倒すとは思わなかったね」


 彼女は後ろからの声に振り向くと、そこには餓鬼が立っていた。


「餓鬼!? なぜだ。お前は既にやられたはず」

「はあ。あれを作るのにすんごい時間がかかったというのに。まあいいね。お前をペットに出来ると考えたら、あれを壊されたのも許せちゃうからね!」


 餓鬼がそう言うと、ダレスの足元に端に歯のようなものがついた、大きな穴が開いた。


「しまった!?」

「ばいばーいね。あんたのこと、たっぷり可愛がってやるからね」

「そんなのはごめんだ!」


 彼女は腕を伸ばし、そこから腕を生やし、さらにそこからもう1本の腕を生やしたが、あと一歩のところで届かなかった。


「ざーんねーん。あと少しなのに届かなかったのね。可哀想ね」

「くそ。こんなところで」


 ダレスが落ちそうになった瞬間、1本の矢が餓鬼の傍を通り過ぎ、ダレスの服の襟部分に刺さり、そのまま彼女を壁に磔にした。


「この矢は」

「なっ!? 一体どこから」


 餓鬼が矢の出場所を探そうと後ろを振り向いた瞬間、餓鬼の前にある窓を破り、雷を纏った3本の矢が突き刺さる。


「がっ!? なんで……矢が」






 館から遠く離れた場所。ウルはその館にいるダレスと餓鬼に狙いを定め、矢を放っていたのだ。彼女のいるところからは、館は粒のように小さいが、彼女の目は、当てるべき相手がきちんと見えていた。


「え……なんで矢があんなに飛ぶのですか」

「私の魔術で距離を伸ばしたのよ。標的を見つけ、距離の問題も解決すれば、当てるのは簡単」

「え。当てる相手が見えてるのですか?」

「見えてなきゃ矢を飛ばさないわよ。無駄使いするのはもったいないし」

「ほえーー。私は全く見えないのに。ウルの視力は凄いです」






 餓鬼はどこから矢が飛んできたのか分からず、混乱していた。そしてその隙を、ダレスは見逃さなかった。


「私の友人が助けてくれたようだね」


 餓鬼が振り向くと、いつのまにか、ダレスが後ろに立っており、右肩から1本の腕を生やしていた。


「くらえええええ!」


 彼女は全体重を乗せて餓鬼を殴り、勢いよくふっ飛ばした。それは窓を突き破り、遠くへ吹っ飛んでいこうとした瞬間、彼女の体は消え、ダレスの後ろにワープした。


「ぐう。人間ごときが」

「なるほど。そういう仕組みか。最初は驚いたけど、暴いてみれば、ずいぶんとつまらないものだね」

「黙れ。この劣等種が!」


 餓鬼が彼女の足下に穴を開けたが、彼女はそれよりも先に飛び出し、餓鬼の懐に接近した。


「同じ手はくわないよ。魔石解放!」


 彼女は手を手刀の形に変え、ガントレットを装着。そのまま餓鬼の首を手刀で斬り飛ばし、顔を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた顔は地面にめりこみ、体は崩れ落ちる。


「あがっ!? このおおお」

「君のような奴と戦うのはつまらない。一旦退かせてもらうよ」


 彼女はそう言って、破られた窓から飛び降りた。

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